宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

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悪役令嬢幼女編

悪役令嬢は人工琥珀を作りたいⅡ

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粘土のように、か。粘土、粘土。
粘土は粘り気のある土で粒子の細かい堆積物。力を加えると軟らかくなってしばらくすると硬くなる。確か理科か何かで聞いた気がする。
私に強化バフをかけて力づくで琥珀を捏ねてみるのはどうだろうか。いや、ひびが入って割れる未来しか想像できない。
そうだ。錬金空間で粘土を捏ねてみればいいんだ。先ほどは錬金空間内で成長促進魔法のみを使っただけで私は特に物体に対して意識することはなかった。
もしかすると、錬金空間で粘土を捏ねる感覚をつかめば他の物体にも応用できるかもしれない。
いや、待て。この世界で粘土ってどこで手に入るんだ。庭でも掘り返したらみつかるだろうか。しかし、庭師さん方が丹精込めて作り上げた庭を穴ぼこだらけにするのは申し訳ない。どうにかならないものか。
あ、そうだ。泥団子を作ればいいんだ。泥団子で綺麗な球を作るのは結構難しいし、泥をある程度の硬さにするまで水を追加しながら捏ねる必要がある。
錬金空間で物質を変形させる感覚をつかむ練習に丁度いいだろう。別に泥団子が作りたいとかそういうわけではない。ピカピカ泥団子が作りたくなったとかそういうわけでは断じてない。

私は錬金空間を作成し、私の成長バフ被害に遭わなかった観葉植物の鉢から土を少しとり、水の魔石がついたジョウロから出る水と共に錬金空間に入れた。

さて、まずはこの土と水を混ぜ合わせるところからだ。
物質に意識を集中させて土と水が混ざるように、なんてどうすればいいんだよ。
いくら集中しようとしても土と水は微動だにしない。


「なんでこう、うまくいかないかなぁ」


私はやけになって錬金空間を掴んだ。すると、土の感触があった。
驚いて錬金空間を見るが、私の手と土の間には距離があるというのに、確かに土に触れているような感触があるのだ。
試しに空中で錬金空間に向かって捏ねるような動作をしてみると、私の手の動きに対応して土と水が混ざり合っていった。
なるほど、手を動かすことも必要だったのか。そうと分かれば早速泥団子作りだ。

錬金空間に水を追加して泥を軟らかくして、形を作っていく。ここで水が少ないとボロボロと崩れてくる可能性が高くなるため、水は多めにする。
泥団子に力を入れ、固く閉めていくように球体にしていき、ある程度球形に近づいてきたら形を整える。
ここで砂が必要となってくるのだが、実はこの部屋には謎の砂がある。
小洒落た小瓶に入っていて、棚に並べられている砂。これはちんじゅ、じゃなくてエストワお兄様が集めてきたものだ。今のところは10本に留まっているが、砂のある場所に行くたびにお土産として持ってくるため、数年後には棚一面が埋まってしまいそうだ。
どれがどこの砂なのかは覚えていないが、私の泥団子のために活躍してもらうこととしよう。
私は錬金空間に砂を注ぎ、泥団子にまぶし、再び泥団子の表面を撫でるように整えながら、締めていった。
あとは乾燥させて研磨するだけなのだが、乾燥するまで待っているのは面倒なので成長促進魔法で時間を進め、一気に乾燥させた。
乾燥させた泥団子に今度は別の、もっと細かい砂をまぶし、力を入れて擦り込む。
最後にタンスから発掘した比較的古そうなハンカチを錬金空間に入れ、研磨していく。
すると、泥団子が光沢を帯びてきた。
それからしばらく磨き続けると、土が黒に近く、砂が白っぽいものだったため、大理石のような、灰色がかったピカピカの泥団子が出来上がった。
我ながらなかなかの出来だと思う。この調子で琥珀も変形させられれば良いのだが。
私は錬金空間から泥団子を取り出すと、琥珀を入れた。
私は先ほどの泥と同じように琥珀を捏ねようとするが琥珀は硬く、全く変形する気配がなかった。
泥団子と琥珀では何が違うのだろうか。私は先ほどの泥のように簡単に球体だとか、三角錐型だとかにできればよかったのに、と思いながら琥珀に力を入れると、琥珀はいとも簡単に球体に変わり、そして三角錐型に変わった。
もしかして、物体と会話するって、物体の変形後の完成図を思い浮かべながら変形させようとすることだったのだろうか。そうだとすれば、ピカピカ泥団子が簡単に作れたことに納得がいく、かもしれない。
変形魔法のコツがつかめてきたかもしれないので、早速、琥珀ブローチの完成図を思い浮かべながら琥珀に力を入れていく。
今回作ることができた琥珀は透き通った黄色に近い色味だ。
この世界には存在していないようだが、逆にその方が私だけの秘密のようで素敵な気がする。
錬金空間の中の琥珀は花の蕾のような形になり、花が開くように形を変え、薔薇の形になり、変形が終わった。
前世では黄色い薔薇の花言葉は友情。ハンナと、これから仲良くなっていけると良いな。
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