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無機物(?)短編集
セバスチャン(2022.07.10)
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私の名前はセバスチャン。
使用人やら執事の名前としてよく知られている『セバスチャン』ですが、
私はとあるH国のMのつくチェーン店の────
『期間限定ハンバーガー』
その見栄え良く撮影された広告の写真に人々は期待の目を向ける。
ですが、こういうものは写真を見て期待しながら注文すると、大抵はガッカリするというのが常……。
「ねーお母さん! 私あの期間限定メニューのセバスチャンにする!」
「えぇー? あの写真の?」
「うん!」
セバスチャンの写真を見て楽しそうに会話している奥様とお嬢様がおこしになる────
あぁ、今日もここに新たな犠牲者が……
私達ハンバーガーの精霊(?)は作られた瞬間にその魂として放り込まれるらしいのです。
係の天使が次々と、注文の入った下界へ光の玉を放っている──
ここ天界では、光の玉となった精霊達がその瞬間を迎えるまで列を成して待っています。
そして私も。
H国のセバスチャンという名のハンバーガーの列に並ばされていました。
どうやらこのチェーン店、回転がとても早いらしくあれよあれよという間に、最後尾にいたはずの私の順番がやってきています。
時折聞こえる『何これー、写真と随分違うじゃない! がっかりー!』という内容の下界の声に怯えながら、色々なことを思いました……。
自分は何故セバスチャンなのかとか、中身は一体何なのか? とか。
色々思うことはございますけれど、せっかくやってきたこのハンバーグ生……!
できることなら喜ばれたい……!
『うわ! やっぱりイメージと違うなぁ……。っていうか、小さい……? サギじゃね? あの写真』
しかし──聞こえてくる声はやっぱり、どれもこれもこういった内容で。
私は覚悟を決めました。
どんな風に思われようとも!
どんな風に言われようとも!
私は私の名に恥じぬよう生きよう……‼︎
そうこうしているうちにも順番が来て……
「はい、次のセバスチャンー。行ってらっしゃい~」
気だるい表情をした金色で肩までの巻き毛を持つ係の天使に、何の感動もなく流れ作業のように鷲掴まれ、放り投げられる。
あぁああああああああああああああぁぁぁぁぁっ
地上へと放られ視界が暗転した私は、いつのまにやら気を失っていたようで。短い夢を見ていました。
ふわふわした感覚で空を彷徨いふと見おろすと、一組の母娘が目に入る。
「ねーお母さん! 私あの期間限定メニューのセバスチャンにする!」
「えぇー? あの写真の?」
「うん!」
セバスチャンの写真を見て楽しそうに会話している奥様とお嬢様がそこにはおいでになりました。
あぁ、今日もここに新たな犠牲者が……
そう思った瞬間突然意識がはっきりして、私はちょうど箱に入れられたところのようでした。
蓋を閉められ、暗くなる。
結局。自分がどんなハンバーガーなのかも分からず。
そしてこれからわたしはあのような声をかけられるのか…………!
ガタンっという音と共にどこかを少し滑り落ちる感覚。
滑り落ちて止まっても、端に寄ることのないボディー。
どうやらわたしはそれなりに丈夫(?)なハンバーガーらしい。
箱の中に充満する匂いをよぅく感じてみると、間違いなくチーズは入っている……!
そしてどうやら箱の天井スレスレの高さがあるらしいことにも気がつきました。
一体何が挟まっているのでしょうか……?
再び持ち上げられ移動する感覚がするけれど、高さが天井スレスレのため、多少斜めになっても崩れない。
コトンとどこかに置かれると、フワリと隣から漂ってくるポテトの香り。
そして──私だけではなく別のハンバーガーもいるようで、気配を感じる……!
「お待たせしましたー!」
その声と共に、今度は何かに乗せられた状態で運ばれるのがわかりました。
ポテトの香りともう一つのハンバーガーの気配が一緒に来ている……ということはどんな大食漢な人物が…………⁉︎
緊張と興奮(?)を抑えながら、私は天井部分を凝視していました。
「わーぃ! ありがとうお母さん!」
幼げな女の子の声。
もしかして────
パカーっと蓋が開かれ明るくなると。自分が何か紙のようなものに入れられていることが判明しました。
どうやら油を良く吸い、持つ手が汚れないような紙の素材の物に。
チラリ、とめくられのぞいた顔は──
あの……! 夢で見たお嬢様…………!
夢じゃなかったのでしょうか…………?
「わぁー!」
私の姿を見て声を上げるお嬢様。
……はっ……! 見ないでください、お嬢様……!
写真とは随分違う見た目でございましょう……?
出来れば目を瞑って……
私ををお食べください…………!
「お母さん、見て! あの写真よりスマートでカッコいいよ!」
「あら、本当。写真よりは少し小柄なイメージだけど……凛とした見た目でカッコいいわね!」
「でしょぅ? その名に違わずこの上品な見た目! 他のハンバーガーとは違ってはみ出て溢れることのないレタスにソース。
それなのに、横からチラリと見える海老のフライは写真と同じくらい大きく見えるわ!」
お嬢様…………‼︎
まさか。自分がこのような言葉をかけられるとは……!
「そしてすごくいい匂い……アタリだわ! このハンバーガー」
言い換えれば写真より小さく見えるしソースも少ない。言ってしまえばボリュームという点では物足りないであろうこの私を…………!
「良かったわね」
「うん!」
キラキラとした笑顔で私を手に取り仰るその姿はもぅ眩しくて眩しくて────
「いただきまーす」
~end~
p.s.
美味しく食べられました私セバスチャンは、めでたく幸せな気持ちで昇天する事が叶いました。
……さて次は何に生まれ変わるのでしょうか……
願わくば次の生でも良き御主人様と出会えますように────
使用人やら執事の名前としてよく知られている『セバスチャン』ですが、
私はとあるH国のMのつくチェーン店の────
『期間限定ハンバーガー』
その見栄え良く撮影された広告の写真に人々は期待の目を向ける。
ですが、こういうものは写真を見て期待しながら注文すると、大抵はガッカリするというのが常……。
「ねーお母さん! 私あの期間限定メニューのセバスチャンにする!」
「えぇー? あの写真の?」
「うん!」
セバスチャンの写真を見て楽しそうに会話している奥様とお嬢様がおこしになる────
あぁ、今日もここに新たな犠牲者が……
私達ハンバーガーの精霊(?)は作られた瞬間にその魂として放り込まれるらしいのです。
係の天使が次々と、注文の入った下界へ光の玉を放っている──
ここ天界では、光の玉となった精霊達がその瞬間を迎えるまで列を成して待っています。
そして私も。
H国のセバスチャンという名のハンバーガーの列に並ばされていました。
どうやらこのチェーン店、回転がとても早いらしくあれよあれよという間に、最後尾にいたはずの私の順番がやってきています。
時折聞こえる『何これー、写真と随分違うじゃない! がっかりー!』という内容の下界の声に怯えながら、色々なことを思いました……。
自分は何故セバスチャンなのかとか、中身は一体何なのか? とか。
色々思うことはございますけれど、せっかくやってきたこのハンバーグ生……!
できることなら喜ばれたい……!
『うわ! やっぱりイメージと違うなぁ……。っていうか、小さい……? サギじゃね? あの写真』
しかし──聞こえてくる声はやっぱり、どれもこれもこういった内容で。
私は覚悟を決めました。
どんな風に思われようとも!
どんな風に言われようとも!
私は私の名に恥じぬよう生きよう……‼︎
そうこうしているうちにも順番が来て……
「はい、次のセバスチャンー。行ってらっしゃい~」
気だるい表情をした金色で肩までの巻き毛を持つ係の天使に、何の感動もなく流れ作業のように鷲掴まれ、放り投げられる。
あぁああああああああああああああぁぁぁぁぁっ
地上へと放られ視界が暗転した私は、いつのまにやら気を失っていたようで。短い夢を見ていました。
ふわふわした感覚で空を彷徨いふと見おろすと、一組の母娘が目に入る。
「ねーお母さん! 私あの期間限定メニューのセバスチャンにする!」
「えぇー? あの写真の?」
「うん!」
セバスチャンの写真を見て楽しそうに会話している奥様とお嬢様がそこにはおいでになりました。
あぁ、今日もここに新たな犠牲者が……
そう思った瞬間突然意識がはっきりして、私はちょうど箱に入れられたところのようでした。
蓋を閉められ、暗くなる。
結局。自分がどんなハンバーガーなのかも分からず。
そしてこれからわたしはあのような声をかけられるのか…………!
ガタンっという音と共にどこかを少し滑り落ちる感覚。
滑り落ちて止まっても、端に寄ることのないボディー。
どうやらわたしはそれなりに丈夫(?)なハンバーガーらしい。
箱の中に充満する匂いをよぅく感じてみると、間違いなくチーズは入っている……!
そしてどうやら箱の天井スレスレの高さがあるらしいことにも気がつきました。
一体何が挟まっているのでしょうか……?
再び持ち上げられ移動する感覚がするけれど、高さが天井スレスレのため、多少斜めになっても崩れない。
コトンとどこかに置かれると、フワリと隣から漂ってくるポテトの香り。
そして──私だけではなく別のハンバーガーもいるようで、気配を感じる……!
「お待たせしましたー!」
その声と共に、今度は何かに乗せられた状態で運ばれるのがわかりました。
ポテトの香りともう一つのハンバーガーの気配が一緒に来ている……ということはどんな大食漢な人物が…………⁉︎
緊張と興奮(?)を抑えながら、私は天井部分を凝視していました。
「わーぃ! ありがとうお母さん!」
幼げな女の子の声。
もしかして────
パカーっと蓋が開かれ明るくなると。自分が何か紙のようなものに入れられていることが判明しました。
どうやら油を良く吸い、持つ手が汚れないような紙の素材の物に。
チラリ、とめくられのぞいた顔は──
あの……! 夢で見たお嬢様…………!
夢じゃなかったのでしょうか…………?
「わぁー!」
私の姿を見て声を上げるお嬢様。
……はっ……! 見ないでください、お嬢様……!
写真とは随分違う見た目でございましょう……?
出来れば目を瞑って……
私ををお食べください…………!
「お母さん、見て! あの写真よりスマートでカッコいいよ!」
「あら、本当。写真よりは少し小柄なイメージだけど……凛とした見た目でカッコいいわね!」
「でしょぅ? その名に違わずこの上品な見た目! 他のハンバーガーとは違ってはみ出て溢れることのないレタスにソース。
それなのに、横からチラリと見える海老のフライは写真と同じくらい大きく見えるわ!」
お嬢様…………‼︎
まさか。自分がこのような言葉をかけられるとは……!
「そしてすごくいい匂い……アタリだわ! このハンバーガー」
言い換えれば写真より小さく見えるしソースも少ない。言ってしまえばボリュームという点では物足りないであろうこの私を…………!
「良かったわね」
「うん!」
キラキラとした笑顔で私を手に取り仰るその姿はもぅ眩しくて眩しくて────
「いただきまーす」
~end~
p.s.
美味しく食べられました私セバスチャンは、めでたく幸せな気持ちで昇天する事が叶いました。
……さて次は何に生まれ変わるのでしょうか……
願わくば次の生でも良き御主人様と出会えますように────
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