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〈5〉あなたを信じたい

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「ねぇ、どうして研究員とは言っても会社員の優也が、土日もあなたと会おうとしないんだと思う?」

それは日曜日、私がいつものようにレジで仕事をしている時だった。昼休憩から上がって、レジで伝票の整理をしながら、
今頃は優也も仕事かなぁ…。
なんて考えている時だった。

その言葉にはっとして急に我に返り、手元の伝票から顔を上げると、そこには、この間の彼女─綾さんがいた。
私は最初、彼女の言うことの意味がわからなかったが、次第に不安は増した。
けれど、動揺を押し殺し
「綾さん、困ります。私の大切な職場なんです。」
そう彼女に告げ、また手元の伝票をめくった。
この手の震えに気づかれませんように…!
けれど、私の願いは空しいものとなる。
彼女がレジに一冊の本を差し出したのだ。私は黙ってレジを打ち、それにブックカバーをかけようとしたが、小刻みに震える手では、上手くそれは出来なかった。
「どうしたの?随分威勢が良かったわりに、震えてるじゃない。あ、もう、ブックカバーはいいわ。せいぜい大切な本屋さんの仕事、頑張って。あとこれあげる。じゃあね。」
彼女はそう言って本を受け取ると、一枚のメモを私に渡して、店を出て行った。

私の大切な仕事を馬鹿にした…!!
…それより…。
これ…何が書いてあるの?

そう思い渡されたメモを見るとそこには、
優也の職場の住所と研究室の場所とそして今日夜7時にそこに来るようにと書かれていた。

日曜の私の仕事はいつも夕方5時まで。確かに間に合う時間だった。
まだ、迷いはあった、はずなのに。
私は自分でも知らずに走り出していた。

駅まで走り、電車の中。
背中を汗がつたう。
この汗は、何のせい?

こんなところまで来てと、優也に責められるのが怖いのか。
ううん。優也はわかってくれる。
私は、何が、怖いのか。
彼女は、何が言いたいの?
私は、それを知るのが怖い。

電車の中、冷房は強めだというのに、私の汗はひく気配がない。

優也の職場へとつき。彼女に教えられた部署─研究室の場所を、警備員さんに訪ねると、優也の名前を出すとあっさりと教えてくれた。
「ちょっと建物が込み入ってるから…」
彼はそう言って地図を書きながら、世間話をした。
「ああ、綾さんって知ってる?ちょっときつめの─。彼女、優也さんとは研究員としての同僚、っていうか、それ以上の訳ありっぽいよね?…さ、地図、出来たよ。で、君は優也さんのお友達かなんか?あ、二人の噂、ここだけの話ね。」
「ああ、はい。」
曖昧な返事を返し、地図を受け取る。
「ありがとうございました。」
「また、帰りに寄ると良いよ。」
私は愛想笑いを向けるのが精一杯だった。

訳ありっぽいよね─。

あの、警備員の彼の言葉が頭から離れない。
自然と地図に書かれた優也がいる─もしかしたら─綾さんも─。研究室までの道のりは、何故か、とても長く感じた。
嫌な予感に、自然またも走りださずにいられなかった私。

けれど、その場所が近付き、思わず足音をころしてしまった。
そこは半分ガラス張りになっていて、中の様子が良く見えた。

中では優也が研究着をきて、何か書類を書いているところで。
そこには、綾さんと二人きり…。
そして。その肩には綾さんの手が置かれ─。
優也がそれに気付き怪訝そうに振り向くと─彼女が優也の頬を両手で掴み、くちづけた。
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