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ブランド立ち上げで、光来財閥もファッション業界に進出するようです。

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 すよすよと寝入っていた琉璃だが、夕食の時間だと起こされ、亮に手を引かれて食堂に向かう。

 琉璃は知らないが、この屋敷には大小二つの食堂があり、家族や親しい人との語らいに適した小さい……と言っても、20人が充分くつろげる空間でもある。
 食堂に入ると、義父になった承彦が穏やかな顔で、隣に座る女性と語らっている。
 服装は、清楚で上品……その上……、

「る、瑠璃おばちゃま!!」

振り返った美女は目を見開き、口を覆う。

「りゅ、琉璃!!」
「おばちゃま!!」

 てててっと駆け寄ると、抱き付く。

「おばちゃま……おばちゃま……ふああぁぁぁぁん!!」

 泣き出した琉璃に、こちらも泣きながら、

「ごめんなさい……ごめんなさいね……おばちゃまのせいで……」
「ちあうもん!! りゅーりはおばちゃまに会えなかったから、寂しかったんだもん!! おばちゃまのせいじゃないもん!!」

何度も首を振る琉璃に、

「良かった……嫌われたら……」
「りゅうり、きやわないもん!! 瑠璃おばちゃま、大しゅきだもん!! でも……おばちゃま……どうしてここにいゆの? もしかしゅて、りゅうりのせいで……」
「貴方のせいじゃないの。……夫と別れる事にしたのよ」

瑠璃は、モデルの『貂蝉ちょうせん』としての凛とした姿でなく、一人の女性として儚げに微笑む。

「おばちゃま……?」
「あの人……愛人との間に息子が生まれたのですって。しかも相手は夫のある人……呆れてものが言えないわ……」

 哀しげに目を伏せる……仕事上では『ディーヴァ』という別称を持つ程、世界でも有数のモデルでオペラ歌手としても活躍しており、伏せ目がちの表情の妖艶な写真が多いが、この悲しげな顔程辛いものはない。

「で、離婚の話になると、私が切り出したことだ、勝手に出ていけ。家のものは全て自分のものだって……こういう訳なの……琉璃のせいではないわ」
「おばちゃま……」

 琉璃は背伸びをして、ぎゅっと抱き付く。

「りゅうりは、おばちゃま大しゅき!! だから……今日は一緒に泣いて……明日はお出掛けなの!!」
「お出掛け……?」

 キョトンとする瑠璃に、承彦が、

「あぁ、明日は、会社が株の殆どを所有している遊園地を貸しきりにして、会社の社員の家族や、お得意様の方を招待しておるのだよ。琉璃はキャラクターたちと手を繋いだり、写真を撮るのだとワクワクしているらしい」
「まぁ、それは素敵ね!! 琉璃」
「おばちゃまも行こう? りゅうり、め、メリー……んとメリーランド? に乗りたいな!!」

琉璃の声に、

「あぁ、お馬さんに乗るの? 馬車?」
「お馬さんは亮おにーしゃん!! 白いお馬!! でね、りゅうりは、んと、馬車!!」
「え、私!?」

急に名前を呼ばれ、驚く亮に、席についていた月英と均は、忍び笑う。

「白馬!! 白馬だって……」
「あの無表情で、乗るの? 大丈夫かな?」
「うるさいな!! こそこそどころか堂々と話すなよ!!」

 亮は琉璃に微笑む。

「んっと……琉璃? 白馬に乗れるのは、王子さまか王様だから……お父さんに乗って貰おうか?」
「……っ……」

 うるうると瞳を潤ませ始めた琉璃に、

「だ、大丈夫だよ!! お、お兄ちゃんやっぱり、乗るよ!! でね、琉璃を見ててあげる」
「ほんとぉ?」

すんっと息を吸った琉璃に、

「うん、約束」
「わぁぁい!! お兄ちゃん大しゅき!!」

亮に抱きつく琉璃に……遠い目をした月英は、

「おい、均……お前が教えたのか? あのタラシ言葉」
「そんなはずはないよ……でも、凄い威力だね……あの兄様を上手く手玉にとれる……小悪魔!?」

 バンバン!!

「月英!! 均!! 下らぬことを言っていないで、食事の席に移りなさい」

承彦は微笑む。



 まだナイフとフォークも違いが解らない琉璃に、亮が横に付いて教えつつ、口に運んであげたり、汚れた口の回りを拭いてあげている。
 そして、瑠璃と共に語らいつつ、瑠璃の仕事について、承彦が新しい事業について話している。

「まぁ……!! 琉璃のブランドを? 素敵ですわ!! もしかして、今日の衣装も?」
「そうなのだよ。ブランド名は『LIULI』と言う。琉璃の子供服と言うのも良いかもしれないが、少し、月英が悩んでおるのだよ」
「そうなのですか? とても素敵なのに……」

 瑠璃は、月英を見る。
 駆け出しのデザイナーでもあり、小さい頃からあちこちのショーを見に行ったり、一時期は少女モデルとして活動してきた月英にとって、瑠璃は尊敬するモデルであり、お近づきになることすら躊躇う大きな存在である。
 緊張しつつ、月英は、

「は、はい。琉璃はモデルと言っても私の妹ですから、厳しいモデルの世界に入れるのは躊躇うんです。それに……私はショーに入れてほしいと頭を下げることはせず、私のブランドで、ショーを成功させたいと思います。ですから、琉璃……子供服……だけでなく、女性服に紳士服もオールマイティーに展開していきたいのです」
「え? でも、それは……」
「母と娘のペアと言うのはありますが、私のブランドのコンセプトは家族です。琉璃が娘なら、父、兄である私に母を。家族で揃いすぎはおかしいでしょうが、もし、琉璃の今日の衣装も、七分丈のパンツの、裾をおった部分の布で、私がラフなシャツを。と言う風に。高級ではなくても良いんです。カジュアルさと清潔感、そしてちょっとお出掛け……とかも考えているのです」

瑠璃は目を丸くすると、見たこともない可愛らしい笑い顔になる。

「何て素敵!! 家族で、ピクニックに行こう!! とか、バッグや帽子、小物も揃えるのも良いと思うわ。私……あぁ、私、お母さんモデルになりたいわ!! 専属の」
「えっ!? 『貂蝉』さんが!! お、恐れ多いです!! で、でも、あぁぁ……瑠璃さんとして……琉璃のお母さんとして出てこられると、とても母性的で親子!! 二人のデザインが描きたい~!! あ、あのあの!! この場で言うのも嫌かと思いますが、私はそんなに報酬は……トップモデルである貴方のご存知な、あぁ言う世界では異端になると思います。でもきっと……将来は!!」

 拳を握る月英に、

「良いのよ!! 私も、ちょっと楽しみなのよ」

パチンッとウインクをして、微笑む。

「私は、そんなに高いだけで気持ちのこもらないドレスは嫌いなのよ。ショーでは服が主役なの。それなのに、服よりもモデルの顔や足を見ているようでは駄目。そして、今回は逆に服と家族がコンセプト。とても良いと思うわ!!」
「瑠璃さん……」

 感動する月英に、

「じゃあ、琉璃? 明日着るお洋服を見せて貰いましょうね? おばちゃまも似たような雰囲気のカジュアルな格好で、遊園地に行きたいわ」
「わぁぁ……!! 嬉しい!!」

嬉しそうな琉璃だが、おやつのプリン・ア・ラ・モードが、口の回りに付いている。
 亮が拭くのだが、大好きな瑠璃とお出掛けのお話に夢中らしい。

「琉璃? ちゃんと食べないと、大好きなプリンが美味しくなくなるよ?」
「あ、ごめんなさい!!」



 賑やかに…楽しげに、日は更けていくのだった。
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