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第三章 魔法少女絶対無敵(ジ・インヴィンジブル)

人形遣いの戦い

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「博士、博士!」

 志木しきめぐみは彼女の後ろで何やらガラクタを弄り回している中年男性を呼んだ。

「博士ってば!」

 彼女は業を煮やして立ち上がると、その男性の所へつかつかと歩いて行って、彼の手からガラクタを取り上げると放り投げた。

「何をするんだね!! あ~あ……あれは使えるかと思ったのに……」

 中年男性はがっかりした顔で片側のレンズの割れたメガネを指先で押し上げてため息をついた。

「圓道博士が私の話を聞こうとしないからです!」

 彼女はむくれて横を向いた。
 背も小さく、童顔なのでそういう表情をすると本当に中学生くらいにしか見えないくらい幼く見える。

「ああ……で、何かね? 志木くん」

 圓道博士は観念したという顔で、どっこいしょ、とぐちゃぐちゃに潰れたAMSTF対魔法少女特殊戦術部隊の基地の瓦礫に腰かけた。
 めぐみはハッとして、そうだった、と小さな声で言うとさっきまで彼女が見ていた方角を指差した。

「あの……あれをどうしたものかとご相談したくてですね……」

 圓道博士はメガネをぐいぐいと持ち上げて目を細めた。

「あぁ? ありゃあ……黒井くんじゃないか!」

 まさに今気づいた、というように彼は驚いた声を上げた。

「ええ、まぁ……黒井司令、ではあるんですが……」

 めぐみは眉根に皺を寄せて、困った顔で俯いた。

 彼女たちの少し先には、黒井瑪瑙くろい・めのうが意識を失って倒れていた。
 ……だが、この黒井はもちろんオリジナルのこの世界の黒井ではない。

 フラスコの黒井瑪瑙である。
 オリジナルを斃した事で昏倒してしまった彼女であった。

「まぁ、ほっとくわけにもいかんだろう」

 博士は言って、耳にくっついたままの通信機を叩いた。

「おい! 誰か生き残ってるか? もしもし? もしも~し!」

 その姿を見てめぐみは口を尖らせた。

「博士ぇ~。 電話じゃないんですから……」

「おぉ? 反応があったぞ! ……もしもし? もしもし?」

 博士の通信機の先からノイズ混じりの返答が聞こえた。

「こちら……人工魔法少女……No.00……応答を……願います」

 博士は目を丸くした。

「お前、レイか!? よくぞ生きて……。 私だ、圓道元京えんどう・もとちかだ! こちらの位置はわかるか?」

「圓道博士……。 確認しました。 そちらへ向かいます」

 そして通信は切れた。

「零の奴、こっちに来るってさ」

 めぐみはほえ~と感心した声を出した。

「この状況で人工魔法少女が生き残ってたなんて、驚きですねぇ」

 圓道博士は少し嬉しそうに笑った。

「あいつらは私の娘みたいなもんだからなぁ……一人でも残っててくれて、嬉しいよ……」

「博士……」

 めぐみも少ししんみりとした顔で鼻のあたりを袖で擦った。

 少しすると空中をヨタヨタと飛びながら、黒いスーツを着た人工魔法少女がやってきて彼らの所へ降りてきた。

「零! よく無事で!」

 博士は感極まって彼女をぎゅっと抱きしめた。

「……痛いです。 博士」

 零は無感情な声でそう言うと周りを見回した。

「あれは黒井司令……? ですか?」

 地べたで意識を失って伸びている彼女を目に留めて、零は尋ねた。

「そうなんだけど、そうじゃない? みたいな?」

 めぐみが困った顔で言うと、零は怪訝そうな顔で黒井の所までいくと指先で彼女をちょんちょん、とつついた。

「気を失っているだけのようです」

「とりあえず彼女も連れて行こう。 どこか休める場所はないか? 零」

 博士が尋ねると、零は目に付いている電子魔導スコープを操作して、その辺をスキャンし始めた。

「十メートルほど先の地下室の一部分は無事のようです。 とりあえずはそこへ行ってみましょう。 崩落の危険などもなさそうです」

「そうなんだ! よかった……このまま野宿しなくていいんですね」

 めぐみはほっと胸を撫でおろした。

 次の瞬間、零が顔を上げると鋭く、だが声を殺して叫んだ。

「……伏せてください。 魔法少女です」
「なんだと?」

 博士とめぐみは慌てて物陰に隠れた。

「生き残りも殺すつもりで戻ってきたのでしょうか?」

 めぐみが不安そうに聞くと、博士は、ううむ、と唸った。




「うわぁ。 ひどい有様!」

 メタルカは大きな目をまん丸くして声を上げた。
 彼女はオリジナルのメタルカである。
 ここに来れば何か手掛かりがあるのではないかとライアットたちの目を盗んでわざわざ出向いてきたのだ。

「ルカ様、生き残りはいないと思われます」

 部下の魔法少女が言うのを聞いて、メタルカは周りを見回して首を傾げた。

「うーん? なんか微妙に魔力の反応を感じるんだよねぇ~」

 彼女は地面に手を当てて、土くれでゴーレムを作ると、魔導杖を現出させてそれでゴーレムたちを操った。

「さぁ、みんな~。 その辺適当にひっくり返していいから生き残りがいるか探してみて! 殺しちゃダメだよ~!」

 メタルカは楽し気にそう声をかけて十字型の魔導杖を両手で操ってゴーレムたちを眺めた。

「みんな、とりあえずここに集まって!」

 彼女が声をかけると彼女とともにいた三人の魔法少女が集まった。
 するとゴーレムたちは適当にその辺の瓦礫を掘り返しては放り投げて、そこを更地にしていった。

「何かあるかと思って来てみたけどぉ。 はずれだったかなぁ?」

 メタルカは首を傾げてそう言いながら、なおも魔導杖を繰った。

 しばらくすると、ゴーレムの一体がどたどたと足音を立てて彼女の元へと戻ってきた。
 その腕には気を失った長身の女性と、背の小さな幼い感じの女性、そして中年の男性、それに黒いスーツを着た少女が抱えられていた。

「あ、あなたたち! 私たちをどうしようっていうんですか!」

 勇敢にも志木めぐみはメタルカに向かって叫んだ。

「我々も、殺そうというのか?」

 圓道博士が震える声で尋ねると、メタルカは不機嫌そうに眉を寄せて口を尖らせた。

「何言ってるの! 生き残ってる人がいたら助けてあげようってわざわざ来てあげたのに! ルカ、怒っちゃうぞ!」

 彼女の声にめぐみと博士は意外そうな顔になってメタルカをしげしげと眺めた。

「な、なんで?」

 めぐみが思わず聞くと、メタルカは何かを思いついた、というかのように、ぽん、と手を叩いた。

「ああ! そうか! あたしをアイツラの仲間だと思ってるんだ! ……違うよ? ここを襲ったアイツラはあたしの仲間じゃないよ?」

 メタルカが言うとめぐみと圓道博士は目を丸くした。

「いやでも……魔法少女でしょ?」

 めぐみが恐る恐る聞くとメタルカは頷いた。

「そうだよ。 でもあたしたちは基本的には人間たちに迷惑かけないようにしてるよ? だからアイツラとは違うんだってば」

「い、意味がわからん!」

 圓道博士が叫ぶと、ゴーレムの手が緩んで彼らは地面に投げ出された。

「……排除対象。 確認」

 零が立ち上がって両手をクロスさせるように構えた。

「何この子? 魔法少女? なんか変な感覚だけど?」

 メタルカは目を瞬かせて零を見て言った。

「まぁいいや。 めんどくさいからその子だけ捕まえておいて?」

 彼女が魔導杖をちょいちょい、と振ると地面からゴーレムがもう一体生まれて、零をその体に取り込んで、ゴーレムの胸の辺りに彼女の顔だけ出ているというおかしな姿になった。

「……動けない」

 零は顔だけの状態でそう言って、メタルカを睨んだ。

「あー、怖い怖い。 だから別にあたしはあなたたちと戦うつもりなんかないってば」

 メタルカは手を広げてぱっ、と魔導杖を消すと瓦礫の上に座って足を組んだ。

「す、すごい魔力だ……。 もしや君は『称号持ち』ってヤツかね?」

 圓道博士が興味深そうに聞くとメタルカは頷いた。

「まぁ、魔法少女なら称号はみんな持っているけど。 称号が多いって意味なら、そうだね」

 そして彼女は指でVサインを作るとそれを右目の横に持っていってウインクして舌を出した。

「あたしは魔法少女”人形遣いパペット・マスター”メタルカ! 一四〇〇〇の称号を持った、魔法王国キシャムの王女! よっろしくぅ!」

「い、一万四〇〇〇……?」

 圓道博士は茫然としてあんぐりと口を開けた。

「ず、ずいぶん砕けた王女様ですね……」

 めぐみは変な事に感心している。

「まぁ、いいや~。 せっかく生き残り見つけたんだし、みんなのとこへ連れていってあげる。 詳しい話はそこで!」

 メタルカはそう言うと高速詠唱をして、移動魔法のゲートを開いた。

「じゃあみんなゲートに入って~」

 メタルカが言うと、彼女の部下三人はめぐみや圓道博士をゲートへと導いた。
 零の埋まったゴーレムもゲートにひょい、と飛び込む。

 そこでメタルカはふと、ひどく嗜虐的な妖艶な笑みを浮かべた。

「……あたし、あとから追いかけるからぁ~、みんな先に行ってて?」

 彼女がそう言うと、部下の一人が彼女の顔を見て彼女と同じような酷薄な笑みを浮かべた。

「ルカ様……たっぷりと、お楽しみください」

 部下の魔法少女の言葉に、メタルカはにんまりと笑顔を返した。

 そして誰もいなくなると、彼女は瓦礫に座って足を組むと右手の肘を膝の上に載せて、頬杖をついた。
 その顔には酷薄で嗜虐的な、しかしとてもエロティックな妖艶な笑みが張り付いたままだ。

「さっすがあたし! ちゃんとわかってて残ってくれたんだぁ~!」

 座るメタルカにそう声をかける者がいた。
 地面から土くれが盛り上がるとその中から彼女は姿を現した。

 黒い魔導鎧のメタルカ、フラスコのメタルカである。

「そりゃあね、こんな楽しいイベントを用意してもらったら……ねぇ~」

 メタルカはそう言って、ふっ、と右手の爪の先に息をかけるとそのデコレーションされたネイルをより目になって眺めた。
 そして爪をうっとりと眺めて、左手をちょいちょいっと黒いメタルカに向けると地面から太い木の根のようなものが飛び出して黒いメタルカの体を粉々に砕いた。

「……とりあえずぅ~。 そんなお人形じゃなくて自分で出てきたらぁ?」

 彼女は座って爪を眺めながらそう言った。

「わお! さっすが! わかってた?」

 いつの間にか少し離れた瓦礫の上に黒いメタルカが座って、オリジナルと同じように足を組んだ。

「そりゃあねぇ~! だってあたしの考える事でしょ?」

 メタルカはそう言って、歯を見せてにっ、と笑った。
 黒いメタルカも、同じように頬杖をついてにんまりと笑う。

「やっぱり、あたしは……最高だねっ!」
「当ったり前でしょ! あたしなんだから!」

 二人は笑い合って、次の瞬間一気にお互いの距離を詰めて魔導杖をぶつけ合っていた。

「「もう、やるしかないっしょ~!」」

 二人は楽しそうに同時にそう叫んだ。




「で、あんたらがあの基地の生き残りってェわけかい?」

 めぐみと圓道博士、零はライアットの前に引き出されて小さくなっていた。
 人口魔法少女の零は無表情だが、小さく震えていた。
 魔力を隠そうともしないライアットのその魔力圧にすっかり怯えているのだ。

「まぁ、そんなにビビんなって……」

 ライアットはニッと笑って、部下に命じると彼らにお茶を出させた。

「……あなた、私の仲間を殺したひと……ですよね?」

 零は震えながらもライアットを睨んでそう言った。

「ああン? だから言ってるだろうがッ! あれはあたいらじゃねェって!」

 ライアットがテーブルを殴りつけるとそこへ雷が落ちてテーブルに焼け焦げた大穴が空いた。

「おおっと。 わりィな。 あたいは気が短ぇからよ……」

 彼女はニヤリ、と笑うと魔法でテーブルの穴を直した。

「まぁ……聞けや。 あたいらにもまだわけがわからねェんだが……。 アイツらはどうもあたいらにそっくりなんだ。 信じるも信じねえもてめえらの勝手だがよ……」

 そしてライアットはどっかりと椅子に腰を下ろすと腕を組んだ。

「まぁ、これを見てくれ」

 彼女は魔法で画面を出すと先日のフラスコの声明の映像を出した。
 圓道博士とめぐみ、零はそれを食い入るように見つめた。

「あたいらはな。 基本的には別に人間になんざ興味はねェんだ。 こうして時々婿探しに来て、ちょっと男どもを攫ったりする事はあるが……まぁ、そんなもんだ」

「む、婿探し?」

 めぐみが目を瞬かせた。

「ああ。 あたいらは十八歳になると魔力を失う。 それを回避するには……その、なんだ……魔力を持った男と……ええと……」

 ライアットは顔を真っ赤にして頬をポリポリと掻いた。

「も、もしかしてセックスをしないといけない?」

 めぐみが尋ねるとライアットはさらに顔を赤くした。

「は、はっきり言うなよ! 恥ずかしいじゃねぇか……バカ野郎」

 ライアットはあたふたと手を振って、ごほん、と一つ咳払いをした。

「まぁ、そういうわけでそれ以外については別にこの人間界をどうこうするつもりもねぇんだよ」

 圓道博士は感慨深そうに頷いて腕を組んだ。

「やはり……そうなのか。 その風習はまだ続いているんだな……」

 ライアットは顔をしかめると博士を睨み付けた。

「あんた、何か知ってるのか?」

 そしてライアットは部下を呼んで耳打ちをすると、その部下は奥へと下がって行った。

「まぁ……色々問題はあるんだが。 一応その魔力を持った男、あたいらは『天子』と呼んでるんだが、そいつは見つかったんだ」

 彼女の言葉に、博士とめぐみは、ほう、と声を上げた。
 するとその場に、イクローとキルカ、スピカ、バレッタにルーが入ってきた。

「あぁ!? オヤジ!? なんでここにオヤジがいるんだよ!!」

 イクローは博士を見て驚いて目を丸くした。

「い、イクロー? お前こそなんで魔法少女と一緒にいるんだ?」

 博士も目を白黒とさせた。
 めぐみはぱちくりと目を瞬かせると、二人を交互に見た。

「博士? もしかして……『天子』ってのが息子さんなのでは?」

「ええっ!?」

 博士は驚いてあまりの勢いで椅子からずり落ちた。

 そんな彼らを後目に、零は今度こそその顔を真っ青にして恐怖に打ち震え始めた。

「わ、私は……恐ろしい……こんな、こんな魔力の持ち主が……存在するなど、ありえません……」

 彼女の恐怖がありありと浮かんだ瞳の先にはキルカが立っていた。

「あぁ、そうだな。 魔力でいえばキルカが圧倒的にナンバーワンだ。 誰もそれについちゃ文句は言えねぇ……」

 ライアットが腕を組んだまま、そう言ってお茶を啜った。

「もともとこいつはあたいらと比べたら、格が違いすぎてもうお話にもならねぇ。 こいつの称号数は三七五六四だが……それも、それ以上称号付けるだけ無駄だって魔法界の連中が匙を投げてそこで止まってるだけの話だ。 実際どのくらい強いのかはあたいらにも想像が付かねぇ……」

 そして圓道博士が真剣な顔になって、キルカとスピカをじっと見つめた。

「……まさか……お前たちは……。 キルカ・ティアマトとスピカ・ティアマトか?」

 名前を呼ばれてキルカとスピカはきょとんとして博士を見た。

「わたくしたちの名前をなぜご存じですの?」

 スピカが尋ねると、圓道博士はぶわっ、と涙を溢れさせた。

「私は……私はお前たちの……父だ!」

「ええええええええええ!!」

 イクローとキルカ、スピカは三人で大声で叫んだ。




 魔導鎧をボロボロにしながら、二人のメタルカは未だ魔導杖をぶつけ合って戦い続けていた。

「ねぇ~?」

 オリジナルのキルカがフラスコのキルカに声をかけた。

「なぁに~?」

 フラスコのキルカも返事をして、プッ、と血の塊を吐き出した。

「本人同士って魔法も効きが悪いし、手の内もわかりすぎてて……こうして殴り合う事しかできないの……つまんなくなぁい?」

 メタルカがやれやれというように手を広げて言うと、フラスコのメタルカは口元に手を当てて吹き出した。

「あたしもそう思ってたトコ!!」

 二人は魔導杖を構えるのをやめて、大声で笑い合った。

「じゃあ……あれで決着をつけなぁい?」

 メタルカが舌なめずりをしながらウインクすると、フラスコのメタルカもにんまりと笑った。

「よぉし、やっちゃお~!!」

 そして二人は魔導杖を構え直して高速詠唱を始めた。
 二人の足元から巨大な魔力のオーラが立ち上り、それは段階を追って大きな光の環となって大きな魔法円を形作っていった。

 そして地面が大きく隆起して、それはもこもこと形を変えて、瓦礫をも取り込み、どんどんと大きなものへとなっていった。

 やがてそれは二体の巨大なゴーレムとなった。
 身の丈は二十メートル近くはあるだろう。
 取り込んだ瓦礫や金属が混じったそれはまるで巨大ロボットのような様相を呈していた。

 メタルカたちはそれぞれそのゴーレムの肩に飛び乗ると、叫んだ。

「改めて……レディィィ!!」
「ゴォォォ~~!!」

 二体のゴーレムはその巨大な拳を振り上げた。

 瓦礫の山と化したAMSTF対魔法少女特殊戦術部隊基地に激しい地響きがこだました。
 富士の裾野のその場所から響く音に樹海の動物たちは身を隠した。
 重機でボーリングをするような音が何度も何度も響いては地面が揺れた。

 巨大なゴーレムはその巨大な腕を振り上げては、もう一体を殴りつける。
 お互いに拳を繰り出しては、ボロボロとその土くれでできたボディが崩れていった。

「アハハハハ!! た~のしぃ~!!」

 すでにボロボロの魔導鎧を自らの血で染めながらメタルカが狂気に満ちた目で叫んで高笑いをしながら魔導杖を振るう。

「このこのぉ~!! アハハハハハァ~!!」

 同様に血みどろのフラスコのメタルカも笑いながら魔導杖を繰りだした。
 殴り合うゴーレムの攻撃の合間に二人のメタルカの足元から木の根が生えては彼女たち自身をそれが襲う。
 よけ続けているが二人はだんだんとその肉体に傷を増やし、時々直撃を食らっては血反吐を吐いて、またその仕返しをする。

 まさに泥沼の戦いである。

 二人は肩で息をして全身からぼたぼたと血を流しながら、それでもその赤い瞳だけは爛々と輝かせて、口元には笑みを浮かべ続けている。

「うふ……うふふふふ……ふふふ……アハハハハハ!!」

 メタルカは楽しくてたまらないとでもいうように大笑いをすると、ゴーレムの腹から瓦礫の鉄筋を数本発射させた。
 フラスコのメタルカのゴーレムの左腕が吹き飛んだが、すぐにその腕は再生されてそのまま振りかぶってメタルカのゴーレムを殴りつける。
 彼女はその勢いで吹き飛ばされて地面に落ちるとまた血反吐を吐いて、口を腕で拭きながら立ち上がった。
 そしてすぐに足元から木の根を生やし、それに乗って上空へと飛び上がるとフラスコのメタルカのゴーレムを木の根でがんじがらめにしてしまった。
 身動きの取れなかったフラスコのメタルカのゴーレムをメタルカのゴーレムは何度も殴りつける。
 そして衝撃でフラスコのメタルカも地面に叩き落され、血反吐を吐きだして倒れた。

「アハハハハハ!! つよ~い!! さすがあたしぃ~!!」

 血まみれで倒れたままフラスコのメタルカは大笑いをして、彼女もまた木の根を生やすと上空へと飛び上がり、空で彼女を見下ろしていたオリジナルのメタルカと対峙した。
 彼女たちの眼下では、巨大なゴーレムがお互いに激しい殴り合いをして双方ボロボロと崩れていくのが見える。
 ゴーレムたちは表現のできない不思議な雄たけびを上げ、お互いのパンチがクロスカウンター気味に決まり、ガラガラと崩れて行った。

 それを眺めていたメタルカは瞬時にフラスコのメタルカの元へ移動すると魔導杖で彼女を突いた。
 フラスコのメタルカはそれをギリギリで避けたが、彼女の魔導鎧の脇腹が裂けて血飛沫が飛び散った。

「よそ見してる暇はないよぉ~?」

 メタルカはまるで獲物を狙うヘビのような剣呑な目をして、舌なめずりをして笑う。
 そしてそのまま左方向へ瞬時に一回転してフラスコのメタルカに思い切り蹴りを入れた。

「ゲホ……!」

 フラスコのメタルカは血を吐き出しながら地面へ猛スピードで落下して衝撃で地面に大きな穴を空けた。

「はぁはぁ……。 そうか……こっちの魔法少女には属性がないって……言ってたっけ。 あの速度はまるで風の魔法だ……」

 彼女は仰向けに寝転んで、そう呟くと両足を持ち上げて反動で跳ね上がるように飛び起きるとポンポン、とスカートを叩いて土埃を落とした。

「でもほんと、つっよいな~。 こっちのあたし。 ……あたしたちは負けても勝ちなんだし、もういいかなぁ~」

 フラスコのメタルカはそう言ってから、ふるふる、と頭を振ると、両頬を手で叩いた。

「いやいや、こんな楽しいのそう簡単に終わらせたらもったいないよぉ~!」

 オリジナルのメタルカが魔導杖を肩に担ぐようにして、彼女を見下ろして、にんまりと笑う。

「もう終わりぃ~? あたしはまだまだそんなもんじゃないよねぇ~?」

 フラスコのメタルカはそれを聞いて同じようににんまりと笑った。

「まだまだ! これからっしょぉ~!」

 オリジナルのメタルカは嬉しそうに目を細めた。

「そうこなくっちゃ……ね!」

 彼女は踊るように回転しながらフラスコのメタルカへと魔導杖で襲い掛かった。
 フラスコのメタルカも魔導杖を構えると同じように回転して魔導杖を振り回す。
 二人の魔導杖はぶつかり合って激しく火花を散らした。
 直後、フラスコのメタルカはもう一回転してオリジナルに回し蹴りを食らわせた。
 オリジナルのメタルカはもんどりうって吹き飛んで倒れて血の塊を吐き出した。

「はぁはぁ……ちっくしょー! ほんと強いな~。 こんなに思い切り戦ったの初めてだよぅ~」

 オリジナルのメタルカも仰向けに大の字で倒れたまま、そう呟いた。
 そして彼女はその瞬間姿を消すと、フラスコのメタルカの顔面に踵をぶち込んだ。
 フラスコのメタルカは吹っ飛ばされながらも、そのつま先をオリジナルの鳩尾に食い込ませた。

 そして二人とも弾き飛ばされて、離れて倒れたままになった。
 二人とも肩で息をしながらも、やはりその貌には楽し気に笑みを浮かべていた。

「ねぇ~!」

 ふと、フラスコのメタルカがオリジナルに声をかける。

「なぁにぃ~?」

 オリジナルもいつもの呑気な調子で返事をした。

「あたしだけ知ってるってのもフェアじゃないしぃ~、教えてアゲル!!」

 フラスコのメタルカの言葉にオリジナルは目を瞬かせた。

「あのね! あたしたちどっちが死んでも結果は変わらないの!」
「どういうこと?」

 オリジナルは立ち上がって、フラスコのメタルカに駆け寄っていくと、腰に手を当てて身を乗り出すようにした。
 フラスコのメタルカも起き上がると、その場にあぐらをかいて座って、にっ、と笑って彼女を見上げる。

「あたしたち、どっちかが死ぬと生き残った方に人格とか記憶とか全部受け継がれて統合されちゃうんだって!」
「マジ……?」
「マジマジ!」

 フラスコのメタルカはうんうん、と頷いた。
 オリジナルのメタルカは顎に指先を当てて、うーん、と唸った。

「それじゃさ。 相打ちになった場合はどうなんの?」

 そう聞かれてフラスコのメタルカも同じように顎に手を当てて、うーん、と唸ってからにこっと笑った。

「わかんない!」
「なにそれ! アハハハハ!!」

 オリジナルは笑ってその場に倒れ込むと大の字に寝転んだ。

「戦ってて気づいたんだけどぉ~? あんたってさ、使える魔法が偏ってるよね?」

 フラスコのメタルカもひっくり返って大の字になって手を広げた。

「うん。 あたしたちは属性ってのがあって使える魔法が決まってるからねぇ~!」

「そっかぁ~。 それじゃたぶんこのまま戦ってたら、あたしが勝つよぉ?」

 オリジナルがそう言うと、フラスコのメタルカはふふっ、と笑った。

「そうかもね! でもそういうわけだからあたしは別に負けてもいいんだぁ」

 オリジナルはそれを聞いて難しい顔をした。

「ね、ね、じゃあ逆にさ! あんたの方が優れてる、ってかメリットとかある?」

 フラスコのメタルカはそれを聞くとこちらも難しい顔をして、うーん、と唸った。
 そして、何かを思いついたように大きく目を見開いた。

「ああ!! そうだ! あんたたちって『魔力上がり』ってのがあるんでしょ? あたしたちにはそれがないんだよぅ!」

 そう言われてオリジナルは飛び起きた。

「それマジ?」

「マジマジ! だってこっちの魔法少女の事聞くまでそんなのがある事すら知らなかったも~ん」

 オリジナルは立ち上がって、にんまりと酷薄そうな笑みを浮かべた。

「わかったぁ!! あたしあんたを信じる! じゃあ……後はあんたに頼むよ!」

 彼女はそう言うと、空中へ飛び上がって高速詠唱を始めた。
 オリジナルのメタルカは自らの体を魔法爆弾に変えて、そのまま魔力爆発を起こした。

 メタルカはそのまま激しい閃光と爆炎を上げながら木っ端みじんに吹き飛び、彼女の僅かに残った肉片は塩になって風の中へ消えていった。

「うわぁ~……さっすが、あたし。 思い切りいいなぁ……」

 フラスコのメタルカはそう言ってにっこり笑うと、そのまま白目を剥いて昏倒して気を失った。
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【キャライラストつき】【40文字×17行で300Pほど】 2024/01/15更新完了しました。  2042年。  瞳に装着されたレンズを通してネットに接続されている世界。  人々の暮らしは大きく変わり、世界中、月や火星まで家にいながら旅行できるようになった世界。  それでも、かろうじてリアルに学校制度が残っている世界。  これはそこで暮らす彼女たちの物語。  半ひきこもりでぼっちの久慈彩花は、週に一度の登校の帰り、寄り道をした場所で奇妙な指輪を受け取る。なんの気になしにその指輪をはめたとき、システムが勝手に起動し、女子高校生内で密かに行われているゲームに参加することになってしまう。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

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