7 / 100
始まりの始まりはいつからか解らない、とある一日から。
諸葛家の次男は必死に主役から逃げようとしてますが?
しおりを挟む
当初は自分が番をする、いや自分が、と寝ずの番をすることを主張していた姉弟は、いつの間にかスヤスヤと眠りについていた。
いつものことである。
呆れて諦めているのではなく、自分が寝ずの番をするのが良いというだけである。
元々星を読むことも多いし、ここに来るまで戦場を転々と逃れていくうちに余り眠らずにすむようになっていた。
再び星を見上げ、溜め息をついた。
何時もなら、天候を星に重ね読むのは簡単なのに、今日は胸騒ぎがして星を読みきれない……いや、今の自分は農民のそれではなく、政略を空に、星に問いかけるものになっている。
孔明は諸葛家の跡取りの兄とは違い、両親に兄を助ける者になるようにと、遊学こそしなかったが7才年上の兄と同じか、それ以上の教養を叩き込まれた。
星読みもその一つである。
星は、孔明に必ず何かを伝えてくる。
それを、目で心で一瞬の煌めきの変化で読みきる。
未来を、この後何が起こるかを瞬時に読み、それを伝える。
それが、孔明に課せられた役割。
諸葛家の祭司であり軍師、政略家。
今は天候を読むだけと公言しているが、戦を転々とし、流転を繰り返していた自分達を、兄達が追いきれる訳がない。
だから、自分が兄達を追う。
星読みの力で……。
諸葛家は、代々漢王朝に仕えた一族である。
中央にいたこともあるが、中央の権力争いに嫌けがさし地方に下ったと言われている。
が、本当のところは権力争いに破れたのだろう。
それかもしくは、ごくまれに孔明のように星を読む能力者が生まれ、その危うい予知予言のようなものを気味悪がられたのだろう。
だが、今は地が乱れ、戦乱の世となっている。
星を読む諸葛家の人間は、喉から手が出る程欲しいだろう。
特に姉二人は。
男で抵抗する恐れのある孔明を殺し、奪おうとした輩は数多く、そして自分のように狙われてはと、均はあえて自分の古着ではなく、姉の古着を着せるようにした。
言葉遣いも直さなかったし、剣や矛などは習わせず、逃げるすべと一般常識や基礎知識を教え込んだのである。
姉達にも同様にと考えたが、二人は戦闘能力が高く、その上大人しくできる人間では無い為、諦めて武術を学んで貰った。
姉達も一応世が世なら地方ではあるがお嬢様で、こんなところで野宿をしたり、豚を狩ったり、武器を持つような立場ではない。
孔明や均も、黄巾賊の乱に、曹孟徳による徐州大虐殺というものさえなければ、漢王朝に仕えた一族の末裔として、瑯琊の役人として、もしくは洛陽に出向き、下級役人の一人として仕えていたかもしれない。
しかし、それは塵芥となって散り、自分達は故郷を逐われ逃げ回り、叔父の元に辿り着いたのも束の間、もう王朝としてほとんど機能していない政府からの正式な役人という欲深そうな男に、叔父は反逆者と名指しされ再び逃れていくしかなかった。
逃れた先がこの荊州襄陽。
州牧である叔父の知人劉景升が、迎え入れてくれたからである。
叔父は逃れる前の戦いで傷を負い、それが元で亡くなった。
叔父は彼に感謝していたが、彼は見た目通りの温厚な州牧ではない。
叔父を助けたことで政府の反応を見、そして、自分達……特に姉達を『あの諸葛家の令嬢』として、自らの手駒とするか、もしくは愛妾にするかもしれない。
劉景升は、前妻と後妻との間にそれぞれ息子を儲けている。
元々漢王朝の分家の末裔と言う身分であり、ある程度荒み、腐りきった王朝の内部を見続けていた劉景升は、この荊州の地に名分を用いて留まったのは、この地が地の利に適した場所だからである。
洛陽にも戻りやすく、そして、近くに江という大河があり、東にも西にも逃れやすい。
その上南は反抗する豪族を、策略を用いすでに始末している。
後顧之憂はほぼ無い。
ただ一つ問題なのは、中央にいた頃に娶った前妻はすでに亡く、長男には後ろ楯になる存在はない。
代わりに後妻は、この荊州の豪族蔡家の当主の姉で、次男を後継者にという声も上がっていると聞く。
しかし劉表は、余り後妻の親族に口を挟まれたくないと考えている節がある。
そんな時に現れたのが、徐州の田舎の小役人になっていたとは言え、血を辿れば漢王朝の忠臣の末裔の諸葛家の令嬢。
危険だと星は囁き、チリチリとした焦燥感を覚える。
この力は、劉景升には与えない。
嫌な星回りを覚えるからだ。
姉達を、渡しはしない。
だから、姉達を蔡一族と対立する馬家ともう一つの家に、嫁がせることに決めたのだった。
だが当然、無一文同然の自分には力がなく、無理に近い。
季常には答えたが、もう諦めてすらある。
それに……。
季常……あの子供は、大人しそうでいて多分危険だ。
もしかしたら、自分達を利用したいと考えているかもしれない……。
だが、孔明の見えるものを完全に理解していない筈である。
向こうは孔明を利用しようとするのだから、その策に乗った振りをして馬家を、逆に利用してやろう。
そうしてここで地盤を固め、悠々自適な農民暮らしを満喫するのだ。
いつものことである。
呆れて諦めているのではなく、自分が寝ずの番をするのが良いというだけである。
元々星を読むことも多いし、ここに来るまで戦場を転々と逃れていくうちに余り眠らずにすむようになっていた。
再び星を見上げ、溜め息をついた。
何時もなら、天候を星に重ね読むのは簡単なのに、今日は胸騒ぎがして星を読みきれない……いや、今の自分は農民のそれではなく、政略を空に、星に問いかけるものになっている。
孔明は諸葛家の跡取りの兄とは違い、両親に兄を助ける者になるようにと、遊学こそしなかったが7才年上の兄と同じか、それ以上の教養を叩き込まれた。
星読みもその一つである。
星は、孔明に必ず何かを伝えてくる。
それを、目で心で一瞬の煌めきの変化で読みきる。
未来を、この後何が起こるかを瞬時に読み、それを伝える。
それが、孔明に課せられた役割。
諸葛家の祭司であり軍師、政略家。
今は天候を読むだけと公言しているが、戦を転々とし、流転を繰り返していた自分達を、兄達が追いきれる訳がない。
だから、自分が兄達を追う。
星読みの力で……。
諸葛家は、代々漢王朝に仕えた一族である。
中央にいたこともあるが、中央の権力争いに嫌けがさし地方に下ったと言われている。
が、本当のところは権力争いに破れたのだろう。
それかもしくは、ごくまれに孔明のように星を読む能力者が生まれ、その危うい予知予言のようなものを気味悪がられたのだろう。
だが、今は地が乱れ、戦乱の世となっている。
星を読む諸葛家の人間は、喉から手が出る程欲しいだろう。
特に姉二人は。
男で抵抗する恐れのある孔明を殺し、奪おうとした輩は数多く、そして自分のように狙われてはと、均はあえて自分の古着ではなく、姉の古着を着せるようにした。
言葉遣いも直さなかったし、剣や矛などは習わせず、逃げるすべと一般常識や基礎知識を教え込んだのである。
姉達にも同様にと考えたが、二人は戦闘能力が高く、その上大人しくできる人間では無い為、諦めて武術を学んで貰った。
姉達も一応世が世なら地方ではあるがお嬢様で、こんなところで野宿をしたり、豚を狩ったり、武器を持つような立場ではない。
孔明や均も、黄巾賊の乱に、曹孟徳による徐州大虐殺というものさえなければ、漢王朝に仕えた一族の末裔として、瑯琊の役人として、もしくは洛陽に出向き、下級役人の一人として仕えていたかもしれない。
しかし、それは塵芥となって散り、自分達は故郷を逐われ逃げ回り、叔父の元に辿り着いたのも束の間、もう王朝としてほとんど機能していない政府からの正式な役人という欲深そうな男に、叔父は反逆者と名指しされ再び逃れていくしかなかった。
逃れた先がこの荊州襄陽。
州牧である叔父の知人劉景升が、迎え入れてくれたからである。
叔父は逃れる前の戦いで傷を負い、それが元で亡くなった。
叔父は彼に感謝していたが、彼は見た目通りの温厚な州牧ではない。
叔父を助けたことで政府の反応を見、そして、自分達……特に姉達を『あの諸葛家の令嬢』として、自らの手駒とするか、もしくは愛妾にするかもしれない。
劉景升は、前妻と後妻との間にそれぞれ息子を儲けている。
元々漢王朝の分家の末裔と言う身分であり、ある程度荒み、腐りきった王朝の内部を見続けていた劉景升は、この荊州の地に名分を用いて留まったのは、この地が地の利に適した場所だからである。
洛陽にも戻りやすく、そして、近くに江という大河があり、東にも西にも逃れやすい。
その上南は反抗する豪族を、策略を用いすでに始末している。
後顧之憂はほぼ無い。
ただ一つ問題なのは、中央にいた頃に娶った前妻はすでに亡く、長男には後ろ楯になる存在はない。
代わりに後妻は、この荊州の豪族蔡家の当主の姉で、次男を後継者にという声も上がっていると聞く。
しかし劉表は、余り後妻の親族に口を挟まれたくないと考えている節がある。
そんな時に現れたのが、徐州の田舎の小役人になっていたとは言え、血を辿れば漢王朝の忠臣の末裔の諸葛家の令嬢。
危険だと星は囁き、チリチリとした焦燥感を覚える。
この力は、劉景升には与えない。
嫌な星回りを覚えるからだ。
姉達を、渡しはしない。
だから、姉達を蔡一族と対立する馬家ともう一つの家に、嫁がせることに決めたのだった。
だが当然、無一文同然の自分には力がなく、無理に近い。
季常には答えたが、もう諦めてすらある。
それに……。
季常……あの子供は、大人しそうでいて多分危険だ。
もしかしたら、自分達を利用したいと考えているかもしれない……。
だが、孔明の見えるものを完全に理解していない筈である。
向こうは孔明を利用しようとするのだから、その策に乗った振りをして馬家を、逆に利用してやろう。
そうしてここで地盤を固め、悠々自適な農民暮らしを満喫するのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
秦宜禄の妻のこと
N2
歴史・時代
秦宜禄(しんぎろく)という人物をしっていますか?
三国志演義(ものがたりの三国志)にはいっさい登場しません。
正史(歴史の三国志)関羽伝、明帝紀にのみちょろっと顔を出して、どうも場違いのようなエピソードを提供してくれる、あの秦宜禄です。
はなばなしい逸話ではありません。けれど初めて読んだとき「これは三国志の暗い良心だ」と直感しました。いまでも認識は変わりません。
たいへん短いお話しです。三国志のかんたんな流れをご存じだと楽しみやすいでしょう。
関羽、張飛に思い入れのある方にとっては心にざらざらした砂の残るような内容ではありましょうが、こういう夾雑物が歴史のなかに置かれているのを見て、とても穏やかな気持ちになります。
それゆえ大きく弄ることをせず、虚心坦懐に書くべきことを書いたつもりです。むやみに書き替える必要もないほどに、ある意味清冽な出来事だからです。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
毛利隆元 ~総領の甚六~
秋山風介
歴史・時代
えー、名将・毛利元就の目下の悩みは、イマイチしまりのない長男・隆元クンでございました──。
父や弟へのコンプレックスにまみれた男が、いかにして自分の才覚を知り、毛利家の命運をかけた『厳島の戦い』を主導するに至ったのかを描く意欲作。
史実を捨てたり拾ったりしながら、なるべくポップに書いておりますので、歴史苦手だなーって方も読んでいただけると嬉しいです。
トノサマニンジャ 外伝 『剣客 原口源左衛門』
原口源太郎
歴史・時代
御前試合で相手の腕を折った山本道場の師範代原口源左衛門は、浪人の身となり仕官の道を探して美濃の地へ流れてきた。資金は尽き、その地で仕官できなければ刀を捨てる覚悟であった。そこで源左衛門は不思議な感覚に出会う。影風流の使い手である源左衛門は人の気配に敏感であったが、近くに誰かがいて見られているはずなのに、それが何者なのか全くつかめないのである。そのような感覚は初めてであった。
織田信長に育てられた、斎藤道三の子~斎藤新五利治~
黒坂 わかな
歴史・時代
信長に臣従した佐藤家の姫・紅茂と、斎藤道三の血を引く新五。
新五は美濃斎藤家を継ぐことになるが、信長の勘気に触れ、二人は窮地に立たされる。やがて明らかになる本能寺の意外な黒幕、二人の行く末はいかに。
信長の美濃攻略から本能寺の変の後までを、紅茂と新五双方の語り口で描いた、戦国の物語。
鬼嫁物語
楠乃小玉
歴史・時代
織田信長家臣筆頭である佐久間信盛の弟、佐久間左京亮(さきょうのすけ)。
自由奔放な兄に加え、きっつい嫁に振り回され、
フラフラになりながらも必死に生き延びようとする彼にはたして
未来はあるのか?
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる