なんでこんなとこに?

刹那玻璃

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緑の精霊王と紅の狼

再会、再開、再回?

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「……あ、あの……」

 青ざめた顔のティアが問いかけようとすると、クリスは携帯用水筒を伯父に渡しながら、

「伯父貴。どっち?」
「雑魚っぽいから、向こうのゴミでしょう。うん……」
「向こうか~うちのゴミなら楽だったのになぁ……」
「そだね~一回本格的に潰しに行く? そうしたら、鼻っ柱どころか、ついでにどちらかの首も折ってやるけど?」
「そうするかなぁ……」

 物騒な会話の合間に水筒のキャップを開けリーは一口飲むと、毛布に包まれた少女を見る。

「で、琥珀ちゃん」
「あのっ! その呼び名は、誰に聞いたんですか? 発掘してたあの人に聞いたんですか?」

 小さい小柄な少女なのに、フーフーと毛を逆立てる子猫のように見える。

「だから、僕がリーだよ~。琥珀ちゃん!」
「嘘っ! だってリー……あの人は9年前に一緒にいたのよ? あたしは16なのに、貴方よく見ても二十代じゃないの! 9年前よりどう見ても若返ってる! 絶対別人でしょ!」
「僕だってばぁぁ~! うえぇぇーん! クリス~! 証明してよ~!」
「いや、伯父貴。俺も、その子と伯父貴の関係性わかんないし、ついでに、俺も伯父貴が見た目と実年齢詐称してるんだろうと最近まで思ってたし……ミュー伯父の方が年上だろ? って思うわ~」
「気にしてるのにしつこい!」

 ガウガウ!

 食ってかかりつつ、小さいバッグから食べ物を五つ出す。
 大きな紙に包まれたそれを3人に一つずつ配る。

「シュークリームだよ。食べよ! これ、海の向こうの神の国の隠れた名店の限定なの。もうそろそろ買いに行きたいなぁ……」
「食べられるんですか?」

 自分の顔と比べても大きな包みに驚くエレナ。
 ちなみにシュークリームは、蜜蝋の塗られた紙で個包装されている。

「食べられるよ。このバッグは時間止められてるし、さっきの石とも入れる場所は基本違うからね。琥珀ちゃんも食べてごらん? 食べたことある筈だよ」
「え?」
「毒はないからね~あ、そっと持って食べるんだよ? 潰れたら中が溢れるから。いただきます~」

 リーは上の部分を剥がすとバクッと食べた。

「このクリームが濃厚で美味しいんだよね~。この味はどうやっても出せないんだ~」

 一気に一つを食べ切ったリーが2個目に入ろうとした頃には、エレナとティアがパクッと一口かじっていた。

「美味しい……あま~い!」
「でしょ? クリームがここまでたっぷりでも、シュー生地がしっかりしてるからね~……って、こ、琥珀ちゃん?」

 空腹も相まって無心に食べるエレナの横で、ティアはボロボロと泣いていた。

「……リーが、くれた……お菓子……内緒だって……特別だって……言って食べさせてくれたの……」
「そうだよ~。だってこれ、本当、限定だもん。こっちの大陸では売ってないし、今日以外は僕が食べさせたことがあるのは弟のフェルとミューと、琥珀ちゃんだけだったよ」
「……っ……」

 顔をくしゃくしゃにして、ヒックヒックしゃくりあげつつ、

「……なんで……いなくなったの……? あたしみたいに、人買いに、売、られた? ミリーおばさん……も?」
「ミリー……? あぁ、ミリアムは、ビリーの奥さんだから今は僕の弟の家にいるよ。ミリアムは売られてない。それより琥珀ちゃんがいなくなったのを心配して必死に探し回ってた……あ、ビリーは覚えてる?」

 言いながらリーは甥をチラッと見て、ティアをそっと抱き、自分の座席に移動させ、代わりにクリスがエレナの隣に移り甲斐甲斐しく世話を始める。

「ビリィ?」

 鼻を啜るティアに、バッグから出した柔らかいタオルで顔を拭ってあげながら、

「うん、ビリー。ビルガルドっていう名前の、ほら、髭とメガネとほっかむりの……いつも琥珀ちゃんが『不審者! お顔洗って手を洗いなさい! じゃないとこっちに入れないのよ!』って、お説教してたでしょ? ビリーも『チビには敵わないなぁ』って。ビリーもミリアムと一緒にいるよ。二人ともきっと琥珀ちゃんに会えたら喜ぶね」
「ビリーおじさん……元気?」
「うん、元気……って言うか、ミリアムもビリーも僕より年下だよ~? 僕これでも40代……だもんね!」

 確か!

 とケロッと言い放つリーに、ティアもエレナもギョッとする。
 ちなみにエレナは、自分の世話をしてくれているクリスの顔もまじまじと確認している。
 クリスは、

「あ、俺は一応19。でも、伯父貴? 伯父貴はうちの母上より16上だったよな? 完全に50代だろ? 訂正しろ」
「そうだっけ? 僕、15歳くらいで外見年取らなくなったからさぁ~? 最近、いくつでもいっか? って思う時もあるよ? まぁ、ミューが、兄貴は可愛いなぁ~って言い出したから、それはそれでムカつくけど」
「ミュー伯父貴は、見た目は若いのに苦労してるのか精神年齢は大人だからな……」
「本当にねぇ……誰のせいで親父化したのか……」
「一番はエル伯父貴が頭痛の種だが、伯父貴も大概だぞ?」

 嫌われないように気をつけなよ。

警告ともとれる苦言を呈した後、一人黙々食べていたエレナの顔や手をハンカチで拭いたり、隠し扉から飲み物を取って渡してやる。
 クリスは世話好きらしい。

「飲み物は、えっと……ティアにもあるから、伯父貴。適宜飲ませてあげて。エレナ……眠たいなら寝るといい」

 無意識に瞬きと小さいあくびをし始めた少女から飲み物のコップをとり、膝枕させつつ……こう言うところが世話好き……しゃくりあげつつ食べようとしているティアと、それを止めようとする伯父の攻防を見ながら首をすくめた。

「……まぁ、何があったのか詳しくは後で聞くとして、まずは移動だよな」

 すぐに寝入りそうな、トロンッとした顔のエレナに、自分の後ろに置いていた膝掛けをかけながら本日の宿泊地に到着するまでにするべきことを心の中で繰り返すのだった。
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