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テーマは日常ではなく妖精世界の住人の国です。

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「まぁ!! 素敵!! 可愛いわ。琉璃はどんな色でも可愛いけれど、このオフホワイトの布を幾重にも重ねた、ふわふわのワンピースは特によく似合うわ」

 瑠璃の声に、えへへっと照れる。
 兄によって揃えて貰った洋服はお古でも、色褪せてもいない、琉璃の為だけに作られたドレスである。

 昔、養護施設にいた頃は、綻びた部分を繕い、何度も着ていた。
 それなのに……ここでは違う。
 モデル……というものは解らないが、琉璃が選んだり、家族が作ってくれたドレスがずらっと並んでいる。
 憧れていたレースのドレスもリボンも、全て琉璃のものだと言う。
 琉璃にとって昔から、可愛いものは夢でしかなく……その夢を叶えてくれた父や兄、亮が大好きである。

「あにょね? 琉璃、妖精しゃんになるの!!」
「そうなの? だからそんなにふわふわ可愛いドレスなのね」
「うん!! 皆に魔法をかけてあげるの!! 良いことがありますようにって!!」

 おもちゃのステッキを持って、クルクルっと回して、

「おばちゃまが笑ってくれますように……!! クルルリーン♪」

と呪文を唱える。

 琉璃は施設育ちの為、ぬいぐるみの光華しかいなかった。
 その為、承彦は元直達に説教されつつ、おもちゃやぬいぐるみを集め回った。
 その中で、数個のぬいぐるみとこのステッキ以外は、

「あにょね? おとうしゃま。琉璃がいたお家はね? おもちゃなかったの。皆にないの。だからね? 琉璃、この子達を向こうのお家にあげてほしいの」
「琉璃……?」

承彦は問いかける。

「どうして……そんなに気にかけるのかな? お前は、向こうの人達に……」
「あの前までは、皆、優しかったの!! 琉璃、大好きなの!! だから……おとうしゃま……皆におもちゃ……あげてくだしゃい」

 承彦はしばし躊躇い……最後には、

「解った。お父様がちゃんと、向こうのお友達に届くように、手配をしておこう。琉璃……お父様はこんなにも琉璃を娘として、誇りに思ったことはないよ」
「ありがとう!! おとうしゃま!! だいしゅき!!」

何だかんだ言いながら、承彦は親バカである。

「あぁ、瑠璃さん!! これはどうでしょう?」

 月英が持ち出してきたのは、純白のドレス。

「まぁ……ウェディングドレスではないの?」
「いいえ、琉璃のドレスと大まかな作りはそっくりなんです。でも、琉璃は広がったふわふわのスカート、これは、マーメイドドレスです。瑠璃さんのスタイルのよさを最も際立たせ、それでいて、繊細さと高貴さと、愛情に溢れた、まさに『女神ディーヴァ』にふさわしいかと」
「まぁ……お世辞を言うなんて」
「お世辞じゃありませんよ。着てみて戴けますか?」

 月英の言葉に微笑んだ瑠璃は、奥に入っていくとしばらくして戻ってくる。

「……メイクと髪の違和感があるのよ……」

 瑠璃の呟きに、

「大丈夫です!! 専属のメイクアップアーティストがいますから」

示されたのは均。

「はい!! 是非やらせて下さい!!」
「髪の方は私も手伝います。ご安心を」
「お二人共、アーティストだから安心だわ……あら? 琉璃は?」

 ドレスを着て、きゃっきゃと動き回っていた琉璃がいない。

「あぁ、琉璃は、はしゃぎ疲れて寝てますよ……ほら」

 月英は示す。
 ベランダで、琉璃を抱いてあやしているのか、亮が立っている。

「亮さんは、とてもいいお父さんになれそうね」

 微笑むと月英は、

「でも、亮は厄介ですよ? 完璧主義者ですし、人嫌いだし……明日も本当は出席拒否だったんです。でも、琉璃がおねだりしたでしょう? そのお陰で出席することになったので、良かったですよ。それでなくても、亮はまた海外を飛び回ってますからね」
「そう言えば、亮さんって、あの諸岡家の……」
「天才児です。まぁ……努力家でもありますが。何でもそつなくこなすので、周囲から浮いてますね」

首をすくめる。

「何かしていないと、気がすまないようです。なので、今のように琉璃を抱き上げて空を見てるなんて、見れるとは思わなかったです」
「そうなの?」
「えぇ。……サイズはピッタリだ。良かった……それに、マネキンじゃ分からなかったけれど、そのドレスのスッキリとした聖なる雰囲気と、母性溢れるナチュラルメイク……さすがは瑠璃さん!! あ、『貂蝉』さま……の方が良いですか?」

 瑠璃は微笑み、首を振る。

「私は、瑠璃として母親として出ていきたいわ。明日が楽しみね!! 私も、こんなにワクワクするようなお話初めてよ!! 嬉しいわ」
「本当ですか!! でも、親子で出ていくと、私が浮く……んですよね……」
「あら、そんなことはないわ。それに、私は貴方のように、優しくて頼りになる息子が欲しかったもの。ウフフ……一日だけとはいえ、こんなに素敵な息子がいるなんて……幸せだわ!!」

 瑠璃は、幸せそうに頰を染め微笑む。

「じゃぁ……息子……と呼ぶのも変ね? 月英さんと呼んで良いかしら? くんでも良いけれど、月英さんは昔、女の子モデルだったのでしょう? 確か、月花つきはなだったわよね?」
「……あぁぁ……知ってらっしゃったんですね。過去の汚点と言うか、恥ずかしい。当時の私は、高慢でわがままで……」
「あら、そんなことはないわよ? あなたのこと有名だったわ。人生の汚点どころか、周囲の何も解らずにやって来ました!! なので、多少の失敗許してね? 子供だもの!! って言う子達の中で一人、強い意思をもって、舞台に出ていこうとする姿……感心したわ!!」

 微笑む。

「まだ初歩を踏み出してさほど時も経たないのに、その強さ!! 羨ましいわ」
「あ、ありがとうございます!! 嬉しくて……照れ臭いですね」

 苦笑する月英に、瑠璃は嬉しそうに、

「琉璃が……とても心配だったの……。あの子をどうしても連れ出したいと願っても、ダメで……しかもあの事……合わせる顔がないと思った。会長や月英さんのお陰だわ!!」
「私じゃなく、亮が連れてきたんですよ。雨の中、あのぬいぐるみを抱いて泣くのを堪えていたそうです。で、話しかけると泣きじゃくって……おばちゃまに会いたい、会いたいよ……って」
「……っ!」

瞳が潤み瑠璃は涙を拭おうとすると、月英がハンカチを差し出す。

「あ、ありがとう。私の……事を」
「えぇ。とても……」

 月英は微笑む。
  
「だから……お願いします。一日だけでも良いので、琉璃のお母さんになってあげて下さい。琉璃は言葉は舌ったらずですが賢く、とても周囲に敏感な子です。とても可愛い妹なんです。なので……お願いします」
「えぇ、私にとっても……琉璃は私の大事な娘。絶対に誰にも奪わせたりしないわ!! もう二度と……悲しい目に遇わせたりしない!!」

 瑠璃の声は静かに広がっていった。



 翌日、姿を見せた7人は、特に月英と琉璃、瑠璃は揃って妖精の衣装である。

「おーい、月英兄さん……それはそれでイタイんだけど……」

 均の声に、

「仕方ないだろ!! 私だって恥ずかしいんだ!!」

月英は男装ではなくドレス姿である。

「仕方なくだ!! 気にするな!!」
「にーしゃま綺麗なの~!! しゅごーい!! 琉璃も、もっと綺麗になゆ!!」

 感心する琉璃に、怒ることも出来ず苦笑する。

「ありがとう。でも、琉璃の方がもっと素敵だよ? 本当の妖精さんだ」
「本当? 琉璃、妖精しゃん!? わーい!!」

 はしゃぐ琉璃に、

「皆、準備はできたかな……?」

顔を覗かせた承彦はほぉぉ……と感嘆のため息を漏らす。

「素晴らしい!! 妖精界の女王と妖精たちがいるではないか!! こんなに素晴らしいものはそう見られない!! 素晴らしい!!」

 素晴らしいを連呼するのは、言葉をなくしているらしい。

「そんなことは……」

 頬を染める瑠璃に、手を差し出す。

「では、年寄りで申し訳ないが……女王陛下、お手を……」
「ありがとうございます。妖精王陛下」

 承彦はクスッと笑う。
 承彦も白い衣装ではないが、所々3人と同じ生地を用いたベストやハンカチ、ネクタイピン等を上手く使っている。

「では……参ろうか」

 いささか勿体ぶって歩き出した。
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