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〈2〉彼女もあなたを好きだから
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「莉沙、待った?」
書店の外、あなたを待ち幸せな気持ちに包まれていた私に、あなたが駆け寄る。
「優也さん、走って来なくても大丈夫だったのに。駅からここまでは随分あったでしょう。」
私は言いながらも、どこか嬉しい気持ちで一杯になる。
外は新緑の季節。木々の緑が眩しい。
「だって、せっかくの週一のデートの日でしょう。僅かな時間もおしいよ。」
そう言って、息をきらしながらも優也さんは微笑む。
私に『会社員』と言った優也さんは、会社員には間違いはないのだろうけれど、製薬会社で研究員をしていた。
そんな忙しい中、付き合い始めたばかりの私達は、優也さんが比較的時間に余裕のできる、月曜日の夕方に、私が書店を早上がりして、会う時間を作った。
「いつも、ごめんね。俺の都合ばかりで…。」
たまに思い出したように言う優也さん。
そんなこと、私は全然気にしていないのに。
あなたを見ているだけだったあの頃、勿論それだけで幸せだったけど、こんな時間が自分に訪れるとは思っていなかった。
だから私は、今に不満なんてない。
そんなことを考えていた私に、
「今日は、この後すぐ食事でも良いかな?
俺、お腹空いちゃって。昼にたてこんでて軽い物しか食べられなかったんだ。」
そう、おどけてお腹を押さえるポーズの優也さん。
可愛い。
書店員とお客様の関係だったあの頃には、こんな幸せな時間が自分に訪れるなんて思いもしなかった。
「私も、お腹空いちゃいました。私も今日はお店、忙しくて、お昼休憩バタバタしていて。」
「それじゃ、お店にそのまま行っちゃっていいかな?それにしても。本屋さんも大変なんだね。」
優也さんは私をお店へと案内しながら、私と優也さんは他愛ない話をする。
「本屋さんも色々大変です。特に、雑誌の入荷する日は、朝から忙しくて。」
「大変そうだけど、楽しそうだなぁ。」
そう笑う優也さん。
優也さんが笑うと、私の仕事は、とても素敵なものに思える。
「着いたよ。勝手に決めちゃったけど、ここで良かったかな?」
優也さんに案内されて着いたそこは、少し高級そうな和風居酒屋、といった感じだった。
「一応、俺の周りじゃ評判の良いお店なんだ。莉沙、お酒大丈夫って言っていたし。」
私の様子を窺うような優也さん。
「素敵なお店に驚いていていただけ。普段、こういったとこには、こないから。」
途端に優也さんが微笑み、
「良かった。今日、莉沙と食事に行く予定だっていったら、ここはどうかって同僚達と話してたんだ。」
私は幸せな気持ちで、優也さんとお店に入る。
席につき、余り強くもないお酒を頼み、食事は進み。
優也さんと私の話は盛り上がっていた、時だった。
突然。
「やっぱり、今日、ここにしたんだ!」
優也さんに女性が話しかけてきた。
あの人だ…!
あの、わたしが働いている書店に優也さんが連れだってきた女性…!
どうして…?
それは優也さんも思ったらしく、
「綾、お前っ!どうしてここにいるんだよっ!」
優也さんにしては珍しくぞんざいな口調で、彼女を問いつめた。
「優也、今日、本屋の彼女とここに行くって言ってたじゃない?ちょっとのぞいてみようと思って」
「もう、いいから帰れよ!」
「つまんない。まぁ、いいわ。あっちで一人飲んで帰るから。じゃあね。」
優也さんが、いつにない態度を見せて、綾、と呼んだ彼女は、あっさりと離れた席へ一人行ってしまった。
優也さんはその後暫くは、気まずげにして私に謝っていたが、また、話は盛り上がり、話は、優也さんの仕事の話から趣味の推理小説の話まで多岐に渡った。
そろそろ帰ろうか、と言うころ。
「あの、ちょっとごめんなさい。」
私は化粧室にたった。
化粧室で口紅をなおしていた、その時だった。
急な人影に私は驚く。
綾、彼女だった。
「私、あなたのこと、認めてないから。」
矢継ぎ早に彼女は続ける。
「本屋で、あなたを見たときに、あなたの気持ちはすぐにわかった。優也もあなたに夢中だったし。でも私、彼が好きなの。」
そして彼女は切り札の様に言った。
「あたしね。優也と昔付き合ってたのよ。」
書店の外、あなたを待ち幸せな気持ちに包まれていた私に、あなたが駆け寄る。
「優也さん、走って来なくても大丈夫だったのに。駅からここまでは随分あったでしょう。」
私は言いながらも、どこか嬉しい気持ちで一杯になる。
外は新緑の季節。木々の緑が眩しい。
「だって、せっかくの週一のデートの日でしょう。僅かな時間もおしいよ。」
そう言って、息をきらしながらも優也さんは微笑む。
私に『会社員』と言った優也さんは、会社員には間違いはないのだろうけれど、製薬会社で研究員をしていた。
そんな忙しい中、付き合い始めたばかりの私達は、優也さんが比較的時間に余裕のできる、月曜日の夕方に、私が書店を早上がりして、会う時間を作った。
「いつも、ごめんね。俺の都合ばかりで…。」
たまに思い出したように言う優也さん。
そんなこと、私は全然気にしていないのに。
あなたを見ているだけだったあの頃、勿論それだけで幸せだったけど、こんな時間が自分に訪れるとは思っていなかった。
だから私は、今に不満なんてない。
そんなことを考えていた私に、
「今日は、この後すぐ食事でも良いかな?
俺、お腹空いちゃって。昼にたてこんでて軽い物しか食べられなかったんだ。」
そう、おどけてお腹を押さえるポーズの優也さん。
可愛い。
書店員とお客様の関係だったあの頃には、こんな幸せな時間が自分に訪れるなんて思いもしなかった。
「私も、お腹空いちゃいました。私も今日はお店、忙しくて、お昼休憩バタバタしていて。」
「それじゃ、お店にそのまま行っちゃっていいかな?それにしても。本屋さんも大変なんだね。」
優也さんは私をお店へと案内しながら、私と優也さんは他愛ない話をする。
「本屋さんも色々大変です。特に、雑誌の入荷する日は、朝から忙しくて。」
「大変そうだけど、楽しそうだなぁ。」
そう笑う優也さん。
優也さんが笑うと、私の仕事は、とても素敵なものに思える。
「着いたよ。勝手に決めちゃったけど、ここで良かったかな?」
優也さんに案内されて着いたそこは、少し高級そうな和風居酒屋、といった感じだった。
「一応、俺の周りじゃ評判の良いお店なんだ。莉沙、お酒大丈夫って言っていたし。」
私の様子を窺うような優也さん。
「素敵なお店に驚いていていただけ。普段、こういったとこには、こないから。」
途端に優也さんが微笑み、
「良かった。今日、莉沙と食事に行く予定だっていったら、ここはどうかって同僚達と話してたんだ。」
私は幸せな気持ちで、優也さんとお店に入る。
席につき、余り強くもないお酒を頼み、食事は進み。
優也さんと私の話は盛り上がっていた、時だった。
突然。
「やっぱり、今日、ここにしたんだ!」
優也さんに女性が話しかけてきた。
あの人だ…!
あの、わたしが働いている書店に優也さんが連れだってきた女性…!
どうして…?
それは優也さんも思ったらしく、
「綾、お前っ!どうしてここにいるんだよっ!」
優也さんにしては珍しくぞんざいな口調で、彼女を問いつめた。
「優也、今日、本屋の彼女とここに行くって言ってたじゃない?ちょっとのぞいてみようと思って」
「もう、いいから帰れよ!」
「つまんない。まぁ、いいわ。あっちで一人飲んで帰るから。じゃあね。」
優也さんが、いつにない態度を見せて、綾、と呼んだ彼女は、あっさりと離れた席へ一人行ってしまった。
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「あの、ちょっとごめんなさい。」
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綾、彼女だった。
「私、あなたのこと、認めてないから。」
矢継ぎ早に彼女は続ける。
「本屋で、あなたを見たときに、あなたの気持ちはすぐにわかった。優也もあなたに夢中だったし。でも私、彼が好きなの。」
そして彼女は切り札の様に言った。
「あたしね。優也と昔付き合ってたのよ。」
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