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-第27夜- 霧の森の中の洋館

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 もう、あれから3週間も経ったのか。

 時の流れとは早いものだと私はふと感じる。

 議員護衛任務失敗という失態を演じてしまった私達3名を含む教会の聖職者は1ヶ月の停職処分という名の久々の長期休暇を与えられていた。

 この3週間の間に実に色々な事があった。幻の超巨大魚。アークフィッシュを死にかけのおじいちゃんにどうしても生きているうちに見せたいと頼んできた漁村の少年に付き合わされたり、今、西洋を中心に巷で噂の笛吹きのハーメルンとかいうロリコン野郎に偶然、出会でくわしてしまったり……とか。

 本当に色々あった。

 が、レーネ彼女とはこの長期休暇の間にかなりの親睦を深めたと私は思っている。
 議員護衛任務失敗から2日後、重い足取りでトルグレム・アートの部屋へと訪れた私は彼から「君には失望した。オルエストの件と言い、バリスの件と言い、もう少し出来るやつかと思っていた。いや、私が少し君の力に過信し過ぎたのかもしれないな」と軽い叱責を受けたのだった。

 そして、その時に私はトルグレムにこう告げたのだ。

 「この1週間、彼女と行動を共にしたが正直、相性は微妙だった」と。

 するとトルグレムは「そうか、じゃあ」と静かな声で言葉を続けようとしたが私は彼の声に被せるように「いや、レーネを私の正式な相方バディとする。今はまだ“師”と“部下でし”の関係だが私と肩を並べ対等な関係になる日もそう遠くは無い」と言い残し、部屋を後にしたのだった。

 この判断が本当に正しかったのかは私にもまだ分からない。もしかしたら、これが裏目に出るかも知れないし、将又はたまた良い方に転がるかもしれない。

 それはまだ現時点では分からないのだ。

 回想に浸っていたがレーネの声で現実に帰る。

「にしても輝夜かぐや我儘わがままな奴だ。普段、滅多に会いに来ない癖に私とレーネが停職食らったって分かった瞬間、突然、部屋にやって来るなり、ニコニコした顔でこんな無理難題押し付けてくるなんて……」

「まぁ、でも良かったです。お願いが蓬莱ほうらいの玉の枝とか、龍の首の珠とかつばめの子安貝じゃなくて……」

「あぁ、確かに。あいつならそんな意味わからない事突然、言い出しそうだな。なんでも満月の夜になると月を見て涙を流すような変な奴だしな」

 私とレーネは輝夜に、彼女の出身の“和(?)”とかいう国に残して来たお爺さんとお婆さん宛の手紙を出して欲しいとお願いをされて、国内にある彼女の国の大使館を訪れる羽目になった。正直、こんなの郵便屋に任せろと思ったが輝夜には昔から色々とお世話になっている。だから、私は少しでも借りを返そうと彼女の要求を飲んだのだ。

 そうして無事、職員に封筒を渡し終わった私とレーネは帰る道中、先程言った出来事に巻き込まれたって訳だ。

「輝夜の国はメルエムから相当遠い所にあるみたいだ。遠く離れてる家族を想う気持ちは立派だと思うけど、これって私達にメリットあったか?」

 後ろを歩くレーネにそう尋ねる。勿論、今回も荷物持ちだ。だから歩くのが遅く、私と身体6つ分の距離がある。

「まぁ、でも帰ったら。輝夜さんとアリスさんが美味しい茶菓子を用意してくれるみたいですから……なんでも和洋折衷せっちゅうの茶菓子パーティーみたいですからね、はぁはぁ」

「そう言えばそんなことを言ってたっけ?しかし、輝夜はともかくアリスの作るお菓子や淹れるお茶は摩訶な味がするからな……あんまり期待は出来ないが……まぁ、でも輝夜の作るお菓子は絶品だからなぁ……停職期間はあと1週間あるが、別に教会内には入れるし、早く戻って越したことは無いからな。レーネ、さっさとこの深い森を抜けて、どっかの街で適当な馬車を拾ってさっさと帰ろう」

「そ、そんなこと言われましても~わ、私はもう足が……い、痛いですぅ~」

 私は歩みを止めて、後ろを振り返る。

「レーネ、荷物持ちぐらいちゃんと出来なくてどうする。私だって初めは荷物持ちをさせられたんだぞ」

「え、先輩が!?え、え?誰にですか?それってもしかして前の相方とか……ですか?」

「さぁな」

 別に前の相棒あいつについて話してやっても良かった。というより、いつかはレーネにも彼のことや私のについて話そうと思っていたんだ。何故ならば、私達はあまりにも互いのことを知らな過ぎるのだから……。だから、正直もう話してもいいとは思っているのだけど……。

「ん?」

 そんなことを考えいると何処からともなく、ひんやりとした白い悪魔がやって来た。それは辺りを瞬時に包み込み、視界を一気に悪化させた。

「霧……ですかね?」

「みたいだな」

 即座に森一帯を支配した霧のせいで気温は一気に下がる。

 (不味いな……この時間帯にこの霧の量だ。日没までそう時間が無い。このまま森で迷って出られなくなったら、最悪は……)

 そんな考えが脳裏を過ぎった瞬間、私は足早にレーネの元へと駆け寄り、自分の荷物をかっさらった。

「え、先輩?」

 キョトンとした表情のレーネに対し、私は「荷物持ちはもうやめだ。霧がこれ以上、濃くなる前にこのもりを出る。生憎、私はこの森の土地勘は無いが、お前は?」と尋ねた。

「いえ、私もこの森は初めてで……」

「そうか、分かった……。こんなことになるならこの森山のことについてもう少しちゃんと調べるべきだったか……或いは変に近道しようとしないで行きと同じ来た道を引き返すべきだったか……いや、こんな事を考えることすら時間が惜しい。レーネ、私に着いてこい。日没までに何としてでも森を出るぞ。こっからはノンストップだ。いいな?」

「はい!」

 それから私達はずっと森の中を駆け回った。今にしてみればこの判断は愚かであったと思う。しかし、あのまま立ち止まっていてもきっと同じ事を思っていただろう。

 ノンストップで森の中の駆け下り、駆け登りを繰り返した私達は不思議な館の前へと辿り着いた。

 その場所を決して目指していた訳では無い。そう、全ては偶然だ。

 いや、もしかしたらこれは“運命”。全てはそう。運命……。

「はぁはぁはぁはぁ、大丈夫か?レーネ」

「ぜぇぜぇ、な、何とか……し、しかし、こんな所に古びた洋館があったなんて……思いもしませんでした」

「だな……はぁはぁ、日没まで時間が無い、ずっと走っていたから気付かなかったが、先程より気温が下がった様な気がする。心做しか、な。どうする?レーネ。出られる保証は無いが、森を出ることを目指すか?それともこの古びた屋敷で一夜を過ごすことに妥協するか?」

 返ってきた声はいつものキャピキャピした甲高い声ではなく、少し掠れている低く小さな優しい声であった。

「あれ?御二方も参加者様ですかね?」

「「え?」」

 レーネと声が被った。

 (こいつ、なんだ?まるで気配を感じさせなかった……足音おろかその場にいる活動生命特有の生気すら……)

 私の心情もお構い無しに彼は「ありゃ、違いましたか?すみませぬ、外の様子を見てこいとご主人様に言われまして、その帰りに屋敷前に戻ってみると、御二方が何やら佇んでおられたので……もしかして初めての方だと思いましてね?」と言った。
 当然、私もレーネもその御老人が言っていることが1つも理解出来ず、ただ「ははぁ?」としか言えなかったが……。

 その老人は霧が濃くてよく見えないけど、パッと見、黒い服を来ているように見える。黒服って言っても何処かの嫌味な2人組とは違い、なんかこう屋敷とかに使える執事のような燕尾服みたいな感じだった。

 執事風の御老人は「ん~」と声を漏らし、何やら困った様子でゆっくりとこちらに近付くと「まぁ、お二人さん、霧も濃くなって来たことですし、外も既に暗い。良ければ今日は1日、我が屋敷に泊まられてみてはいかがです?見る限り、お二人は旅人?の様な感じですし、この霧の森じゃ泊まる宛ても無いでしょうし」と提案した来たのだ。

 霧が立ち込める中で御老人はうっすらと微笑みを浮かべた様な気がした。

 
 

 
 

 
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