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覚悟が必要…な時もある

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怪しい集団というのは、どうやら盗賊のようだった。
オルは「俺だけでいい」と言ったけど、そうはいかない。だって私はオルと生きていくって決めたんだから。

「人を殺すなんて、エンリはしなくていいんだ」

全力で走るオルの横を、私はシナトベの力で風に乗ってついて行く。

「そんなこと言ってらんない。私だって覚悟しなきゃいけないんだ」

「エンリは俺が守る!」

「私だってオルを守る!」

平行線の会話をする私達。そこにタケミカヅチとフツヌシが現れる。
今回の旅で常に一緒にいるのがこの二神だ。オルとも仲が良いから色々助かっている。

「人の子等よ。我らに考えがある」
「人の子等よ。我らには雷がある」

「お願い!!」

二神は光ると剣を持った鎧武者の姿になり、そのまま飛んでいく。

「おい、大丈夫なのか?」

「たぶん……」

盗賊のは十人程度だ。それなら二神が負けることはない。
私達が駆けつけると同時に、空が光りピカゴロドカーンと、ものすごい雷が落ちてきた。

「きゃっ」

「っと、大丈夫かエンリ」

オル様の逞しい腕に抱え込まれ、うっとりとなるのを懸命に抑える。ある意味盗賊よりもタチが悪い。
ふと前を見ると、盗賊と思われる輩が全員倒れている。

「感電?」

「感電?なんだそりゃ?」

「雷って当たるとビリビリするんだけど、それが筋肉の動きを硬直させたり刺激を与えたりするんだよ。ある程度の強さで体が痺れて動かなくなるの」

「へぇ。そういやクラウスが似たようなこと言ってたことがあるなぁ。あいつの属性魔法で今みたいなの作ってたな」

さすが転生チートなクラウス君だ。
ともあれ、感電している盗賊は全員縛って街道に転がしておく。オルが王都に連絡したから、運が良ければ兵士達に連行されるだろうとのこと。
まぁ、魔獣とか出るかもしれないしね……。


御者台に二人で揺られながらつらつらと話す。
景色は相変わらず草原だけど、少しずつ木が増えてきて風景が変わってきた。

「殺された方が楽だったと思うかもしれねぇけど、まぁ盗賊の末路なんざこんなもんだろ」

「そうなんだね……ねぇ、オル」

「ん?なんだ?」

「さっき言ったのは、私の本気だよ。そのためにレベル上げもした。人じゃないけど魔獣とか生き物を殺す事もした。だから覚悟している……つもりだよ」

「ああ、分かっている。それでも俺はエンリの事を守るし、エンリの手を血に染めたいと思わない」

「それは私も同じ。オルにそんな事させたくない。だから両思いだね!」

二パッと笑顔で言い切ってやった。オルには負けないぞ!
オルは顔を真っ赤にして「反則だ」と呟くと、なぜか馬車を止めて御者台から私を下ろし、馬車の中に押し込んだ。
外から馬車の入り口に手をかけて、私を覗き込むように身を屈める。いつの間に上着のボタンを外したのか、セクシーな胸筋が見えておりますよ?

「え?なに?」

「エンリ、馬車の結界には消音がついてるな?」

「う、うん」

「見張りはしてるよな?」

「うん。シナトベとコウシンにお願いしてるよ」

「ならば良し」

オルは壮絶に色気のある笑みを浮かべると、そのまま馬車に押し入ってきたのでした。







「のう、タケ」

「なんだ、フツ」

「人の子エンリの側におる武人は、人でいうと最盛期ではないそうな」

「なんと…我らはあの武人に勝てた事は無いぞ」

「うむ。何とか負けぬようにするのが精一杯だ」

「最盛期では一体どのような力を持っていたのやら…」

「しかも、人というのは最盛期でも毎日は盛れないそうだ。一定期間なら毎日でも可能のようだが」

「馬鹿な!?あの武人は毎日…いや、常時盛っておるではないか!」

「だからだ。我らが勝てぬ理由…そこにあるのではないか?」

「ぬぅ…我らは神の身ゆえ、盛ることは出来ぬ」

「うむ。神が子を成す行為は人とは違う」

「これは難問ぞ…」

かすかに揺れる馬車からは一定の距離を置いている、そんな中、二神は真剣に考え込んでいた。
そこに淡い緑の光が走り、風が吹く。

「おお、シナトベよ、我らの問いに答えを」
「おお、シナトベよ、我らの疑問に答えを」

緑の巫女服をまとい、二神の前に立つ幼女の姿をした風の神。
まっすぐな緑の髪を風に揺らし、少しつり目がちな目を細め微笑むと、艶めいた唇から一言だけ発した。



「滅」



翌朝、ボロボロの衣服のタケミカヅチとフツヌシを見たエンリが、慌ててシナトベに聞くと「鍛錬です」の一言で片付けられ、二神はしばらく大人しかったという。
ただ、ほのかに二神の顔が赤かったというのは、また別の話で明かされるかもしれない……。




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