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始まりは多分お別れという意味なのですわ。

ルナは俺にとって、可愛い可愛い姪なんだよな……ちぃちゃん目線

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 俺……千夜ちやはじい様から預かった設計図を置いていた私室に、姪のルナリアの手を引いて連れて行く。

 私室と言っても俺の寝室ではなく、俺の書斎兼書庫。
 隣は作業室がある。
 18歳の誕生日にと、大叔父が揃えてくれたものだったりする。

 一応俺は男だが、服飾デザインと装飾品のデザインを勉強し、最近は発表している。
 今は主に愛妻や子供達……ルナの分も含む……の服のみだが俺が手がけている。
 本職が忙しくなければ、そっちに集中したいが、俺は父さんやセイ兄に命令というか、頼まれて従兄の側に付いている。
 父さんは自分のしたいようにすればいいと言ってくれるが、セイ兄がなぁ……セイ兄は、従兄弟である俺の主人がめちゃくちゃ大好きだ。
 多分、従兄弟が女性だったら色々策略巡らせて囲い込んで、嫁にしていただろうと周囲がいうくらい、溺愛している。
 だから、一時期はセイ兄は結婚しないだろうと周囲は覚悟していたらしいが、義姉さんと出会い結婚できた。
 うん、義姉さんに感謝しかない。
 まぁ、セイ兄も従兄のことを除けばまともだ。
 今、セイ兄は、宰相補佐として忙しいらしい。



 貴重なものなので金庫に保管していた設計図を取り出し、ソファの前のテーブルに広げた。

「これがグランディアの水車の図面。こっちは小さい方だな。で、こっちは大規模になる」
「キャァァ! 素敵ですわ! モエモエしますわ!」

 きゃっきゃと水車の設計図を見て喜ぶルナ。

「素晴らしいですわ! あら、こっちは風車ふうしゃですの? それに、これは……まぁ! 低い土地から、水を汲み上げて高い場所に? 素敵!」

 目をキラキラさせて、何故かバッグから出した反故紙ほごがみの裏に数字を書き始める。

「……なにをしているんだ? ルナさんや?」
「えっ? これですか? ちぃちゃん。大きさを計算して、この大きさならどんな材料が必要か書き出しているのです。お金もかかりますし、でも、ケチってはすぐに壊れてしまうかもしれません。大おじいさまに確認して、これくらいの材料とお金が必要か計算して、OKをいただいたら、おじいさまやじーじに、お小遣いの前借りをお願いしなくてはなのです!」

 子猫のような大きく少しつり気味の目が、こちらを見る。

 普通、6歳の女の子がこんなものに喜ぶものか?
 お人形遊びとかおままごとはしないのか?
 それにまだ男なら、積み木とか知育玩具でも何かを組み立てるだろうが、ルナリアは積み木よりも一気に飛んで、水車と風車……。
 同じ漢字で風車かざぐるまとも違う。
 原理はほぼ一緒だと兄貴には言われたが、レベルや規模が違うだろう。
 それに、目の前のルナが手に持って遊んでくれるなら、俺は風車かざぐるまを作るぞ。
 うちの息子たちにも作ったが、それはそれは喜んでくれたもんだ。

 俺の息子の千夏ちな……そう、娘ではない。
 ルナより一つ上の第一子だから、俺の愛妻の一文字と俺の一文字を取ってつけた。
 下には、風深ふうか……またまた息子……本当は女の子が欲しいのだが、妻は子育てにてんてこまいでまだそこまで言い出せない……ちっ!
 まぁ、ルナが娘みたいなものかな……なんだかんだ言って、本当に可愛いんだ。
 どれくらい可愛いか、色々細かく説明したい!

 ま、まぁ、それはいいとして、俺の長男の千夏は正義感が強く、やんちゃ坊主。
 破壊活動に邁進まいしんしたい年頃のはずだが、騎士になるんだと竹刀しないを握って素振りをしている。
 えらいえらい、さすが俺と日向夏ひゅうかの息子だ。
 風深はまだ甘えん坊だが、兄とルナに懐いている。
 いいことだ!

 そういえば、千夏の一つ上のルナの兄のサディは、おっとりとした子(七聆ななき談)で読書や土いじりが大好き。
 破壊活動より、まだ庭で花を観察するのが楽しいらしい。
 4歳のミリアは、おしゃまだがおっとりしている(アンディール談)そうだ。
 一緒の館にすんでいるが、俺は仕事と私生活に忙しく、滅多に会うことはない。
 ……しかし、サディとミリアよ。
 二人のその言葉が本当なら、お前たちは誰に似た?
 絶対両親じゃないぞ?

 そしてもう一人の姪のルナは悪友というか、七聆の夫のアンディールに顔立ちだけは似ている。
 そう、正確には髪と瞳の色だけ、全体的にはアンディールのように性格の悪さの出た顔ではなく、品があり綺麗な顔立ちをしている。
 あぁ……本人が気にしている瞳は少々吊り目気味だが、気になったことはなんでも熱心に観察する様は、かえって子猫のようで可愛らしさすら覚える。
 本当は真面目で素直で、優しい子なんだ。
 今だって、目の前で嬉しそうにはしゃぐ姿は子供だと思う……持っているものは水車の図面だが。
 俺からしたらあの二人から生まれたにしては、良くできすぎた子供だ。
 兄貴に聞くと『とんびが鷹を産む』と言うことわざ通りだそうだ。
 なのに、どうして賭けをするのか……やっぱり父親が悪いんだな?
 くそっ! 変なことを教えたに決まってる!



 姪の将来を心配している叔父を尻目に、

「ねぇ、ちぃちゃん! これは、南の地域の開墾に使えませんか? 風車。ふーちゃんの旦那さんの地域は風が強いのでしょう? その風を利用するために作ってもらうのです! そうすれば生活が楽になると思うのですわ!」
「風車? 確か、あのスティアナのあたりは、風が強すぎて乾いた砂が吹き荒れて、無理だったとおもうんだが……」
「土の保水をすればいいのです。水を貯めておけるように風車で……」
「それが難しいらしいんだ。まず、川がないらしい。周りには木や草もほとんど生えない、乾いた土地だから。あぁ、俺はそういう知識には疎いから……説明したくても難しいんだ。だから、おおじいさまか、じい様たちに相談してみればいい。この設計図のこともお礼いわなきゃいけないだろう?」
「そうですわね! 行って参りますわ!」

嬉しそうに設計図の束を抱きしめ、くるくる回っていたルナは、右手の人差し指で、右耳に三つつけているピアスのうち、真ん中の黒い宝石部分を押し走り出した。
 普通の子供の速度ではない……大人の全速力である。
 
「ルナ! 廊下を走るな!」
「ごきげんよう! ちぃちゃ~ん。おーほほほ……」
「子供がオホホホなんて笑わないぞ!」

 ひらひらと手を振る姪を追いかけようかと思ったが、一緒に走れば自分が怒られる。
 ついでに言えば、ルナリアの本来の保護者は七聆とその夫。
 二人が怒られるべきだ……ため息をついた俺は、隣の居間から姿を見せた息子達に気がつき、順番に抱き上げたのだった。
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