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始まりの始まりはいつからか解らない、とある一日から。

仕返しは笑顔でやりましょう。その方がキます♪

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 翌日、何台もの荷車や働き手が次々と現れ、あれよあれよという間に、破壊されている母屋の瓦礫がれきを運び去り、その場に何かを建て始める。
 そして、敷地中の小屋等の点検をし始め、朝から畑に出ていった孔明こうめいは兎も角、3人は居心地の悪い思いをしていたのだが……。

「お嬢様のお越しです!」

と言う声に紅瑩こうえい晶瑩しょうえいきんが離れから出ていく。

 立派なくるまが近づき、止まる。
 そしてゆっくりと降り立ったのは、見惚れる程の美貌の女性。
 淡い茶色だろうか、明るい色の髪はキラキラと日の光を跳ね返し、瞳も明るい茶色で、くりくりとしていて可愛らしい。
 女性用の正装は華やかで、特に均はうっとりとする。

「おはようございます。皆様」

 優雅に挨拶をした美人に、恐る恐る頭を下げる。

「初めまして」
「あら、昨日お会いしましたのに」

 扇で口を隠してにっこりと笑う……と、

「孔明、どこにいやがる! お前、こんな自由奔放と言うより、女性一般のマナー皆無の野生児と言うより、男女3匹、どうやって調教するんだ? 式は来月中なんだぞ!」

と低い声で怒鳴る。
 その声に、姿を現した孔明は首をすくめる。

「すみません。一応必要最低限のしつけはしたつもりですが、戦乱や混乱の中で生き延び、逃走する術を優先的にしてきたもので……よろしくお願いします。月英げつえい殿」
「くっそー! お前の話に乗って、お前の家を実験場にする事にする代わりにって、受けるんじゃなかったぜ!」

 扇の下から次々出てくる言葉に、紅瑩は弟を見上げる。

「な、何なの、この人。初対面で人を散々罵って……」
「初対面じゃねーだろ。この、ぶん投げ姉貴の方。で、こっちが拳の方。で、中途半端な女装癖」

 悪態をついた美少女は、扇を外し優雅に艶然えんぜんと笑う。

「改めまして、私は襄陽じょうよう黄承彦こうしょうげんの一子、月英と申します。来月に控えた紅瑩様、晶瑩様のご婚儀までに、お二人に襄陽の名家に嫁ぐ心構えと、奥方としての礼儀作法などや仕草、化粧、立ち居振舞い等々、お教えすることになりましたの。そして、やはり女性としては男性を立て、家政を男性に全て任せる、兄弟とはいえ男性にみすぼらしい格好をさせる等は、恥ずべき事。……きっちり覚えて戴きますわね。覚悟なさいませ」

 宣言する月英の目は全く笑っておらず、紅瑩と晶瑩は顔をひきつらせる。
 その横で、孔明は首をすくめ、

「一応優しくしてあげてくれませんか?」
「いーやーだ!! この私の手に掛かれば一月で、どんな狂暴な野生児も令嬢になれるんだ。ふっ。黄家の名を馬鹿にするなよ……ではなく、名を甘く見ないで下さいませね」

均は兄と美女を交互に見て、

「も、もしかして、このお姉様……」
「だから、黄月英殿。昨日来られたでしょう? その時に、姉上方に縁談が正式に固まりそうだと聞きましたから、月英殿に花嫁教育をお願いしたんです。その代わり、先日倒壊した場所に月英殿の実験室を作る約束をしましてね。対価は釣り合うし、お互いに納得済みです」

にっこりと笑う孔明の横で嫌そうに、

「何が対価が釣り合うだ。こっちの方が大損だって言うの。くっそー! 腹黒なのは、士元しげんだけで充分なのに」

少々品悪く舌打ちをする月英を、咳をして黙らせる。

「と言う訳で、姉上達に均も、月英殿に教えて戴くようにお願いします。逃げては駄目ですよ。逃げたりサボっては、支払った対価を姉上達に支払って頂きますからね」
「その方が、オレ……じゃなく、私としても良いのですけれど……私の教育は厳しいと言って逃げ出されたりしては、紅瑩様や晶瑩様の恥だけではなく、諸葛家しょかつけの恥となりますわね。ご両親はすでにご他界とは言え、江東こうとうに住まわれる御兄様方の仕官に影響があるかもしれませんし……後々までと言うのも……」

 扇で唇を隠して、わざとらしく溜め息をこぼす。

「残念ですわ……あの諸葛家のご令嬢が、一般常識を理解されないまま嫁がれるなんて、お教えした私も恥ずかしくて……」
「や、やるわよ!」
「か、完璧にやって見せるわ! 馬鹿にしないで」

 二人は拳を固め断言する。

「言質取ったな、孔明」
「そうですね、月英殿」

 ニヤリ。

二人は顔を見合わせる。

「さて、姉上達、均も頑張って下さいね? 猛特訓ですよ。黄承彦殿の遠縁として嫁ぐんですからね。月英殿に恥をかかせないで下さいね?」
「最低でもオレを育ててやるから安心しろ、孔明。ではな。お前は畑にいこうが昼寝しようが、大丈夫だ。任せろ!」

 男気溢れる月英の一言に苦笑しつつ、

「では、畑に行って雑草とりしてきます。姉上達。では後で」

逃げるように出ていった弟であり兄の背に、3人は、

「亮の鬼ー!」
「逃げるなんて酷いじゃない!」
「何で私も置き去りなのよう! 兄様ー!」

と、次々叫ぶのだった。
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