上 下
30 / 68
わたくしは、誰なのでしょう?

あぁぁ……嘘だろう……ドラゴンを飼うなんてできませんっていうべきだったかな……ちぃちゃん目線

しおりを挟む
 あぁ……この目の前にいるマレーネという女性……いや、この人は人間ではない。
 マレーネは、この世界に一頭しかいないと言われていたブルードラゴンの、新発見された2頭目の純血種。
 そして、生まれたばかりのアスールも、純血種の幼体。
 奇跡の2頭なのだと昨日認定された。

 ちなみに、一頭目は、孤高の竜王と言う二つ名を持つ存在があり、もう一つ……生死は不明だがブルードラゴンの卵が、約1800年前から静かに時を待っている。



 それはそれでいいとして、何故か、

「おぉぉ! お姉さま!」

彩映を抱いているマレーネを崇めるように、手を合わせ泣いている月歩姉。

「あぁ! なんで、ローズ様がここにいらっしゃらないんだ! あの方なら俺とこの尊さを共有してくださるはず! 萌えが理解できるのに~!」
「あ、後宮で、めちゃくちゃ萌えてたよ。絶対ナーニャ姉さんと新しいデザイン考えてくると思うよ、月歩。それに今度、彩映が元気になったら、大々的に七五三するし」
「陛下、『シチゴサン』って何ですか?」

 手をあげるアルベルト……一応、失礼ができない存在には単語会話はできないらしい……に、

「あ、そうか、アルベルトは知らなかったっけ? グランディアの風習で、子供が生まれてひと月くらいして、神様に『子供が生まれました。子供をお守りください。よろしくお願いします』ってお願いしに行くの。そして数え年の3歳、5歳、7歳……向こうは、生まれた時には一歳っていうふうに数えるから……2歳、4歳、6歳になると、大きくなりましたって、神殿にお礼のお参りをするんだよ。その数字で七五三。それに、特にグランディアでは昔、幼い子供は弱くてすぐに死んでしまうから、生まれた時に神から預かったって言われるんだ。数え年で7歳の時に、神の子から人の子になる、神に預けていた子供を返してもらえるとも言われるからね。じい様が目の色変えてるのは、『神から預かっている彩映に、なにしてくれやがった! このバカ者ども! もし神が怒ったら、どうなるかわかっていないのか!』だって」

と、何故か、祖父の声色を真似する幸矢に、

「うわぁ、幸矢兄様、おじいさまそっくり~」

那智は目をキラキラさせる。

 那智はおじいちゃん子である。
 容姿や、育った場所のせいか、同年代の友人が作りにくかったのもあり、両親と祖父の職場にいることが多かった。
 忙しい人だったが、書類整理などでは那智を膝に乗せてよく、色々な話をしてくれた祖父が大好きである。

「ふふっ! 似てるでしょ? で、じいさまが『彩映の七五三には、私の財産だけでなく、神殿に収めている宝物の数々、特別に天女の羽衣も出す! それに、あの子が生まれてから、特別に織ってもらっていた絹織物も通常の儀式以上……十分溜まっているから、2回はできる! このまま溜めていけば、裳着の時には、五衣いつつぎぬまで準備もできる! 大丈夫だ! それにしても……去年の千夏のは手を抜いてしまった……すまない……そうだ! 代わりに一緒にもう一度しよう! それに、風深の分も準備しなければ!』だって。ちぃ。二人の準備頑張って!」
「えぇぇ! あれ、またするんですか? あれで手抜き?」
「うん、相当、間抜いてる。だって、神事の道具も揃っていなかったって言ったでしょ? ちぃとセイの息子の時はしてたよ。覚えてないの?」
「……覚えてない……です」
「じい様孝行すると思って、二人にさせてあげなよ。彩映一人に全部じい様の愛を込めると、絶対彩映が倒れるから」

 すると、目をキラキラさせ、那智はお願いポーズをする。
 かわいいな、やっぱり。うちの妹は!

「幸矢兄様。メオくんはダメですか? 今、まだファルト領から戻ったばかりで、お義父様のところにいますが、今度うちの子になるのです! ……向こうでは、とても大変だったそうですから」

 すぐに悲しげに目を伏せる。

 ラファ兄の弟であるリーダイルは、はっきり言えば、ラズラエラルの逆のバカ親だ。
 仕事好きな真面目な性格と共に、少々やんちゃすぎる。
 星蘭は口下手で不器用だが、あいつは何かに集中したら、全力投球で他に目をやれない。
 独り身、もしくは星蘭と結婚したばかりならよかったのだろうが、二人とも仕事持ちで、ちょうど星蘭は第二子出産後、職場に復帰したばかり。
 第二子を仕事しつつ見ていた星蘭に、長男のメオ……メテオールは自分が見るといい、連れて行った先で仕事に集中してしまい、その場に置き去りにして帰ってしまった。
 前にも何度か町でも置いて帰ったこともあり、その時には町の人が送ってくれたそうだが、今回は場所が悪かった……。
 倉庫……しかも騎士団の武器庫の中である。
 もし、不用意にメオが触ったら、大怪我もあったはずである。
 慎重で大人しいメオは、ただ泣きもせず、じっと座っていたから無事だった……いや、翌日の朝まで閉じ込められていたメオは、脱水症状で熱を出した。
 元々おとなしかったメオは心を閉ざし、食事すら拒否するようになったらしい。
 緊急連絡でそれを知り、怒り狂った那智と星蘭の義父が奪い、王都に連れ帰り、医者にかかって、メオは静養中である。

「うーん、確か4歳だっけ? うん、いいんじゃないかな? じい様もかわいいひ孫だもの。喜ぶよ」
「嬉しいです! メオくんは何色が似合うでしょうか。どの色が好きですかって聞いても、お返事がないのですわ。首を傾げたり、頷いたりはしてくれるのですが、あまり表情もないし……お父様は、少し言葉は喋らないけれど、賢い子だって言ってくださるのですが……」
「人見知りの時期かもしれないね。大丈夫だよ。那智のこと絶対嫌いじゃないから」
「それだと嬉しいです。メオくんは、リー兄様よりラファ様に似ていて、とってもかっこいいのです。それに、この間ちょっと笑ってくれて、また来るねってラファさまと伝えたら、またねって手を振ってくれました」

 うーん……二、三度会ったけど、メオはカッコいいより可愛いと思う。
 ラファ兄に顔立ちそっくりってことは、完全に女顔だから!

 いや、那智はあの美少女顔のラファ兄のことがかっこいいと思うんだ……うん、黙っておこう。
 もし、俺の顔を……不細工とか思われてたら落ち込む……。

 そんな俺の様子に気づかなかったのか、那智はニコニコと、幸矢兄を見あげている。

「兄様、メオくんには何が似合うでしょうか? そういえば、グランディアのお名前があるそうですね」
「あぁ、千剣破ちはやだね。千の敵を破るという意味があるけれど、武器よりも強い知識を持てという意味もあるって。じい様がつけたよ。すごい名前だと思うよ。あ、メオは優しい色が似合うと思うな。パステル色。ウェイト兄さんとラファと同じで瞳が緑で、髪が金だから」
「えっ? 兄様は、濃い色なのに?」
「いや、俺は色が選べない格好だから……」

 幸矢兄はため息をつく。

「本当は、もっと地味な格好にとか思うんだよ? できるなら髪の色を変えたりして、お忍びしたいのに、髪は染められないし、いくら格好を変えたって、すぐ見つかるんだよね……なんでだと思う? 俺、ちょっとルゥとデートとか、蒼記を身代わりにお忍びでカズールに行くとか、考えてたのに、ことごとく失敗するんだけど……」
「やめて、幸矢兄……俺、死にたくないです」
「僕も……」

 俺とアルベルトが青ざめる。

「えぇ? 大丈夫だよ。俺、強いから!」
「そう言う問題じゃなくて、兄は、その顔とその色と、そのキラキラしたオーラで無理!」
「リスティル陛下……一応人間。幸矢兄さん、人外」
「失礼だな~アルベルトは!」

 頬を膨らませる幸矢兄に、バッサリと斬って捨てる。

「無駄に、垂れ流しダメ。犯罪」
「何が無駄に垂れ流し?」
「流し目、微笑み諸々もろもろ。リスティル陛下……小悪魔。幸矢兄さん、傾城けいせい

 その言葉につい頷いてしまう。
 ぐうの音も出ない様子の幸矢兄。
 そして、この言葉を素直に聞いて、王宮から逃走だけはしないでほしいと警護を兼ねた職務の俺は祈ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜

桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。 彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。 それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。 世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる! ※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*) 良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^ ------------------------------------------------------ ※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。 表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。 (私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

処理中です...