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わたくしは、誰なのでしょう?

どうしたのでしょうか? 何かおかしいです。

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 時々、やさしくて大きな腕がわたくしを抱き上げてくれます。
 そしてトントンと背中を、大丈夫だよというふうに叩いてくれます。
 ホッとします。
 嬉しいです。
 多分、この大きな温かい腕は、あの時最後にお話ししてくれたパパなのです。

「パパ」

 そういうと、パパは時々頬を撫でてくれます。
 でも、どんなに呼びかけても、お返事がありません。
 怖いです……。
 お顔はぼんやり見えますが、お声が聞こえません。
 どうしてでしょう……?

 でも、まだ頭が痛いです。
 目をあけているのも辛いです。

 パパ……そばにいてくださいね。
 起きても一人はとっても悲しいのです。



 日付や時間はわかりませんが、わたくしはちょっとヒヤッとするものを胸に当てられ、目をあけました。
 少し周りがぼんやりとしています。
 近づいてきたのは、青い目が二つ、お鼻とお口……の人です。

「パパ?」

 首を傾げると、口が動きます。

「何をお話ししているの? パパ。お声が聞こえませんの」

 答えると、別の顔が見えました。

 こちらは黒い目と、お鼻とお口。
 目の前で手を振り、そして頬に触ってくれます。
 そして目の前に、大きな画用紙で、

『パパだよ』
『あたまいたい?』

と書いて見せてくれます。

「今は大丈夫ですわ、パパ」

 そう答えると、次の画用紙を見せてくれます。

『お話しするパパとせんせいの』
『お声はきこえるかな』

と、書かれています。

「どんなお話しですか? 聞こえませんの」

 首を振ると、大きく目を見開いたパパは、すぐに泣きそうな顔になりました。
 わたくしも悲しくなりました。
 パパはどんなお声なのでしょう?
 何をお話ししてくれているのでしょう?

『いろは』

と文字が書かれました。

「いろは?」

 首を傾げると、

『おまえのなまえだよ』
彩映いろはってかくんだ』
『パパとママたちとかんがえた』

と、大きな文字で書いてくれました。

 わたくしは、彩映というお名前なのですね。
 この、記号のような不思議な文字は、綺麗でなんとなく嬉しいです。
 胸がドキドキします。

 パパを見て、

「ありがとう、パパ。彩映、綺麗なお名前。とっても嬉しい」

というと、パパは画用紙を置いて、わたくしを抱きしめてくれました。

 あ、この感じ覚えてます。
 ずっと、わたくしを抱きしめてくれていた腕です。
 やっぱり黒い目の人が、パパだったんですね。
 嬉しくてくすぐったくて、でも、ぎゅっと抱きついて甘えてしまいました。

 そのあと、ベッドに……パパのお膝の上に座って、もう一人……せんせいですね……が、画用紙に文字を書いて見せてくれました。

『せんせいのおはなし』
『わかったらわかります』
『わからなかったら』
『わかりませんっていってね?』

「はい」

 返事をしました。
 ぼんやりとですが、先生のお口が動きます。
 でも、何も聞こえません。
 ただ、何度か首を振りました。
 そうすると、

『つぎは、これは見える?』

と手を差し出されました。
 ぼやっとしていますが、ちゃんと答えました。

「手です」

『そうだね。指は何本?』

「片方の手には五本です。だから五本だと思います」

『ぼんやりする?』

「はい。はっきりとわかりませんの……あ、近づいてきたら……4本でした」

 あれ? 何ででしょうか?
 わたくしは数字を100以上、間違いなく数えられます。
 でも、ぼんやりした視界……どうして指4本が、ちゃんと見えないのでしょう?

 パパを見上げます。
 するとパパはニコッと笑って、頭を撫でてくれました。
 大丈夫なのですね。
 ホッとします。

『じゃぁ、いろはちゃんはいくつ?』

 その言葉に首を傾げます。
 いくつだっただろう?
 しばらく考え、首を振ります。

 そうすると、

『いろはちゃんのしっているひと、その人のおなまえは?』

「パパとママです。お名前……? お名前は……」

しばらく考えたものの出てきません。
 首を振りました。

「わかりませんの。お話しはできます。でも、なぜでしょう? わかりませんの」

『それは、起きたばかりだからだね』
『だいじょうぶだよ』

 大丈夫という言葉が、嬉しいです。

『ながいあいだ、ありがとう』
『つかれちゃったね。ねむろうね』

 その言葉に頷いて、パパに抱っこされたままわたくしは目を閉じました。
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