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現在(いま)のために出来ること
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身体中が重かった。
ううん、私は上から見ているのだから、もうすぐ死んでしまうのだろうと思っていた。
なのに、貴方は私を抱いて連れて行ってくれた……見たこともない世界に。
「申し訳ございません! わざわざクルス侯爵閣下がお越しくださるなんて……」
「いいよいいよ。全く気にしてないし、逆にあのヤンチャ坊主が『俺に恩を売ったと思っていいので、よろしくお願いします!』って言ったくらいだもん。で、この子?」
「はい。お……僕の恋人です。どうか……」
どうして、私のために頭を下げるのだろう……。
なぜ、私なんかのために……。
「おや? これは、自己評価の低い眠り姫だね……その辺りから直さないと、目を覚ますつもりはなさそうだよ?」
「えっ?」
その言葉に驚き、そして私がいるのが分かったのか、じっとその森林の樹々のような緑の瞳でこちらを見つめてくる。
「お嬢さん? 『私なんかのために』なんて言うものじゃないよ? ヒースがどれだけ努力したと思うの? 普通は五年かかる館での授業を2年で卒業したのは3組目。それから王都の学院は世界中でもトップレベルの最難関の学校だよ。こちらはまだ卒業はしていないけど、在籍しつつ就職できる……それだけ有能なのは、そのなかでもほんの一握りだ。それも全て自分のためだけじゃない、君とのため……二人のためだよ?」
長く伸びきった……色あせた髪の間から、クルス侯爵閣下という人とヒースを見る。
ヒースは分からないだろうが、閣下の目線を感じ取り、私のいるところを見つめてくれている。
わかっていたけれど、5年の間会うこともなかった私たちは、すっかり変わっていた。
ヒースは面影はあるけれど背は伸び、肩幅もがっしりして、声も低くなっていた。
痩せているとは言え、人一人軽く抱き上げるくらいだ。
力もついているのだろう。
逆に私は身長も伸びず、痩せていて貧相だ。
ぎょろっとした瞳と、色あせた白っぽい髪。
くたびれた、つぎの当てられたサイズの合わない服。
こんな格好を人に見せるなんて……。
「えっとね? 服なんていいんだよ? 服くらい、おじさんがいくらでも買ってあげるから。それより、そうやって身体から離れてみーみー泣くと、身体に負担がかかるから、戻りなさい」
「服くらい俺が買います!」
「そんな独占欲出す前に、この子のメイドと護衛をつけてくれと言ってきなさい!」
「えっ……わぁぁ!」
急に扉が開き、巨躯ではないがまだ成長期のヒースの身体が飛んで消えた。
「じゃぁ、話は戻すね? 君の名前を聞かせてくれるかな?」
私の名前……?
考え込む。
ヒースが呼ぶ名前でいいのか?
村の人が呼ぶ名前か……。
「そこからか……じゃぁ、住んでいたところで呼ばれていたのは?」
おい。
役立たず。
ごくつぶし。
ちび。
黙ってろ。
思い出しながら答えると、温和そうな顔がしかめられ、ため息をついた。
「それは名前じゃないよ。悪口。もう忘れなさい。ヒースに呼ばれた名前は?」
エルヴィです。
「それは素敵な名前だね。じゃぁ、エルヴィ。君は疲れているようだ。身体に戻ってゆっくり休みなさい。目が覚めたら、新しい世界になっているよ」
くいっと自分が引っ張られる感覚とともに、一気に眠気が襲った。
「お休み……」
額を撫でられる感覚に、久しぶりだな……と思いながら意識は深く深く沈み込んだ。
ううん、私は上から見ているのだから、もうすぐ死んでしまうのだろうと思っていた。
なのに、貴方は私を抱いて連れて行ってくれた……見たこともない世界に。
「申し訳ございません! わざわざクルス侯爵閣下がお越しくださるなんて……」
「いいよいいよ。全く気にしてないし、逆にあのヤンチャ坊主が『俺に恩を売ったと思っていいので、よろしくお願いします!』って言ったくらいだもん。で、この子?」
「はい。お……僕の恋人です。どうか……」
どうして、私のために頭を下げるのだろう……。
なぜ、私なんかのために……。
「おや? これは、自己評価の低い眠り姫だね……その辺りから直さないと、目を覚ますつもりはなさそうだよ?」
「えっ?」
その言葉に驚き、そして私がいるのが分かったのか、じっとその森林の樹々のような緑の瞳でこちらを見つめてくる。
「お嬢さん? 『私なんかのために』なんて言うものじゃないよ? ヒースがどれだけ努力したと思うの? 普通は五年かかる館での授業を2年で卒業したのは3組目。それから王都の学院は世界中でもトップレベルの最難関の学校だよ。こちらはまだ卒業はしていないけど、在籍しつつ就職できる……それだけ有能なのは、そのなかでもほんの一握りだ。それも全て自分のためだけじゃない、君とのため……二人のためだよ?」
長く伸びきった……色あせた髪の間から、クルス侯爵閣下という人とヒースを見る。
ヒースは分からないだろうが、閣下の目線を感じ取り、私のいるところを見つめてくれている。
わかっていたけれど、5年の間会うこともなかった私たちは、すっかり変わっていた。
ヒースは面影はあるけれど背は伸び、肩幅もがっしりして、声も低くなっていた。
痩せているとは言え、人一人軽く抱き上げるくらいだ。
力もついているのだろう。
逆に私は身長も伸びず、痩せていて貧相だ。
ぎょろっとした瞳と、色あせた白っぽい髪。
くたびれた、つぎの当てられたサイズの合わない服。
こんな格好を人に見せるなんて……。
「えっとね? 服なんていいんだよ? 服くらい、おじさんがいくらでも買ってあげるから。それより、そうやって身体から離れてみーみー泣くと、身体に負担がかかるから、戻りなさい」
「服くらい俺が買います!」
「そんな独占欲出す前に、この子のメイドと護衛をつけてくれと言ってきなさい!」
「えっ……わぁぁ!」
急に扉が開き、巨躯ではないがまだ成長期のヒースの身体が飛んで消えた。
「じゃぁ、話は戻すね? 君の名前を聞かせてくれるかな?」
私の名前……?
考え込む。
ヒースが呼ぶ名前でいいのか?
村の人が呼ぶ名前か……。
「そこからか……じゃぁ、住んでいたところで呼ばれていたのは?」
おい。
役立たず。
ごくつぶし。
ちび。
黙ってろ。
思い出しながら答えると、温和そうな顔がしかめられ、ため息をついた。
「それは名前じゃないよ。悪口。もう忘れなさい。ヒースに呼ばれた名前は?」
エルヴィです。
「それは素敵な名前だね。じゃぁ、エルヴィ。君は疲れているようだ。身体に戻ってゆっくり休みなさい。目が覚めたら、新しい世界になっているよ」
くいっと自分が引っ張られる感覚とともに、一気に眠気が襲った。
「お休み……」
額を撫でられる感覚に、久しぶりだな……と思いながら意識は深く深く沈み込んだ。
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