上 下
37 / 70

最強は騎士じゃなくて嫁かも説

しおりを挟む
人を斬る感触に顔をしかめる。
迷ってはいけない。これを逃して次に襲われるのがエンリだったら……?
周囲の人間が気を失うほどの殺気を身に纏い、再び戦場へと身を移す。

そう。そこはまるで戦場だった。
大規模の盗賊討伐といことで、俺は駆り出された。事前の下準備も、盗賊の居場所も人数も、全て把握していたはずだった。

おかしい。

出発してから頻繁に魔獣が出現していた。行く場所に必ず魔獣が潜んでいて、睡眠時間は削られ、討伐メンバー達は疲弊していった。
俺は色々と規格外だから、雑用などを買って出てフォローしてきたつもりだったが、これはおかしいと気づいた時には囲まれていた。

「左陣はそのままに!俺が正面突破する!動ける奴は続け!」

全力で放つ身体強化の魔法で、十人ほどの吹き飛ばす。

「すげ…さすが最強…」
「これなら少しはもつかねぇ」
「きっついわー」

口々に言いながら、後に続く冒険者達。今のところ死者は出ていないが、それも時間の問題だろう。
俺は気の流れに乗せて双剣を振るう。奇襲のつもりなのか、脇からぶつかってきた盗賊を籠手で弾く。その籠手にはうっすら光る盾のようなものが出ていた。

「兄貴、それ反則っすよー」
「なんだそれ!ずるい!」
「なんかの術式付与ですか?」

騒ぎ立てるメンバーにうるせぇと怒鳴り、そっと籠手を撫でる。
これはエンリが作ったやつだ。

「羨ましかったら、エンリみたいな嫁をもらえ!」

「マジかー!エンリ姐さんの術式かー!」
「それ一生独身でいろって事っすよね!」
「ずるいっす!あのエロボディ独り占めずるいっす!」

とりあえず最後の奴は殺すと心に決め、再び敵に目をやると倒したはずの盗賊が起き上がってくるのが見える。

アンデッド化か……こりゃ、死人が出ると同時に敵が増えるな……。

「おい!半殺しでやっとけよ!」

マズイな。俺はいいけど、彼奴らがもたねぇ。
くそ……

悔しさで歯を食いしばった時、ふとエンリの匂いがした。
と同時に、青白い光が俺の前に現れる。

「人の子エンリの願いにより助太刀いたす」
「人の子エンリの想いにより助太刀いたす」

「タケとフツじゃねーか!エンリはどうした!」

群がるアンデッドに苦戦する奴らの手助けをしようとしたら、炎の壁に取り囲まれる。一瞬焼かれるかと思ったが熱くない。浄化の炎か。

「人の子はさらに神を召喚しておる、守りは万全だ」

「カグツチ!お前が来るのは珍しいな!」

「この状態を知ってたわけではないのだが、人の子が直感で我らを遣わした」

「くそっ、やっぱ俺には勿体ねぇくらいのいいオンナだ!」

タケミカヅチとフツヌシとは鍛錬仲間だ。お互いの戦い方をよく知っているため連携できる。
カグツチは浄化の炎でアンデッドを牽制し、人死にが出ないように努めてくれてる。
そしてシナトベにより、アンデッド化の元凶たる魔道具を発見。それを回収した後、丸一日かけて何とか事態は収まった。







「オル!!」

王都の入場門前にエンリの声が響く。
声の方を向くと、一生懸命走ってくるエンリの姿に、多くの男どもが振り返る。
やめろ。それは俺のだ。減るから見るな。

そのまま俺の胸に飛び込んでくるエンリ。戦いの後は魔法で綺麗にしたとはいえ、ここまで来るのに汗をかいている。汗臭いからと離そうとすると「やだ!いい匂いだ!」と俺の胸に顔をすりすりさせてきやがる。
おい、個室はどこだ。今すぐそこに行く。

「姐さん!助かりました!」
「助っ人送ってくれたそうで!今回マジ死んだと思いました!」
「一回触らしてください!」

やっぱ最後のやつ殺す。
俺がイライラしてるのを見て、エンリは「触ったら即死ですよ~」とか言ってる。さすがよく分かってるな、俺の嫁は。

「エンリ、ありがとう。助かった。こっちは死人が出なかった」

「マイコさんから聞いて、嫌な予感がして……間に合って良かった」

涙目のエンリに、我慢できず目元に軽くキスをする。くすぐったそうに笑うエンリによからぬものが湧き上がってしまうのを必死で抑える。
ああ、可愛すぎるだろ……くそっ……

「それでねオル。後で話を聞くことになると思うけど…」

「ああ、ここに戻る途中、クラウスとケータイでやり取りした。準備が出来次第、隣国のアズマ帝国に向かう」

「オル……オル、私も連れて行って。足手まといかもしれないけど……頑張るから!」

何か覚悟を決めたようなエンリを見て、俺はなんだか嬉しくなって笑った。

「当たり前だ。俺たちパーティだろ?」

「うん!!」

まるで春の日差しのような笑みを浮かべて、俺に再び抱きつくエンリを抱きしめ返す。
そして俺は、この笑顔は絶対に守ると誓った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

虐げられて死んだ僕ですが、逆行転生したら神様の生まれ変わりで実は女の子でした!?

RINFAM
ファンタジー
無能力者として生まれてしまった僕は、虐げられて誰にも愛されないまま死んだ。と思ったら、何故か5歳児になっていて、人生をもう一度やり直すことに!?しかも男の子だと信じて疑わなかったのに、本当は女の子だったんだけど!!??

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

帝国に売られた伯爵令嬢、付加魔法士だと思ったら精霊士だった

紫宛
ファンタジー
代々、付加魔法士として、フラウゼル王国に使えてきたシルヴィアス家。 シルヴィアス家には4人の子供が居る。  長女シェイラ、4属性(炎、風、水、土)の攻撃魔法を魔法石に付加することが出来る。  長男マーシェル、身体強化の魔法を魔法石に付加することが出来る。  次女レイディア、聖属性の魔法を魔法石に付加すること出来る。 3人の子供は高い魔力で強力な魔法の付加が可能で家族達に大事にされていた。 だが、三女セシリアは魔力が低く魔法石に魔法を付加することが出来ない出来損ないと言われていた。 セシリアが10歳の誕生日を迎えた時、隣国セラフィム帝国から使者が訪れた。 自国に付加魔法士を1人派遣して欲しいという事だった。 隣国に恩を売りたいが出来の良い付加魔法士を送るのに躊躇していた王は、出来損ないの存在を思い出す。 そうして、売られるように隣国に渡されたセシリアは、自身の本当の能力に目覚める。 「必要だから戻れと言われても、もう戻りたくないです」 11月30日 2話目の矛盾してた箇所を訂正しました。 12月12日 夢々→努々に訂正。忠告を警告に訂正しました。 1月14日 10話以降レイナの名前がレイラになっていた為修正しました。 ※素人作品ですので、多目に見て頂けると幸いです※

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!〜力を搾取され続けた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される〜

水都 ミナト
ファンタジー
不本意ながら聖女を務めていたアリエッタは、国王の勅命を受けて勇者と共に魔界に乗り込んだ。 そして対面した討伐対象である魔王は――とても可愛い幼子だった。 え?あの可愛い少年を倒せとおっしゃる? 無理無理!私には無理! 人間界では常人離れした力を利用され、搾取され続けてきたアリエッタは、魔王討伐の暁には国を出ることを考えていた。 え?じゃあ魔界に残っても一緒じゃない? 可愛い魔王様のお世話をして毎日幸せな日々を送るなんて最高では? というわけで、あっさり勇者一行を人間界に転移魔法で送り返し、厳重な結界を張ったアリエッタは、なんやかんやあって晴れて魔王ルイスの教育係を拝命する。 魔界を統べる王たるべく日々勉学に励み、幼いながらに威厳を保とうと頑張るルイスを愛でに愛でつつ、彼の家臣らと共にのんびり平和な魔界ライフを満喫するアリエッタ。 だがしかし、魔王は魔界の王。 人間とは比べ物にならない早さで成長し、成人を迎えるルイス。 徐々に少年から男の人へと成長するルイスに戸惑い、翻弄されつつも側で支え続けるアリエッタ。 確かな信頼関係を築きながらも変わりゆく二人の関係。 あれ、いつの間にか溺愛していたルイスから、溺愛され始めている…? ちょっと待って!この溺愛は想定外なのですが…! ぐんぐん成長するルイスに翻弄されたり、諦めの悪い勇者がアリエッタを取り戻すべく魔界に乗り込もうとしてきたり、アリエッタのウキウキ魔界生活は前途多難! ◇ほのぼの魔界生活となっております。 ◇創造神:作者によるファンタジー作品です。 ◇アリエッタの頭の中は割とうるさいです。一緒に騒いでください。 ◇小説家になろう様でも公開中 ◇第16回ファンタジー小説大賞で32位でした!ありがとうございました!

処理中です...