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わたくしは、誰なのでしょう?
許せないわ……絶対に許すものですか!……マレーネ目線
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すんすん鼻を鳴らしながら、腕の中で眠る愛おしい主人。
耳が聞こえない、目も悪いのだというが、気性は真っ直ぐで心も綺麗、賢い子だ。
フワフワとした柔らかな日を浴びた干し草色の髪、瞳は森の色。
愛らしい顔は、いつもニコニコとしていて、コロコロとした笑い声もわたくしたちのお気に入りだった。
疲れただろうと休ませて、少し離れて話をしていただけだったのだが、いつのまにか目を覚まして怯えたように泣きじゃくった。
慌てて声をかけ抱きしめると、悲しい、寂しい、苦しいと今まで心の奥に仕舞い込んでいた重石を吐き出した。
本当に辛かったのだろう……泣いている時は身を縮め震えていて、誰かに助けを求めることも考えつかなかったようだ。
大丈夫と言葉を尽くして話しかけて、ようやくその小さい体をこちらに預けてくれたのだ。
「……誰がこの子を傷つけて、泣かせたの?」
絶対に絶対に許せないわ!
わたくしたちは、弱きものを殺すことはほぼない。
けれど、わたくしたちが守ると決めた存在を傷つけられたら、爪をたてることもやぶさかではない。
横で、のんびりと声が響く。
「一応、言っておくけど、今の両親である、ちぃたちじゃないからね」
「それくらいはわかっていますわ。あなた方でもないことくらいね。人の王……」
あんなに甘えている二人、それに、温かい目で見守っている人たちは悪くないわ。
……まぁ、若干一人、変な子はいるけれど……まぁ、わたくしの愛し子に攻撃しなければいいわ。
わたくしが少し苦手で警戒してる、力の塊である人の王……わたくしの今の姿と変わらない体格なのに、わたくしよりも凄まじい力を有しているこの人……至高王の称号を持つ王だけはあるわね。
この人も何故か、あちこちに警戒のオーラを放つわりに、このわたくしの愛し子やその家族には優しい眼差しをしている。
「耳が聞こえなくてもいい……目が見えなくてもいい……ただ、そばにいて欲しい……か。それだけこの子の心の傷は深くて、今までが辛かったんだね……もう忘れていいんだよって願っても、ちょっとした時に、夢に見て苦しむ……やっぱりサクッと殺っちゃえば良かった……」
「笑いながら言うのはやめて~幸矢兄」
「ふふふ……嫌だなぁ。月歩だって、楽しそうじゃない?」
王は微笑む。
「俺は、彩映の叔母ですもん! 代わりにやり返そうかと思って。それにこれでも騎士の資格ありますよ? まだ誰にも誓っていませんし、彩映に忠誠を誓うことだって……ふふふっ……そうすればここに住めるし、日向夏の側にいられる」
あら?
この子は、人間にしては愛らしくて、美しい深淵の闇のような髪と瞳の美少女ではなかったのかしら?
「それはやめて。月歩の旦那のエルが、また仕事放棄するから。周りが迷惑だから!」
「子供も生まれてるし、離婚もいいなぁ……もう嫌だ。あれ! あの顔! ド派手! ウザい! クドイ! あの家の遺伝子の強さは異常です! 何人いると思います? 兄弟7人中6人! レーヴェ兄が元だからもっと上品ならいいのに! 品があるのは、下の二人のみ! あぁ、セリに会いたい。あいつだけがさっぱり、あっさりしてるのに! 俺の子供も全部おんなじ!」
嫌だぁぁ! 暑苦しい!
泣きくれる、少女のような彩映の叔母。
暑苦しい、さっぱり……何のことでしょう?
チラッと見上げるのは当然……。
わたくしの視線に気がついたのか、同族の御長寿……。
「今、年寄りと言わなかった? マレーネ」
「あら、言っておりませんわ。清婉の王の騎士さま。暑苦しいとかウザイとか派手とかどういうことでしょうか?」
「……話を逸らせたね。君。一応言っておくと、月歩の夫は私の部下でね? 7人兄弟なんだけど、5番目以外、皆父親そっくりなんだよ。5番目のセリディアスだけ、母親似。夫婦は女の子が欲しかったんだけど、上の四人は、悪い意味で顔だけ父親似。下の二人は良い意味で、顔と真面目で努力家な父親に似たみたいでね。悪い方の父親似の長男が夫だから、毎日ヤイヤイ言い合い。でも、こっちの夫婦はまだまともだよ。月歩は姉さん女房で、元々真面目だし、ふざける夫の尻を叩いて仕事させてくれるし、あの物言いだけど、嫁ぎ先のことは一番大事にしてるから……彩映の実の両親は馬鹿だったからね。ちぃ……千夜の三つ子の姉の一人だったんだよ。もう一人は二葉……彩映に瓜二つ。真面目で優しくて可愛い子だよ」
「つまり、あの黒髪の月歩さんは……」
「日向夏……千夜の奥さんの妹。でも、千夜の父親の弟の子供だから、従姉弟の関係だね。千夜と日向夏たちと幸矢たちや月歩の夫たちも従兄弟。千夜や日向夏の父親たちと、幸矢と、月歩の夫の母親たちが兄弟」
わたくしは頭の中に家系図を描く。
「まぁ……似ていらっしゃらないのね。王は人外、彩映のママたちは美人、パパは童顔。あら? じゃぁ、彩映は、いいところをもらったのね」
「人外って何? 俺はちゃんと人間だよ!」
「いえ、姿形は一応人ですけど、どことなくヴァーソロミューさまに似ていますわ。まぁ、まだお若いようですが」
「あ、やっぱり、私のことじじいと思っているんじゃないか」
「いいえ。伺ったお年よりも随分とお若いです」
あぶないあぶない。
この方は確か、わたくしのご先祖がこの世界から逃げる時に卵だった方。
もし、生きてたら、わたくしの曽祖父の世代の話題にのぼるくらい過去の方……。
「だから充分、君の目が語ってるんだけど? 私のことをジジイだって」
「あら……そうですか? これでも表情に出にくいと言われていたのですけど」
「最初に私を見た時、もっと白髪の多いじじいかと思ったって言ったでしょ? これはグラデーション。白髪じゃありません!」
自分の髪を示して文句を言うヴァーソロミューさまは、面白い方ですわ。
ですから、わたくしの曽祖父のおじいさまの従兄弟の叔父の姉の甥くらいなものです。
「……限りなくじじいと目が言ってる! 本気で失礼だよ」
何かを読み取られたのか、ムカッとした様子で、こちらを見下ろす。
ヴァーソロミュー様は、長身のわたくしより頭一つ以上高い方ですわ。
「……あははは! ヴァーロ。久しぶりにとっても楽しそうだね? 最近子育て大変そうだもん」
「……上の子はまだかわいい盛りだけど、娘が反抗期。自分は勝手にいきますだって……一人で大人になったとでも言うのかな……本当に」
大きくため息をつく。
ものすごく、この方は人間くさいと言うか、竜族らしくない方ですわね。
長い間人間と関わっていたせいで、竜族らしさをどこかに捨ててきたのでしょうか?
わたくしの視線に、また渋い顔をされます。
「またじじいとか、化け物扱いしてる……失礼だと思うよ? せっかく君と君の子を助けてあげたし、追手を蹴散らしたのに」
「まぁ、そうでしたの? ありがとうございました。卵を奪おうとするし、わたくしを殺して……バルガディア……バルガンディ? に捧げるとか……」
「バルガディア……もしかして、ベルガティア?」
「必死でしたので、そう聞こえただけかもしれませんわね。よく似た発音でしたわ」
そう答えると、ヴァーソロミュー様と王は顔を突き合わせて考え込む。
人の美醜というのは、好みがあるのでしょうが、お二人はお綺麗なのでしょうね。
……多分。
わたくしには、オーラの大きさや輝きくらいしかわかりませんわ。
耳が聞こえない、目も悪いのだというが、気性は真っ直ぐで心も綺麗、賢い子だ。
フワフワとした柔らかな日を浴びた干し草色の髪、瞳は森の色。
愛らしい顔は、いつもニコニコとしていて、コロコロとした笑い声もわたくしたちのお気に入りだった。
疲れただろうと休ませて、少し離れて話をしていただけだったのだが、いつのまにか目を覚まして怯えたように泣きじゃくった。
慌てて声をかけ抱きしめると、悲しい、寂しい、苦しいと今まで心の奥に仕舞い込んでいた重石を吐き出した。
本当に辛かったのだろう……泣いている時は身を縮め震えていて、誰かに助けを求めることも考えつかなかったようだ。
大丈夫と言葉を尽くして話しかけて、ようやくその小さい体をこちらに預けてくれたのだ。
「……誰がこの子を傷つけて、泣かせたの?」
絶対に絶対に許せないわ!
わたくしたちは、弱きものを殺すことはほぼない。
けれど、わたくしたちが守ると決めた存在を傷つけられたら、爪をたてることもやぶさかではない。
横で、のんびりと声が響く。
「一応、言っておくけど、今の両親である、ちぃたちじゃないからね」
「それくらいはわかっていますわ。あなた方でもないことくらいね。人の王……」
あんなに甘えている二人、それに、温かい目で見守っている人たちは悪くないわ。
……まぁ、若干一人、変な子はいるけれど……まぁ、わたくしの愛し子に攻撃しなければいいわ。
わたくしが少し苦手で警戒してる、力の塊である人の王……わたくしの今の姿と変わらない体格なのに、わたくしよりも凄まじい力を有しているこの人……至高王の称号を持つ王だけはあるわね。
この人も何故か、あちこちに警戒のオーラを放つわりに、このわたくしの愛し子やその家族には優しい眼差しをしている。
「耳が聞こえなくてもいい……目が見えなくてもいい……ただ、そばにいて欲しい……か。それだけこの子の心の傷は深くて、今までが辛かったんだね……もう忘れていいんだよって願っても、ちょっとした時に、夢に見て苦しむ……やっぱりサクッと殺っちゃえば良かった……」
「笑いながら言うのはやめて~幸矢兄」
「ふふふ……嫌だなぁ。月歩だって、楽しそうじゃない?」
王は微笑む。
「俺は、彩映の叔母ですもん! 代わりにやり返そうかと思って。それにこれでも騎士の資格ありますよ? まだ誰にも誓っていませんし、彩映に忠誠を誓うことだって……ふふふっ……そうすればここに住めるし、日向夏の側にいられる」
あら?
この子は、人間にしては愛らしくて、美しい深淵の闇のような髪と瞳の美少女ではなかったのかしら?
「それはやめて。月歩の旦那のエルが、また仕事放棄するから。周りが迷惑だから!」
「子供も生まれてるし、離婚もいいなぁ……もう嫌だ。あれ! あの顔! ド派手! ウザい! クドイ! あの家の遺伝子の強さは異常です! 何人いると思います? 兄弟7人中6人! レーヴェ兄が元だからもっと上品ならいいのに! 品があるのは、下の二人のみ! あぁ、セリに会いたい。あいつだけがさっぱり、あっさりしてるのに! 俺の子供も全部おんなじ!」
嫌だぁぁ! 暑苦しい!
泣きくれる、少女のような彩映の叔母。
暑苦しい、さっぱり……何のことでしょう?
チラッと見上げるのは当然……。
わたくしの視線に気がついたのか、同族の御長寿……。
「今、年寄りと言わなかった? マレーネ」
「あら、言っておりませんわ。清婉の王の騎士さま。暑苦しいとかウザイとか派手とかどういうことでしょうか?」
「……話を逸らせたね。君。一応言っておくと、月歩の夫は私の部下でね? 7人兄弟なんだけど、5番目以外、皆父親そっくりなんだよ。5番目のセリディアスだけ、母親似。夫婦は女の子が欲しかったんだけど、上の四人は、悪い意味で顔だけ父親似。下の二人は良い意味で、顔と真面目で努力家な父親に似たみたいでね。悪い方の父親似の長男が夫だから、毎日ヤイヤイ言い合い。でも、こっちの夫婦はまだまともだよ。月歩は姉さん女房で、元々真面目だし、ふざける夫の尻を叩いて仕事させてくれるし、あの物言いだけど、嫁ぎ先のことは一番大事にしてるから……彩映の実の両親は馬鹿だったからね。ちぃ……千夜の三つ子の姉の一人だったんだよ。もう一人は二葉……彩映に瓜二つ。真面目で優しくて可愛い子だよ」
「つまり、あの黒髪の月歩さんは……」
「日向夏……千夜の奥さんの妹。でも、千夜の父親の弟の子供だから、従姉弟の関係だね。千夜と日向夏たちと幸矢たちや月歩の夫たちも従兄弟。千夜や日向夏の父親たちと、幸矢と、月歩の夫の母親たちが兄弟」
わたくしは頭の中に家系図を描く。
「まぁ……似ていらっしゃらないのね。王は人外、彩映のママたちは美人、パパは童顔。あら? じゃぁ、彩映は、いいところをもらったのね」
「人外って何? 俺はちゃんと人間だよ!」
「いえ、姿形は一応人ですけど、どことなくヴァーソロミューさまに似ていますわ。まぁ、まだお若いようですが」
「あ、やっぱり、私のことじじいと思っているんじゃないか」
「いいえ。伺ったお年よりも随分とお若いです」
あぶないあぶない。
この方は確か、わたくしのご先祖がこの世界から逃げる時に卵だった方。
もし、生きてたら、わたくしの曽祖父の世代の話題にのぼるくらい過去の方……。
「だから充分、君の目が語ってるんだけど? 私のことをジジイだって」
「あら……そうですか? これでも表情に出にくいと言われていたのですけど」
「最初に私を見た時、もっと白髪の多いじじいかと思ったって言ったでしょ? これはグラデーション。白髪じゃありません!」
自分の髪を示して文句を言うヴァーソロミューさまは、面白い方ですわ。
ですから、わたくしの曽祖父のおじいさまの従兄弟の叔父の姉の甥くらいなものです。
「……限りなくじじいと目が言ってる! 本気で失礼だよ」
何かを読み取られたのか、ムカッとした様子で、こちらを見下ろす。
ヴァーソロミュー様は、長身のわたくしより頭一つ以上高い方ですわ。
「……あははは! ヴァーロ。久しぶりにとっても楽しそうだね? 最近子育て大変そうだもん」
「……上の子はまだかわいい盛りだけど、娘が反抗期。自分は勝手にいきますだって……一人で大人になったとでも言うのかな……本当に」
大きくため息をつく。
ものすごく、この方は人間くさいと言うか、竜族らしくない方ですわね。
長い間人間と関わっていたせいで、竜族らしさをどこかに捨ててきたのでしょうか?
わたくしの視線に、また渋い顔をされます。
「またじじいとか、化け物扱いしてる……失礼だと思うよ? せっかく君と君の子を助けてあげたし、追手を蹴散らしたのに」
「まぁ、そうでしたの? ありがとうございました。卵を奪おうとするし、わたくしを殺して……バルガディア……バルガンディ? に捧げるとか……」
「バルガディア……もしかして、ベルガティア?」
「必死でしたので、そう聞こえただけかもしれませんわね。よく似た発音でしたわ」
そう答えると、ヴァーソロミュー様と王は顔を突き合わせて考え込む。
人の美醜というのは、好みがあるのでしょうが、お二人はお綺麗なのでしょうね。
……多分。
わたくしには、オーラの大きさや輝きくらいしかわかりませんわ。
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