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その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》

番外編……南部ファルト領にて(ディ目線)他

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 後日……。

「何なのよ~! 私宛じゃないの!」

 叫ぶネネ(七聆の現在名)に、わずかな水で身体を拭き、現れたディは、開封者限定の巨大な荷物に顔をひきつらせた。
 木箱10個のうち、二つがディ宛、一つがイオ宛、残りは騎士団宛である。
 その騎士団宛は騎士団所属医療部宛が4つに、地域サポート部が3個。
 先に仕事を優先と、自分達の荷物は後回しで、開け始める。

「父さん、ただいま~」

 騎士団の一角の休憩室にある教科書を借りて勉強していたイオが戻ってきた。

「あぁ、お帰り。顔と手を洗って来なさい。イオ宛に荷物が届いてるよ」
「あ、洗って来たよ。父さん。荷物の仕分け手伝うよ。副団長さんと、パーシーさん来てるからね」

 パーシーはこの地域で一番重要な水の管理を任されている資源隊長。
 副団長とほぼ同等の待遇である。
 一応、数少ない医療部所属のディも副団長待遇の一人。
 しかし、給料は一般騎士よりもいい方だが、その分責任は重く、その上緊急出動も多く休みは少ない。
 パーシーも水や緊急物資の管理責任という重い任務を持つ。
 ついでに、今回の荷物も一旦検品してもらうのである。

 毎回届けてもらうのは10箱。
 一応私的なのは3箱。
 残りは、公的な荷物と、医薬品や研究素材。
 そして、水や食料になりうる食物など。
 相当量、この箱には納められているらしい。
 ……うん。多分、父の空間術が関わっているのだと思う。
 俺は、そこまで使えない。

「……で、この空間内の中身、持ち運ぶの大変なので、副団長、ここの横に倉庫作りません?」

 届いた中に何故か、酒の瓶や嗜好品であるお菓子、ジュースなどが出て来て俺は引き攣った。
 おい……なんで、クッキーやパンケーキの粉とかがはいっているんだ?
 それに……

「……あれ? 地域の子供たちのおもちゃとか入れてもらってる。ボールとか、ありがたいな。孤児院に支援まで!」

 副団長が嬉しそうだ。
 一応、この騎士団で中堅。
 結婚して子供も手元から離れ、早くに奥さんに先立たれた彼は、こちらの地域の孤児院に個人的に支援している。
 一緒に、地域で留守番をしている子供たちも面倒を見ているらしい。

「でも、倉庫は向こうじゃないとダメだよ。向こうは倉庫に出入りできる人数も制限できるし、なんなら向こうで荷解きしてくれたらこっちもありがたいです」
「それでもいいです。ここで荷解きって場所ないですよね……」

 木箱が置かれているのが、玄関から入ってすぐの台所に向かう細い廊下。
 小さい箱から出てくる水の樽が、玄関を埋め尽くし、次の食糧を入れた袋が天井まで埋め尽くすのも恐ろしい限りである。
 しかも、一度出したら、同じ量を入れ直すことはできず、見た目量しか入らない箱に中央に送る要望書や、中央に提出する書類や騎士たちの家族などに送る手紙程度だったりする。

「じゃぁ、次から向こうで頼む」
「はい。ではまず、副団長。こちらの表と照らし合わせ、
 水の樽……500樽。
 小麦粉……50袋
 蕎麦粉……50袋
 大豆……100袋
 塩……小100袋
 砂糖……小100袋
 乾燥青菜……100袋
 乾燥赤い実(野菜)……150袋
 乾燥果物(ベリー・オレンジ・レーズン)……小、各50袋
 乾燥ミックスナッツ……50袋
 乾燥干物……1000枚
 乾燥干し肉……500袋
 食用油……96本
 ワイン樽……5樽
 ジュース……96瓶
 パンケーキの素……50袋
 卵……200個
 牛乳……96本

……あります?」
「馬鹿馬鹿しいくらい異様な数だな……」

 パーシーは確認して自分の二つ持っているマジックバッグに入れられる限り入れていこうとするが、騎士団の支給品一個では乾燥干し肉すら納められない。
 何とか大きめのマジックバッグに重いもの……牛乳とワイン、油、ジュースを入れ、小さい方にはナッツや果物を押し込み、ほっとする。

「何とか押し込んだよ~。副団長の空にして入れてください。その間に一回戻って、また取りに……」
「あ、俺のマジックバッグ使ってください。俺、一応7つ持ってます。そのうち五つ未使用です」
「五つ未使用……」
「あ、どっかから盗んだものじゃないですよ? 死んだ祖父って人の遺品を正当に受け継いだものです。なんか、祖父ってこういうの作るのが好きだったそうです」
「……じゃぁ、借りる」

 3人とイオと一緒に黙々とマジックバッグに納めていく。
 食糧以外には大量の反物や裁縫道具、そして本、筆記用具とどんどん出てくるものに唖然とする。

「なんか……通常の騎士団からの定期便が少なく感じるな。いや、あれが普通なのに、あの箱まだ3つしか開けていないのに、前回より多くなってる……よな?」
「あはは……次から、こっちで届けてもらおうよって総帥が言いそうですね……」
「まぁ、普通の荷物運ぶのは重さと破損、ついでに場所取るし……」
「こんな巨大なマジックバッグ、欲しいな……使用料金払うから、しばらく貸してくれないか、本気で」

 パーシーの言葉に、副団長と顔を見合わせたディは、

「明日にでも団長の許可を得てみますね」
「それに、中央の総帥に私物利用の許可を得たほうがいいのかも」
「……それに、工具や食器まで入ってる。それに、燃料もあるな……」
「それに、何かの設計図がある」

 設計図を確認し、

「……風車と水車……そして、日干し煉瓦の製法と、煉瓦を使った建築方法……」
「小さい子供の文字……?」
「えっと……多分、グランディア大公の孫娘の子が、天才児らしいです……よ?」
「へぇ……あれ? 《レクちゃんパパへ グランディアのじいじにもらった設計図を手直ししました。スティアナやファルトりょうが、ゆたかに幸せにすごせますように》だって」
「どれどれ……《パパが、このちいきは大きな木がないから、強い風がふきつづける、って教えてくれた。その強い風をりようできたらいいな。そして、大地にみどりを戻して、水があふれる大地にいつかなりますように。おてつだいしたい。いろは》だそうだ」

パーシーと副団長が指でたどりながら話す。

 パパというのは……あの人だ。
 俺じゃない。
 それがかなり堪える。
 俺自身が切り捨てたのに、今更だが……。

「ん? なになに? 《これは、娘が最後まで気にしていたので、スティアナ大公やグランディア大公に許可を得て、同封させてもらう。何か必要なものがあれば、そちらの騎士団長経由でいいので連絡してほしい。別の包みに納めている荷物は、前に貰ったマジックバッグへの礼だそうだ。》……お前宛に入れないあたり、千夜も心が狭いな」

 ニヤニヤ笑うのはパーシー。
 グッと口ごもり、一応年功序列では先輩であるパーシーを少し恨めしげに見る。





 パーシーは千夜と騎士の館での同期である。
 千夜の気性と頑固さは知り尽くしている悪友の一人。
 あと一人、黄騎士団に所属するクセつよと、スティアナ公主のレクシアの4人は当時の四天王と呼ばれていた。
 定期的に連絡をしているものの、最近、なぜか職場でのちょっとした悩みより子供の内容が増えた。
 元々、子煩悩の塊のような奴なので、息子たちとキャッチボールをしたことや、長男が、前までパパと呼んでくれていたのに、急に父さんと呼ばれるようになった。ショックだとか、微笑ましい内容が多かったが、最近は、

《娘がだいぶん元気になって来たので、手を繋いで街に出かけた。いつもは息子たちも一緒だが、今日は二人きり。本当にうちの子は可愛い! 転びそうになったので抱き上げたら、「高い高いして~」とはしゃいでいた。今日はスカートだったのでダメだったが、次はショートパンツをはかせて、思いっきりしようと思う。》
《最近、長男に「父さんの作る服は、僕には可愛すぎるから嫌だ」と言われた。何気にショックだったが、「僕には似合わないけど、彩映には似合うと思う! つくるのはやめないでいいよ」と言われてホッとした》
《次男が「パパ。風深はあんまり騎士になりたくなかったけど、ママや彩映ちゃんを守れるなら騎士になろうかな」と言い出した。少しずつ大人になってるんだなと思って胸が熱くなった。》

という具合。
 かなりの親バカぶりを向こうで見せているようだ。
 一応、職場の悩みというのは、

《直属の上司に頼まれて、とあるバカのダイエットに協力している。とあるバカってのは、ミカエルだ! アイツまたリバウンドしやがった! パーシー! お前のところに送る! 躾けろ!》
《儀礼時に必要な一糸乱れぬ動きをする儀仗隊ぎじょうたいのサポートをしているが、姿勢や動きの一つ一つの美しさは流石だ。指導されているのはリュシオン卿。改めて素晴らしいと思った。昔、ここに入りたいと思ったが、やっぱり身長がネックだったのか? と聞いたら、ここじゃ、ちぃに足りないでしょ、と言われた。どういうことだろう? 俺が真面目にできないのだろうか?》

というものらしい。
 多分、儀仗兵は重要な職務だが、それだけでは千夜の多種多様な才能は活かしきれないと上司が言いたかったのだろうと思いたい。
 だが、最後に必ず、

《いい加減、戻って来やがれ! 仕事押し付けてやる!》

と書かれているのはうんざりというか、しばらくほっといてくれと言いたい。

 まぁ、一緒に届くのは、

《パーシーへ
 うちの孫の凛音が、私のことを「じいちゃま」と呼びます。とっても嬉しいです。ちぃは娘が可愛いとよく手を引いて遊びに来ますが。うちの孫も可愛いです。》
《うちの孫は誰に似たのか可愛い顔で毒を吐きます。最近、父親であるうちのバカ息子に「この製造元!」と言って、気が遠くなりました。どうすればいいか真剣に考えています。君もうちの可愛い凛音と同年代の子供がいるし、反抗期の子供の言葉についてどうしたらいいのか教えてください》

レクシアからである。
 千夜の娘が天才児というのは知っているし、カズール伯爵家の後継者の凛音も規格外らしい。
 いつか戻った時にはその子供達に会ってみようと思っているが、しばらくここでのんびりもいいやと思っている。
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