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始まりは多分お別れという意味なのですわ。

娘に拒絶された父親は、ちぃちゃんにぶん殴られる……ちぃちゃん目線

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 廊下で大声が聞こえたような気がし、息子達の手を引きやってきた俺は、廊下で呆然と立ち尽くす悪友兼七聆ななきの夫に声をかけた。

「どうしたんだ? アンディール……ん? おい、このノート、お前が破ったのか? ルナのノートじゃないか!」

 俺の手を離した千夏ちなが、真っ二つに破られているノートを拾い上げる。

「おじさん、ルナになんかしたのか? いつもいつもほったらかしにしてんのに、意地悪すんなよな!」
「はっ? ほったらかし? どういうこと? 千夏」
「父さんも知らないの? おじさんさぁ、サディとミリアには誕生日プレゼントとか、どっかにお忍びで出かける度にお土産買うんだけど、ルナに買ってこないんだぜ。毎回、彗おじさんが買うの。なのに、『ルナばっかり贔屓すんなよ、親父! 何で、サディとミリアには買ってやらないんだ!』『親父がそんなだから、あいつは可愛げがないんだ!』『もういい! じいちゃんに買ってもらえないなら、俺が買ってやる。何が欲しい? 買いに行くか』だって! 俺、何回かルナに『おじさんに言ってやろうか? なんならお前の代わりに殴るぞ』って聞いたけど、『良い』って。『もう諦めた』って」



 言い訳になるかもしれないが一応、俺は最近本職が忙しく、職場に詰めることが多かった。
 次々と国賓が訪れ、俺の仕える方が出迎え、挨拶そしていくつもの行事があったためである。
 俺の実家は別の街にあるため、従姉妹や七聆ななきの嫁ぎ先であるこの豪邸の一角に住んでいるので、夜勤以外はここに戻って休めるが、それでも毎日のようにどこで何があるかわからない。
 気を張り詰める仕事だ。
 それにこの屋敷は広大で、本邸に、別邸が九つ繋がった複雑な構成をしており、本邸に一番近いものの、時間が合う夕方以外は親戚と集まって食事もすることはない。
 俺は久しぶりの連休に、息子達だけでなく、今さっき会った姪を連れて遊びに行くつもりだったのだ。



「……どういうこと?」
「ルナ、『もういいんだ』って。『わたくしは、ミリアのように可愛くありませんし、サディお兄様のように優しくありませんし、小賢しく立ち回る小難しい奴だそうですから。お父さまもお母さまも、わたくしなんていらないんでしょう』だって」
「ち、違う!」

 首を振るアンディールを、頬を膨らませ睨みつけた千夏。

「何が違うのさ? おじさん、ルナがいてもいなくても文句ばっか! 褒めたこともないくせに! 何が可愛げがないだ! おじさんの方がルナみたいに可愛くも賢くも、優しくもないくせに! おばさんもおばさんだよね。なんで、ルナの頭も撫でないの? ルナって俺より年下だよ? 女の子だよ? サディばっか服整えて、ミリアの髪のリボン直して、『可愛いわ! よく似合うわ! 明日はこのワンピースね?』って言うだけ! ルナには全然近づかないじゃん! ルナの服選んだり、着せたり、髪を結んで整えてんの、うちのママやさーおばさんや、ルナのばあやさんじゃん! 最低!」

 怒鳴りつけた千夏は、手にしていたノートをめくり、あるページを広げると突きつける。

「ルナいったぞ? 去年からおじさんと話してないって……あ、あった! ほら見てみろ! ここに書いてる! 『わたくしはふだんから、お父さまとお母さまにいないようにあつかわれる。だから見てもらえるようにがんばろう』『勉強も頑張る、術の勉強も、術の種類だけじゃなく、術力の底上げと体力をつけないと、お父さまに追いつけない。お兄さまに追いつけたら褒めてくれるかな?』『もうちょっとかわいく、優しく生まれたかった』『兄を立てずに自慢げに術を見せるなんて、かわいげがないって言われた……かわいげがないって言われるの、もうなんかいめかな……』『今日が覚えてるだけで115かいめ。そんなにかわいくないなら、見るのも嫌なら、お前なんか生まれてこなければよかったって言って。もうあきらめたい』『お父さま達のけんかを見たら、見るもんじゃないって、初めてルナって呼ばれて怒られた。わたくしのこと、今度こそ見てくれるかも!』『もういやだ! なんでがんばってもおこられるし、怒られないようにと思ったらなまけてるっていうの? ミリアがまじめにしてるっていうの? わたくしだって頑張ったのに!』……俺、ルナをこんなに悲しませる、意地悪する、おじさんもおばさんも大嫌いだ!」

 怒りより悲しくなったのか、それを投げつけるとボロボロと涙を流しながら、千夏は走って行った。

「ふーかも、ルナちゃんいじめる、おじさん嫌い! うあーん! にーに!」

 風深も泣き出し、そう叫ぶと兄を追いかけて行く。
 頭を抱えて身を縮こまらせる姉の夫を睨みつけ、いつになく低く押さえつけられない感情を持て余したかのような怒りを込めた声で告げる。

「……父さんとじい様と兄さんを呼ぶ」
「えっ!」
「前に俺も言ったよな? 夫婦喧嘩は勝手だが、子供達は誰が面倒みてんだって! お前言ったよな? ちゃんとしてるだろって、どこがちゃんとしてんだよ! いい加減にしろ!」

 アンディールの襟元を掴み、引き寄せると、遠慮なく殴りつける。
 そして、本職もあり、大の男を片腕で吊り上げると、顔を近づける。

「お前の子供って何人だ? 二人か? サディとミリアだけなのか? 前にも何度か言ったよな? なんで四人で出かけてるんだって! ルナはどうしたんだって! 一緒に行かないのかって!」
「く、苦しい……」

 必死に首が絞まるのから逃れるように、俺の腕を掴み、身動きをする。
 服の袖の上からだが爪が立てられるのが嫌になり、ほんの少し手を緩め、宙吊りから解放する。
 しかし、襟元は掴んだまま揺さぶる。

「何が苦しいだ! こんなのより、ルナの方がずっと長い間辛い思いをしてきたんだ! お前、ルナに謝ったのか! 言い訳ばっかじゃないか!」
「だ、だから……サディは長男で跡取りだし……ミリアは四つになったばかりだし……」
「ルナは6歳になったばかりだ! 誕生日プレゼントは渡したのか?」
「あぁ! ちゃんと……」
「前の誕生日の当日には、彗兄たちとうちや親戚みんなで用意したプレゼントしかなかった! 彗兄に注意されたら、今度買いに行くって言ってたよな? いったのかよ! ルナ連れて!」
「……あっ……サディとミリア……連れて……ナナと……」

 みるみる青ざめる義兄弟に、俺はもう一発力任せに殴りつけた。

「……これでよくわかった。お前もナナも、9年前から全然変わってないってことを!」
「いてぇ……」
「俺は、もうお前とナナの尻拭いはしない。子供を平等に扱うのは難しいが、それでも、『うちの長男は素直、次女は可愛い、でも長女は可愛げがないんだよな』とか普通言うか? お前がそんなふうに両親に、妹たちと比べられたことあるか? 比べられて我慢できたか? 許せない! ちゃんとルナを可愛がれないお前たちと絶縁する! この家に一応仕事もあるからいるが、お前たちともう二度と顔も合わせたくない! ルナをいないように扱ったのと同じに、お前とナナをいないものとして扱うし、行動させてもらう! ルナは俺の娘にする! 二度と会わせない! お前の子供はサディとミリアだけなんだろう? これからもずっとそのままふざけてろ!」

 そう言い切ると壁に叩きつけるように手を離し、ルナのノートを拾うと子供達の後を追いかけたのだった。
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