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第一章 魔法少女大戦

鋼鉄の雷鳴(サンダー・スティール)

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「さよなら」

 その言葉が、目の前の魔法少女へ向けられたものなのかイクローへ向けられたものなのかはわからない。
 だが、ほんのさっきまで彼のクラスメイトの蒼鉄あおがねちるるだったその魔法少女は一瞬少し寂しそうな顔をしてその銃弾を放った。
 目の前に立っていた小さな魔法少女らしきものは無言で瞳を大きく見開いたまま事切れていた。
 腹のあたりに大きな穴を穿たれ、そこから上半身が千切れ地面へと落ちた。

「……妙ね。 塩にならない?」

 蒼い魔法少女はそうぽつりと呟いて、振り返ると右手に銃を抱えて左手をイクローへと伸ばした。
 彼はショックを受けたように茫然としたままだった。

「そ、そんな……蒼鉄さんが……魔法少女だった、なんて」
「ごめんね。 別に騙すつもりではなかったのだけど……隠しておいた方が色々動きやすかったのよ」

 彼女は少し情けない顔でわずかに笑顔を作りながら言って、少し強引に彼の手を取った。

「改めて……魔法少女ブルースティールよ。 ルーって呼んで」

 ルーはそう簡単に自己紹介をして、こっち、と言いながらイクローの手を引いて走り出した。
 彼女はひょい、と片手でイクローを抱きかかえるようにしてジャンプするとそのまま飛び上がってビルの屋上に飛び乗った。
 彼女の右目の少し前あたりに直径十センチほどの小さな黄色い例の魔法円が浮かび上がると、その中央に十字の文様ができた。
 これは魔導スコープである。
 これを発動している間は彼女は半径三キロメートルほどの区間であればどこにでも思うままに弾丸を命中させる事ができるのだ。
 そのまま銃を構えると低く重たい銃声を響かせて、彼女は三発ほどまるで無造作に見えるように弾丸を放った。

「よし……とりあえず、近くにはもう敵はいないわね」

 ルーは独り言のようにそう呟いた。
 右目の魔法円がなくなると、彼女は傍らで座り込んで茫然自失の状態のイクローを見てため息をついた。

「ショックなのはわかるけど……シャンとしなさい! あなたも攫われたくはないでしょう?」

 少し厳しい調子で彼女が言うとイクローは彼女を悲しそうな目で見た。

「なんで……なんでだ? 俺一年生の時から蒼鉄さんの事知ってるのに……? 友達だと……思ってたのに?」
「ごめん。 私たちがこっちに来てまだ二か月も経ってないわ。 それは学校中の人に私がそう思うように魔法で暗示をかけただけよ」

 ルーは自分も少し寂しそうな顔で、そっとイクローを抱きしめた。

「あなたを守るためだったの。 わかってほしい。 ……あなたと同級生でいたこと、学校でみんなと過ごしたこと……私も本当に楽しかった。 できればこのままでいたかった。 それは本当よ」
「蒼鉄さん……いや、ルー……?」
「それに、私もあなたの事決して嫌いじゃないわ……友達でいたかったのも本当よ」

 彼女はそう言ってほんとうに寂しそうに笑った。

「とりあえずキルカたちの所へ帰りましょう」

 ルーはそう言って立ち上がるとキリッとした表情に戻って、またイクローを抱きかかえて宙を舞った。


 家に帰るとイクローと一緒に部屋入ってきた、蒼鉄ちるるの姿のルーを見てバレッタがぶんむくれた。
「ルー、なんであんたまでここに来るんす? 任務継続中じゃないんすか?」

 するとルーはすっとぼけた様子で答えた。

「あら! バレッタあんた生きてたの? あんたが死んだと思ってあんたみたいなまん丸いオレンジ色の花を川に流してお祈りまでしてあげたのに!」
「な、な、なんですとぉ~~!!」

 バレッタが真っ赤になるとルーは澄まして続けた。

「あんたが死んだんじゃしょうがないと思って護衛任務を私が引き継ごうと思ってこうして来たのよ。 あらあら、損したわ……」

 バレッタはさらに真っ赤になるとルーにつかみかかろうと立ち上がって、足の痛みでまたへたり込んだ。

「ぐぬぬぬぬぬ……元気になったら見てるっすよ!」

 ふとルーは何かを思い出したように、顔の前に人差し指を立てた。

「ああ、そうそう。 バレッタ。 ……今日助けてあげたのは貸しだからね?」

 それを聞くとバレッタはどんぐり眼をぱちくりとさせてから、また真っ赤になった。

「……やっぱりあんただったんすか。 ぐぬぬ……このバレッタ一生の不覚っす! あんたなんかに借りを作るとは……っす」

 そう言ってバレッタはがっくりと肩を落とした。

「いつか返してね」

 ルーはあくまで冷たい様子でそう答えた。


 二人の様子を見て、幾分落ち着いた様子のイクローはキルカに耳打ちするように尋ねた。

「なぁ、バレッタとルーって仲悪いのか?」

 キルカはきょとん、として言った。

「見てわかるようにうんとなかよしなの」
「ど、どこが?」

 するとキルカは少し笑ったように見えた。



 その頃、イクローの家から数キロメートル離れた工事現場で一人の魔法少女が機嫌が悪そうな顔でぼやいていた。

「なんでェ……こいつら。 おかしいじゃねえか。 塩にならねえなんてよ」

 癖の強い黒い長い髪をなびかせて、黒いレオタードスタイルの魔導鎧を身に着けた少女はそう言って周囲を見回した。
 彼女の周りには黒焦げになった人型をした炭みたいなものがいくつも煙を上げている。
 前髪に入った稲妻の形をした赤いメッシュがキラリ、と光った。

「一体。 ナニモンなんだこいつら。 魔法少女のようだがなんか違う。 しかも直接このあたいを狙ってきやがった!」

 彼女は考え込むようにして口元に手を当てた。

「ライアット様、ご無事ですか?」

 彼女の傍らに一人の魔法少女が現れてそう尋ねた。

「おう! あたいがこの程度のヤツらにやられるわけがねえだろ!」

 彼女はそう言って白い歯を見せてニカッと笑った。

 ライアット、そう、彼女の名はライアット・ダムガルヌンナ・ダムキナ。
 魔法界四大王国のひとつ、ダムキナの王女である。
 よく呼ばれている称号は鋼鉄の雷鳴サンダー・スティール
 鋼鉄の雷鳴のライアットである。

「おう、そうだそうだ」

 彼女は何かを思い出したようにそう口にすると先ほどの配下の魔法少女に尋ねた。

「チェリアのヤツはどうした?」

 問われた配下の者は膝をついて深々と頭を下げながら答えた。

「は。 未だ意識が戻りません。 ……なんであんな風になってしまったのかさっぱり……」
「そうか」

 ライアットは首を傾げて、また機嫌悪そうな顔になると魔導杖を消して腰に手を当てながらのっしのっしと歩いていった。

「気に入らねェ……なんだかものすごく気にいらねェ……。 妙な事が多すぎるぜ」

 言いながら彼女の姿は肩までまくり上げた黒いTシャツに、妙に長いスカート、黒いスニーカーといういで立ちへと変わった。
 まるで昭和のヤンキーのようである。

「こいつァ……あたいらだけでやり合ってる場合じゃねェんじゃねえか? 招集会議かけてみっか。 下手したら魔法界にも影響があるかも知れねえ」
「はい……」

 彼女の言葉に傍らの配下の魔法少女が頷いた。



「ねぇ、キルカ。 妙なのよ」

 突然ルーがそう言った。

「ルーまで……なんなの?」

 キルカは目をぱちくりと瞬かせた。

「さっき戦った相手なんだけど、倒しても塩にならなかったの」

 彼女の言葉にキルカとバレッタは顔を見合わせた。

「……やっぱり、魔法少女でない魔法少女がいるのね」

 キルカがそう言うとルーが怪訝そうに眉をしかめた。

「あたしが今日戦ったヤツもそうだったっすよ」
「そうなの?」

 バレッタの言葉にルーは少し驚いた顔になる。

「なにが起こってるのかしら?」

 キルカはそう言って考え込んだ。
 そして彼女は、ぱん、と小さく手を叩いた。

「そうなの! 久しぶりにせっかくこうして三人揃ったのだから……」
「なぁに?」
「なんすか?」

 キルカが少しうれしそうな様子で言うのをルーとバレッタが不思議そうに見つめた。

「みんなでお風呂に入るの!」

 彼女がそういうとバレッタが目から涙をあふれさせた。

「ああぁ~。 久しぶりのお風呂……うれしいっす!」

 そして三人でばたばたと部屋を出ていくのを眺めてイクローは少し笑った。
 なるほど、なんだかんだ言って仲が良いんだな、と思う。
 そして王女と配下、というよりは仲の良い三人組のような感じなんだな、とも思う。
 キルカの人柄なのだろうか。

 イクローはそんな事を思って窓の外の月を眺めた。




 天井に溜まっていった水滴がぴちょん、と音を立ててタイルの床へと落ちる。

「はぁ~……生き返るっす……」

 バレッタが目に涙を貯めながら湯舟に浸かってしみじみと呟いた。

「あんた、いつからお風呂入ってないのよ?」

 ルーがスポンジで体を洗いながら聞くとバレッタは半分泣きべそをかいて答えた。

「そろそろ一か月くらいすかね……」
「汚な!!」
「き、汚くないっすよ! 魔法で毎日汚れは落としてたんすから!」

 バレッタがムキになって言うのをキルカはいつもの無感情な仏頂面でありながら、どこか面白そうに眺めて湯舟に鼻のあたりまで浸かった。

「こうして三人一緒なのもひさしぶりなの」

 キルカが言うとルーとバレッタは笑った。

「そうね。 人間界こっちに来てからはずっと別々だったものね。 私たち子供の頃からずっと一緒でこんなに長く離れた事なかったのにね……」
「そういえばそうっすね。 姐さんはずっとネットに潜ってましたし」

 キルカは頷いた。

「後はスピカ様がいたら全員集合っすね」

 バレッタが言うとキルカは少し考えこんだ。

「……あの子がいるとうるさいから、もう少しだけこのままがいいの」

 それを聞いてバレッタとルーは情けない顔になって笑った。

「どちらにしろ後三か月はゲートが開かないから人間界にいなくちゃいけないしね」

 ルーは言いながらシャワーを捻ってお湯を出すと体の泡を落とし始めた。
 するとキルカがじっとルーを見つめた。

「なに?」

 ルーが不思議そうな顔で聞くとキルカは少しだけ悲しそうな顔になった。

「ルーの体はステキなの……」
「えぇ?」

 言われてルーは顔を真っ赤にして体を隠すようにした。

「ルーは昔から恥ずかしがり屋なのね」

 そしてキルカは少ししょんぼりした様子で自分の体を眺めた。

「わたしも十七歳の身体になったらステキになれるのかしら_」

 そんな彼女を見てルーは少し優し気に微笑んだ。

「なんでそんな事を気にするの?」

 するとキルカは表情はあまり変わらないがその頬が少し赤く染まった。

「わたしイキロのおよめさんになってイキロに好きになってもらえるのか自信ないの……。 ルーみたいにばいーんだったら好きになってもらえるのかなって……。 ネットで勉強したら男のひとは胸が大きいのが好きみたいなの……」

 するとバレッタがさらりと言った。

「ああ、でもスピカ様を見てる限りそんなに……うぶぶぶぶ!」

 ルーがバレッタの顔にシャワーで思い切りお湯をかけて叫んだ。

「余計な事は言わなくていいのよ! このバカ!」

 双子ではあるが、スピカはそこまで魔力が高くないので成長は止めていない。
 すなわちスピカの見た目はほぼ十七歳のキルカの姿に近いだろう事が想像できる。
 そして残念ながら彼女の胸は……さほど大きくなかった。
 いや、むしろ小さい方だった……。

 キルカは胸の大きなルーとバレッタを見て、ひとりため息をついた。

 「一緒に育ったのに……ふたりはずるいの……」

 彼女がそう呟くのを聞いて、ルーとバレッタは苦笑した。


 三人が風呂から上がってイクローの部屋へ戻ると、彼は真っ赤な顔で怒鳴った。

「おまえらぁぁぁぁぁ!!!」

 三人はきょとんとした顔になった。

「服を着ろ!!!」

 キルカはまたもや素っ裸で、バレッタはパンツ一丁、ルーだけがチューブトップにショートパンツを身に着けていた。

「……なぁ、ルー」
「え? 私? なにかしら?」

 ルーはいきなり呼ばれて目を瞬かせた。
 イクローは後ろを向きながら彼女に尋ねた。

「どうやらお前はまぁまぁまともみたいだから聞くんだけど」
「?」

 イクローははぁ、とため息をついてから言った。

「魔法少女には羞恥心というものはないのか?」

 ルーはまた目をぱちくりと瞬かせた。

「ない事はないわよ?」

 するとイクローは後ろを向いたまま背中の方を指さした。

「じゃあこれはどういう事だ?」

 ルーは少し考えてから何かに気づいたように言った。。

「ああ! そういう事!」
「そういう事だ……」

 ルーは苦笑しながら答えた。

「まぁ、私はほらずっと人間の事を勉強しながら学校に行ってたから、それなりの常識は持っているけど……」
「あぁ、そうだな……」
「あのね、イクロー。 魔法少女は魔法界から来たのよ」
「わかってるよ、そんな事」

 イクローは不思議そうな顔で言った。

「魔法界っていうのは基本的には魔法少女しかいないのよ」
「ああ、まぁ、そうだろうな」

 彼はルーが何を言いたいのかわからずさらに不思議そうな顔になった。

「つまり、女ばっかりだから気にしない子は気にしないわよね」
「……そういう事か」

 イクローががっくりと肩を落とした。

「よくわかった……。 とりあえず、だ。 人間界にいる間は他人の前ではハダカになるな!! わかったか? キルカ、それにバレッタ!」

 彼がまた怒鳴ると、キルカはいそいそとイクローのTシャツを頭から被って、バレッタも魔法でタンクトップにショートパンツという姿になった。

「センパイは細かいっすねぇ……スピカ様みたいっす」

 バレッタがぶちぶちと文句を言った。

「なのなの」

 キルカもこくこくと頷く。

「いや……俺が細かいんじゃなくて、これは人間界の常識だから……できたら覚えてくれたら助かる……」
「わかったっす!」
「わかったの」

 二人は神妙な顔で頷いた。
 そしてイクローはまたひとつ溜息をついた。



 イクローの家から数キロメートル離れた場所に倒産した会社の跡地らしい廃墟ビルがあった。
 その廃墟の一室になぜか明かりが点いている。
 とっくに送電も止まっているだろうに、不思議な事にその一室にだけ煌々と明かりが灯っているのだ。
 部屋の中はキレイに片づけられ、床には毛足の長い絨毯までもが敷かれている。
 ソファやベッドなどの家具や調度品も揃っていて、さながら高級なホテルのような様相を呈しているではないか。
 その部屋のソファの上で、鋼鉄の雷鳴サンダー・スティールのライアットが不機嫌そうな顔でポリポリとポテチを齧っていた。

「おう、てめえら!」

 彼女がそう声をかけると周りにいた十名ほどの魔法少女はそのソファの前に集まって一斉に膝をついて彼女に傅いた。

「あたいは決めたぜ」

 ライアットの言葉に一人の魔法少女が尋ねた。

「何を、でございますか?」

 するとライアットは思い切りポテチを噛み砕いた。

「休戦協定だ」

 彼女の言葉に魔法少女たちはざわついた。

「うるせえ!! あたいが決めたことだ! ゴタつくんじゃねェよ!」

 ライアットが怒鳴ると、魔法少女たちはしーんと静まり返った。

「あまりにも状況がおかしすぎる。 どうにもあたいはあの塩にならねェ魔法少女モドキどもが気になって仕方がねえんだ……。 あたいの予感が言ってる。 あいつらをほっとくとえらい事になるぜ、ってな」

 そして彼女は立ち上がると手を上げて一人の魔法少女に命じた。

「全チャンネルの魔法放送をするぜ。 支度しな! 奴らに聞かれるリスクもあるが……こうでもしねえと他の王国の奴らもあたいの話なんざ聞いちゃくれねえだろうからな……」
「は、はい!」

 魔法少女は慌てて部屋の隅に行くと何やらガタガタとタンスの引き出しを探り始めた。



「何かしら?」

 キルカが物音を聞きつけた猫のようにピクン、と体を震わせて言った。

「何かの魔法放送みたいね」

 ルーが聞き耳を立てるようにしながら言うと、バレッタも怪訝そうに顔を上げた。
 イクローも何やら頭の中に声が響いてくるような感覚を感じて思わず椅子から立ち上がった。

「な、なんだこれ?」
「センパイ、聞こえるんすか?」
「お、おう……小さくだけどなんか言ってるくらいは」
「はぁ~。 センパイはほんとに魔力があるんすねぇ!」

 バレッタが感心したように声を上げた。

「どういう事だ?」

 彼が尋ねると、それにはルーが答えた。

「全チャンネルの魔法放送よ。 魔力を持っている者だけに聞こえるように魔法でメッセージを送っているのよ」
「静かにしてなの」

 キルカが小さな声で鋭くルーの声を遮った。

 やがてライアットの魔法放送が始まった。
 キルカたちも固唾を飲んでそれに耳を傾ける。

「……今この放送を聞いている全ての魔法少女に告げる。 あたいはダムキナ王国王女、ライアット・ダムガルヌンナ・ダムキナだ」

 彼女はまず名乗りを上げて少し間を開けた。

「ライア?」

 キルカは目を見開いて呟いた。

「我々ダムキナ王国所属の魔法少女は今この時を持って、各王国との戦闘行為を停止する。 ……ようは休戦協定を結びたいってこった。 理由は……」

 彼女はそこで一旦言葉を切って、深く息を吸い込んだ。

「我々とは別の勢力の魔法少女らしき存在を確認したからだ。 とりあえずこいつらを排除するまで休戦したい。 もし賛同してくれるならば、各勢力の代表から連絡をもらいたい」


 そこでバレッタが顔を上げてキルカを見た。

「姐さん。 これってもしかして?」

 バレッタのはっきりしない問いにキルカはこくこくと頷いた。


「あたいらが信用できないのもわかる。 だが腐ってもこのライアット! そんな卑怯な真似はしねえ!!」

 ライアットは叫んだ。
 彼女が正々堂々とした戦いを好む事は魔法界では誰でも知っている事だ。
 そういう意味では説得力があった。

「だから誓おう。 我がダムキナ王国の名と誇りに懸けて!! 今は一切の戦闘行為はしないと!」


「これは……ライアットは本気だわ」

 ルーが驚いたように言う。
 それにキルカがまたこくこくと頷いた。

「国の名に懸けて、なんて一国の王女が口にするのはよっぽどなの」


「願わくば……各国王女たちよ。 連絡を請う。 ……敵は……塩にならない魔法少女だ!」

 彼女はそう締めくくった。
 聞いていたバレッタやルーが顔を見合わせて、キルカがどうするかを見守る。

「もう一度言う。 連絡を請う。 ……詳しくは実際に会って話したい」

 最後にライアットはもう一度そう言った。
 後は他国の王女からの連絡を待つ、という構えらしい。
 彼女は腕を組んで目を閉じたまま、魔法放送の回線はそのままで待った。

「ライア……本気なのね。 そして敵はやっぱり塩にならない魔法少女……なのね」

 キルカはそう呟くと、口元に赤い小さな魔法円を発生させて、それに向かって声をあげた。
 ライアットの呼びかけに応えるつもりになったようだ。
 これもまたオープンチャンネルで彼女との会話は全ての魔法少女に伝わるはずだった。

「……ティアマト王国王女、キルカ・ティアマトなの」

 彼女が名乗るのを聞いて、ライアットの周りの魔法少女たちは驚いて声を上げた。
 滅多に人前に出てこない最強と言われる魔法少女の存在は彼女らにとっては底知れぬ程の脅威なのだ。
 その本人が今こうして連絡を取ってきている。

「キルカか……。 フッ、久しぶりじゃねえか、ええ? 『絶対無敵ジ・インヴィンジブル』」

 ライアットが応えて、彼女を有名な称号の一つで呼んだ。

「だがお前さんがこうして連絡をくれた事は素直にうれしいぜ。 ……このライアット、心より感謝する」

 彼女はそう丁寧に答えた。

「なの。 実はわたしたちもその塩にならない魔法少女と交戦したの」

 キルカがそう言うと、ライアットはカッ、と瞳を開いた。

「……やっぱりか。 あいつらはどうもあたいら魔法少女を狙って仕掛けてきてる節があるからな」
「ライア、あなたの招待に応じるの。 会って話したいの」
「わかった。 貴女の申し出、このライアット、本当に心から感謝する。 ……フッ、しかしお前にそうやってライアって呼ばれるのも懐かしいな!」
「わかったの。 わたしが直接赴くから会う場所を後で教えてなの」

 ライアットの周りの魔法少女がまたどよめいた。
 あのキルカが、あの最強と言われる魔法少女がこちらへ赴くと言ったのだ。
 ここからは状況が変わった。
 何せ現在魔法界で敵なしと言われる最強の魔法少女、キルカがライアットの申し出を受けたのだ。
 これは他国の王女も黙っては見過ごせない状況になった事を意味する。
 ライアットはそれをわかっていて、心からキルカに感謝をした。

「あいつはわかってくれると思ったぜ……」

 彼女はそう小さな声で呟いて僅かに口を歪めて笑った。

 そもそも各国の王女たちはこの世代は全員同い年である。
 今でこそ立場上争う事になってはいるが、元々はそれぞれが各国に赴き、共に学んだ事のある幼馴染みたいなものなのだ。
 ましてやこの世代にはキルカという絶対的な力を持つ魔法少女がいる。
 そういう意味ではいくら小競り合いをしようが力関係的には無駄なのだ。
 そして王女たち自身は決して戦いを望んでいるわけではない。

 そこでまた通信が入った。

「ラハム国王女、オスティナ・コングラートラピス・ラハムよ」
「おぉ、オスティ……お前も久しいな!」

 ライアットは来たか、とでも言うようにニヤリと笑いながら応えた。
 相手は『冷酷の氷結ストーン・コールド』オスティナ。

「挨拶は抜きよ。 この件、私たちラハムも賛同する。 追って連絡されたし」

 そう彼女は短く用件だけ伝えると通信を切った。

「ハッ、相変わらず愛想のねえ奴だぜ」

 ライアットは言って笑った。
 そしてすぐに次の通信が入るのに気づいて、彼女のニヤニヤとした笑いは止まらなくなった。

「キシャム国王女、メタルカ・ラグジュリア・キシャムよ~。 久しぶり~ライア~」

 少々呑気な声でそう言うのは、キシャム国の『人形遣いパペット・マスター』メタルカだった。

「ルカか。 まさかお前まで連絡をくれるとはな」
「当たり前でしょ! これであたしだけ連絡しなかったらあたしたちキシャムは孤立無援になるじゃない!」
「とりあえず、連絡してくれた事に感謝する」

 ライアットは素直に謝辞を述べた。

「後で暗号通信で待ち合わせ場所を連絡するぜ」
「わかった。 久しぶりに四人で会える事をあたしも楽しみにしてるよ!」

 ルカは嬉しそうに言って通信を切った。

「これで役者は揃った……てめえら! いいか! あいつらには一切手出し無用だ! くれぐれもあたいの顔をつぶしてくれるなよ!」

 ライアットが配下たちに向かって怒鳴ると、彼女たちはライアットの前に並んで膝をついて口々に「ハッ」と答えた。

「よし、暗号通信を送れ! まずは東京タワーでお互い手下だけで会って、そこで会合の場所を伝えると!」
「ハッ!」

 そして一人の魔法少女が口元に青い魔法円を発生させると高速詠唱言語で通信を送った。

「細工は流々……仕上げを御覧じろってか」

 ライアットはそう独り言のように呟いて空を仰いだ。」


「しかし驚きっす」

 バレッタがどんぐり眼を見開いて言った。

「まさかこんな事を行動に移す人がいるなんてね」

 ルーもベッドに座って頬杖を突きながら言う。

「あたし、ライアット様は敵ながらあっぱれな人だとは正直ずっと思ってたっす」

 バレッタはそう言うと嬉しそうに頬を赤らめた。
 キルカはこくこく、と頷いた。

「あの子は昔からまっすぐな子なの。 嘘をついたり騙したりはしないのよ。 そういう意味では信用できるの」

 それを聞いてバレッタは少し表情を曇らせた。

「でもライアット様にこれだけは聞かなくちゃいけないっす」
「なんなの?」

 キルカが首を傾げて尋ねる。

「あのチェリアの事っす。 あいつもたしかに塩にならなかったっすが……でもあいつがダムキナの魔法少女なのも間違いないっす」
「スパイとかの可能性もあるんじゃない?」

 ルーが言うと、バレッタは頷いた。

「その辺も含めてはっきりさせて欲しいんす」
「それはそうなの」

 キルカがまたこくこく、と頷いた。
 そして彼女らの様子を黙って見ていたイクローが口を開いた。

「ごめん、話の腰を折るようで悪いんだけどさ」
「なんなの?」

 キルカが彼を見た。

「で、結局どういう状況になったわけ?」

 彼が情けない顔で尋ねると、キルカは僅かに笑うような顔になってきっぱりとこう言った。

「魔法少女連合ができるの!」
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吉野茉莉
キャラ文芸
【キャライラストつき】【40文字×17行で300Pほど】 2024/01/15更新完了しました。  2042年。  瞳に装着されたレンズを通してネットに接続されている世界。  人々の暮らしは大きく変わり、世界中、月や火星まで家にいながら旅行できるようになった世界。  それでも、かろうじてリアルに学校制度が残っている世界。  これはそこで暮らす彼女たちの物語。  半ひきこもりでぼっちの久慈彩花は、週に一度の登校の帰り、寄り道をした場所で奇妙な指輪を受け取る。なんの気になしにその指輪をはめたとき、システムが勝手に起動し、女子高校生内で密かに行われているゲームに参加することになってしまう。

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