41 / 62
第一部 星誕
第四一話 片恋の姫
しおりを挟む
それは、七年前の北方民族襲撃の緊張感に似ていた。
または、先帝が崩御し、時期皇帝の位を争って朝廷内が殺気だっていた頃にも、近かった。
空気が常に張り詰めて、呼吸をするにも、声を出すにも、心理的な圧迫感がともなわれた。
五亨庵への趙姫の訪問とは、そういう類のものだ。
「ご無沙汰いたしております」
入り口で、左相の娘、趙姫は、完璧な挨拶を見せた。
東雨が引き攣った笑顔で案内する。
「あ、あの、お供の方たちはご一緒じゃなくて良いのですか?」
東雨は、外で待たされている趙姫の従者たちを気にした。
「わたくしは一人で結構ですわ」
「はぁ」
俺たちは、あなた一人でも十分迷惑ですけれど……
むしろ、趙姫を外に置いて、従者たちをもてなした方が、どれだけ気楽か知れない。
「あ、わ、私は、ちょっと書庫へ……」
逃げ出そうとした緑権の襟首を捕まえて、慈圓が無理やり、自分の横に座らせる。
犀星を置いて逃げようなどと、この老獪が許すはずもない。
東雨は趙姫を長椅子に案内すると、自分はさっさと茶を淹れるために隅の水場へ退散する。あとは、犀星が相手をするだろう。
慈圓と緑権は、離れた席から、並んで大人しく様子を見るに徹している。関わらないに越したことはない。
犀星は仕方なく、趙姫の前の長椅子に座った。何も知らない玲陽が、大人しくその横に立つ。
趙姫の父は、六年前に左相の位についてから、大変な権力を握っていた。
その娘である趙姫は、一人娘であることもあってか、周囲に散々かしづかれて育てられ、苦労も知らなければ遠慮も知らない、我儘放題で有名だった。
もっとも、趙姫のような手に余る娘は宮中では珍しくないが、厄介なことに、五年前から、彼女は犀星を気に入ってぞっこんなのだ。
すでに二十歳を過ぎたというのに、いまだに婚姻を結ばないのも、そのためだ。
左相の娘と第四親王の組み合わせは、宮中では絶好と言えた。しかし、当の犀星には、そんなつもりは露ほどもない。興味がないどころか、むしろ、嫌悪感さえ抱いている有様だった。
冷たく放っておけば、そのうち諦めるだろう、と考えていたが、一方的な趙姫の想いは年を重ねるごとに強くなり、最近では犀星も遠慮なく彼女の訪問を断り続けていた。当初、趙姫と犀星の婚姻に積極的だった緑権までが、ここ数年、その態度に閉口してしまい、仕方なく、彼女が襲ってきた場合は、犀星が『責任をとって』、追い返している。
「先日お送りした、文のお返事を伺いにまいりましたの」
趙姫は、何度断られても諦めなかった。直接会えないならば、と、手紙を頻繁に送って寄越していた。
「お返事をお待ちしておりましたが、文を書く暇もなくお忙しいご様子でしたので、こうして直接お訪ねいたしました」
忙しいのがわかっているなら来るなよ、と、東雨は茶の支度をしながら仏頂面で思った。
犀星は席に着く前、机の引き出しから持ち出していた、何通かの手紙を、趙姫に差し出した。
「これのことでしょうか?」
「ええ」
趙姫は照れたように、口元を袖で覆った。
「わたくし、心を込めて書きましたのよ。お恥ずかしいですが」
性格には相当な難があるが、彼女の美しさは群を抜いており、全ての仕草が人々を魅了する。この、五亨庵の面々を除いて、であるが。
玲陽だけは、初めて間近に見る『姫』という存在に、興味津々で観察している。
呑気なものだ、と、慈圓と緑権は苦笑しながら視線を交わす。
「これは、お返しいたします」
犀星が、趙姫との間にある卓の上に、手紙を乗せ、彼女の目の前に押しやった。
「中は見ていませんので、ご安心ください」
「え?」
驚いて、玲陽が犀星の横顔を見る。読まずに返す、など、そんな失礼があるものだろうか。少なくとも、犀星がこの姫を良く思っていないことは、玲陽にもその一事で伝わった。
「歌仙様は、本当につれないお方ですわ」
趙姫は全く堪えた風もなく、首を振る。
玲陽は、犀星から趙姫の話どころか、名前も聞いたことがない。
ほとんど全てとも思えることを自分に話してくれる犀星だが、その彼が黙っていた、ということは、よほど関心がないか、または、話したくない理由があるか、だ。どちらにせよ、趙姫が犀星の『特別な存在』であることは確かなようだ。
「わたくしが、この年までひとりでいますのは、あなた様をお慕い申し上げているからと、ご存知のはずですのに……」
犀星の顔に、見たことがない複雑な感情が浮かぶ。
玲陽は、じっとその表情を見つめ、それから、手紙、そして、趙姫へと視線を移す。
「!」
思わず、声が出そうになって、玲陽は口を抑えた。
趙姫の周りに、何やら蠢くものがある。しっかりとした形を作ってはいない、傀儡の破片のようだ。
傀儡の破片らしきものは、趙姫の体から生えている。人の近くにいたり、体にしがみついているものは今更珍しくもないが、人体から手足らしき突起がいくつも生えている様子は、玲陽も初めてだった。これはいくら慣れていようとも、まさに奇怪この上ない。玲陽はたまらず、目を逸らした。
随分、恨みを買っているみたいだな、と、玲陽は長く息を吐いた。もしかすると、犀星には何か声が聞こえているのかもしれない。
「あなたのお気持ちは知っていますが、私にはあなたを娶るつもりはありません」
これ以上ないほど、明瞭で端的な犀星の拒絶にも、趙姫は顔色ひとつ変えない。
反して玲陽は、見慣れない態度を取る犀星に、動揺している。確かに犀星は人付き合いを好む方ではないが、だからと言って、ここまで邪険な返答をする性分でもない。
これは余程のことだな、と、玲陽は次第と不安になってくる。
東雨が盆に茶器を乗せて、三人に近づいた。呼び止められないよう、素早く湯呑みと茶壺を置くと、玲陽に目配せする。後は頼む、自分は逃げる、という合図だ。
陽様、ごめんなさい!
助けを求めるように自分に向けられた玲陽の顔に後ろめたさを感じながら、それでも東雨は勇気を出して足早に離れた。仕方なく、玲陽は東雨の代わりに茶をいれ、音を立てないように恐々と趙姫の前に置いた。
犀星も東雨も、普段の勢いがない。そっと慈圓たちを振り返ると、彼らも苦笑いしながら、小さく頷いた。
玲陽は、覚悟するしかないことを悟った。
詳しい理由はわからないが、この趙姫は、随分と歓迎されない存在のようだ。
しかし、どんなに好ましくなくても、(傀儡の苗床のように見えようとも)相手は栄華を誇る左相の娘である。下手に敵意を買っても面倒だ。
どうしたものか、と、玲陽は視線を泳がせながら考え込んだ。
趙姫は犀星の顔を真っ直ぐに見ている。
本来であれば、親王である犀星の顔を見るのは失礼にあたる。だが、女性は例外だ。相手が皇帝であろうとも、好意のある相手であれば、顔を上げることも許される。それは、身を差し出しますよ、と言う暗黙の意思表示だ。一見、女性を丁重に扱っているようでもあるが、実は男性側が女性の顔をよく見られるように、との理由からである。その上で、気に入るかどうかを判断するのだ。
こんなに綺麗なのにな、と、玲陽は素直に思った。
玲陽の周りにいた女性といえば、母と妹、実家の使用人くらいなものである。玲凛も美しいと玲陽は思うが、それは兄の贔屓目もあるのかもしれない。
だが、趙姫の美しさは、贔屓なしに、本物である。
これほどの女性に言い寄られて、犀星が今まで断り続けていたという事実に、玲陽は奇妙な感情が湧いてくるのを感じた。それは、一言では言い表せない、様々な想いが織り混ざったものだ。
「歌仙様」
趙姫は冷ややかな犀星の態度に、一切動じることもなく、
「本当に真っ直ぐで、純粋でいらっしゃるのですね」
犀星が、肩を落とすのがわかった。玲陽は心の中で首を傾げた。
どうにも、会話が噛み合っていない気がする。
趙姫は堂々としており、その言葉に澱みはないが、犀星との間に意志の疎通が感じられない。まるで、一人で勝手に喋っているようでもある。
「わたくしは、あなた様のそのようにひたむきな所が好きですわ」
「お帰りいただけませんか? 仕事があります」
容赦なく、犀星が追い出しにかかる。
「そうそう!」
何かを思いついたのか、趙姫は胸の前で手を打って、にっこりと微笑んだ。
その笑顔に、玲陽は見とれた。傀儡はどうあれ、綺麗なものは綺麗だ。
「お仕事ですわね」
「ええ、ですから、お帰りを……」
「お手伝いいたしますわ!」
犀星がひるむ。勘弁してくれ、と小さくつぶやくのが、隣に立つ玲陽にだけは聞こえた。
「わたくし、この前、古事全書を手に入れましたの。難しくて、まだ全然読めていませんけれど…… これで、歌仙様のお仕事も理解できるようになりますわ」
「読み終わってから言えよ……」
緑権と慈圓の陰に隠れていた東雨が、思わず呟いた。
「ねぇ、歌仙様。わたくし、立派な奥方になれると思いませんこと?」
「思いません」
犀星の一言に、ヒヤリとして玲陽が硬直する。そんな言い方をして、趙姫が怒り出したら、と、姫の様子を伺う。だが、玲陽の心配は無駄だったようだ。
「あら、やってみなければわかりませんわ」
そう言って、コロコロと可愛らしく笑う趙姫に、玲陽は愕然とした。
「なんなのですか、この人……」
思わず、声に出しそうになる驚きを、慌てて飲み込む。
「とにかく、私はこれから仕事をしなければなりません。あなたの手伝いもお断りします」
犀星は無表情で突き放した。
「そんなことおっしゃって…… 大丈夫です。わたくし、ちゃんとお手伝いできますから」
「必要ありません。私の仕事は、ここの者たちが助けてくれます。人手は足りています。お引き取りください」
「本当に、可愛い方ですわね、歌仙様は……」
上機嫌でにっこりする趙姫に、玲陽は、彼女の恐ろしさを見た思いがした。
通じない。
何を言っても、届かない。
こちらの気持ちも、ここまではっきりとした犀星の拒絶も、趙姫には全く聞こえていない。
これが、五亨庵に趙姫恐怖症を植え付けた原因だ。
「忙しいのです。邪魔ですからお帰りください」
「お構いなく……ここで待っていますわ」
「ここにいられるだけで、気が散って迷惑です。お帰りください」
「わたくしは、十分楽しいわ」
「ああ! イライラしてきた!」
東雨が二人の先輩の後ろで座り込んで、両耳を押さえる。
「ぶん殴って追い出そうか……」
「東雨、やめて下さい。私たちまで首が飛びます」
「まぁ、気持ちはわかるがな」
緑権と慈圓も、苦笑を通り越して、疲れたように頬杖をついた。
犀星が、どんなにきっぱり断っても、趙姫にはわからないらしい。
こうなると持久戦で、相手が話したいことを全部話してしまうまで、放っておくより他になかった。
力づくで追い出しては、それこそ、後から何をされるかわかったものではない。
根比べなのだ。
五亨庵の面々が、趙姫を苦手とするのには、こんな理由があったのである。
犀星は辛抱強く相手をして、繰り返し帰るように言い続けるが、大抵は日暮れまでこのままだ。
今年の冬は厳しかったため、南方の別荘に行っていたらしいが、帰ってくるなり、これである。また悩まされる日々が続くのかと思うと、皆、憂鬱だった。
「ねぇ、歌仙様。わたくし、花の刺繍ができるようになりましたの。歌仙様は、どのお花がお好きですか? 今度、縫い取りをして差し上げてよ」
「興味がありません。お帰りください」
「お花はお嫌い? では、小鳥になさいますか? そうですわね、次は、小鳥がいいわ。わたくし、覚えが早い、って皆に言われますの。すぐにできるようになりますわ」
「私には不要です。お帰りください」
「そうそう、この前の秋に、渡り鳥の群れを見たんですの。ご存知かしら? 鴨は楔形に群れを作って飛ぶんですのよ」
(「それ、鴨じゃなくて雁だろ……」と、東雨が口を挟んでいたことを、犀星は知らない。)
「お帰りください」
「不思議ですわね。地図も無いのにちゃんと季節がわかって、飛ぶ方向もわかるなんて」
(「お前は、帰り道もわからないのにな」と、東雨。)
「お帰りください」
「あら、いけない。わたくし、大事なことを忘れていましたわ」
(「そうだよ、帰れよ!」)
「わたくし、来月、お誕生日ですの。前後の十日間、夜通しお祝いの酒宴を開きますので、是非いらして下さいね!」
「お帰りくだ……」
と、言いかけて、心理的要因からか、犀星は咳き込んだ。
二人のやり取りを、呆気に取られて見ていた玲陽は、犀星の背中をそっとさすった。
「陽……」
その勢いで、犀星は玲陽の胸に身を倒す。
「あ……」
反射的に抱き止めたものの、玲陽の視界のすみで、ぞわり、と何かが動くのがわかる。警戒しながら、玲陽はそっと顔を上げた。
美人画から抜け出したような趙姫の笑み。その後ろで、断片的だった傀儡たちが、一つの塊を作り始めていた。玲陽は悪寒を感じて、体を硬くした。
どうにも、傀儡の動きがおかしい。
趙姫を恨んでいるのか、と思ったが、出来上がっていく塊は人の姿ではなく、ただの小山のようだ。
しかも、次々と趙姫の身体から傀儡が這い出してくるではないか!
化け物……
思わず、そんな言葉が玲陽の頭に浮かんだ。
玲陽が、よりしっかりと傀儡を見ようとした時、その黒い塊の表面に、趙姫と瓜二つの顔が浮かび上がった。
「歌仙様」
趙姫の声色に変化はなかったが、それが余計に玲陽を怯えさせた。
今の声は、どちらのものだ?
趙姫が話すと、塊に浮かんだ顔の口も、同じように動いた。
「その方、どなたですの?」
(「今更か!」という東雨の心の叫びはさておいて、)犀星は呼吸を整えながら、玲陽の耳元に顔を近づけた。息だけで囁く。
「頼む。責任は俺が取る」
玲陽はその言葉に、一瞬、迷った。頼む、とは、どっちだ? 傀儡か、それとも趙姫か……
犀星には、傀儡の姿は見えていないはずだから、趙姫の相手を頼む、ということだろう。
玲陽は深く息をついて、犀星を見つめた。
犀星が音を上げるなど、滅多にあることではない。だが、彼に助けを求められて、玲陽がそれを断ることはない。たとえ、相手が誰であろうとも、だ。
「わかりました」
玲陽は、犀星に微笑んで見せた。犀星のこわばっていた表情が、一瞬で氷解する。安心して玲陽にすがるその目に、覚悟が決まる。
やっぱり、この人は美しい。贔屓目だろうとなんだろうと、この世で一番美しいのは、この人だ。
趙姫だろうと、奇怪な傀儡だろうと、犀星がどうにかしてくれ、と言うのだから、自分はただ、その望みを叶えるだけだ。
玲陽は、犀星に見惚れ、隣に座ると、その手をしっかりと握って自分の膝の上に置き、真正面から趙姫と向き合った。
全面対決の構えである。
「お……」
慈圓たちが、待っていました、とばかりに身を乗り出す。
「陽様、頑張って下さい!」
東雨が小さく応援して、期待を込める。
趙姫は、一筋縄ではいかない。この五年間、あの手この手でしのいできたが、犀星ももう限界である。ここは、新戦力の玲陽に頼むしかない。あの宝順にさえ啖呵を切った玲陽である。趙姫など、敵ではない、と願いたい。
いつもは平和な五亨庵に、戦場の緊張感が走った。全員の耳の奥で、開戦を告げる銅鑼と法螺貝が鳴り響いた。
「あなた、どなた?」
趙姫は悪意の無い笑顔を見せている。だが、玲陽には、彼女を取り巻く、不穏な傀儡の動きがはっきりと見えていた。玲陽は、あえて、彼女と同じように、柔らかく微笑んだ。
「私は犀光理と申します」
玲陽の身分で、趙姫に直接口をきくことは許されないのだが、そこは気にしていても仕方がない。犀星に託された以上、悠長なことは言っていられない。第一、この常識の通じない相手に配慮する必要がないことは、短時間のうちに玲陽にもよくわかっていた。
「どちらのお生まれですの?」
趙姫の問に、一同が呆気に取られる。
『犀』の姓から、犀星と同じ家の出であることくらい、想像できないのだろうか。
「私は、血縁では歌仙親王殿下の従兄弟にあたり、関係性は義弟です」
玲陽が冷や汗をかきながら、一言一言、言い含めるように口にする。
「あら、歌仙様の?」
「はい」
通じた、と玲陽が思ったのも束の間、
「なぜ、そのような落ちぶれた家の方が、五亨庵にいらっしゃるの?」
言葉がなくなる、とは、このことだ。
この姫には、考える力がないのか?
確かに、犀家は数十年前に犀遠の栄華があったにせよ、没落したことは間違いない。だが、それをよりによって犀星の目の前ではっきりと言い切れる神経が知れなかった。
「お言葉ですが、姫様」
玲陽は、趙姫に負けじと心を落ち着かせて笑顔を作った。
「今のご発言は、殿下に対して非礼と思われませんか?」
「どうして?」
「殿下は、先代の犀家御当主、犀遠様のお子であり、犀家の当主であられます」
「それは存じていますわ」
知ってて言ったのかよ! と、東雨は叫び出しそうな気持ちを、緑権の着物の裾に噛み付いて抑えている。
「ですが、間違っていらっしゃいますよ。歌仙様は犀遠とは血のつながりもない、他人ですの。あなた、ご存知なかったのね」
と、趙姫は明るく笑う。
悶絶しかけて、着物を噛みちぎりそうな勢いの東雨を、緑権が嘆かわしい、と見下ろした。
「血のつながりより、お二人がお心の通いあった親子であることを、あなたはご存知ないようですね」
玲陽は、かすかに震えていた犀星の手を強く握って落ち着かせながら、
「世の中には、血縁よりも強いつながりがあるのです」
悪意の無い趙姫は、不思議そうに首を傾げた。
「そのようなものはないわ。おかしなことをおっしゃるのね。あなた、狂っていらっしゃるの?」
慈圓と緑権の足元に座り込んでいた東雨が、思わず転げ回る。緑権は破れる前に、と、着物を取り返した。
「あいつ、俺の陽様に、なんてことを!」
怒りと苛立ちで、東雨の目の色が変わっている。慈圓は、座っていた椅子の脚で、東雨の着物を踏みつけ、飛び出していけないように引き留めた。
「落ち着け、東雨。光理どのはお前のではなくて、伯華様の、だろう?」
「言葉のあやです! 仲草様は平気なんですか! あんな馬鹿に馬鹿なことを言われて、俺、もう、耐えられません!」
「馬鹿が馬鹿なことを言っているだけだ。それにいちいち目くじらを立てるほど、光理様も子供ではない。黙って見ていろ」
「こんな酷い拷問はないです!」
大声を上げそうな東雨の口に、緑権は手拭いを押し込んだ。
「それでも噛んで、大人しくしていなさい」
「ぐぅ……」
東雨は興奮した犬のように、乱暴に手拭いを噛み締めた。
一方、玲陽は怒るわけでもなく(むしろ、怒りで震える犀星の心配をしながら)、にっこりと笑った。
「はい。気が振れているんです、私」
「え?」
と、驚いたのは、趙姫ではなく、他の面子である。
「私、狂っているんです。ですから、それを不憫に思って、歌仙殿下がお側に置いて下さっているんです」
「おい……」
思わぬ玲陽の切り返しに、犀星が怒りを忘れてその横顔を見る。
「やっぱり……おかわいそうに」
趙姫が、本当に憐れみを込めて玲陽を見つめた。
「お力になりますわ。わたくしにできることはあるかしら?」
「お優しい方ですね」
玲陽は微笑んでいたが、その胸中は誰にもわからなかった。
「それでは、一つ、お願いがございます」
「何でもおっしゃって! わたくし、何でもできましてよ」
玲陽は握っていた犀星の手を、自分の口元に持っていくと、趙姫を見つめながら、その指をぺろりと舐めた。
「!」
ぞわり、と快感に総毛立つのは、犀星の方だ。だが、玲陽は気にもしない。
「趙姫様。私はこの方と添い遂げる約束をしております。宮中では、婚姻を結ぶ、と言うそうです」
「まぁ、おかしい」
趙姫は目を細めて、声を立てて笑った。
「気が振れていらっしゃるんですもの、仕方がないですわね。それで、私に願いとは、なんですの?」
「はい。歌仙様と私の祝言を取り仕切って下さるよう、趙姫様からお父上にお願いしていただけませんか?」
「!」
趙姫に対するものとは全く異質の恐ろしさを、犀星以下、皆が玲陽に抱いた瞬間だった。
「おやすい御用ですわ」
趙姫が、一際、にっこりとする。
「父上は、私の頼みなら何でも聞いて下さいます。素敵な祝言にいたしましょう」
「ありがたく存じます」
玲陽が、鏡のように趙姫の笑顔を映して微笑んだ。
これは、玲陽の仕掛けたハッタリである。
いくら愛娘の頼みとはいえ、左相がそのような狂気の沙汰を引き受けるはずもない。趙姫が約束を守らなければ、犀星を裏切ったことになる。
万が一、二人が無事に祝言を挙げるなら、それに越したことはなく、正妻は玲陽ということになり、趙姫は妾の末席、という屈辱に甘んじる。
恐ろしいことを……
東雨達三人は、身を縮めた。
だが、一番効果があって欲しい趙姫は、全く気にした様子もない。
「けれど、残念ね。あなたは男性でしょう? 歌仙様のお子を授からなくてよ」
「それは、姫様も同じでございますよ」
玲陽がさらっと言って退ける。
「あら、私なら、歌仙様のお子をたくさん授かりますわ」
「それは無理です」
「どうしてかしら?」
「歌仙様は、姫様に、決してお情けをかけませんから」
玲陽はさらに、犀星の手に接吻を繰り返して、
「お手つきにならなければ、お子は授かりません。ご存知でしたか?」
来た! と、慈圓たち三人がほくそ笑む。
彼らは、これを待っていた。玲陽はおとなしそうに見えて、ぎりぎりの駆け引きではかなりの毒舌を見せる。
最も、猛毒を持つ趙姫には、玲陽の毒など効きもしないだろうが、少なくとも、ずっと煮湯を飲まされてきた五亨庵の者たちには、胸がすく思いがする。
「まぁ、本当におかしなことばかりおっしゃるのね。あなた、楽しいわ」
嘘か本当かわからない趙姫の反応を、玲陽は穏やかに受け止めた。
玲陽には、趙姫よりも、その周囲の傀儡の動きの方が重要だった。
傀儡の塊に浮き出た趙姫の顔は、本人のものと同様、ずっと笑みを浮かべている。玲陽は、傀儡をけしかけた。
玲陽の狙いはただ一つ、敢えて傀儡に時間を与え、自分の力まで注いで、趙姫に取り憑かせること。
当然、その後、喰らって助けるつもりなど毛頭ない。
自業自得。
玲陽の心には、犀星を侮辱し、苦しめ続けた趙姫に対する同情など、微塵もないのだ。
「それでは姫様、お早く、お父上にお会いになって下さい」
「これから?」
「ええ。急ぎませんと、左相様は位を追われ、権力も財力も失ってしまいます。この国の歴史では、六年もの間、宰相の地位に居続けた者は、お父上だけ。そろそろ、周囲との癒着や強大な影響力を疎まれて、帝からお達しが来る頃ですよ」
「まぁ、本当に面白い」
冗談だとでも思っているのか、趙姫は顔色一つ変えない。
微笑みを絶やさない趙姫の唇へと、細い紐のように解けた傀儡が、流れ込んでいくのが見えた。
「では、楽しみにしております」
そう言って、玲陽はフッと表情を変えた。
口元は微笑してはいるが、どこか冷たいものを感じさせる眼差しだ。
終わりだ。
これで、何もかも終わらせる。
「あ……」
異変を感じたのか、趙姫が初めて、真顔になった。
傀儡の意思が趙姫の心を支配しようとしている、と、玲陽が思った時……
「あなた、お名前は?」
「え?」
玲陽の驚きは、趙姫が繰り返した二回目の質問のためではない。
「そんな、まさか……」
趙姫に入り込んだ傀儡が、彼女の中で彼女自身と同化し、気配を消したのだ。
犀星にも、何かが聞こえたらしく、玲陽の肩を抱き寄せる。
「まぁ、誰でもいいですわ」
再び、趙姫に笑顔が戻る。
彼女はそのまま、何事もなかったかのように立ち上がると、入り口へと進んだ。
東雨が慌てて、扉を開ける。
五亨庵を後にする趙姫が、ふと、立ち止まって首を傾げた。
その後ろ姿を見つめていた一同の耳に、信じられない彼女の独り言が聞こえた。
「私、何をしていたんでしたっけ…… 忘れましたわ」
東雨はおびえて、黙って扉を閉めた。
「今の……」
恐る恐る振り返って、東雨は皆の顔を見た。
誰もが、幽霊か物の怪を見たような、青ざめた顔をしている。
傀儡を見慣れているはずの玲陽までが、犀星の腕にしがみついていた。
「あの人……」
玲陽が、震える唇で言った。
「傀儡そのものなのかもしれません」
緑権が悲鳴をあげて頭を抱えた。
慈圓は頬を引き攣らせ、東雨も声が出せない。
「……聞こえたんだ」
犀星が、どこか、上の空で、
「最後に、声が」
玲陽が、ゆっくりと犀星の血の気の引いた顔を見た。
「『また来ます、ごきげんよう』って……」
緑権の二度目の悲鳴が響き渡る。
「陽様! あいつ、喰らい尽くして下さい!」
半狂乱になって、東雨が叫ぶ。
「冗談じゃないです! あんなの、私の手には負えません!」
「陽、俺からも頼む! 彼女はすでに、人間じゃない!」
「嫌です! そうだ、寿魔刀! あれで斬っちゃって下さい!」
「あんな気味の悪いもの、斬れるか! 呪われたらどうする!」
「私だって嫌です! お腹壊すだけじゃ済まないですよ!」
慈圓は、ふと目に入った趙姫の手紙を手の取ると、興味本位で開いてみた。
どの封の中身も、全て、白紙であった。
五亨庵の混乱は午後の間、収まらなかったという。
だが、趙姫が五亨庵を襲撃することは、幸いにもこれが最後だった。
玲陽が予見した通り、長く権力の座に居座り続けた左相は、この数日後に謎の死を遂げ、趙姫も母方の親類を頼って都を落ちていった。
のちに、天下を動かす五人を恐怖のどん底に陥れた趙姫は、母と共に移り住んだ辺境で、伝説として語り継がれる存在となるのだが、それはまた、別の物語である。
または、先帝が崩御し、時期皇帝の位を争って朝廷内が殺気だっていた頃にも、近かった。
空気が常に張り詰めて、呼吸をするにも、声を出すにも、心理的な圧迫感がともなわれた。
五亨庵への趙姫の訪問とは、そういう類のものだ。
「ご無沙汰いたしております」
入り口で、左相の娘、趙姫は、完璧な挨拶を見せた。
東雨が引き攣った笑顔で案内する。
「あ、あの、お供の方たちはご一緒じゃなくて良いのですか?」
東雨は、外で待たされている趙姫の従者たちを気にした。
「わたくしは一人で結構ですわ」
「はぁ」
俺たちは、あなた一人でも十分迷惑ですけれど……
むしろ、趙姫を外に置いて、従者たちをもてなした方が、どれだけ気楽か知れない。
「あ、わ、私は、ちょっと書庫へ……」
逃げ出そうとした緑権の襟首を捕まえて、慈圓が無理やり、自分の横に座らせる。
犀星を置いて逃げようなどと、この老獪が許すはずもない。
東雨は趙姫を長椅子に案内すると、自分はさっさと茶を淹れるために隅の水場へ退散する。あとは、犀星が相手をするだろう。
慈圓と緑権は、離れた席から、並んで大人しく様子を見るに徹している。関わらないに越したことはない。
犀星は仕方なく、趙姫の前の長椅子に座った。何も知らない玲陽が、大人しくその横に立つ。
趙姫の父は、六年前に左相の位についてから、大変な権力を握っていた。
その娘である趙姫は、一人娘であることもあってか、周囲に散々かしづかれて育てられ、苦労も知らなければ遠慮も知らない、我儘放題で有名だった。
もっとも、趙姫のような手に余る娘は宮中では珍しくないが、厄介なことに、五年前から、彼女は犀星を気に入ってぞっこんなのだ。
すでに二十歳を過ぎたというのに、いまだに婚姻を結ばないのも、そのためだ。
左相の娘と第四親王の組み合わせは、宮中では絶好と言えた。しかし、当の犀星には、そんなつもりは露ほどもない。興味がないどころか、むしろ、嫌悪感さえ抱いている有様だった。
冷たく放っておけば、そのうち諦めるだろう、と考えていたが、一方的な趙姫の想いは年を重ねるごとに強くなり、最近では犀星も遠慮なく彼女の訪問を断り続けていた。当初、趙姫と犀星の婚姻に積極的だった緑権までが、ここ数年、その態度に閉口してしまい、仕方なく、彼女が襲ってきた場合は、犀星が『責任をとって』、追い返している。
「先日お送りした、文のお返事を伺いにまいりましたの」
趙姫は、何度断られても諦めなかった。直接会えないならば、と、手紙を頻繁に送って寄越していた。
「お返事をお待ちしておりましたが、文を書く暇もなくお忙しいご様子でしたので、こうして直接お訪ねいたしました」
忙しいのがわかっているなら来るなよ、と、東雨は茶の支度をしながら仏頂面で思った。
犀星は席に着く前、机の引き出しから持ち出していた、何通かの手紙を、趙姫に差し出した。
「これのことでしょうか?」
「ええ」
趙姫は照れたように、口元を袖で覆った。
「わたくし、心を込めて書きましたのよ。お恥ずかしいですが」
性格には相当な難があるが、彼女の美しさは群を抜いており、全ての仕草が人々を魅了する。この、五亨庵の面々を除いて、であるが。
玲陽だけは、初めて間近に見る『姫』という存在に、興味津々で観察している。
呑気なものだ、と、慈圓と緑権は苦笑しながら視線を交わす。
「これは、お返しいたします」
犀星が、趙姫との間にある卓の上に、手紙を乗せ、彼女の目の前に押しやった。
「中は見ていませんので、ご安心ください」
「え?」
驚いて、玲陽が犀星の横顔を見る。読まずに返す、など、そんな失礼があるものだろうか。少なくとも、犀星がこの姫を良く思っていないことは、玲陽にもその一事で伝わった。
「歌仙様は、本当につれないお方ですわ」
趙姫は全く堪えた風もなく、首を振る。
玲陽は、犀星から趙姫の話どころか、名前も聞いたことがない。
ほとんど全てとも思えることを自分に話してくれる犀星だが、その彼が黙っていた、ということは、よほど関心がないか、または、話したくない理由があるか、だ。どちらにせよ、趙姫が犀星の『特別な存在』であることは確かなようだ。
「わたくしが、この年までひとりでいますのは、あなた様をお慕い申し上げているからと、ご存知のはずですのに……」
犀星の顔に、見たことがない複雑な感情が浮かぶ。
玲陽は、じっとその表情を見つめ、それから、手紙、そして、趙姫へと視線を移す。
「!」
思わず、声が出そうになって、玲陽は口を抑えた。
趙姫の周りに、何やら蠢くものがある。しっかりとした形を作ってはいない、傀儡の破片のようだ。
傀儡の破片らしきものは、趙姫の体から生えている。人の近くにいたり、体にしがみついているものは今更珍しくもないが、人体から手足らしき突起がいくつも生えている様子は、玲陽も初めてだった。これはいくら慣れていようとも、まさに奇怪この上ない。玲陽はたまらず、目を逸らした。
随分、恨みを買っているみたいだな、と、玲陽は長く息を吐いた。もしかすると、犀星には何か声が聞こえているのかもしれない。
「あなたのお気持ちは知っていますが、私にはあなたを娶るつもりはありません」
これ以上ないほど、明瞭で端的な犀星の拒絶にも、趙姫は顔色ひとつ変えない。
反して玲陽は、見慣れない態度を取る犀星に、動揺している。確かに犀星は人付き合いを好む方ではないが、だからと言って、ここまで邪険な返答をする性分でもない。
これは余程のことだな、と、玲陽は次第と不安になってくる。
東雨が盆に茶器を乗せて、三人に近づいた。呼び止められないよう、素早く湯呑みと茶壺を置くと、玲陽に目配せする。後は頼む、自分は逃げる、という合図だ。
陽様、ごめんなさい!
助けを求めるように自分に向けられた玲陽の顔に後ろめたさを感じながら、それでも東雨は勇気を出して足早に離れた。仕方なく、玲陽は東雨の代わりに茶をいれ、音を立てないように恐々と趙姫の前に置いた。
犀星も東雨も、普段の勢いがない。そっと慈圓たちを振り返ると、彼らも苦笑いしながら、小さく頷いた。
玲陽は、覚悟するしかないことを悟った。
詳しい理由はわからないが、この趙姫は、随分と歓迎されない存在のようだ。
しかし、どんなに好ましくなくても、(傀儡の苗床のように見えようとも)相手は栄華を誇る左相の娘である。下手に敵意を買っても面倒だ。
どうしたものか、と、玲陽は視線を泳がせながら考え込んだ。
趙姫は犀星の顔を真っ直ぐに見ている。
本来であれば、親王である犀星の顔を見るのは失礼にあたる。だが、女性は例外だ。相手が皇帝であろうとも、好意のある相手であれば、顔を上げることも許される。それは、身を差し出しますよ、と言う暗黙の意思表示だ。一見、女性を丁重に扱っているようでもあるが、実は男性側が女性の顔をよく見られるように、との理由からである。その上で、気に入るかどうかを判断するのだ。
こんなに綺麗なのにな、と、玲陽は素直に思った。
玲陽の周りにいた女性といえば、母と妹、実家の使用人くらいなものである。玲凛も美しいと玲陽は思うが、それは兄の贔屓目もあるのかもしれない。
だが、趙姫の美しさは、贔屓なしに、本物である。
これほどの女性に言い寄られて、犀星が今まで断り続けていたという事実に、玲陽は奇妙な感情が湧いてくるのを感じた。それは、一言では言い表せない、様々な想いが織り混ざったものだ。
「歌仙様」
趙姫は冷ややかな犀星の態度に、一切動じることもなく、
「本当に真っ直ぐで、純粋でいらっしゃるのですね」
犀星が、肩を落とすのがわかった。玲陽は心の中で首を傾げた。
どうにも、会話が噛み合っていない気がする。
趙姫は堂々としており、その言葉に澱みはないが、犀星との間に意志の疎通が感じられない。まるで、一人で勝手に喋っているようでもある。
「わたくしは、あなた様のそのようにひたむきな所が好きですわ」
「お帰りいただけませんか? 仕事があります」
容赦なく、犀星が追い出しにかかる。
「そうそう!」
何かを思いついたのか、趙姫は胸の前で手を打って、にっこりと微笑んだ。
その笑顔に、玲陽は見とれた。傀儡はどうあれ、綺麗なものは綺麗だ。
「お仕事ですわね」
「ええ、ですから、お帰りを……」
「お手伝いいたしますわ!」
犀星がひるむ。勘弁してくれ、と小さくつぶやくのが、隣に立つ玲陽にだけは聞こえた。
「わたくし、この前、古事全書を手に入れましたの。難しくて、まだ全然読めていませんけれど…… これで、歌仙様のお仕事も理解できるようになりますわ」
「読み終わってから言えよ……」
緑権と慈圓の陰に隠れていた東雨が、思わず呟いた。
「ねぇ、歌仙様。わたくし、立派な奥方になれると思いませんこと?」
「思いません」
犀星の一言に、ヒヤリとして玲陽が硬直する。そんな言い方をして、趙姫が怒り出したら、と、姫の様子を伺う。だが、玲陽の心配は無駄だったようだ。
「あら、やってみなければわかりませんわ」
そう言って、コロコロと可愛らしく笑う趙姫に、玲陽は愕然とした。
「なんなのですか、この人……」
思わず、声に出しそうになる驚きを、慌てて飲み込む。
「とにかく、私はこれから仕事をしなければなりません。あなたの手伝いもお断りします」
犀星は無表情で突き放した。
「そんなことおっしゃって…… 大丈夫です。わたくし、ちゃんとお手伝いできますから」
「必要ありません。私の仕事は、ここの者たちが助けてくれます。人手は足りています。お引き取りください」
「本当に、可愛い方ですわね、歌仙様は……」
上機嫌でにっこりする趙姫に、玲陽は、彼女の恐ろしさを見た思いがした。
通じない。
何を言っても、届かない。
こちらの気持ちも、ここまではっきりとした犀星の拒絶も、趙姫には全く聞こえていない。
これが、五亨庵に趙姫恐怖症を植え付けた原因だ。
「忙しいのです。邪魔ですからお帰りください」
「お構いなく……ここで待っていますわ」
「ここにいられるだけで、気が散って迷惑です。お帰りください」
「わたくしは、十分楽しいわ」
「ああ! イライラしてきた!」
東雨が二人の先輩の後ろで座り込んで、両耳を押さえる。
「ぶん殴って追い出そうか……」
「東雨、やめて下さい。私たちまで首が飛びます」
「まぁ、気持ちはわかるがな」
緑権と慈圓も、苦笑を通り越して、疲れたように頬杖をついた。
犀星が、どんなにきっぱり断っても、趙姫にはわからないらしい。
こうなると持久戦で、相手が話したいことを全部話してしまうまで、放っておくより他になかった。
力づくで追い出しては、それこそ、後から何をされるかわかったものではない。
根比べなのだ。
五亨庵の面々が、趙姫を苦手とするのには、こんな理由があったのである。
犀星は辛抱強く相手をして、繰り返し帰るように言い続けるが、大抵は日暮れまでこのままだ。
今年の冬は厳しかったため、南方の別荘に行っていたらしいが、帰ってくるなり、これである。また悩まされる日々が続くのかと思うと、皆、憂鬱だった。
「ねぇ、歌仙様。わたくし、花の刺繍ができるようになりましたの。歌仙様は、どのお花がお好きですか? 今度、縫い取りをして差し上げてよ」
「興味がありません。お帰りください」
「お花はお嫌い? では、小鳥になさいますか? そうですわね、次は、小鳥がいいわ。わたくし、覚えが早い、って皆に言われますの。すぐにできるようになりますわ」
「私には不要です。お帰りください」
「そうそう、この前の秋に、渡り鳥の群れを見たんですの。ご存知かしら? 鴨は楔形に群れを作って飛ぶんですのよ」
(「それ、鴨じゃなくて雁だろ……」と、東雨が口を挟んでいたことを、犀星は知らない。)
「お帰りください」
「不思議ですわね。地図も無いのにちゃんと季節がわかって、飛ぶ方向もわかるなんて」
(「お前は、帰り道もわからないのにな」と、東雨。)
「お帰りください」
「あら、いけない。わたくし、大事なことを忘れていましたわ」
(「そうだよ、帰れよ!」)
「わたくし、来月、お誕生日ですの。前後の十日間、夜通しお祝いの酒宴を開きますので、是非いらして下さいね!」
「お帰りくだ……」
と、言いかけて、心理的要因からか、犀星は咳き込んだ。
二人のやり取りを、呆気に取られて見ていた玲陽は、犀星の背中をそっとさすった。
「陽……」
その勢いで、犀星は玲陽の胸に身を倒す。
「あ……」
反射的に抱き止めたものの、玲陽の視界のすみで、ぞわり、と何かが動くのがわかる。警戒しながら、玲陽はそっと顔を上げた。
美人画から抜け出したような趙姫の笑み。その後ろで、断片的だった傀儡たちが、一つの塊を作り始めていた。玲陽は悪寒を感じて、体を硬くした。
どうにも、傀儡の動きがおかしい。
趙姫を恨んでいるのか、と思ったが、出来上がっていく塊は人の姿ではなく、ただの小山のようだ。
しかも、次々と趙姫の身体から傀儡が這い出してくるではないか!
化け物……
思わず、そんな言葉が玲陽の頭に浮かんだ。
玲陽が、よりしっかりと傀儡を見ようとした時、その黒い塊の表面に、趙姫と瓜二つの顔が浮かび上がった。
「歌仙様」
趙姫の声色に変化はなかったが、それが余計に玲陽を怯えさせた。
今の声は、どちらのものだ?
趙姫が話すと、塊に浮かんだ顔の口も、同じように動いた。
「その方、どなたですの?」
(「今更か!」という東雨の心の叫びはさておいて、)犀星は呼吸を整えながら、玲陽の耳元に顔を近づけた。息だけで囁く。
「頼む。責任は俺が取る」
玲陽はその言葉に、一瞬、迷った。頼む、とは、どっちだ? 傀儡か、それとも趙姫か……
犀星には、傀儡の姿は見えていないはずだから、趙姫の相手を頼む、ということだろう。
玲陽は深く息をついて、犀星を見つめた。
犀星が音を上げるなど、滅多にあることではない。だが、彼に助けを求められて、玲陽がそれを断ることはない。たとえ、相手が誰であろうとも、だ。
「わかりました」
玲陽は、犀星に微笑んで見せた。犀星のこわばっていた表情が、一瞬で氷解する。安心して玲陽にすがるその目に、覚悟が決まる。
やっぱり、この人は美しい。贔屓目だろうとなんだろうと、この世で一番美しいのは、この人だ。
趙姫だろうと、奇怪な傀儡だろうと、犀星がどうにかしてくれ、と言うのだから、自分はただ、その望みを叶えるだけだ。
玲陽は、犀星に見惚れ、隣に座ると、その手をしっかりと握って自分の膝の上に置き、真正面から趙姫と向き合った。
全面対決の構えである。
「お……」
慈圓たちが、待っていました、とばかりに身を乗り出す。
「陽様、頑張って下さい!」
東雨が小さく応援して、期待を込める。
趙姫は、一筋縄ではいかない。この五年間、あの手この手でしのいできたが、犀星ももう限界である。ここは、新戦力の玲陽に頼むしかない。あの宝順にさえ啖呵を切った玲陽である。趙姫など、敵ではない、と願いたい。
いつもは平和な五亨庵に、戦場の緊張感が走った。全員の耳の奥で、開戦を告げる銅鑼と法螺貝が鳴り響いた。
「あなた、どなた?」
趙姫は悪意の無い笑顔を見せている。だが、玲陽には、彼女を取り巻く、不穏な傀儡の動きがはっきりと見えていた。玲陽は、あえて、彼女と同じように、柔らかく微笑んだ。
「私は犀光理と申します」
玲陽の身分で、趙姫に直接口をきくことは許されないのだが、そこは気にしていても仕方がない。犀星に託された以上、悠長なことは言っていられない。第一、この常識の通じない相手に配慮する必要がないことは、短時間のうちに玲陽にもよくわかっていた。
「どちらのお生まれですの?」
趙姫の問に、一同が呆気に取られる。
『犀』の姓から、犀星と同じ家の出であることくらい、想像できないのだろうか。
「私は、血縁では歌仙親王殿下の従兄弟にあたり、関係性は義弟です」
玲陽が冷や汗をかきながら、一言一言、言い含めるように口にする。
「あら、歌仙様の?」
「はい」
通じた、と玲陽が思ったのも束の間、
「なぜ、そのような落ちぶれた家の方が、五亨庵にいらっしゃるの?」
言葉がなくなる、とは、このことだ。
この姫には、考える力がないのか?
確かに、犀家は数十年前に犀遠の栄華があったにせよ、没落したことは間違いない。だが、それをよりによって犀星の目の前ではっきりと言い切れる神経が知れなかった。
「お言葉ですが、姫様」
玲陽は、趙姫に負けじと心を落ち着かせて笑顔を作った。
「今のご発言は、殿下に対して非礼と思われませんか?」
「どうして?」
「殿下は、先代の犀家御当主、犀遠様のお子であり、犀家の当主であられます」
「それは存じていますわ」
知ってて言ったのかよ! と、東雨は叫び出しそうな気持ちを、緑権の着物の裾に噛み付いて抑えている。
「ですが、間違っていらっしゃいますよ。歌仙様は犀遠とは血のつながりもない、他人ですの。あなた、ご存知なかったのね」
と、趙姫は明るく笑う。
悶絶しかけて、着物を噛みちぎりそうな勢いの東雨を、緑権が嘆かわしい、と見下ろした。
「血のつながりより、お二人がお心の通いあった親子であることを、あなたはご存知ないようですね」
玲陽は、かすかに震えていた犀星の手を強く握って落ち着かせながら、
「世の中には、血縁よりも強いつながりがあるのです」
悪意の無い趙姫は、不思議そうに首を傾げた。
「そのようなものはないわ。おかしなことをおっしゃるのね。あなた、狂っていらっしゃるの?」
慈圓と緑権の足元に座り込んでいた東雨が、思わず転げ回る。緑権は破れる前に、と、着物を取り返した。
「あいつ、俺の陽様に、なんてことを!」
怒りと苛立ちで、東雨の目の色が変わっている。慈圓は、座っていた椅子の脚で、東雨の着物を踏みつけ、飛び出していけないように引き留めた。
「落ち着け、東雨。光理どのはお前のではなくて、伯華様の、だろう?」
「言葉のあやです! 仲草様は平気なんですか! あんな馬鹿に馬鹿なことを言われて、俺、もう、耐えられません!」
「馬鹿が馬鹿なことを言っているだけだ。それにいちいち目くじらを立てるほど、光理様も子供ではない。黙って見ていろ」
「こんな酷い拷問はないです!」
大声を上げそうな東雨の口に、緑権は手拭いを押し込んだ。
「それでも噛んで、大人しくしていなさい」
「ぐぅ……」
東雨は興奮した犬のように、乱暴に手拭いを噛み締めた。
一方、玲陽は怒るわけでもなく(むしろ、怒りで震える犀星の心配をしながら)、にっこりと笑った。
「はい。気が振れているんです、私」
「え?」
と、驚いたのは、趙姫ではなく、他の面子である。
「私、狂っているんです。ですから、それを不憫に思って、歌仙殿下がお側に置いて下さっているんです」
「おい……」
思わぬ玲陽の切り返しに、犀星が怒りを忘れてその横顔を見る。
「やっぱり……おかわいそうに」
趙姫が、本当に憐れみを込めて玲陽を見つめた。
「お力になりますわ。わたくしにできることはあるかしら?」
「お優しい方ですね」
玲陽は微笑んでいたが、その胸中は誰にもわからなかった。
「それでは、一つ、お願いがございます」
「何でもおっしゃって! わたくし、何でもできましてよ」
玲陽は握っていた犀星の手を、自分の口元に持っていくと、趙姫を見つめながら、その指をぺろりと舐めた。
「!」
ぞわり、と快感に総毛立つのは、犀星の方だ。だが、玲陽は気にもしない。
「趙姫様。私はこの方と添い遂げる約束をしております。宮中では、婚姻を結ぶ、と言うそうです」
「まぁ、おかしい」
趙姫は目を細めて、声を立てて笑った。
「気が振れていらっしゃるんですもの、仕方がないですわね。それで、私に願いとは、なんですの?」
「はい。歌仙様と私の祝言を取り仕切って下さるよう、趙姫様からお父上にお願いしていただけませんか?」
「!」
趙姫に対するものとは全く異質の恐ろしさを、犀星以下、皆が玲陽に抱いた瞬間だった。
「おやすい御用ですわ」
趙姫が、一際、にっこりとする。
「父上は、私の頼みなら何でも聞いて下さいます。素敵な祝言にいたしましょう」
「ありがたく存じます」
玲陽が、鏡のように趙姫の笑顔を映して微笑んだ。
これは、玲陽の仕掛けたハッタリである。
いくら愛娘の頼みとはいえ、左相がそのような狂気の沙汰を引き受けるはずもない。趙姫が約束を守らなければ、犀星を裏切ったことになる。
万が一、二人が無事に祝言を挙げるなら、それに越したことはなく、正妻は玲陽ということになり、趙姫は妾の末席、という屈辱に甘んじる。
恐ろしいことを……
東雨達三人は、身を縮めた。
だが、一番効果があって欲しい趙姫は、全く気にした様子もない。
「けれど、残念ね。あなたは男性でしょう? 歌仙様のお子を授からなくてよ」
「それは、姫様も同じでございますよ」
玲陽がさらっと言って退ける。
「あら、私なら、歌仙様のお子をたくさん授かりますわ」
「それは無理です」
「どうしてかしら?」
「歌仙様は、姫様に、決してお情けをかけませんから」
玲陽はさらに、犀星の手に接吻を繰り返して、
「お手つきにならなければ、お子は授かりません。ご存知でしたか?」
来た! と、慈圓たち三人がほくそ笑む。
彼らは、これを待っていた。玲陽はおとなしそうに見えて、ぎりぎりの駆け引きではかなりの毒舌を見せる。
最も、猛毒を持つ趙姫には、玲陽の毒など効きもしないだろうが、少なくとも、ずっと煮湯を飲まされてきた五亨庵の者たちには、胸がすく思いがする。
「まぁ、本当におかしなことばかりおっしゃるのね。あなた、楽しいわ」
嘘か本当かわからない趙姫の反応を、玲陽は穏やかに受け止めた。
玲陽には、趙姫よりも、その周囲の傀儡の動きの方が重要だった。
傀儡の塊に浮き出た趙姫の顔は、本人のものと同様、ずっと笑みを浮かべている。玲陽は、傀儡をけしかけた。
玲陽の狙いはただ一つ、敢えて傀儡に時間を与え、自分の力まで注いで、趙姫に取り憑かせること。
当然、その後、喰らって助けるつもりなど毛頭ない。
自業自得。
玲陽の心には、犀星を侮辱し、苦しめ続けた趙姫に対する同情など、微塵もないのだ。
「それでは姫様、お早く、お父上にお会いになって下さい」
「これから?」
「ええ。急ぎませんと、左相様は位を追われ、権力も財力も失ってしまいます。この国の歴史では、六年もの間、宰相の地位に居続けた者は、お父上だけ。そろそろ、周囲との癒着や強大な影響力を疎まれて、帝からお達しが来る頃ですよ」
「まぁ、本当に面白い」
冗談だとでも思っているのか、趙姫は顔色一つ変えない。
微笑みを絶やさない趙姫の唇へと、細い紐のように解けた傀儡が、流れ込んでいくのが見えた。
「では、楽しみにしております」
そう言って、玲陽はフッと表情を変えた。
口元は微笑してはいるが、どこか冷たいものを感じさせる眼差しだ。
終わりだ。
これで、何もかも終わらせる。
「あ……」
異変を感じたのか、趙姫が初めて、真顔になった。
傀儡の意思が趙姫の心を支配しようとしている、と、玲陽が思った時……
「あなた、お名前は?」
「え?」
玲陽の驚きは、趙姫が繰り返した二回目の質問のためではない。
「そんな、まさか……」
趙姫に入り込んだ傀儡が、彼女の中で彼女自身と同化し、気配を消したのだ。
犀星にも、何かが聞こえたらしく、玲陽の肩を抱き寄せる。
「まぁ、誰でもいいですわ」
再び、趙姫に笑顔が戻る。
彼女はそのまま、何事もなかったかのように立ち上がると、入り口へと進んだ。
東雨が慌てて、扉を開ける。
五亨庵を後にする趙姫が、ふと、立ち止まって首を傾げた。
その後ろ姿を見つめていた一同の耳に、信じられない彼女の独り言が聞こえた。
「私、何をしていたんでしたっけ…… 忘れましたわ」
東雨はおびえて、黙って扉を閉めた。
「今の……」
恐る恐る振り返って、東雨は皆の顔を見た。
誰もが、幽霊か物の怪を見たような、青ざめた顔をしている。
傀儡を見慣れているはずの玲陽までが、犀星の腕にしがみついていた。
「あの人……」
玲陽が、震える唇で言った。
「傀儡そのものなのかもしれません」
緑権が悲鳴をあげて頭を抱えた。
慈圓は頬を引き攣らせ、東雨も声が出せない。
「……聞こえたんだ」
犀星が、どこか、上の空で、
「最後に、声が」
玲陽が、ゆっくりと犀星の血の気の引いた顔を見た。
「『また来ます、ごきげんよう』って……」
緑権の二度目の悲鳴が響き渡る。
「陽様! あいつ、喰らい尽くして下さい!」
半狂乱になって、東雨が叫ぶ。
「冗談じゃないです! あんなの、私の手には負えません!」
「陽、俺からも頼む! 彼女はすでに、人間じゃない!」
「嫌です! そうだ、寿魔刀! あれで斬っちゃって下さい!」
「あんな気味の悪いもの、斬れるか! 呪われたらどうする!」
「私だって嫌です! お腹壊すだけじゃ済まないですよ!」
慈圓は、ふと目に入った趙姫の手紙を手の取ると、興味本位で開いてみた。
どの封の中身も、全て、白紙であった。
五亨庵の混乱は午後の間、収まらなかったという。
だが、趙姫が五亨庵を襲撃することは、幸いにもこれが最後だった。
玲陽が予見した通り、長く権力の座に居座り続けた左相は、この数日後に謎の死を遂げ、趙姫も母方の親類を頼って都を落ちていった。
のちに、天下を動かす五人を恐怖のどん底に陥れた趙姫は、母と共に移り住んだ辺境で、伝説として語り継がれる存在となるのだが、それはまた、別の物語である。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる