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始まりは多分お別れという意味なのですわ。
「この程度で何で悪いんだって言う顔だけど、もっと酷いことしてるんだよ」って、そんなの知らなかったんだ……アンディール目線(ザマァレベル1)
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壁に映る映像、そして機械から聞こえる声……この場で起こったことが再生されていた。
今いる部屋、ちぃ兄がわざわざデザインして、専門の業者を頼んで作り上げられたのだと言う、壁は現在落書きだらけ……ちぃ兄の息子の千夏が落書きしたんだと思っていた。
なのに、うちのサディがやっていた。
そして、俺たちの飲み物が置かれているテーブル。
映像の中ではその上にミリアが靴のまま登り、バタバタと周りのピッチャーやグラスを蹴りながら、両手にクッキーを掴み貪り食っていた。
そして、ベッドに飾られていた人形を指をさして、それをくれと言い、ナナがダメだと言うと、
「なんで? ミリアは可哀想なのに! ちょうだい! ちょうだい!」
と泣きわめき暴れている。
ナナはナナで……嘘だろう?
……俺は頭を抱えたくなった。
何でナナは当たり前のように、ちぃ兄に命令しているんだ?
それに怒るちぃ兄にヘラヘラ笑って、物をねだる……なんて見苦しいんだろう。
しかし、アルベルト兄が、
「見ろ。お前がやったことを」
といつになく喋っている。
これ以上のことはないと思っていたのに、今度は俺が……ナナがルナに暴言を吐き、蔑ろにする姿が写されていた。
サディがルナに水をかけからかったり、ミリアは石や泥団子を投げている様子も……。
泥だらけになっていたルナは、近くにいたナナを見るけれど、助けてくれないのを知っているのか、悲しげな顔で頭を下げて俯き、離れたところでうずくまりシクシクと泣いていた。
ちぃ兄が駆け寄って、抱き上げ、涙を拭って、自分たちの部屋に入っていった。
ある時のルナは、俺を離れたところから見ていた。
何かを期待しているようだった。
でも、俺は……何もしなかった。
『何見てるんだ? また、俺のことを親父にチクるのか? あぁ、お前は親父に気に入られてるもんな? 俺のことを悪くいうだけで……』
と怒鳴りつけているところもある。
この後、俺は……、
「も、もう……やめてくれ! 頼むから……」
頭を抱え叫んだ。
もう、見たくない……。
これ以上は映さないでくれ。
「何で?」
アルベルト兄の声に、恐る恐る顔を上げると、嫌悪をあらわにした眼差し……。
「たったこれだけでいうの? もっとあるよ。ルナ、6年我慢した。お前、もっと酷いことした。見ろ!」
「悪かった! 俺たちが、俺が悪かった!」
「何が?」
「だから、悪かったって言ってるじゃないか!」
「逆ギレ。反省ない!」
単語しか話さない、しかし、段々怒りがこもる声。
「ルナ、今、風疹。高い熱、うなされてる」
「……?」
「ルナ、風疹、麻疹、水疱瘡の一歳接種受けてない。誰がしなかった? 誰が放置した? 今苦しんでるルナに、お前たち謝ってない!」
俺の襟元を掴み、揺さぶる。
感情的なアルベルト兄は、初めて見る。
恐ろしい……無口で温厚だと思っていたのに、氷のように揺れないブレないと思っていたのに、青みの強い瞳は燃えさかる青い炎のよう……。
「今、弱ってるルナ、首や顔が腫れて、横になれない。泣いてる。ちぃ兄がずっと抱いて、あやしてる。お前たち、ルナを看病したか? ルナに頭撫でたりしたか?」
「……っ!」
「何が、ルナが病気だから休暇を取りました、だ! 嘘つき! 今、病気じゃないか! ルナを利用して休暇とって、何してたんだ! お前が遊ぶために休暇とったせいで、ちぃ兄、休暇を取れないから、面倒な手続きをしてるんだ! それなのに、何もしてないお前たちが、エディ兄になんて言った? ルナばかりひいきするな? お前たちは、ルナを蔑ろにして、そこの子供をひいきしてたじゃないか! お前の方が先にルナを見捨てたんだよ! 育児放棄してんだよ!」
こんなに喋る兄は初めて見る。
だから本気で怒っている。
ルナのために、怒っている。
「お前たちは、子供をちゃんと育ててないんだよ! だから、この部屋はボロボロだ。あの壁は、ちぃ兄が考えてデザインした特注品だ。家具だって、食器だって家族で選んだんだって。千夏だって風深だってこの部屋を気に入っているって、日向夏姉様が嬉しそうに言ってた! でも、そのちぃ兄たちの、家族の大事な部屋に、お前の家族はズカズカ踏み込んで荒らして壊した! 勝手気まま、周りに迷惑かけてるのに、お前たちはちゃんと謝罪しない。何をしてもちょっと口先でごめんって言うだけで許されると思ってる。思い上がっている! 怒られても反省しない! 最低の夫婦で家族だ!」
ドンッ!
突き放され、尻餅をつく。
痛みに息をつめた俺を無視し、次はナナに近づく。
真っ青な顔で、ジリジリ後ずさるナナ。
「……あんたを殴ってやりたい。ナナ姉さんなんて呼ぶもんか! あんたで十分だ! あんたが育児放棄してきたせいで、ルナがどれだけ辛い思いをしたか……未だに理解してないだろう!」
腕を掴み、膝をついて、ニヤッと笑う。
「あんたさぁ? 自分がなんで、ルナを拒否するか、理解できないだろう? ルナが可愛くないのは、ルナが悪い! 自分は正しいんだからって言ってたよね? でも、僕はわかる。ルナはふぅ姉様に似てるんだよ。優しくて強い、努力家のふぅ姉様に。あんたは、羨ましいんだよね? ふぅ姉様と、ふぅ姉様によく似たルナが妬ましいんだ。それに、ちぃ兄は本当は、あんたよりふぅ姉様が大好きなんだ。でも、兄妹だから仕方なくあんたの面倒を見てた。それを妬んで嫉妬してた。だからいなくなってホッとした。自分が独占できるって」
青ざめ首を振るナナ。
「違うっていうの? 嘘でしょ? だって、ふぅ姉様に嫌がらせしてたじゃない。いつもいつも。見てないと思う? まぁ、人がいないと思ってんでしょ? でもね? この家には、あちこちに監視撮影器があるんだよ。何が起こるかわからないからね? 人を増やすにも限界があるから、昔からあったけれど、ルナが小型化させたんだ。で、ちゃんと残ってるよ? ふぅ姉様に嫌がらせしてるあんたの姿。自分は金持ちの男と結婚して、旅行にも連れて行ってもらって、宝石ドレスいっぱい買ってもらって幸せなの……でも、ふう姉様は亡命して、苦労してるのよね? 可哀想って、言ってたよねぇ?」
振り返り、機械を操作する。
すると、小柄なふぅ姉に近づき、上から見下すようにして喋る女が映されていた。
『あたし、お金持ちの息子のアンディールと結婚してよかったわ~。だって、アンディールはあたしを愛しているんですって。当然よね? この髪と瞳は神秘の黒っていうんですって。その色を持つあたしだもん。ふぅちゃんは残念ね? ここに当たり前にある髪と瞳の色だもの。へいぼーん!』
『でも、ナナちゃん。私は、父さまの色のこの髪と瞳の色好きよ? だって、レクちゃんはこの金髪は秋の豊穣の色で、緑の瞳は深緑の色だって。褒めてくれるもの』
瞳を潤ませ、それでも必死に訴えるふぅ姉を鼻で笑う。
『褒めてくれたって、紐で縛るだけの髪型なんて寂しいわね。装飾品も流行遅れじゃない。レクは、新しく作ってくれないの? アンディールはこの珍しい宝石を、あたしのために買ってネックレスにしてくれたの。素敵でしょう? でも、ふぅちゃんは可哀想ね。レクに貰えないのね。まぁそうよね。ふぅちゃんは国から追い出されてここに舞い戻った、亡命者の奥さんだものね? あぁ、着のみ着のままで逃げ出したのね? 可哀想……私の服着る? 少し古いけどあげるわね? レクちゃんって、不甲斐ないわよね。甲斐性がないって、こういうことなんでしょう?』
と言いながら、顔を歪め笑う……愛しているはずの妻の醜悪な顔に、俺は愕然とする。
こんな顔をしていたのか?
いや、さっきの映像の俺やサディやミリアも……こんな顔をしていたのかもしれない。
「……醜いよね? 君たち」
父の言葉が、俺の胸をえぐった。
「明日以降に君たちを、南方のスティアナ領に近いところに送ることにしてるから。国庫を私的に流用した罪だからね。四人でがんばってね。マルムスティーン家とグランディア家からの援助はないよ。逆に本当なら、ルナの今までとこれからの養育費に、慰謝料を要求したいもんだ! 離婚もさせない。子供を捨てるのももってのほか。あぁ、可愛い息子と娘だもんね? そんなことはしないか……」
「でしょう」
「もう二度と会うことはない……それに、ルナには二度と会わせない。さようなら、ラズラエラル卿、その夫人とお子さんたち」
機械を片付けていたアルベルト兄が、喋り始めた。
「父がルナのアレルギー反応検査をした。ほとんどのアレルギー反応を起こすだろう食べ物、消毒用のアルコールなどにも強弱あれど反応があった。ちぃ兄が、知らなかったと泣いていた。すまない、もっと俺が見ていたらって……実の親じゃない、ちぃ兄が言ってるんだよ? それに、これから食事全般を細かく管理するって言っていたよ。元々は両親が知っていなければならなかったことだよね」
「……っ! す、すまない……」
「誰に謝ってるの? 僕は君とは関わりない人間だ」
そう言い残し、部屋を出て行ったその背を見送り、俺は頭を抱え、そして涙を流すしかなかった。
俺は、今まで、なんてことをしていたのか……。
いや、何もしなかった。
見ることも、手を差し伸べることも、笑ってやることも、誉めることも……頭を撫でることすら……名前を優しく呼ぶことだって……。
後悔……いや、もう遅すぎる。
自分たちのしたことのせいで、見捨てられたのだと思い知らされた……。
今いる部屋、ちぃ兄がわざわざデザインして、専門の業者を頼んで作り上げられたのだと言う、壁は現在落書きだらけ……ちぃ兄の息子の千夏が落書きしたんだと思っていた。
なのに、うちのサディがやっていた。
そして、俺たちの飲み物が置かれているテーブル。
映像の中ではその上にミリアが靴のまま登り、バタバタと周りのピッチャーやグラスを蹴りながら、両手にクッキーを掴み貪り食っていた。
そして、ベッドに飾られていた人形を指をさして、それをくれと言い、ナナがダメだと言うと、
「なんで? ミリアは可哀想なのに! ちょうだい! ちょうだい!」
と泣きわめき暴れている。
ナナはナナで……嘘だろう?
……俺は頭を抱えたくなった。
何でナナは当たり前のように、ちぃ兄に命令しているんだ?
それに怒るちぃ兄にヘラヘラ笑って、物をねだる……なんて見苦しいんだろう。
しかし、アルベルト兄が、
「見ろ。お前がやったことを」
といつになく喋っている。
これ以上のことはないと思っていたのに、今度は俺が……ナナがルナに暴言を吐き、蔑ろにする姿が写されていた。
サディがルナに水をかけからかったり、ミリアは石や泥団子を投げている様子も……。
泥だらけになっていたルナは、近くにいたナナを見るけれど、助けてくれないのを知っているのか、悲しげな顔で頭を下げて俯き、離れたところでうずくまりシクシクと泣いていた。
ちぃ兄が駆け寄って、抱き上げ、涙を拭って、自分たちの部屋に入っていった。
ある時のルナは、俺を離れたところから見ていた。
何かを期待しているようだった。
でも、俺は……何もしなかった。
『何見てるんだ? また、俺のことを親父にチクるのか? あぁ、お前は親父に気に入られてるもんな? 俺のことを悪くいうだけで……』
と怒鳴りつけているところもある。
この後、俺は……、
「も、もう……やめてくれ! 頼むから……」
頭を抱え叫んだ。
もう、見たくない……。
これ以上は映さないでくれ。
「何で?」
アルベルト兄の声に、恐る恐る顔を上げると、嫌悪をあらわにした眼差し……。
「たったこれだけでいうの? もっとあるよ。ルナ、6年我慢した。お前、もっと酷いことした。見ろ!」
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「何が?」
「だから、悪かったって言ってるじゃないか!」
「逆ギレ。反省ない!」
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「ルナ、今、風疹。高い熱、うなされてる」
「……?」
「ルナ、風疹、麻疹、水疱瘡の一歳接種受けてない。誰がしなかった? 誰が放置した? 今苦しんでるルナに、お前たち謝ってない!」
俺の襟元を掴み、揺さぶる。
感情的なアルベルト兄は、初めて見る。
恐ろしい……無口で温厚だと思っていたのに、氷のように揺れないブレないと思っていたのに、青みの強い瞳は燃えさかる青い炎のよう……。
「今、弱ってるルナ、首や顔が腫れて、横になれない。泣いてる。ちぃ兄がずっと抱いて、あやしてる。お前たち、ルナを看病したか? ルナに頭撫でたりしたか?」
「……っ!」
「何が、ルナが病気だから休暇を取りました、だ! 嘘つき! 今、病気じゃないか! ルナを利用して休暇とって、何してたんだ! お前が遊ぶために休暇とったせいで、ちぃ兄、休暇を取れないから、面倒な手続きをしてるんだ! それなのに、何もしてないお前たちが、エディ兄になんて言った? ルナばかりひいきするな? お前たちは、ルナを蔑ろにして、そこの子供をひいきしてたじゃないか! お前の方が先にルナを見捨てたんだよ! 育児放棄してんだよ!」
こんなに喋る兄は初めて見る。
だから本気で怒っている。
ルナのために、怒っている。
「お前たちは、子供をちゃんと育ててないんだよ! だから、この部屋はボロボロだ。あの壁は、ちぃ兄が考えてデザインした特注品だ。家具だって、食器だって家族で選んだんだって。千夏だって風深だってこの部屋を気に入っているって、日向夏姉様が嬉しそうに言ってた! でも、そのちぃ兄たちの、家族の大事な部屋に、お前の家族はズカズカ踏み込んで荒らして壊した! 勝手気まま、周りに迷惑かけてるのに、お前たちはちゃんと謝罪しない。何をしてもちょっと口先でごめんって言うだけで許されると思ってる。思い上がっている! 怒られても反省しない! 最低の夫婦で家族だ!」
ドンッ!
突き放され、尻餅をつく。
痛みに息をつめた俺を無視し、次はナナに近づく。
真っ青な顔で、ジリジリ後ずさるナナ。
「……あんたを殴ってやりたい。ナナ姉さんなんて呼ぶもんか! あんたで十分だ! あんたが育児放棄してきたせいで、ルナがどれだけ辛い思いをしたか……未だに理解してないだろう!」
腕を掴み、膝をついて、ニヤッと笑う。
「あんたさぁ? 自分がなんで、ルナを拒否するか、理解できないだろう? ルナが可愛くないのは、ルナが悪い! 自分は正しいんだからって言ってたよね? でも、僕はわかる。ルナはふぅ姉様に似てるんだよ。優しくて強い、努力家のふぅ姉様に。あんたは、羨ましいんだよね? ふぅ姉様と、ふぅ姉様によく似たルナが妬ましいんだ。それに、ちぃ兄は本当は、あんたよりふぅ姉様が大好きなんだ。でも、兄妹だから仕方なくあんたの面倒を見てた。それを妬んで嫉妬してた。だからいなくなってホッとした。自分が独占できるって」
青ざめ首を振るナナ。
「違うっていうの? 嘘でしょ? だって、ふぅ姉様に嫌がらせしてたじゃない。いつもいつも。見てないと思う? まぁ、人がいないと思ってんでしょ? でもね? この家には、あちこちに監視撮影器があるんだよ。何が起こるかわからないからね? 人を増やすにも限界があるから、昔からあったけれど、ルナが小型化させたんだ。で、ちゃんと残ってるよ? ふぅ姉様に嫌がらせしてるあんたの姿。自分は金持ちの男と結婚して、旅行にも連れて行ってもらって、宝石ドレスいっぱい買ってもらって幸せなの……でも、ふう姉様は亡命して、苦労してるのよね? 可哀想って、言ってたよねぇ?」
振り返り、機械を操作する。
すると、小柄なふぅ姉に近づき、上から見下すようにして喋る女が映されていた。
『あたし、お金持ちの息子のアンディールと結婚してよかったわ~。だって、アンディールはあたしを愛しているんですって。当然よね? この髪と瞳は神秘の黒っていうんですって。その色を持つあたしだもん。ふぅちゃんは残念ね? ここに当たり前にある髪と瞳の色だもの。へいぼーん!』
『でも、ナナちゃん。私は、父さまの色のこの髪と瞳の色好きよ? だって、レクちゃんはこの金髪は秋の豊穣の色で、緑の瞳は深緑の色だって。褒めてくれるもの』
瞳を潤ませ、それでも必死に訴えるふぅ姉を鼻で笑う。
『褒めてくれたって、紐で縛るだけの髪型なんて寂しいわね。装飾品も流行遅れじゃない。レクは、新しく作ってくれないの? アンディールはこの珍しい宝石を、あたしのために買ってネックレスにしてくれたの。素敵でしょう? でも、ふぅちゃんは可哀想ね。レクに貰えないのね。まぁそうよね。ふぅちゃんは国から追い出されてここに舞い戻った、亡命者の奥さんだものね? あぁ、着のみ着のままで逃げ出したのね? 可哀想……私の服着る? 少し古いけどあげるわね? レクちゃんって、不甲斐ないわよね。甲斐性がないって、こういうことなんでしょう?』
と言いながら、顔を歪め笑う……愛しているはずの妻の醜悪な顔に、俺は愕然とする。
こんな顔をしていたのか?
いや、さっきの映像の俺やサディやミリアも……こんな顔をしていたのかもしれない。
「……醜いよね? 君たち」
父の言葉が、俺の胸をえぐった。
「明日以降に君たちを、南方のスティアナ領に近いところに送ることにしてるから。国庫を私的に流用した罪だからね。四人でがんばってね。マルムスティーン家とグランディア家からの援助はないよ。逆に本当なら、ルナの今までとこれからの養育費に、慰謝料を要求したいもんだ! 離婚もさせない。子供を捨てるのももってのほか。あぁ、可愛い息子と娘だもんね? そんなことはしないか……」
「でしょう」
「もう二度と会うことはない……それに、ルナには二度と会わせない。さようなら、ラズラエラル卿、その夫人とお子さんたち」
機械を片付けていたアルベルト兄が、喋り始めた。
「父がルナのアレルギー反応検査をした。ほとんどのアレルギー反応を起こすだろう食べ物、消毒用のアルコールなどにも強弱あれど反応があった。ちぃ兄が、知らなかったと泣いていた。すまない、もっと俺が見ていたらって……実の親じゃない、ちぃ兄が言ってるんだよ? それに、これから食事全般を細かく管理するって言っていたよ。元々は両親が知っていなければならなかったことだよね」
「……っ! す、すまない……」
「誰に謝ってるの? 僕は君とは関わりない人間だ」
そう言い残し、部屋を出て行ったその背を見送り、俺は頭を抱え、そして涙を流すしかなかった。
俺は、今まで、なんてことをしていたのか……。
いや、何もしなかった。
見ることも、手を差し伸べることも、笑ってやることも、誉めることも……頭を撫でることすら……名前を優しく呼ぶことだって……。
後悔……いや、もう遅すぎる。
自分たちのしたことのせいで、見捨てられたのだと思い知らされた……。
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