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北の山へ行く前に

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「今日はうち(の領地の屋敷)に泊まらない?」

と、無駄に男前の顔で言い放ったクラウス君からの申し出を、私はがぶり寄りで受ける。オルは渋い顔をしていた。
だって……お屋敷だよ?
何気に私、エルトーデ王国で『貴族の屋敷』に入ったことないんだよね!クラウス君は王族だけど王位継承権を破棄してるから、今の身分は公爵だ。……確か。

「ねぇ、セバスチャンは?セバスチャンは?」

「そんなベタな名前の執事はいないよ。俺がいるときは代官のギュンターが執事役をやっちゃうし……」

「ギュンター?」

「この国では珍しい風の神の加護を受けている俺の側近だよ。風属性の力が強くて、情報を得る力は国一番だと思う」

「そういえば、あまり火とか風とかの神様って聞かないよね」

なんか美とか武とか、抽象的なのが多い気がする。自然の力の神様ってあまり聞かないな……あ、麻衣子ちゃんには土の神の加護あったね。
そういえば、オルのステータス見たことないな。今度見せてもらおう。
つらつら考えていたら、クラウスくんが神様について教えてくれた。

「自然を司るのは精霊の領分なんだよ。だから風とか自然を司るの神様は神というよりも精霊に近いから、精霊に愛されやすい人間に加護をつける。でも精霊に愛される人間は少ないから、火・水・土・風の四大要素の神の加護って珍しいんだよ」

「クラウスは色々加護もあるし全属性魔法使えるけど、自然の神の加護は持ってないよな。俺も持ってねぇけど」

「魔力が高すぎるのもダメなんだよな。王族は元々魔力が高いから……」

「へぇ、そういえば銀髪の勇者さんは魔力ないんだよね?」

「ああ、魔力がない人間は銀髪で、代わりに精霊魔法という強力な魔法が使える。あと精霊王の加護とか持ってたな。全ステータスアップする系の」

「反則じゃん!でもそれでこそ勇者!」

「……あの、そろそろお夕食の時間ですよ」

色々話してたら、結構時間経ってたみたい。マイコちゃんの言葉に私達は我にかえる。
お屋敷で夕食を用意してくれてるとのことで、私達はクラウス君の北の領地の屋敷へ、クラウス君の転移で向かうのだった。
クラウス君が大活躍してて、オルが少し拗ねてたのはここだけの話って事で。










「おかえりなさいませ、クラウス様、お連れの方々」

「ギュンター久しぶりだな!」

「オルフェウス殿は息災のようで……そちらの女性は?」

「ああ、俺の、よ、嫁の、エンリだ」

「初めましてギュンターさん、クラウス君とマイコちゃんとは同じ学校にいたんです。よろしくお願いします」

未だに私を紹介する時、照れるオルに内心悶えつつ、ギュンターさんにペコリとお辞儀をする。
ギュンターさんは真っ直ぐに伸ばした水色の髪をゆるく一つに結んでいて、片眼鏡《モノクル》をかけている、いかにも『執事』という感じの人だ。

うん。この世界は美形しかいないのかね?

密かに憤る私をギュンターさんは見て、笑顔になる。

「エンリ様は、オルフェウス殿の好みの要素全てを網羅した、稀有な存在の方とお見受けしました」

「そうだよギュンター。エンリさんを最初見た時の衝撃たるや、だよ。背が小さくて可愛くて巨にゅ……痛い!!」

ギュンターさんが何やらうむうむ頷いてる横で、余計なことを言ったクラウス君が、マイコちゃんから先の尖った何かでサクサク刺されている。
うん。なんか赤いの出てるけど見なかったことにしよう。

「まったく……これだからクラウス様はマイコ様から色よい返事を貰えないのですよ……」

ギュンターさんはため息を吐いて、オルと私を食堂に案内してくれる。
クラウス君とマイコちゃんは別室で『お話し』するらしいから、私達は先に夕食を頂く事にする。クラウス君……強く生きろよ……。

北の領地では酪農が盛んみたいで、チーズやバターをふんだんに使った料理で、私には少し重く感じたけどオルはいつも通り大量に食べていた。
そうですよね。いっぱい食べてるからこその美筋肉ですよね。分かります。後で触らせてください。

「で、ギュンターは風を使っても、竜族の動向がつかめないと?」

「ええ。風の知らせは何も……竜族は実の所クラウス様を主と崇めておりますから、反乱を起こすや、王都を攻め入るなどの情報が今一つピンと来ないのです」

「え?竜族ってクラウス君の味方なの?」

「おう、魔王が出てきた時に色々あって、クラウスの野郎が竜族の長から『我らの唯一の主!』とか言われてたんだぜ。ウケるだろ?」

いや、ウケとかじゃないでしょうに。
そういえば物語の中でクラウス君が、たくさんの竜を呼ぶって場面があったけど、あれって竜族の方達だったんだ。納得した。

それにしても竜族って強いだろうに、あんなヘッポコな灰色達にどうにか出来るものなんだろうか。
オルは「やはり直接見に行くしかないのか」と、私を心配そうに見る。
私は大丈夫だとオルに笑顔を向けると、オルがびっくりした顔をしてそっぽを向いてしまった。耳まで赤くなっているのが見える。ん?どうした?

「ぷっ……オルフェウス殿が、思春期の男子のような反応をするとは……くくっ……エンリ様は伝説の最強の騎士を負かす存在ですね……ぶっは!」

ギュンターさんが後ろを向いて、肩を震わせて何かに耐えている。一応もてなす側の彼にとって、今まさに笑ってはいけない何かが始まっているのだろう。

ま、ギュンター君はアウトだけどね。




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