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最終章 魔法少女はそこにいる

裏切りの雷鳴

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「ここもだいぶ寂しくなってきたな……」

 どこかはわからない地下空間のようなアジトで終郎ついろうは心から寂しそうにぽつり、と呟いた。

「あぁ、そうだな……」

 彼の傍らで床に座り込んでいたライアットが同意する。

「ライア。 君はどうしてここにいるんだ? もう君は統合されているんだ。 ここにいる必要はないんだぞ?」

 終郎が彼女を見つめながら手を組んでそう言うと、ライアットは顔を赤くした。

「あ、あたいはいてぇからここにいるんだ。 それも全部あたいの自由なんだろ?」

「そうだな。 全部君の自由だ……好きにすればいい」

 終郎は少し笑って言う。
 ライアットはそのまま少し口を尖らせて視線を床に落とし考え込むような顔で黙り込んだ。

(すまねぇ……オスティ。 オリジナルのあたいはそっちに戻るつもりだったが……こっちのあたいのイクローサマが好きだって強い気持ちに逆らえねえ……。 あたいはどうしてもこの人のやる事を最後まで見てェんだ。 ……ほんとにすまねぇ。 てめェらと戦うつもりはねェが……もしイクローサマに手出しするなら、その時は……)

 懊悩する様子のライアットを少し離れた壁に身体を持たれかけさせていたオスティナが見つめて口を開いた。

「あら? ライア。 あなたらしくない顔をしているわね。 オリジナルのあなたはそんなに辛気臭い性格だったのかしら?」

 ライアットは顔を上げて彼女を睨み付けるとニッ、と口の端を歪めて笑う。

「そうでもねェさ。 こうなってみるとオスティ。 こっちのてめェの方がオリジナルよりちっとばかし性格が悪ィみてェだってぇのはよぉ~くわかるぜ?」

「なんですって!?」

 オスティナが目を剥くのを見て、ライアットはおかしそうに笑った。

「冗談だよ! オスティ、あんまりカリカリしてっと、ここの皺が治らなくなっちまうぜ?」

 ライアットはそう言って自分の眉間を指さして、また笑う。
 そして彼女は立ち上がると、ぱんぱん、とお尻を叩いてホコリを払うと手を上げながら出口へと向かっていった。

「暇つぶしにちょいと出かけてくらァ」

 彼女はそう言いながら、姿を消していった。


 ライアットは外に出ると肩をぶんぶん、と回して首を傾げた。

「はぁ? なるほどなぁ……魔力も二人分で倍って事かよ。 これならキルカに……」

 彼女はそこでぷっと吹き出した。

「いや勝てる気がしねえわ! あいつにだきゃぁな!」

 そして高速詠唱してその黒い魔導鎧をTシャツとだぼっとしたデニムパンツ、といういで立ちに変えると彼女はポケットに手を突っ込んだまま、ふわり、と浮き上がって空中を飛んでいく。

「ハッ! コイツは速ェや! あははは! まさに生まれ変わった気分だぜ……あたいがそもそもどっちのあたいかはわかんねェけどよ!」

 彼女はパンツのポケットに手を突っ込んだまま、猛スピードで空を飛びながら独り言ちた。
 バレッタのように音速とはいかないまでもかなりの速度で彼女はあっという間に富士の裾野から東京上空に到達して人気のいないところを見計らってそっと裏通りへと着地した。

 着地すると彼女は目を閉じて広域の魔法探知を行う。
 そして目を開けて、ほっと小さなため息をついた。

「ちょこちょこ魔法少女が混じってやがるが……。 まぁ、この人の多さならそうそう見つからねえだろうぜ。 魔力持ったヤツが近づいてきたら逃げりゃぁいいしな」

 彼女は独り言ちながら、大通りへと出て行くと、目を瞠った。

「うっは。 ほんとに人間ってェ奴ァ……なんでこんなにうじゃうじゃいやがるんでェ……」

 ライアットはそんな事を口にしながらも、物珍しそうに店や人並みを眺めながら歩いていく。
 そして何やら行列に目を止めると、何かわからないがその列へと並んでみた。

 やがて彼女の番が来ると、にこにこと笑顔を振りまく若い女性店員にライアットは不思議そうな顔で訊ねた。

「なぁ、結局ここは何を売ってやがるんだ?」




 ライアットは並んで買ったタピオカミルクティを怪訝そうな顔でしげしげと眺めながら、道端の小さなベンチへ腰を下ろした。

「なんだこのカエルの卵みてェのは……? うめェのか? 人間ってェのは妙な物を作るなぁ……」

 彼女はそう言いながらストローを咥えて中身を啜ると、目を丸くしながらおかしそうに笑いだす。

「あはは! 不思議な食感だが……こいつはうめェな! すげえな! 人間!」

 そして空を仰ぐと、夏の強い日差しに目を細めた。
 夏の青い空は高く、間抜けなくらい晴れ渡っていて美しかった。
 もくもくと湧き上がるような入道雲がゆっくりと風に流れていくのが見えた。

 (人間の世界ってェのは平和だな……。 こういうのも悪かァねェ。 こんな平和な世界をあたいらの都合でどうこうしちゃあいけねえ。 ……なるほどな。 キルカが人間との共存を試してみた気持ちもわからなくなかァねえぜ)

 ライアットは楽し気な顔で行きかう人間たちを眺めた。
 皆楽しそうに笑ったり、談笑したり、生というものを楽しんでいるように彼女には感じられて、その姿に彼女は少し胸が痛むような思いに囚われる。

 (……あたいら魔法少女はぶっちゃけ言ってみりゃあ好きで戦ってるんだものな。 そりゃあたいらがこの世界に入ってくりゃあ迫害されるのも当然ってもんだぜ……)

 そして彼女は手に持ったタピオカミルクティをずず、と一気に啜って近くのゴミ箱へカップを投げ入れた。
 そのまま後ろに倒れるように首を倒すと、さかさまの状態でゴスロリ風のファッションをしたはしばみ色の髪と瞳をした少女と目が合った。

 ライアットはぱちくり、と目を瞬かせる。
 少女もまた、ぱちくり、と目を瞬かせたあとでその榛色の瞳を大きく見開いた。

「ら、ライアット……様?」

 少女がそう口にすると、ライアットはしまった、という顔になって苦笑した。

「お、おう……」



 ライアットはベンチの隣に座った少女の横で、どうしたものか、と困った顔で頬を掻いた。

「てめェは……たしかオスティんとこのヤツだったよな?」

「アマイアなのだわ」

 アマイアは立ち上がって優雅にスカートを掴んでお辞儀をした。

「ああ! そうそう! アマイアだっけ! ……ていうか、あたいの魔力感知をかいくぐってくるとは……てめェ、けっこうすごいヤツなんだな……」

 ライアットが呆れたような顔で言うと、アマイアは彼女の隣にちょこん、と腰かけてにっこりと笑った。

「私は諜報活動に向いているのだわ。 だから魔力をほぼ完全に消せますのだわ」

「そうかい……」

 ライアットは大きなため息をついた。

「で、アマイア。 てめェはこんなとこで何してやがったんだ?」

 そう訊かれて、アマイアは頬を赤らめるともじもじと手の指を膝の上で絡ませた。

「わ、私は……人間界の事をもっと色々知りたいと思ったのだわ。 だから情報収集のついでにこうして色々見て回っていますのだわ」

 彼女の答えにライアットは、少し笑った。

「そっか。 まぁあたいも似たようなもんさ」

 そう言ってそのまま彼女は遠い目をして周りの人間たちを眺めた。
 アマイアはライアットの少し寂しそうな横顔をじっと見つめて、またもじもじと手の指を絡ませた。
 そしてきっ、と真面目な顔になって視線を上げると、彼女に言った。

「あ、あの……ライアット様」

「あン……?」

 ライアットが人並みを見つめながら面倒くさそうに返事をするとアマイアはぎゅっとスカートを握りしめた。

「オスティナ様がとても心配してましたのだわ……。 ライアット様を殺めた事をとても後悔していらっしゃるみたいなのだわ……」

「そうか……」

 ライアットは哀しそうな目をして、またどこか遠くを見るように人並みを見つめた。

「なぁ、アマイア。 ……ちょうどいいや。 オスティに伝えてくれねェか」

「はい?」

 アマイアが不思議そうに顔を上げると、ライアットは視線を彼女に移して、真面目な顔でじっと見つめる。

「……あたいは戻れねェ。 ホントにすまねぇ……って言ってたってな」





 拠点に戻ったアマイアが泣きべそをかきながらオスティナにライアットの言葉を報告すると、彼女は目を閉じてそれを聞いていた。

「そう。 ……でもライアはライアだったのね?」

「はい。 間違いなくあのままのライアット様でしたのだわ」

 アマイアが鼻を啜りながら言うと、オスティナは目を開けて頷いた。

「それならいいわ。 あの子が自分でそう決めたのなら、私が何か言う事はないわ」

 オスティナはそう言って、微笑する。

「オスティナ様?」

 アマイアが目を丸くして聞くと、オスティナは微笑したままで応えた。

「きっと理由があるのよ。 あの子の事だもの」

 彼女の言葉を聞いて、キルカがふんわりと笑顔を浮かべる。

「オスティ、いつの間にかライアをすっかり信用しているのね」

 オスティナは、驚いたような顔になってからまた微笑んだ。

「そうね、そうかもね。 あの子の事だからきっとよほどの理由わけがある……って素直にそう思うのよ」

「わたしもそう思うの」

 キルカもこくこく、と頷いてみせる。

「こちらにいる統合された子たちがフラスコとは戦いたくないって言うのと同じように、ライアはきっと私たちとは戦いたくないと思ってるわ」

 オスティナはそう言って魔導ギプスの嵌った左手をさすりながら遠い目をした。
 すると、メタルカが少し考え込むような顔をして、ぽん、と手を叩いた。

「なに? ルカ?」

 オスティナが怪訝そうな顔で尋ねると、メタルカは大きな目を見開いて叫んだ。

「ルカわかっちゃった! あのね、フラスコのライアはね、イクローくんが好きだったんだよ!」

 彼女の声にその場にいる一同は目を瞬かせた。

「え?」

 イクローが驚いた顔でメタルカを見た。
 メタルカは彼の顔の前で右手の人差し指を立てて、それを振って見せる。

「君じゃないよ、向こうのイクローくんだよ。 だってあっちではあたしたちみんな同じ学園の同級生だったんだもん。 ライアはきっとそれで帰れなくなったんだって!」

 それを聞いて、オスティナは顔をしかめた。

「そんな……理由で?」

 するとメタルカは大きく首を横に振った。

「そんな……なんて事じゃないよ。 女の子にとってはね、好きな人は何よりも大事なんだよ!」

 彼女はそう言いながら少し頬を赤らめて胸に手を当てると、ほう、と熱い吐息を吐いてうっとりした顔になった。

「よく……わからないわ」

 オスティナが困った顔をして首を傾げると、キルカはふんわりとした笑顔を浮かべた。

「そうね……今のわたしにはわかるの。 もしライアの立場だったら……わたしも同じ事をしたかもなの」

 彼女はそう言ってイクローを見つめた。

「そう! オスティは忘れてるかもしれないけど……フラスコの魔法少女はみんな人間なんだよ! 人間の女の子なんだよ! こっちの魔法少女とは違うんだって!」

 メタルカが叫ぶと、イクローはふむ、と顎に手を当てた。

「なぁ、ルカ。 それって……俺たちがサン・ジェルマン、いや向こうの俺と戦う事になったら……?」

 メタルカは大きな目をくりくりと動かして彼を見た。

「そうだね。 ライアは敵に回るね、たぶん」

 オスティは大きなため息をついた。

「……厄介な事になったわね」

 キルカは、くすくす、と笑う。

「でも、そういうまっすぐな所は、ライアらしいの」

 オスティナはそれを聞いて、また大きなため息をついた。

「……そうね。 間違いなくライアだわ」

 彼女がそう言って苦笑しながら左手の魔導ギプスをさすると、キルカはそれを見てハッとした顔になり口をもごもごと動かして高速詠唱を始めた。
 オスティナの左手がキルカの赤い魔法光に包まれると魔導ギプスが光の粒子になって消え去った。
 キルカの治癒魔法である。

「ごめんなさいなの。 気が付かなくて。 早く治してあげればよかったの」

 キルカが申し訳なさそうに謝るのを、オスティナはぽかんと口を開けて見つめて、左手を動かしてその手を握ったり開いたりしてみる。

「……驚いた。 複雑骨折していたのよ? ……まったく……なんて魔力なの」

 彼女は目を丸くしたまま、不思議そうに自分の左手を見つめた。

「ふふ……はははは」

 突然それまで黙っていた黒井が笑い出した。

「どうしたの? 黒井センセ?」

 メタルカが大きな目を動かしながら彼女を見つめると、黒井は楽し気な顔をしながらタバコを取り出して口に咥えた。

「いや、このいわば戦時下にお前らは呑気でいいなぁ、と思ったものでな」

 そして黒井は魔法でタバコに火を点けると煙を思い切り吸い込んだ。

「……若いってのはいいもんだな」

「やぁだ! センセ! おばんくさぁ~い!」

 メタルカが顔をしかめて叫ぶと、皆笑った。




 同じころ、フラスコのアジトではちょっとした騒ぎが起こっていた。
 統合されたバレッタがそこに姿を現したからだ。
 彼女の動向を見守って魔法少女たちが固唾をのんで見守っている。

「やぁ。 バレッタ。 君も無事統合されたようだね」

 終郎が笑顔で彼の前に立つオレンジ色の魔導鎧マギカ・アルマを身に着けた魔法少女に言うと、彼女は、にぱ、と笑った。

「はいっす。 おにいちゃん……一応ご挨拶に、と思ってこうして参上したっす」

 彼女は静かな口調でそう言って、ゆっくりと頭を下げた。

「バレッタ……」

 終郎の傍らでキルカ・ハニーオランジェ・ティアマトが少し寂しそうに彼女を見つめる。

「姐さん……ご無沙汰してるっす」

 バレッタも少し悲しそうな顔で彼女にも頭を下げた。
 そして決意を込めた表情で顔を上げて、こう言った。

「お二人には大変申し訳ないっすが……。 あたしはオリジナル側につく事にしたっす。 でもこっちのみんなとは戦うつもりはないっす。 ……あたしはオリジナルのおにいちゃんを守る事に専念しようと思うす」

 終郎は笑いながら頷いた。

「ああ、君がしたいようにするといい。 それに彼を守るのは我々の目的の一つでもある。 全然構わないよ、バレッタ」

「申し訳ないっす」

 彼女はそう謝ってまた頭を下げた。

「では……またいずれお会いするっす」

 バレッタが背を向けると、その前にライアットが立って腰に手を当てていた。

「よう、『暴風弾丸娘タイフーン・バレットガール』。 てめェはあっちにつく事にしたのかい?」

 バレッタは少し驚いた顔で彼女を見つめる。

「ライア姐さん……。 あなたも統合されたんすね」

「ああ」

 彼女が頷くと、バレッタは少し寂しそうな笑顔を浮かべた。

「……姐さんはこっちにつくんすね。 じゃあ、場合によってはまた戦う事になるかも知れないっすね」

 ライアットは彼女の肩をぽん、と叩いた。

「そうだな。 楽しみにしてるぜ……」

「はいっす。 でもあたしは基本的にはもう誰とも戦いたくないっす……」

 するとライアットはおかしそうに笑った。

「そりゃあ、あたいもさ」

 そしてバレッタの耳元に顔を近づけて、囁いた。

「あたいはこっちのイクローサマの行く末が見てェだけさ」

 バレッタは目を閉じて頷いた。

「……姐さん。 あたしがそんな事言うのもおかしいっすが、おにいちゃんをお願いするっす」

「おう!」

 そして二人は拳を出してそれをぶつけ合った。
 バレッタが出口へ向かって歩いて行き、その姿を消していくと終郎がそれを見つめながらライアットに訊ねた。

「ライア、本当にいいのか? 君はバレッタを気に入ってるんだろう? 一緒に向こうに行っていいんだぞ?」

 ライアットは、ニッと笑って応えた。

「イクローサマ、しつけェぞ! あたいはあんたについていく! そう決めたんだ!」

 それを聞くと終郎は静かに笑顔を浮かべた。

「そうか……。 ありがとう、ライア」

 そしてキルカ・ハニーオランジェ・ティアマトもふんわりとした笑顔を浮かべた。

「ライアはどこまでもまっすぐなのね……」

「おう! それがあたいだからなッ!」

 ライアットは笑いながら部屋の端に行くと壁に背をもたれて腕を組んだ。

 (あばよ……。 バレッタ)

 彼女は遠い目をして、お気に入りの後輩の魔法少女を想った。



 バレッタがフラスコのアジトの外に出ると、そこにはアオイが立っていた。

「……バレッタちゃん」

 彼女は目に涙をいっぱいに溜めて、手を胸の辺りに当てている。

「アオイちゃん……」

 バレッタもまた、目に涙を溜めながら彼女の名を呼んだ。
 しばらく見つめ合っていたが、二人はどちらからともなく抱き合った。

「バレッタちゃん……バレッタちゃん!」

「アオイちゃん! アオイちゃん!」

 二人は抱き合ったまま、子供のように泣いた。
 どちらも言葉が出ずに、お互いの名前をただただ呼び合った。
 言葉は出なくても思いは溢れそうだった。
 バレッタの半分はフラスコの世界でアオイとルームメイトとして親友として暮らした思い出をちゃんと覚えているのだ。

 しばらくそのまま抱き合っていたが、落ち着いてくると二人は並んで草の上に座った。

「バレッタちゃんは……やっぱりバレッタちゃんなんだね」

 アオイがぽつり、と呟くとバレッタは少し笑った。

「そうっすよ……。 あたしはアオイちゃんの知っているあたしでもあるんすよ……」

 そしてアオイはバレッタの胸に付いている猫のバッジを見て少し笑った。

「そのバッジ……持っててくれてるのね」

「もちろんっす。 これはアオイちゃんが持たせてくれたんだってすぐわかったっすもん。 アオイちゃんは大事な大事な友達っすから!」

「バレッタちゃん……」

 アオイはまた目に涙を溜めて、ハンカチを目に当てた。
 バレッタは真面目な顔になると、ぽつり、と言った。

「ねぇ、アオイちゃん。 アオイちゃんもあたしと来ないっすか?」

 アオイは彼女にそう言われると泣き笑いの顔でゆっくりと首を横に振った。

「わたしは……イクローさんとフラスコの最後を見届けなくちゃいけないから……」

 バレッタはそれを聞くと鼻を啜って、目をごしごしと腕で擦った。

「そう言うと思ってたっす……。 そういえばアオイちゃんはオリジナルがいないんすよね?」

 そして彼女にそう訊ねた。
 アオイは不思議そうな顔で頷く。

「じゃあ……全てが終わったその時は……」

 バレッタはアオイをまた抱きしめた。

「また、こうして会いましょうっす!」

「うん……うん! バレッタちゃん!」

 二人はまた抱き合って、しばらくそのままでいた。
 そのうち名残惜しそうに身体を離すと、バレッタは立ち上がって空を見上げた。

「アオイちゃん……またねっす!」

 バレッタは、にぱ、と笑いながら涙を零してそのまま上空へと飛び上がった。
 アオイのバッジが陽光を受けて、キラリ、と光る。
 アオイは目にハンカチを当てながら彼女の姿が見えなくなるまで、ずっと高い真っ青な空を見上げていた。

「うん……またね、バレッタちゃん」

 そしてそうひとりで呟くと、嬉しそうに空に笑いかけた。





「ば、バレッタが戻ってきたって!?」

 イクローは慌てた様子で椅子から立ち上がりながら叫んだ。
 彼の視線の先には照れ臭そうに笑う黄緑色の髪をしてオレンジ色の魔導鎧マギカ・アルマを身に着けた彼のよく知る魔法少女の姿があった。
 バレッタは涙目で、少し不格好な敬礼をして、にぱ、と笑った。

「恥ずかしながら、生き返って帰ってまいりましたっす!」

「こ……このバカ野郎!!」

 イクローは怒ったような泣いているような顔で彼女に駆け寄ると思い切り抱きついて、身体を震わせた。

「……痛いっすよ。 それにあたしは野郎じゃないっすよ、おにいちゃん。 えへ……えへへ」

 バレッタも涙目でイクローの身体にそっとしがみついた。
 次の瞬間、背中からも誰かに抱きつかれて、バレッタは一瞬驚いたような顔をする。
 振り返ってみると、彼女の背中にキルカがしがみついて顔をぐしゃぐしゃにして唇を震わせていた。

「バレッタ……帰ってきてくれて、うれしい……ほんとにうれしいの……」

 キルカがぽろぽろと涙を流す姿を見てバレッタの瞳にもどんどん涙が溜まっていった。

あねさん……おにいちゃん……。 …………。 うっ……うわぁぁぁぁん!!」

 そして必死に耐えていた二人への想いが溢れ出てしまったかのようにバレッタは号泣し始めた。
 イクローとキルカにどれほど自分が想われていたのかと今更ながら思い知らされたのだ。
 そして二人をオリジナルの自分がどれほど想っていたのかを。



 三人が落ち着くと、彼らはロビーのソファに座って見知った顔たちに囲まれた。
 真ん中にバレッタ、向かって左にイクロー、右にキルカである。
 その前の机にはオスティナが座り、その左右にメタルカと黒井がいる。
 少し離れた椅子には心配そうな顔のスピカとルーの姿もあった。

 バレッタは目の周りを少し腫らして、まだ鼻を啜りながら彼女らを見回す。

「スピカ様とルーも統合されたんすね。 メタルカ様も、そして……黒井先生もこちらにいるとはびっくりっす」

 彼女は黒井をしげしげと眺めてそう言った。

「やっぱりオニキスは先生なんだな?」

 イクローが感心したように言うと、黒井がくっく、と喉を鳴らして笑った。

「そりゃまぁ、オリジナルの彼女たちは私とは面識がないからな。 統合されていたらフラスコ側の記憶でしか知るまい?」

 そして彼女はタバコを咥えて火を点けた。
 煙が魔法で作られた渦のような物へとゆらめきながら吸い込まれていく。

「まぁ、あたしは成り行きでねぇ~」

 メタルカは面白そうに両手を開きながら言う。

「で、あなたはどうしてここへ来たの?」

 オスティナが少し厳しい口調でバレッタに訊ねると、彼女は真面目な顔になった。

「あたしは……おにいちゃんと姐さんの側にいて二人を守りたいっていうオリジナルの強い意思に従ってここへ来たっす」

 バレッタがそう応えると、イクローとキルカは彼女を見つめてまた泣きそうな顔になった。
 そのままバレッタは少し苦悩するような顔をした。

「……ライア姐さんにも会ったっす」

 オスティナは僅かに眉を顰めた。

「ライアに?」

「はいっす。 ライア姐さんもあたしと同じでしたっす。 あっちのイクローお兄ちゃんへの強い想いに従ってあっちについたみたいす」

 それを聞いてメタルカが目を輝かせた。

「ほ~ら! やっぱり! ルカの言った通りじゃ~ん! ……いいよねぇ。 愛だよねぇ~」

「ルカ、あなたはちょっと黙ってて」

 オスティナが言うとメタルカは口を尖らせて、一瞬だけオスティナに向かって舌を出した。

「つまり……どちらかのより強い想いに従って行動を決めるという事なのね、あなたたち統合された魔法少女は」

 オスティナは手を組んでバレッタを見つめた。

「そうっす。 より強い想い……自分の気持ちに従うっす。 たぶんみんなそうっす」

 バレッタは頷いてルーとスピカを見た。

「スピカ様とルーはどうするっす? あたしはどちらの事情もわかっているのでこうしろとは言わないっすが」

 スピカは凛とした表情で顔を上げた。

「そうですわね。 わたくしは……より強い想いに従えというのならば、このままこちらでお姉さまと共に戦いたいと思いますわ」

「スピカ!」

 キルカが嬉しそうに声を上げると、スピカは微笑して彼女に頷いてみせた。
 スピカのその様子を見て、ルーは表情を曇らせた。

「……ごめん。 私はまだうまく感情をまとめられない」

 ルーがそう言うとバレッタは、にぱ、と笑った。

「いいんすよ。 あんたのフラスコでの事情が複雑なのはわかってるっす。 ……あたしはトリガーお兄ちゃんの妹っすよ?」

 ルーはそれを聞いて唇を噛みしめた。
 そしてバレッタは苦笑した。

「あたしだって……正直言えばあっちのお兄ちゃんも姐さんも、ライア姐さんも、アオイちゃんもみんな気になるし心配っすよ」

「そりゃ、そんなに簡単に割り切れるもんじゃないよな……」

 イクローが言うと、バレッタは頷いた。

「それでもあたしはこっちのお兄ちゃんを守りたいって思ったから来たんす。 でもフラスコの子たちとはあたしは戦わないす!」

 彼女がそう言うのを見て、イクローは少し笑って彼女の頭を撫でた。

「そうだな。 戦わないで済むならそれが一番だものな」

「っすっす!」

 バレッタは、にぱ、と笑いながら力強く頷いた。
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