宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

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悪役令嬢幼女編

悪役令嬢は初めての商談に戸惑いを隠せないⅡ

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お兄様によると私が描いた鉛筆画、草汁画全てに買いたい人が殺到しているという。
最初はお兄様の冗談かと思ったのだが、そうではないらしい。
先程個室に通されたのは私の絵を買いたいと言った人々で、絵の販売については一旦ヴェーラ商会の運営側で話し合わせて欲しいと伝え、待機してもらっているのだという。


「お店の商品ではないものを買うことなんてできるのですか?」


前世でもダメ元でお店のディスプレイを買おうとする人はいた。まあ、大抵は断られてしまうのだが。


「できるよ。なんなら屋敷に置いてある調度品も屋敷の主人に言って買うこともできる」


どうやらこの世界ではディスプレイ買いが当たり前のように行われているようだ。


「もし、私の絵を売るとしたらいくらになりますかね?銅貨5枚くらいでしょうか」


前世の美術館でポストカードは大体200円から500円だったし妥当だろう。
あ、でも原画だからもっともらっても良かったのかもしれない。あと額装費は別料金で。


「いやいや!なんでこうもまた過小評価なのかなぁ!仮に販売するとしても銀貨二、三枚は欲しいね。そこから話し合いか一番高い値段で買うと言った人に、という感じかな」


いやいやいやいや逆に過大評価だと思うのだが。
それともアレだろうか、本当に私が描いた絵が名画なのだろうか。
現に私の絵を買いたいと集まっている人がいるみたいだし。
本当に私の絵が名画だというのなら少しくらいはお小遣い稼ぎに売ってみてもいいよね。
まあ、大体の欲しいものはお父様が買ってくれるからお小遣いなんて本当はいらないんだけど。乙女ゲーム開始となる学園入学で万が一があった時の逃亡資金として貯めておこう。

「いえ、巨匠でもなんでもない無名の私の絵ですし、相場もわかりませんでしたので……あの、今回だけオークション形式でその値段を参考に今後販売していくというのはいかがでしょう。たまにヴェーラ商会の催しとして、店内に飾れないような大きなサイズの絵を出すのもいいですし」


「いいね。それじゃあさっそく行こうか」


「私も参加するのですか?」


できれば接客やらなにやらはプロにお任せして私は首を突っ込みたくはない。


「作者として紹介しようと思ってね」


「顔出しはダメです」


「顔出し?」


よく某青い鳥の呟きでアイコンと中の人の画像を貼るとフォロワーが増えるだの何リツイートで自撮りを貼るだのがあったが、私は絵は見てほしいが身バレはしたくない派だ。


「あ、えーと、おそらく私のような子供が描いたと知るとがっかりされてしまうかもしれないので、できれば私のことは紹介しないでください。あと作者紹介とかがあるのなら雅号を使いたいです」


「うーん……がっかりはされないと思うんだけどエルが嫌なら無理には人前には出さないよ。あとエルは雅号を持っていたんだね?」


いや、持ってない。というか絵を売るつもりなんてなかったから考えもしなかった。
今考えるにもまめだいふくやらぽめぽめ侍やらしか思い浮かばない。
が、いいことを思いついた。

「いえ、持っていないのでお兄様につけていただこうかと」



「なんだって! 僕にそんな大役を?」


「どうしてもお兄様につけていただきたいのです。どうかよろしくお願いしますお兄様」


必殺、他人任せ。
私のネーミングセンスはあまりよろしくなさそうだしお兄様に任せれば大丈夫だろう。
お兄様のネーミングセンスは知らないけど。お土産と同じような謎の雰囲気の名前だったら嫌だな。


「エルザ」


お兄様は顔を上げ私の方をまっすぐと見て言った。


「エルザなんてどうだろう」



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