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ビアン国の放蕩王子

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髪を持って顔を上げさせられる。
ふざけるな。ハゲたらどうするのよ。

「ふん、何?ドゲザ?何だそれは」

「うるさい、クズ」

「……っ!?」

瞬間、部屋の圧力みないなものが高まった感じがする。遮断された?
召喚した神様たちとオルとの繋がりは根っこで切れていないが、上手く繋がりの感覚を操作できなくなっている。
私の言葉が引き金となって発動したのは結界を作る魔法。空間魔法ではなく、結界に特化した魔法のようだ。
そして、その結界は魔力の無効化を行使した。

「アンタ、王族のくせに何やってんの」

「なぜ王族だと思う?」

「力のある魔法使いでもほとんど使えない結界なんぞやってるからでしょうが。この国の王族もエルトーデみたいに強い魔力を持って生まれるって聞いた」

「ふん、まぁそんなようなものだ。魔力を封じられているくせに気の強い女だな。これから可愛がられるというのに怖くないのか」

「アンタみたいな弱っちいのに怖いもんか。生娘じゃあるまいし」

顔を数発叩かれる。痛いなちくしょう。

「オルフェウス・ガードナーと共にいる女……その目がどう変わるのか楽しみだな。久しぶりの玩具はゆっくりと
……狂わせてやろう」

そう言って男は私の服を脱がしていく。前のボタンがひとつひとつ外されていくのを私は冷めた目で見ている。

「今までもこういう事をしたの?」

「あ?今まで?」

男は美しい顔をしかめて、服を脱がす手を止めて私に聞く。

「何を?」

「こうやって弱者を痛めつける事を」

「弱者を……?」

私から手を離した男に、周りで見ていた雇われたであろう者たちが動揺している。
魔力は使えない。ならば……

「ごめん、【渡りの神よ、顕現せしめよ】」

〈はいはーい。えんりは困ったさんだねぇ>

神子の力をもって、使えない魔力を神力で補う。ワタル君の声だけでも魔力で作られた結界は破壊された。
と同時に、オルと二神タケミカヅチとフツヌシが部屋に飛び込んできた。

「呼ぶのが遅い!」

「人の子無事か」
「人の子痛いか」

文句を言いながらも、オルはあっという間に荒くれ者数人の意識を狩っていく。狭い部屋のため武器は持っていない。体術も強いオルの美筋肉に私はメロメロだ。
呆然とオルを見ていた美青年は、ハッと気づいて私を見る。そしてみるみる顔を青ざめさせた。

「ち、違う、私はそんなつもりは……」

何だろうと思いながらも自分を見ると、頬には殴られた跡、服は乱され手足は縛られている。

うん。
こりゃヤバイわ。

「オル、落ち着いてね、あのね……」

「……」

慌てて二神が私の手足の縄を解き、スクナビコナを呼んで治療をしてもらう。
冷気というか殺気が収まらないオルに、なんとか全快アピールをしたが不発に終わった。
オル……かなり我慢してる……てゆか、もしかして私に怒ってる?

「いや、自分に怒っているだけだ。気にすんな」

え、また心を読まれた!?

「だから、分かりやすいんだよエンリは。この馬鹿も知り合いだし、迷惑かけて悪かった」

「何言ってるの。オルの知り合いなら私にとっても大事だよ。パートナーなんだから」

フンスと鼻息荒く言ってやると、オルは一瞬ポカンとした顔をして、次の瞬間見惚れるくらいの素敵な笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。
惚れる。これは惚れてしまう。手遅れだけど。

「んで、オルの知り合いって事は、この人は王族?」

「ああ、確か……この国の王の十五番目だったっけか?」

「そ、そうだ。この国の王子でエルヴィンという。正式に名乗らぬのを許してくれ。ここ数日の記憶があやふやなのだ」

まんま、アラビアンなゴテゴテ宝石の付いた衣装を着ていると思ったら、王子様かぁ。うわぁ。

「オルフェウス、その連れの方、迷惑をかけてすまない」

元に戻った美青年は、理知的な光を瞳に宿らせ、私達に丁寧にお辞儀をした。
オルは下げたエルヴィンの頭をスパンと叩く。

「城から出てフラフラしてっから、魔王教に目をつけられんだよ!」

「魔王教?」

「やっぱり……」

さっきの私への接し方がおかしかったのは、やっぱり精神操作だったみたいだ。私を殴った時、私の服に手をかけた時、一瞬だけ戸惑う感じだったから。

「とりあえず場所変えるか」

「そうだな。城に戻ったらまた出るのが大変だ。近くの食堂で良いか?」

オルと私は急に空腹を思い出し、一も二もなく頷いたのだった。


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