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引きこもり竜が穴蔵からおいだされるかもしれません。

ようやく、あの有名な義侠兄弟の登場です!

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 帰ってきた妻子の文句ではなく、共に行っていた武将から聞かされた報告に、劉景升りゅうけいしょうは怒り狂う。
 嫁は居丈高な態度で黄承彦こうしょうげんに話しかけ、息子は息子で酒を飲み、臭いをプンプンとさせながら行ったのだという。
 その為、余計に黄承彦の機嫌を損ねたのだ。

 先程は明日宮城に来ると言っていたが、それも断られたというのである。
 どれ程機嫌を損ねたか、考えるのも恐ろしい。
 謝りにいけと言って追い出したと言うのに、益々悪化させてどうするのだろうか。

「どうすればいいんだ! 今から私が謝罪に……」
「私が参りましょうか?」

 声が聞こえ、現れるのは劉玄徳りゅうげんとくである。

「まだ帰ってなかったのか! そなた!」
「帰ろうとすると、道は迂回、門にたどり着いても出して戴けなかったので」

 それ位も解らないのかと言わんばかりの態度に、劉景升はムッとする。

「で、そのお屋敷は?」
「出ていったら解るわい。この嫁と馬鹿息子がやりたい放題したお陰で、当主の息子が侵入者対策をしまくった、奇っ怪な屋敷になっておるわ」
「あぁ、あの玄関に獣の置物がある屋敷ですね? では、行ってみます」

 玄徳は、部屋を出ていこうとする。

「な、何かあっても、責任はとらんぞ」
「解ってますよ。では」

 出ていった背中に、チッと舌打ちをし、いまだに文句を垂れる嫁と酒臭い息子を怒鳴り散らしたのだった。



「おい、雲長うんちょう益徳えきとく。行くぞ」

 玄徳の言葉に、二人が立ち上がる。

兄者あにじゃ、急にどちらに?」

 長く艶のあるひげを撫で付けながら、問いかける長身で細い目で赤い顔の大男。
 その隣はギョロっとした大きな目の、虎髭男。
 身長は髭男よりも低いが、孔明こうめいとほぼ同じ位の身長に、全身は筋肉質でがっしりとしている。
 二人よりも低いものの、一般人よりも高い玄徳は、二人を見る。

「この襄陽じょうようの混乱を作った大豪商に会いに行く。着いてこい」
「この、混乱を作った者を罰するのですか?」
「えっ? 殺して良いのか? で、金を奪い取る!」

 虎髭男を、玄徳が殴り飛ばす。

「馬鹿か? お前は。私は会いに行くと言った筈だ、聞こえなかったか?」
「悪かった、玄徳兄げんとくあにぃ。暴力反対」
「馬鹿には馬鹿に対する教育をする」

 キッパリと言いきる玄徳に、雲長は苦笑しながら、

「会いに行ってどうされますか?」
「ん? 会いに行き、私のことを覚えて貰う。それと、できれば繋がりを持ちたい。確か、黄承彦は胡人こじんの血を引いた息子が跡取りらしい。あの役立たずの破鏡はきょうがいれば、同じ容姿で近づけたかもしれんが、あれは捨て駒だ。仕方がない。まぁ、ただの強欲な商人だ。こちらが下手に出て、めかけの娘を一人差し出しても良いな……中原ちゅうげんには、ある程度の情報が得られる商人どもがいたが、ここまで下ると縁がないと兵士達を育てられない。徐州じょしゅうにいた頃は糜家びけの財があったが、今では底をついて、ただの取り巻きになってしまったからな……淑玲しゅくれいがいなければ……切り捨ててやってもいいんだがな。……淑玲が泣くし……子仲しちゅうは役に立つし……」

ブツブツと呟く。

「それよりも、この前逃げた時に、かんの……絳樹こうじゅの娘が二人共、曹孟徳そうもうとくに奪われたのが痛いな。あれは、仮にも正妻として待遇を与えているのだし……娘も10を越え、嫁に出してもおかしくない年になりつつあったのに。勿体ない駒を無くした……残念だな。そうだ」

 玄徳は顔をあげると、義弟雲長を見上げる。

「雲長。お前の娘を出せ。嫁に」
「あ、兄者! 驪珠りしゅはまだ10になっておりません! 嫁に出すつもりはまだありません!」
「ちっ。では、益徳……」
「この前かっさらった、夏侯妙才かこうみょうさい夏侯淵かこうえん)の姪はオレの嫁だ。いくら兄ぃの命令でも渡さんぞ」

 益徳は、ブンブンと首を振る。

「ちっ。兄を助けようという優しさはないのか? このっ!」

 舌打ちをしつつ歩き出す。

「まぁ良い。ここには有名な水鏡老師すいきょうせんせいと言われる老師の塾があり、弟子たちはあちこちの州牧しゅうぼくの参謀、政務官として仕えていると聞く。その老師の育てた中でも、最高の弟子をこの手に入れるのだ。そうすれば、曹孟徳に遅れをとることはなくなる。まずは、黄承彦から攻略していこうか……」

 含み笑いを一瞬にして隠した玄徳は、二人の義弟を促し歩き出した。
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