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第2章
『虹とスニーカーの頃』
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季節が過ぎ、葛葉葛葉と保名の結婚式に出席したマスターだが、翌日にはお店を開けていた。
公私を分ける。
それがマスターの流儀である。
今日はチューリップのアルバムをかけた。
妻の遼のお気に入りである。
ちなみに、同時期のオフコースは、本人いわく、
「あのね? 学生時代の担任が好きだったから聞けないの」
とのこと。
首を傾げると、
「苛められてた時に『うちのクラスにはいじめはありません!』って揉み消そうとしたの。でも、前の学年の担任の先生に相談して、公になったら『虐められる生徒が悪いのよ! 私は悪くない!』っていってね? 私を虐めたクラスメイトの名前を書きなさいって学年主任に渡された紙を書いてたら、破ろうとしたの。その先生が良く聞いてた歌だから……思い出してしんどい……」
と、今日は奥で寝込んでいる。
家に帰って寝なさいと言ったものの、
「彰一さんがいないの寂しい……」
と一応テディガールを抱いてべそをかく姿に、ほだされる。
何だかんだと言いつつ、嫁に弱いマスターである。
まぁ、何かあったらここですぐに対処できるしとも思ったのもある。
カランカラン……
扉が開き、
「……だから、何度もいってるじゃないの! 離婚よ、離婚!」
「な、何でだよ! だから、何度もいってるじゃないか! 彼女は職場の後輩で!」
「ふーん。職場の後輩とこんなこともするのね?」
スマホを操作すると、画面を見せる。
「なっ! 何で!」
「それに、色々と出てくるものよ? ポケットから何でラブホテルの領収書にライター、避妊具に……」
カウンターに次々並べていく妻の様子に真っ青になる。
「で? 貴方はうちの婿養子でしょ? ついでに住んでたマンションも解約しました。6月末には引っ越すから、荷物持って出ていって頂戴ね?」
「なっ! 6月末ってもうすぐじゃないか!」
「私は全部出したから、貴方の荷物だけよ。だって、貴方ほぼ身一つで私のマンションに転がり込んだでしょ? 鍵は出る時に、コンシェルジュの人に渡しておいてね?」
「何でこんな卑怯なことを!」
怒り狂う男に、ニッコリと笑う。
「あら? 私の会社の専務が、社長の私に何の連絡もなく長期出張。しかも、同伴者は貴方の愛人でしょ? どんなお仕事だったの? ハワイで?」
「……!」
顔を赤く青くさせる夫に、
「荷物の片付けをして、恋人の家に転がり込みなさいな。それと7月に出社しても、人事が変わっているわ。来てもいいけれど、営業の一社員からね? ……あぁ、その前に、これに署名捺印をお願い」
差し出した離婚届には、先代社長とその息子つまり、妻の父と弟が名前を書いていた。
「……なぁ? も、もう一回……」
「ねぇ? 音楽を聴いて頂戴?」
女の言葉に夫は耳を済ませる。
曲は代わり『虹とスニーカーの頃』になっている。
「わがままは貴方の罪。それを許さないのは私よ。早く書いて頂戴! それで終わりよ!」
その言葉に慌てて書きこみ、出ていった。
「……ふぅ……」
ため息をつくと、気の強そうな表情が消え、申し訳なさそうな顔になる。
「すみません……片付けますね」
「いえ、結構ですよ。お手伝いいたします」
「ありがとうございます。でも、ラブホテルの……」
表情を陰らせ告げる。
「……昔は本当に幸せでした。若かったからですね……」
「……本当に、良いのですか?」
「……解りますか?」
「はい……」
女性は、ふっくらとしたお腹を隠すようなワンピースを着ていた。
「実は、私の妻も初産で……まだ安定期に入っていないのですが……」
「……すぐに言おうと思っていたんです。私も5年子供ができなくて……できたと思って、病院にと思っていたら……あの人は浮気をしていた……父や弟にも言われたんです。今のうちなら浮気をやめて戻ってくる。子供ができたことを伝えなさいと……」
お腹を撫でる。
「……赦せなかった……赦したくなかった……戻ってくるのを待っていたのに……のめり込んでいく彼を……」
ため息をつく。
「あの人には……いえ、あの人にも私にも、もう一つ許されない罪が出来ました。生まれてくる子供には父親がいないこと。あの人のことは父親だと認めない……絶対に……」
今日はカクテルはなく……ただ、音楽のみが店に広がったのだった。
公私を分ける。
それがマスターの流儀である。
今日はチューリップのアルバムをかけた。
妻の遼のお気に入りである。
ちなみに、同時期のオフコースは、本人いわく、
「あのね? 学生時代の担任が好きだったから聞けないの」
とのこと。
首を傾げると、
「苛められてた時に『うちのクラスにはいじめはありません!』って揉み消そうとしたの。でも、前の学年の担任の先生に相談して、公になったら『虐められる生徒が悪いのよ! 私は悪くない!』っていってね? 私を虐めたクラスメイトの名前を書きなさいって学年主任に渡された紙を書いてたら、破ろうとしたの。その先生が良く聞いてた歌だから……思い出してしんどい……」
と、今日は奥で寝込んでいる。
家に帰って寝なさいと言ったものの、
「彰一さんがいないの寂しい……」
と一応テディガールを抱いてべそをかく姿に、ほだされる。
何だかんだと言いつつ、嫁に弱いマスターである。
まぁ、何かあったらここですぐに対処できるしとも思ったのもある。
カランカラン……
扉が開き、
「……だから、何度もいってるじゃないの! 離婚よ、離婚!」
「な、何でだよ! だから、何度もいってるじゃないか! 彼女は職場の後輩で!」
「ふーん。職場の後輩とこんなこともするのね?」
スマホを操作すると、画面を見せる。
「なっ! 何で!」
「それに、色々と出てくるものよ? ポケットから何でラブホテルの領収書にライター、避妊具に……」
カウンターに次々並べていく妻の様子に真っ青になる。
「で? 貴方はうちの婿養子でしょ? ついでに住んでたマンションも解約しました。6月末には引っ越すから、荷物持って出ていって頂戴ね?」
「なっ! 6月末ってもうすぐじゃないか!」
「私は全部出したから、貴方の荷物だけよ。だって、貴方ほぼ身一つで私のマンションに転がり込んだでしょ? 鍵は出る時に、コンシェルジュの人に渡しておいてね?」
「何でこんな卑怯なことを!」
怒り狂う男に、ニッコリと笑う。
「あら? 私の会社の専務が、社長の私に何の連絡もなく長期出張。しかも、同伴者は貴方の愛人でしょ? どんなお仕事だったの? ハワイで?」
「……!」
顔を赤く青くさせる夫に、
「荷物の片付けをして、恋人の家に転がり込みなさいな。それと7月に出社しても、人事が変わっているわ。来てもいいけれど、営業の一社員からね? ……あぁ、その前に、これに署名捺印をお願い」
差し出した離婚届には、先代社長とその息子つまり、妻の父と弟が名前を書いていた。
「……なぁ? も、もう一回……」
「ねぇ? 音楽を聴いて頂戴?」
女の言葉に夫は耳を済ませる。
曲は代わり『虹とスニーカーの頃』になっている。
「わがままは貴方の罪。それを許さないのは私よ。早く書いて頂戴! それで終わりよ!」
その言葉に慌てて書きこみ、出ていった。
「……ふぅ……」
ため息をつくと、気の強そうな表情が消え、申し訳なさそうな顔になる。
「すみません……片付けますね」
「いえ、結構ですよ。お手伝いいたします」
「ありがとうございます。でも、ラブホテルの……」
表情を陰らせ告げる。
「……昔は本当に幸せでした。若かったからですね……」
「……本当に、良いのですか?」
「……解りますか?」
「はい……」
女性は、ふっくらとしたお腹を隠すようなワンピースを着ていた。
「実は、私の妻も初産で……まだ安定期に入っていないのですが……」
「……すぐに言おうと思っていたんです。私も5年子供ができなくて……できたと思って、病院にと思っていたら……あの人は浮気をしていた……父や弟にも言われたんです。今のうちなら浮気をやめて戻ってくる。子供ができたことを伝えなさいと……」
お腹を撫でる。
「……赦せなかった……赦したくなかった……戻ってくるのを待っていたのに……のめり込んでいく彼を……」
ため息をつく。
「あの人には……いえ、あの人にも私にも、もう一つ許されない罪が出来ました。生まれてくる子供には父親がいないこと。あの人のことは父親だと認めない……絶対に……」
今日はカクテルはなく……ただ、音楽のみが店に広がったのだった。
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