上 下
2 / 22

テーマパーク行きたいな~。

しおりを挟む
 琉璃は、養子縁組をして正式に光来家の娘となり、数日間はゆったりと過ごす筈だったが……。

「こら!! 月英!! 何をしておる!!」
「着せ替えですよ!! 着せ替え!! ほら、いらっしゃい。お姉さんがしてあげるから」

 琉璃は半泣きになる。

 昨日まで解らなかったのだが、月英はデザイナーや、機械工学、そう言ったもの作りの天才で、琉璃の全身のサイズを見ただけで理解し、確認の為にとベタベタと触った。
 嫌いではないが、余り人に慣れていない琉璃には怖いのだ。

「月英兄さん!! やめてあげて。それ以上すると琉璃が泣くし……」
「亮に殺されるぞ?」

 均と元直の一言に、ピタッと動くのをやめる。

「……まだ死にたくないし、止める」
「何を止めるんです?」

 現れた亮に、てててっと駆け寄るとしがみつく。

「お、おにいしゃま、お帰りなしゃい!!」
「ただ今、琉璃」

 腰を屈め微笑むと、涙目の琉璃に気がつく。

「どうしたの? 誰かに苛められた?」
「ううん……」

 本当のいじめを知っている琉璃は、首を振る。

「じゃぁ……」
「月英兄さんが、服のサイズを図るってベタベタと触ってました!!」

 はーいと手を上げ、均は答え、元直も、

「もう少し、お嬢様に気を使えるようになって欲しいものだ。兄なのだから……」

と、苦言を呈する。

「月英?」
「だってな!? 琉璃は可愛いじゃないか!! しかも、私の妹!! 妹には可愛いドレスを着せたい!! 全身コーデは、可愛い可憐なピンクのフリフリワンピース!! ヘッドドレス!! 革靴に、腕を隠す長めのレースの手袋に、靴下は膝丈!! あぁ、何て似合うんだ!! 本当は、黒か紺のワンピースでエプロンドレスで……メイドを……」
「月英?」

 亮の声に、

「す、すまん!! でも究極の夢なんだ!!」
「そんなアホな夢を、琉璃に押し付けないように!!」
「いーだろー!! お前が兄貴じゃないんだ!! 兄である俺が、遊んで何が悪い!!」

自慢げに言い放った月英を元直が、ぱしんと頭を叩く。

「兄だからこそ、そういう妄想を妹に反映させるんじゃない!!」
「おい、元直。お前、私よりも年下なのに、年上の頭を殴るな!!」
「主の息子だろうが、年上だろうが、常識外の行動をする者をたしなめるのが仕事!! 私は仕事に忠実!!」

 美声の持ち主の発言に、その後ろで均は、

「とかいって、元直兄さんだって、さっき伯父さんに怒られてたでしょ?」
「うっ……」
「何をしたんです!? 元直兄」
「いや、変なものは教えてない。お嬢様が無造作に虫を掴みかけて、咄嗟に……」

元直の声に、

「全く……お前達は、困ったの……おいでおいで」

承彦の呆れた口調に、月英は、

「父上こそ、琉璃が可愛いからって、家の秘蔵のエメラルドやサファイア、ダイヤモンドで幾つも装飾を作るんだ!! とかいって、琉璃に『どれが良い?』って、ざらざらと石を広げてたじゃないか。元直が、ピンクサファイアで、無難に小さなピアスにプチネックレス、ブレスレットを選ばなかったら、ルビーにトパーズその他もろもろで、全身コーデしようとした癖に!!」
「いやぁ……可愛いから」

真顔でのろける義父に、

「あにょ……おとうしゃま。琉璃はきらきらより、おとうしゃまにもやったワンワンのぬいぐゆみでいいでしゅ……んと、んと……お洋服も一杯で、琉璃は着られなかったら……」
「良い良い。あれは、月英の会社のデザイナーたちの試作品……と言うよりも、琉璃のように可愛い娘が着るからこそ、デザイナーは色々とデザインを考えていくようになる。琉璃は月英の会社専属のモデルのようなものだよ。あれこれ楽しんでご覧。琉璃が選ぶものを皆は注目する。で、自分勝手に作ってきたデザイナー程、自分のものが選ばれなかった理由を考えるようになる」

琉璃は首を傾げる。

「んと……琉璃がえりゃぶお洋服で、琉璃は可愛いお洋服がきやえて、お洋服を考えるおにいしゃん達は、もっとがんばゆ……でしゅか?」
「そうそう。琉璃は賢いの。いった通りじゃ。そうすることで、お兄さん達は今回のお洋服のどこがおかしいのか、琉璃に聞いてきただろう?」
「あい。あにょ、重いにょよりも、うごきやしゅいのがいいでしゅ」

 琉璃は自分を束縛する鎧のような服は嫌いらしく、月英は必死で訴える妹のつたない説明を聞き取り、それを自分でデザインしたり、会社のデザイナーと作り手と共に相談しつつ幾つか作らせている。
 今日は、王道のセーラー服に、膝より少し下の7分丈のパンツルック。
 帽子も、靴も揃っていてマリンコーデである。

 昨日は、窮屈そうだったフリフリヒラヒラで、固い生地のもので、わがままなどは言うはずはないが、少々窮屈そうだったものよりも、シンプルさが余計に可愛らしい。

 少年風だが、所々リボンが付いていたり、胸元のフェイクのポケットの縁のロゴもいつの間にか『LIULI』と言うブランドロゴが付いている。
 可愛がるだけでなく、この可愛い妹を、ブランド専属モデルとしてニューブランドを展開させるらしい。

 まぁ、それが似合う程、琉璃は美少女である。

 CMなどよりも、色々な仕事関係のパーティに連れていったりする方が、ブランドの価値は上がる。
 まぁまだ、琉璃は家に慣れていないし、じっくり勉強もあるが、息抜きとしてテーマパーク等につれていき、貸し切りにして思いっきり遊ばせてやりたい……これが本心である。

と、そういえば……と振り返ると、

「あ、そうじゃ!! 琉璃? 明日、ある遊園地を借りきって、亮の兄弟達や親族、そして家の会社の社員の家族とで、パーティを開くつもりでの? ジェットコースターとか観覧車にメリーゴーラウンドや、沢山の遊具で遊んだり、お菓子を食べたりしようと思っておるのだが……どうかの?」
「遊園地!!」

琉璃は目を輝かせる。
 施設で育った為、時々出掛けても遊具のある緑地公園が精一杯で、テレビで見ていた施設は夢だった。

「そこは、家が株をほとんど所有しているのでな? 明日は前から決まっていた上に、パーティ形式となっているので、少しは窮屈かもしれないが、亮と均がおるから……どうかの?」
「えっと……い、行きたいでしゅ!! んっと、お人形……いましゅか?」
「お人形……あぁ、テーマパークのキャラクターかの? おるぞ?」

 着ぐるみらしい。

 すると父親に抱きつき、

「おとうしゃま!! ありがとうでしゅ!! 琉璃は、すごく、しゅごーく嬉しいでしゅ!!」
「私も、大好きだよ。じゃぁ、琉璃? 少し遊んでおいで」
「あい!! いってきましゅ!!」

ちゃんと頭を下げると、守役になった均が、

「待って。お兄ちゃんと行こう。庭に、ブランコがある。遊ぼうよ!!」
「あ、あい」
「あ、でも、しんどくなったら止めるんだよ? いい?」

二人は手を繋ぎ歩き去っていった。



 音もしなくなったのを確認すると、亮が口を開く。

「調べてきました。琉璃は黒河備くろかわそなえの前妻の生んだ娘で、黒河が仕事関係のことで借金をする時、借りた会社が娘を嫁にするならと言われ、身ごもっていた奥方を追い出したようで……で、生まれた後、母親は事故死……不審死ですが、裏で手を回し揉み消したとか……」
「むぅ……」

 声は平坦だが、かなりこれは怒っている。

「で、琉璃が瑠璃おばさんと呼んでいる方は、備産業の副社長である関雲長かんうんちょうの妻で、瑠璃殿。琉璃の母親の親友だそうです」
「瑠璃……って、どこかで聞いたことがある……」

 呟いた月英に元直が、

「モデルの貂蝉ちょうせんどのですね。年齢を越えた美貌の主……ミスユニバースに優勝したり、家庭のこともおろそかにせず、私生活は極秘……と言うか、ご本人は公表しても良いと思っているらしいですが……夫の浮気や娘の教育問題で夫との仲は険悪なようですよ」
「よく調べられたな、お前……そこまで……」
「人脈がありますし」

元直が澄まし顔になる。

「そうか……瑠璃どのにも、来て貰おう!!」

 そそくさと携帯電話を操作し、電話を掛ける。
 すると、さほど時間もなく、

『はい。瑠璃ですが……? お久しぶりですわ。光来会長』
「あぁ、久しぶりだ。今は時間はあるかの?」
『はい。大丈夫ですわ』

落ち着いた風を装っているものの、声が震えている。

「……何かあったのか? 瑠璃どの。心配事や相談があれば、聞くが? それとも、家の執事をそちらに送ろうか?」
『……お願い、できますか……?』

 震える声に、尋常ではないと承彦は、

「元直、亮。これから住所を言う、そちらに向かって車を……」
「かしこまりました」
「いって参ります」

二人は姿を消す。

「今、そちらに秘書と諸岡亮を送ったので、しばらく待ってほしい……大丈夫か?」
『ありがとうございます……大丈夫ですわ……』

 泣いているのか、声も濡れてくる。

「大丈夫。待っておいてくれ」

と告げると、

『はい。本当にお電話……ありがとうございます……心が折れそうで……でも、承彦さまの声で……ほっとしましたわ……』
「それは何より。ん? 到着したようだの。一人は長身の亮。もう一人が秘書の元直だ」

騒々しい物音や罵声が響いていたものの、やがて、

『失礼します。任務完了しました。瑠璃様をお連れいたします』

と言う声に、

「そうか。こちらで、手を回し、その屋敷にあるあらゆるもの、貴重品は全て差し押さえの連絡済みとお伝えして、こちらにお連れしなさい」
『かしこまりました。では……ありがとうございます。お貸し頂き感謝いたします。では、参りましょうか?』



 琉璃は大事なぬいぐるみの光華を抱き、均と一緒にブランコで揺れていた。
 ベンチ風の揺ったりとしたブランコで……眠くなりうとうとし始めるのを、均は支えると微笑む。

「良かった。今日は探検と、月英兄さんのおもちゃで疲れたでしょ。休めばいいよ」

 すると、

 親馬鹿な承彦が、特別に業者に作らせた遊具がよく見える回廊を、兄が腕に女性を抱き上げ、元直の後ろをついて歩いている。

「兄さん? どうしたの?」
「お客様。調子を崩されているから……。均。琉璃も本調子じゃないから気を付けて……」
「はーい。もうすぐ寝ちゃうから、つれていくよ」

 均は、ウニウニぐずる少女を抱き上げ、琉璃の部屋に連れていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

処理中です...