上 下
39 / 70

覚悟が必要…な時もある

しおりを挟む
怪しい集団というのは、どうやら盗賊のようだった。
オルは「俺だけでいい」と言ったけど、そうはいかない。だって私はオルと生きていくって決めたんだから。

「人を殺すなんて、エンリはしなくていいんだ」

全力で走るオルの横を、私はシナトベの力で風に乗ってついて行く。

「そんなこと言ってらんない。私だって覚悟しなきゃいけないんだ」

「エンリは俺が守る!」

「私だってオルを守る!」

平行線の会話をする私達。そこにタケミカヅチとフツヌシが現れる。
今回の旅で常に一緒にいるのがこの二神だ。オルとも仲が良いから色々助かっている。

「人の子等よ。我らに考えがある」
「人の子等よ。我らには雷がある」

「お願い!!」

二神は光ると剣を持った鎧武者の姿になり、そのまま飛んでいく。

「おい、大丈夫なのか?」

「たぶん……」

盗賊のは十人程度だ。それなら二神が負けることはない。
私達が駆けつけると同時に、空が光りピカゴロドカーンと、ものすごい雷が落ちてきた。

「きゃっ」

「っと、大丈夫かエンリ」

オル様の逞しい腕に抱え込まれ、うっとりとなるのを懸命に抑える。ある意味盗賊よりもタチが悪い。
ふと前を見ると、盗賊と思われる輩が全員倒れている。

「感電?」

「感電?なんだそりゃ?」

「雷って当たるとビリビリするんだけど、それが筋肉の動きを硬直させたり刺激を与えたりするんだよ。ある程度の強さで体が痺れて動かなくなるの」

「へぇ。そういやクラウスが似たようなこと言ってたことがあるなぁ。あいつの属性魔法で今みたいなの作ってたな」

さすが転生チートなクラウス君だ。
ともあれ、感電している盗賊は全員縛って街道に転がしておく。オルが王都に連絡したから、運が良ければ兵士達に連行されるだろうとのこと。
まぁ、魔獣とか出るかもしれないしね……。


御者台に二人で揺られながらつらつらと話す。
景色は相変わらず草原だけど、少しずつ木が増えてきて風景が変わってきた。

「殺された方が楽だったと思うかもしれねぇけど、まぁ盗賊の末路なんざこんなもんだろ」

「そうなんだね……ねぇ、オル」

「ん?なんだ?」

「さっき言ったのは、私の本気だよ。そのためにレベル上げもした。人じゃないけど魔獣とか生き物を殺す事もした。だから覚悟している……つもりだよ」

「ああ、分かっている。それでも俺はエンリの事を守るし、エンリの手を血に染めたいと思わない」

「それは私も同じ。オルにそんな事させたくない。だから両思いだね!」

二パッと笑顔で言い切ってやった。オルには負けないぞ!
オルは顔を真っ赤にして「反則だ」と呟くと、なぜか馬車を止めて御者台から私を下ろし、馬車の中に押し込んだ。
外から馬車の入り口に手をかけて、私を覗き込むように身を屈める。いつの間に上着のボタンを外したのか、セクシーな胸筋が見えておりますよ?

「え?なに?」

「エンリ、馬車の結界には消音がついてるな?」

「う、うん」

「見張りはしてるよな?」

「うん。シナトベとコウシンにお願いしてるよ」

「ならば良し」

オルは壮絶に色気のある笑みを浮かべると、そのまま馬車に押し入ってきたのでした。







「のう、タケ」

「なんだ、フツ」

「人の子エンリの側におる武人は、人でいうと最盛期ではないそうな」

「なんと…我らはあの武人に勝てた事は無いぞ」

「うむ。何とか負けぬようにするのが精一杯だ」

「最盛期では一体どのような力を持っていたのやら…」

「しかも、人というのは最盛期でも毎日は盛れないそうだ。一定期間なら毎日でも可能のようだが」

「馬鹿な!?あの武人は毎日…いや、常時盛っておるではないか!」

「だからだ。我らが勝てぬ理由…そこにあるのではないか?」

「ぬぅ…我らは神の身ゆえ、盛ることは出来ぬ」

「うむ。神が子を成す行為は人とは違う」

「これは難問ぞ…」

かすかに揺れる馬車からは一定の距離を置いている、そんな中、二神は真剣に考え込んでいた。
そこに淡い緑の光が走り、風が吹く。

「おお、シナトベよ、我らの問いに答えを」
「おお、シナトベよ、我らの疑問に答えを」

緑の巫女服をまとい、二神の前に立つ幼女の姿をした風の神。
まっすぐな緑の髪を風に揺らし、少しつり目がちな目を細め微笑むと、艶めいた唇から一言だけ発した。



「滅」



翌朝、ボロボロの衣服のタケミカヅチとフツヌシを見たエンリが、慌ててシナトベに聞くと「鍛錬です」の一言で片付けられ、二神はしばらく大人しかったという。
ただ、ほのかに二神の顔が赤かったというのは、また別の話で明かされるかもしれない……。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...