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その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》
番外編……シュウの家族
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「いじゅ?」
すやすや眠っている清泉を見て首を傾げる。
「清泉だよ。でもちょっと難しいね? 瑞波はみーちゃんだから、いーちゃんってよんであげなさい」
「いーちゃん?」
「そうだよ。瑞波は賢いね? 仲良くしようね」
父の着物をかけられたままの清泉は、着替えすらなかったらしく、祖父が部屋の奥から不思議な服を出してきた。
赤ん坊用の服らしい。
自分達が小さい頃は確か上が浴衣で、下がおむつだったはずだが、祖父が持ってきたのは、下の袴のようなものが繋がったもので、しかも……
「えぇぇ! すげぇ! じいさま! 何? これ! 押さえただけで布がくっついた!」
「マジックシートという特殊な布だよ。ちなみに私が作ったから作り放題!」
聞くと祖父の扱う術の細かい操作で、布同士をくっつけることと反発させることができるらしい。
磁石にもそういうもの……くっついたり、反発したりがあるという。
すごく気になるが、今は聞けないようだ。
ささっと着替えさせ、おむつも変えたじいさまは、満足げにうんうんと頷く。
「うーん……じいさま。俺、あんまり賢くないけど、そういうの気になるから勉強したい。できる?」
「魔法操作は出来てるから、あとは知識だね。私と違って! 私は暴走させるからって絶対するなって言われたもん」
兄貴は瑞波と二人、うつ伏せになり、足をバタバタさせている。
両肘は床につけて、覗き込んでいるのは清泉の寝顔だ。
「シエラは使わないようにね。シュウは最初は大変だろうけど、落ち着いたら教えるよ。まぁ、まず文字からだね。そして、瑞波も絵本を読もう。ちょうどこれを出したら出てきたから、シュウよんであげなさい」
「絵本ですか?」
「昔、お前によんでやったよ。シエラはつまらないと言ってたが、何度もせがんできたくらいだ。懐かしいと思うよ」
物語集らしく、同じ大きさの本が10冊ほど積み上げられている。
開いてみると、不思議な羅列だというのにスッと頭の中に入った。
不思議な感覚だ。
「小さい頃は、シエラがお前に読み聞かせていたからね。かなりスパルタだったよ。それでも、お前が喜んでいたからシエラも何度も教えていた……お前がニコニコと喜ぶから、シエラが向こうでかなりの鬼畜っぷりを発揮していたと文句が来てるよ……」
「俺のせいですか? なんで?」
しかもどこから苦情が?
「……まぁ、お前の従兄弟たちは、いい子だということかな……」
祖父は首をすくめ話をスルーしてしまった。
瑞波は兄貴と一緒に清泉をじっと見つめていたら眠ってしまったらしく、そんな姿を見つつ絵本のページを捲る。
昔読んだ神話の話のようだ。
でも、少し違う。
父に読み聞かせられたものは風の女神がこの世界の主神だったが、祖父の絵本では創造の女神が一番初めに存在したとある。
創造の女神が苦労して生み出した神々についての話……そして、女神が眠りについた後のこともある。
女神と同じ容姿……はありえないが、同じ髪と瞳のグランディアの一族を世界から消滅させようとした全能の神……逆鱗に触れたのだという。
そして消える運命だった民を庇い異空間に逃したのが、風の女神。
その女神を敬愛し、その女神を祀るのが俺たちの一族……。
いつか全能の神の怒りが収まる日を待っているのだという。
「……でも、なんで怒りに触れたんだろう……」
「……女神と同じ髪と瞳が許せないという説が、主流だったのだけどねぇ……」
ポツリと声が聞こえ、慌てて振り返ると祖父は暗い顔をしていた。
「どういうこと? ほかに説があるの?」
「……うーん、これを言っていいのか……というか、うちの一族はほぼこれが正解だって言ってたよ」
と言いながら教えてくれたのは……。
「全能の神の独占欲が強すぎて、めちゃくちゃ自分以外の存在に目を向けてほしくなくて、自分の子供でもある大地の神も殺してやるって思ってて、その目覚めの方法をグランディアの風の鳥……つまり巫女に教えろって迫った。でも、創造の女神は起きたくないって言ってるって答えたら、キレて殺そうとしたらしいよ。風の女神が救い出して逃したけど、呪われたんじゃないかって……神って祟るからね……」
「いや、じいさま……そんな淡々と……」
「いや、だってこっちも何とかしてあげたいけど、本当、こっちとあっち繋がるのも奇跡的で、滅多に起きないからね? 伝説の存在だったんだよ?」
会えるとか思わなかったもん……。
と妙に可愛く言ってくれる祖父……。
しばらくして目を覚ました清泉は、大きな丸い瞳がなんとなく……いや、なぜか誰かに似ているなぁと思っていると、祖父がポツリと、
「……昔のエイに似てる……」
と呟いたので、俺は、
「どうか、眉間のシワが標準装備で、口数の少ない父に似ませんように……可愛い妹に育ちますように」
とついつい手を合わせてお願いしたのだった。
すやすや眠っている清泉を見て首を傾げる。
「清泉だよ。でもちょっと難しいね? 瑞波はみーちゃんだから、いーちゃんってよんであげなさい」
「いーちゃん?」
「そうだよ。瑞波は賢いね? 仲良くしようね」
父の着物をかけられたままの清泉は、着替えすらなかったらしく、祖父が部屋の奥から不思議な服を出してきた。
赤ん坊用の服らしい。
自分達が小さい頃は確か上が浴衣で、下がおむつだったはずだが、祖父が持ってきたのは、下の袴のようなものが繋がったもので、しかも……
「えぇぇ! すげぇ! じいさま! 何? これ! 押さえただけで布がくっついた!」
「マジックシートという特殊な布だよ。ちなみに私が作ったから作り放題!」
聞くと祖父の扱う術の細かい操作で、布同士をくっつけることと反発させることができるらしい。
磁石にもそういうもの……くっついたり、反発したりがあるという。
すごく気になるが、今は聞けないようだ。
ささっと着替えさせ、おむつも変えたじいさまは、満足げにうんうんと頷く。
「うーん……じいさま。俺、あんまり賢くないけど、そういうの気になるから勉強したい。できる?」
「魔法操作は出来てるから、あとは知識だね。私と違って! 私は暴走させるからって絶対するなって言われたもん」
兄貴は瑞波と二人、うつ伏せになり、足をバタバタさせている。
両肘は床につけて、覗き込んでいるのは清泉の寝顔だ。
「シエラは使わないようにね。シュウは最初は大変だろうけど、落ち着いたら教えるよ。まぁ、まず文字からだね。そして、瑞波も絵本を読もう。ちょうどこれを出したら出てきたから、シュウよんであげなさい」
「絵本ですか?」
「昔、お前によんでやったよ。シエラはつまらないと言ってたが、何度もせがんできたくらいだ。懐かしいと思うよ」
物語集らしく、同じ大きさの本が10冊ほど積み上げられている。
開いてみると、不思議な羅列だというのにスッと頭の中に入った。
不思議な感覚だ。
「小さい頃は、シエラがお前に読み聞かせていたからね。かなりスパルタだったよ。それでも、お前が喜んでいたからシエラも何度も教えていた……お前がニコニコと喜ぶから、シエラが向こうでかなりの鬼畜っぷりを発揮していたと文句が来てるよ……」
「俺のせいですか? なんで?」
しかもどこから苦情が?
「……まぁ、お前の従兄弟たちは、いい子だということかな……」
祖父は首をすくめ話をスルーしてしまった。
瑞波は兄貴と一緒に清泉をじっと見つめていたら眠ってしまったらしく、そんな姿を見つつ絵本のページを捲る。
昔読んだ神話の話のようだ。
でも、少し違う。
父に読み聞かせられたものは風の女神がこの世界の主神だったが、祖父の絵本では創造の女神が一番初めに存在したとある。
創造の女神が苦労して生み出した神々についての話……そして、女神が眠りについた後のこともある。
女神と同じ容姿……はありえないが、同じ髪と瞳のグランディアの一族を世界から消滅させようとした全能の神……逆鱗に触れたのだという。
そして消える運命だった民を庇い異空間に逃したのが、風の女神。
その女神を敬愛し、その女神を祀るのが俺たちの一族……。
いつか全能の神の怒りが収まる日を待っているのだという。
「……でも、なんで怒りに触れたんだろう……」
「……女神と同じ髪と瞳が許せないという説が、主流だったのだけどねぇ……」
ポツリと声が聞こえ、慌てて振り返ると祖父は暗い顔をしていた。
「どういうこと? ほかに説があるの?」
「……うーん、これを言っていいのか……というか、うちの一族はほぼこれが正解だって言ってたよ」
と言いながら教えてくれたのは……。
「全能の神の独占欲が強すぎて、めちゃくちゃ自分以外の存在に目を向けてほしくなくて、自分の子供でもある大地の神も殺してやるって思ってて、その目覚めの方法をグランディアの風の鳥……つまり巫女に教えろって迫った。でも、創造の女神は起きたくないって言ってるって答えたら、キレて殺そうとしたらしいよ。風の女神が救い出して逃したけど、呪われたんじゃないかって……神って祟るからね……」
「いや、じいさま……そんな淡々と……」
「いや、だってこっちも何とかしてあげたいけど、本当、こっちとあっち繋がるのも奇跡的で、滅多に起きないからね? 伝説の存在だったんだよ?」
会えるとか思わなかったもん……。
と妙に可愛く言ってくれる祖父……。
しばらくして目を覚ました清泉は、大きな丸い瞳がなんとなく……いや、なぜか誰かに似ているなぁと思っていると、祖父がポツリと、
「……昔のエイに似てる……」
と呟いたので、俺は、
「どうか、眉間のシワが標準装備で、口数の少ない父に似ませんように……可愛い妹に育ちますように」
とついつい手を合わせてお願いしたのだった。
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