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24話: 力学と波力のボレロ(前編)
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大会の朝を迎えた。全物理部員は気合の入り方が違った。特に長距離で優勝をした石角は、誰よりも気合の入り方が違う。
「俺がやらなきゃ誰がやる?優勝して次世代の車をもらうのは俺たちの学校だ!」
気合の入る中、早朝7時ごろ会場入りすると梓馬がそこにいた。梓馬の目線の先には最新鋭の貯水タンクとスプリングラーがあった。
「お?長距離代表の石角が来たか!見てみろ?これが今回使われる雨のスプリングラーだぞ」
「これはすごいですね。爪楊枝タワー大丈夫かなぁ…」
心配する中、25分後には欅と富林が到着した。欅はスプリングラーを見て叫んだ。
「石角!今すぐあのスプリングラーの中身を調べるんだ!ピラニア酸が含まれてるかもしれない」
「ピラニア酸?川原が言ってたあの強酸か、すぐに水質調査をしよう。梓馬先生!水タンクを調べても良いですか?」
「ん?問題ないけど…時間までには戻れよ」
許可を得て石角と欅は走った。水タンクは災害時などにも使われるもので、その貯蔵量は70万トンになる。見たところ問題は無かったが、欅は一つの仮説を立てた。
「まだピラニア酸をここに入れてないとしたら、この管は溶けてない…。でももし、不動態などで溶けずに流れていたならどうなんだ…」
「まずは鉄か何かを入れて様子見よう。じゃないと分からない」
石角は落ちていた木材を拾って水タンクの上から放り込んだ。木材は、一瞬にして原型を残すことなく朽ちた。
「…間違いないね。やばすぎだ」
「威力がもはや映画級…。さすが堀田毅、爪楊枝タワーはともかく参加する全ての物理部を潰す気だな?」
ピラニア酸の強さに腰を抜かした2人だが、欅はピラニア酸について説明をした。
「このピラニア酸は、濃硫酸と過酸化水素を混ぜたもので溶かすと濃硫酸の脱水により黒くなるのさ…。木材投げて一気に溶けたけど、黒鉛とかそんなのを含んだ鉛筆などを入れると黒く焦げてしまう。人体に影響というより、会場ごと実験台にするつもりかもしれない。どうにかしないと…」
2人で考える中、一本の電話が入った。
「もしもし?富林だけど、この会場の隣にある体育館のような場所で化学部の大会準備が行われてるよ。もしも、堀田がそこにいるのなら遠隔操作もあり得るかも…」
「なるほど…。遠隔操作か。それならこの液を中和するまでだ!」
欅は強酸に対して強塩基でぶつけようと考えた。しかし、量はえげつないので使える気配がなかった。午前中8時30分をまわり、爪楊枝タワー大会が始まるアナウンスが入った。
「仕方ない…どうにかして食い止める方法探しながら大会を見守ろう」
「遠隔ならこの会場丸ごとハッキングするしかないね…」
石角の冗談混じりな考えに一か八かと言わんばかりにパソコンを開いては会場内の安全データと管理システムに侵入した。
「これで良い。あとは堀田が動くのを待つしかない、石角君は他の人たちが来た時のために座る所の誘導を頼む」
「了解!」
予定通りに鶴居、富林を所定の場所へ誘導してアナウンスが来るまで待たせることにした。違和感はすぐに気づいた。
「あれ、欅君なにしてるの?」
「ん?ハッキングしてる」
言ってる内容がレベチだったが、鶴居は分からなかった。なぜ大会の場所に到着して最初に見るのが欅の華麗なるハッキング術なのか…。そして、大会開始のアナウンスが入ったのにも関わらず没頭していたからだ。
「あまりパソコンのキーボードひどく叩いたらダメだよ?壊れたら大変だしさ…」
「堀田の企みを先読みしている。ここに仕掛けられてると川原が言ったピラニア酸は間違いなかった。最初は中和をしようと考えたけど原料が足りないと見て、この大会施設をハックしている。石角君と富林君と鶴居さんはそのまま大会の行方を見てて」
詳しい説明をしたあと、3人は自分たちで組み立てた爪楊枝タワーの行方を見届けた。最初は地震による耐震性の確認からだった。
「この地震でやられたら完全に詰みだ。でも、欅君の計算なら問題ないはず!信用しよう」
「なるほど…去年と違うのは一気に震度を上げるのではなく、徐々にしかも余震も含めた審査なのね」
「100本あるうちの60本までに残れば問題ないみたいだけど…今年もハイレベルだね」
3人はそれぞれ和気藹々とした分析をした。石角の読み通り、地震による耐震性は難なくクリアして予選は余裕で通過した。鶴居の携帯から1つの着信がきた。
「はいもしもし?お!喬林さんじゃん!聞こえるのは加賀木さんなのね。どうした?」
「大会の場所に到着したけどどこに動けば良いのかなと思って…」
「分かった!石角君に誘導をしてもらったからその場所に石角君を出すから」
時刻を見ると昼前になっていた。お昼ご飯の時間になりつつの中、梓馬から差し入れが届いた。人数分のお弁当だ。
「まだ来てない人いるみたいだけど、これは俺からの差し入れだ!これ食って最後まで頑張れよ。石角!さっきから思ったけど欅は朝から何してんの?」
「え、パソコンで調べ物してます。多分いつものことだと思いますけど…」
言葉を濁らせた。同時に午後組の左右田と下原、寺野、湯田が到着した。
「お前ら遅いなぁ!サボってたのか?特に下原は怪しいなぁ」
「そんな疑いの目を僕だけに向けないでくださいよ…。湯田と寺野にも同じように言ってくださいよ!」
「お前が言うなや…。お?お弁当だ!下原もそう言わず食べようよ」
「寺野が言うなよ…。俺がわざわざ買ってきてやったからな!湯田は何も言わないから良いなぁ。携帯いじってるみたいだけど…」
梓馬と下原、寺野のやり取りに石角たちは笑ったが湯田がしている携帯を見てツッコミを入れまくった。
「人が話してる時にモバイルゲームする奴がいるかボンクラが!何のために来てるのか分かってないだろ。全く…」
「そうだぞ湯田、ってお前ランクやばすぎ!置いてかれたよ…。本当にアニリンブラック並みに腹黒いわ」
化学用語をぶちかます下原に湯田へツッコむ梓馬。明るく話しながら時間を見ると、予選を勝ち進んだ学校による午後の部が始まろうとしていた。
「俺がやらなきゃ誰がやる?優勝して次世代の車をもらうのは俺たちの学校だ!」
気合の入る中、早朝7時ごろ会場入りすると梓馬がそこにいた。梓馬の目線の先には最新鋭の貯水タンクとスプリングラーがあった。
「お?長距離代表の石角が来たか!見てみろ?これが今回使われる雨のスプリングラーだぞ」
「これはすごいですね。爪楊枝タワー大丈夫かなぁ…」
心配する中、25分後には欅と富林が到着した。欅はスプリングラーを見て叫んだ。
「石角!今すぐあのスプリングラーの中身を調べるんだ!ピラニア酸が含まれてるかもしれない」
「ピラニア酸?川原が言ってたあの強酸か、すぐに水質調査をしよう。梓馬先生!水タンクを調べても良いですか?」
「ん?問題ないけど…時間までには戻れよ」
許可を得て石角と欅は走った。水タンクは災害時などにも使われるもので、その貯蔵量は70万トンになる。見たところ問題は無かったが、欅は一つの仮説を立てた。
「まだピラニア酸をここに入れてないとしたら、この管は溶けてない…。でももし、不動態などで溶けずに流れていたならどうなんだ…」
「まずは鉄か何かを入れて様子見よう。じゃないと分からない」
石角は落ちていた木材を拾って水タンクの上から放り込んだ。木材は、一瞬にして原型を残すことなく朽ちた。
「…間違いないね。やばすぎだ」
「威力がもはや映画級…。さすが堀田毅、爪楊枝タワーはともかく参加する全ての物理部を潰す気だな?」
ピラニア酸の強さに腰を抜かした2人だが、欅はピラニア酸について説明をした。
「このピラニア酸は、濃硫酸と過酸化水素を混ぜたもので溶かすと濃硫酸の脱水により黒くなるのさ…。木材投げて一気に溶けたけど、黒鉛とかそんなのを含んだ鉛筆などを入れると黒く焦げてしまう。人体に影響というより、会場ごと実験台にするつもりかもしれない。どうにかしないと…」
2人で考える中、一本の電話が入った。
「もしもし?富林だけど、この会場の隣にある体育館のような場所で化学部の大会準備が行われてるよ。もしも、堀田がそこにいるのなら遠隔操作もあり得るかも…」
「なるほど…。遠隔操作か。それならこの液を中和するまでだ!」
欅は強酸に対して強塩基でぶつけようと考えた。しかし、量はえげつないので使える気配がなかった。午前中8時30分をまわり、爪楊枝タワー大会が始まるアナウンスが入った。
「仕方ない…どうにかして食い止める方法探しながら大会を見守ろう」
「遠隔ならこの会場丸ごとハッキングするしかないね…」
石角の冗談混じりな考えに一か八かと言わんばかりにパソコンを開いては会場内の安全データと管理システムに侵入した。
「これで良い。あとは堀田が動くのを待つしかない、石角君は他の人たちが来た時のために座る所の誘導を頼む」
「了解!」
予定通りに鶴居、富林を所定の場所へ誘導してアナウンスが来るまで待たせることにした。違和感はすぐに気づいた。
「あれ、欅君なにしてるの?」
「ん?ハッキングしてる」
言ってる内容がレベチだったが、鶴居は分からなかった。なぜ大会の場所に到着して最初に見るのが欅の華麗なるハッキング術なのか…。そして、大会開始のアナウンスが入ったのにも関わらず没頭していたからだ。
「あまりパソコンのキーボードひどく叩いたらダメだよ?壊れたら大変だしさ…」
「堀田の企みを先読みしている。ここに仕掛けられてると川原が言ったピラニア酸は間違いなかった。最初は中和をしようと考えたけど原料が足りないと見て、この大会施設をハックしている。石角君と富林君と鶴居さんはそのまま大会の行方を見てて」
詳しい説明をしたあと、3人は自分たちで組み立てた爪楊枝タワーの行方を見届けた。最初は地震による耐震性の確認からだった。
「この地震でやられたら完全に詰みだ。でも、欅君の計算なら問題ないはず!信用しよう」
「なるほど…去年と違うのは一気に震度を上げるのではなく、徐々にしかも余震も含めた審査なのね」
「100本あるうちの60本までに残れば問題ないみたいだけど…今年もハイレベルだね」
3人はそれぞれ和気藹々とした分析をした。石角の読み通り、地震による耐震性は難なくクリアして予選は余裕で通過した。鶴居の携帯から1つの着信がきた。
「はいもしもし?お!喬林さんじゃん!聞こえるのは加賀木さんなのね。どうした?」
「大会の場所に到着したけどどこに動けば良いのかなと思って…」
「分かった!石角君に誘導をしてもらったからその場所に石角君を出すから」
時刻を見ると昼前になっていた。お昼ご飯の時間になりつつの中、梓馬から差し入れが届いた。人数分のお弁当だ。
「まだ来てない人いるみたいだけど、これは俺からの差し入れだ!これ食って最後まで頑張れよ。石角!さっきから思ったけど欅は朝から何してんの?」
「え、パソコンで調べ物してます。多分いつものことだと思いますけど…」
言葉を濁らせた。同時に午後組の左右田と下原、寺野、湯田が到着した。
「お前ら遅いなぁ!サボってたのか?特に下原は怪しいなぁ」
「そんな疑いの目を僕だけに向けないでくださいよ…。湯田と寺野にも同じように言ってくださいよ!」
「お前が言うなや…。お?お弁当だ!下原もそう言わず食べようよ」
「寺野が言うなよ…。俺がわざわざ買ってきてやったからな!湯田は何も言わないから良いなぁ。携帯いじってるみたいだけど…」
梓馬と下原、寺野のやり取りに石角たちは笑ったが湯田がしている携帯を見てツッコミを入れまくった。
「人が話してる時にモバイルゲームする奴がいるかボンクラが!何のために来てるのか分かってないだろ。全く…」
「そうだぞ湯田、ってお前ランクやばすぎ!置いてかれたよ…。本当にアニリンブラック並みに腹黒いわ」
化学用語をぶちかます下原に湯田へツッコむ梓馬。明るく話しながら時間を見ると、予選を勝ち進んだ学校による午後の部が始まろうとしていた。
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