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カイ、追い出される。
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ある日、父に呼び出された。
虫のいどころが悪かったのか、突然、ぶよぶよとした拳で頬を殴られた。
何度も殴られたら痛い。
それに、一日食事抜きだったからよろけて倒れたら、お腹を何度も蹴られた。
「クソガキ! ムカつくんだよ! こっちはあのお高く止まった女と結婚さえすれば、公爵家の婿になれると思ったのに! 当てが外れた! 出て行け! 戻ってくるな!」
流石にお腹は苦しかったけれど、吐くものがなかったから立ち上がり出て行った。
マチルダ母さまは今買い物。
戻ってくる時に会えるだろうか……。
「おい、マチルダに戻してもらおうと思うなよ? 裏門を使え! 帰ってきたら殺すからな」
僕の父親にしてはチリチリのオレンジの髪に、瞳は茶色、鼻も目も贅肉に埋もれている。
確か、母さまは紫の瞳だった。
髪は銀。
あまり覚えていないけれど、美人なのに男言葉で喋り、豪快に嗤う人だって教えてもらった。
僕は明るい金髪に、瞳はブルー。
誰に似たんだろう……。
ボロボロの格好のまま家の裏門を出て、てくてく歩く。
靴はない。
服もパジャマのまま。
どこに行こう……。
亡くなった母さまのお家も、母さまの名前もわからないのに……。
いつのまにか、すんすんっと鼻を鳴らししゃくりあげていた。
なんで……本当の父さまは、迎えにきてくれないんだろう。
いらない子なのかな……。
生まれてこないほうがよかったのかな……。
「何泣いてるの?」
その声に顔をあげると、くりくりとした丸い緑の瞳の男の子が手を振っていた。
「迷子? お腹すいた? うーん、それとも喧嘩に負けた?」
「父しゃまにぶたれて、お腹蹴られて、二度と帰ってくるなって……」
なんとかそこまでいうと号泣する。
「はぁぁ? まだこんな小さい子供に戻ってくるなって追い出す? クズだねクズ!」
けっ!
吐き捨てるようにいうと、男の子が手を伸ばした。
「行こうか? 僕の家なら大丈夫だよ? ねぇ? フィア」
「フィア?」
男の子は自分の背中を振り返る。
「僕の甥。英才教育してるんだよ。家にはもう一人リオンって言う甥もいるの。だから、君も甥」
「……おうちの人、怒りましぇんか? 僕……」
一度止まっていた涙がまた溢れそうになり、立ち止まる。
「なーに言ってんの。子供が遠慮しないの。うちの兄様は昔は女癖が悪くて、多分何人も子供がいるはずだから、君が増えたところで大丈夫だよ!」
「おい、こら! シエラ! 兄様の醜聞をこんなとこで大声で言うものじゃない! お尻叩くよ!」
「エディおじさまとルード兄様とシルゥ兄様に言いつける~」
「クソ……誰に似たんだ!」
「父さまと母さまに似なかったから、兄様だと思う。でも僕の方が賢いよ?」
フードで頭を隠した長身の男は舌打ちすると、カイを見つめた。
フードからチラッと覗くのはライトブルーの瞳。
「……カイというのも君が嫌だろう。レーヴェ……そう呼ぼう」
「レーヴェ?」
「そうだよ。レーヴェ。痛くないように気をつけるから、はい、両腕あげて」
「は、はい!」
腕を上げると、身をかがめてそっと抱き上げる。
その間にちゃっかりシエラは兄の背によじ登っていた。
「兄様。レーヴェの体に負担にならないくらい早く、でもその凶暴さは抑えて、家に帰るんだよ~? なんならガデル呼ぶ?」
「凶暴ってなんだ? シエラ」
「兄様凶暴で有名だよ? 見た目はイケメンだけど、ドSだって。試合中兄様が怒ると次の攻撃に入る前に大ぶりになるんだって。ルード兄様やエディ伯父上の試合では減ったけど、だめじゃん。八つ当たりもダメだよ? シルゥ兄様の体調が悪いからって、八つ当たりして、アルビオン兄様の胃に穴開けたの知ってるんだからね。悪いのシルフィン姉様じゃない」
ケラケラ笑うシエラに、
「口の立つ弟だよな……お前が6歳とは思えん」
「ガサツでお子様な兄様だよね~? 兄様が100歳超えたおっさんだとは思えない」
「……喧嘩売ってるのか? 買うぞ?」
「その前にレーヴェを先生に見せるのと、フィアのおむつとミルクの時間です。僕はお昼寝もあります」
小賢しい弟に歯噛みするが、そのポンポンとしたやりとりが楽しくて仕方ない兄だった。
虫のいどころが悪かったのか、突然、ぶよぶよとした拳で頬を殴られた。
何度も殴られたら痛い。
それに、一日食事抜きだったからよろけて倒れたら、お腹を何度も蹴られた。
「クソガキ! ムカつくんだよ! こっちはあのお高く止まった女と結婚さえすれば、公爵家の婿になれると思ったのに! 当てが外れた! 出て行け! 戻ってくるな!」
流石にお腹は苦しかったけれど、吐くものがなかったから立ち上がり出て行った。
マチルダ母さまは今買い物。
戻ってくる時に会えるだろうか……。
「おい、マチルダに戻してもらおうと思うなよ? 裏門を使え! 帰ってきたら殺すからな」
僕の父親にしてはチリチリのオレンジの髪に、瞳は茶色、鼻も目も贅肉に埋もれている。
確か、母さまは紫の瞳だった。
髪は銀。
あまり覚えていないけれど、美人なのに男言葉で喋り、豪快に嗤う人だって教えてもらった。
僕は明るい金髪に、瞳はブルー。
誰に似たんだろう……。
ボロボロの格好のまま家の裏門を出て、てくてく歩く。
靴はない。
服もパジャマのまま。
どこに行こう……。
亡くなった母さまのお家も、母さまの名前もわからないのに……。
いつのまにか、すんすんっと鼻を鳴らししゃくりあげていた。
なんで……本当の父さまは、迎えにきてくれないんだろう。
いらない子なのかな……。
生まれてこないほうがよかったのかな……。
「何泣いてるの?」
その声に顔をあげると、くりくりとした丸い緑の瞳の男の子が手を振っていた。
「迷子? お腹すいた? うーん、それとも喧嘩に負けた?」
「父しゃまにぶたれて、お腹蹴られて、二度と帰ってくるなって……」
なんとかそこまでいうと号泣する。
「はぁぁ? まだこんな小さい子供に戻ってくるなって追い出す? クズだねクズ!」
けっ!
吐き捨てるようにいうと、男の子が手を伸ばした。
「行こうか? 僕の家なら大丈夫だよ? ねぇ? フィア」
「フィア?」
男の子は自分の背中を振り返る。
「僕の甥。英才教育してるんだよ。家にはもう一人リオンって言う甥もいるの。だから、君も甥」
「……おうちの人、怒りましぇんか? 僕……」
一度止まっていた涙がまた溢れそうになり、立ち止まる。
「なーに言ってんの。子供が遠慮しないの。うちの兄様は昔は女癖が悪くて、多分何人も子供がいるはずだから、君が増えたところで大丈夫だよ!」
「おい、こら! シエラ! 兄様の醜聞をこんなとこで大声で言うものじゃない! お尻叩くよ!」
「エディおじさまとルード兄様とシルゥ兄様に言いつける~」
「クソ……誰に似たんだ!」
「父さまと母さまに似なかったから、兄様だと思う。でも僕の方が賢いよ?」
フードで頭を隠した長身の男は舌打ちすると、カイを見つめた。
フードからチラッと覗くのはライトブルーの瞳。
「……カイというのも君が嫌だろう。レーヴェ……そう呼ぼう」
「レーヴェ?」
「そうだよ。レーヴェ。痛くないように気をつけるから、はい、両腕あげて」
「は、はい!」
腕を上げると、身をかがめてそっと抱き上げる。
その間にちゃっかりシエラは兄の背によじ登っていた。
「兄様。レーヴェの体に負担にならないくらい早く、でもその凶暴さは抑えて、家に帰るんだよ~? なんならガデル呼ぶ?」
「凶暴ってなんだ? シエラ」
「兄様凶暴で有名だよ? 見た目はイケメンだけど、ドSだって。試合中兄様が怒ると次の攻撃に入る前に大ぶりになるんだって。ルード兄様やエディ伯父上の試合では減ったけど、だめじゃん。八つ当たりもダメだよ? シルゥ兄様の体調が悪いからって、八つ当たりして、アルビオン兄様の胃に穴開けたの知ってるんだからね。悪いのシルフィン姉様じゃない」
ケラケラ笑うシエラに、
「口の立つ弟だよな……お前が6歳とは思えん」
「ガサツでお子様な兄様だよね~? 兄様が100歳超えたおっさんだとは思えない」
「……喧嘩売ってるのか? 買うぞ?」
「その前にレーヴェを先生に見せるのと、フィアのおむつとミルクの時間です。僕はお昼寝もあります」
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