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【番外編】ヴァーロの家族4《アルビオンの場合》
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アルビオンは、カズール伯爵家の分家カルス家の嫡男である。
一応だ。
現在父親が当主補佐という名の次期当主予定者だが、仕事という仕事は全部祖母が辣腕を振るい、父は遊び呆けている。
現在、父は行方不明……というか、居所は不明だが生きているという連絡代わりの督促状が届く。
借金を作ったので、本人に代わり払ってくれというアレである。
祖母は払わないと突っぱねているが、時々祖母のいる王都のみならず、アルビオンが過ごしていたカルスの街に柄の悪い借金取りがうろつくことがあったため、心配した本家が手を回して、支払いは本家のカズール伯爵が指定した王都のマルムスティーン侯爵の私邸に連絡した時のみ払うことで、他に押しかける……特に年端のいかぬアルビオンの周りをうろついた時は容赦なく踏み倒すと宣言した。
実際、二度ほどアルビオンの周囲をうろついたガラの悪い輩はボコボコにされた上に、騎士団に突き出されたようだ。
祖母は女傑である……父親を育てるのは失敗したと豪語しているが、アルビオンは祖母を敬愛していたし、尊敬している。
アルビオンは、ほとんど見えない目を手で隠し部屋の隅で小さくなる。
さき、連れてきてくれたアレクシアと離れ、ここに連れてこられたのだが、殴られるだろうか?
「おい、幼い竜の末裔」
背後から声が聞こえた。
美しい声だが、かなり乱暴な物言いだが恐怖はない。
「お前もオレと同じ竜の血を持つなら、俯くな。己を卑下するな。お前は真っ直ぐ前を向け」
「で、でも……お目目が見えません」
「目で見えるだけが見えるのではない。感覚を研ぎ澄ますことだ。いいか? 目が見えない程度がなんだ? お前には腕があり足が動き、言葉を発せる。耳もよく聞こえるだろう?」
フワッと頭の上に手が置かれ、優しく撫でてくれる。
「お前は誇り高きカズールの子。きっと優れた騎士になる。目が悪いと諦めることはない。バカには武器は必要ないが、お前のように賢く強いものが持つことできっといいことがある。頑張ることだ」
「はい!」
「あぁ、そうだ。オレが今度、いいものをやろう。諦めるな」
将来、この子が成長し、炎のドラゴンの異名を持つ騎士に成長したのだが……見た目は派手でも、内面はガーデニングが趣味で、チェスと後に流行する将棋にのめり込む穏やかな生活を好む。
「アルビオン……そこで埋没するな」
「……はぁ……」
「そこで不満そうな顔するな! この口下手、のんびり屋め」
「ふぅ……」
「もうちょい喋れよ! それに、そこで詰将棋考えんな!」
「……」
アレクシアはいつまで経っても、オカン気質だった。
「お前が、今年の花祭りについて、相談をさせてくれと手紙を送ってきたんだろう? わざわざ来てやったのに、主催者で今回の話し合いをするお前が、ボケーっとすんな!」
「……お願いします……」
資料を差し出すアルビオン。
今年のコンセプトと会場、予算を細かく書いた提案と概要である。
目がかなり悪いアルビオンなので、音の出るタイプライター……まず文章を作った後に印字できる最新式のもので、アルビオンのための特注品である。
「……可愛い花って、抽象的だなぁ……」
「一応、末っ子の提案で……今年は苗を購入してもらって、手入れの仕方とかを教わる……です」
「……敬語というか、もうちょっとしゃべってくれ……」
「……難しい……です」
いつまで経っても、彼は彼だった。
~*~~*~~*~~*~~*~
アルビオンは、別話のギディアンの父で、ギディアンは父親似と評判です。
ちなみに、アルビオンはオッドアイ(金と銀)で、ギディアンは金の瞳です。
一応だ。
現在父親が当主補佐という名の次期当主予定者だが、仕事という仕事は全部祖母が辣腕を振るい、父は遊び呆けている。
現在、父は行方不明……というか、居所は不明だが生きているという連絡代わりの督促状が届く。
借金を作ったので、本人に代わり払ってくれというアレである。
祖母は払わないと突っぱねているが、時々祖母のいる王都のみならず、アルビオンが過ごしていたカルスの街に柄の悪い借金取りがうろつくことがあったため、心配した本家が手を回して、支払いは本家のカズール伯爵が指定した王都のマルムスティーン侯爵の私邸に連絡した時のみ払うことで、他に押しかける……特に年端のいかぬアルビオンの周りをうろついた時は容赦なく踏み倒すと宣言した。
実際、二度ほどアルビオンの周囲をうろついたガラの悪い輩はボコボコにされた上に、騎士団に突き出されたようだ。
祖母は女傑である……父親を育てるのは失敗したと豪語しているが、アルビオンは祖母を敬愛していたし、尊敬している。
アルビオンは、ほとんど見えない目を手で隠し部屋の隅で小さくなる。
さき、連れてきてくれたアレクシアと離れ、ここに連れてこられたのだが、殴られるだろうか?
「おい、幼い竜の末裔」
背後から声が聞こえた。
美しい声だが、かなり乱暴な物言いだが恐怖はない。
「お前もオレと同じ竜の血を持つなら、俯くな。己を卑下するな。お前は真っ直ぐ前を向け」
「で、でも……お目目が見えません」
「目で見えるだけが見えるのではない。感覚を研ぎ澄ますことだ。いいか? 目が見えない程度がなんだ? お前には腕があり足が動き、言葉を発せる。耳もよく聞こえるだろう?」
フワッと頭の上に手が置かれ、優しく撫でてくれる。
「お前は誇り高きカズールの子。きっと優れた騎士になる。目が悪いと諦めることはない。バカには武器は必要ないが、お前のように賢く強いものが持つことできっといいことがある。頑張ることだ」
「はい!」
「あぁ、そうだ。オレが今度、いいものをやろう。諦めるな」
将来、この子が成長し、炎のドラゴンの異名を持つ騎士に成長したのだが……見た目は派手でも、内面はガーデニングが趣味で、チェスと後に流行する将棋にのめり込む穏やかな生活を好む。
「アルビオン……そこで埋没するな」
「……はぁ……」
「そこで不満そうな顔するな! この口下手、のんびり屋め」
「ふぅ……」
「もうちょい喋れよ! それに、そこで詰将棋考えんな!」
「……」
アレクシアはいつまで経っても、オカン気質だった。
「お前が、今年の花祭りについて、相談をさせてくれと手紙を送ってきたんだろう? わざわざ来てやったのに、主催者で今回の話し合いをするお前が、ボケーっとすんな!」
「……お願いします……」
資料を差し出すアルビオン。
今年のコンセプトと会場、予算を細かく書いた提案と概要である。
目がかなり悪いアルビオンなので、音の出るタイプライター……まず文章を作った後に印字できる最新式のもので、アルビオンのための特注品である。
「……可愛い花って、抽象的だなぁ……」
「一応、末っ子の提案で……今年は苗を購入してもらって、手入れの仕方とかを教わる……です」
「……敬語というか、もうちょっとしゃべってくれ……」
「……難しい……です」
いつまで経っても、彼は彼だった。
~*~~*~~*~~*~~*~
アルビオンは、別話のギディアンの父で、ギディアンは父親似と評判です。
ちなみに、アルビオンはオッドアイ(金と銀)で、ギディアンは金の瞳です。
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