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20話:破壊の神降臨

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 本番まで残り3日。石角は、乾燥が終わった爪楊枝を見て最後の作業へ移ろうとしていた。

「これで良いはずだ。とりあえず、組み立てていこう。今日来る人誰か分からないけどとりあえず、頑張った事だから珍しく部室でダラダラするか」

 石角は理系であるためか、疲れも溜まり睡眠が取れていなかったのでここぞと言わんばかりにぐっすり寝ていた。その静けさは小鳥の囀りが聞こえるほどだった。1時間後、3人部室へ入ってきた。下原と湯田、寺野だ。

「お疲れーって石角疲れてんの?珍しいね」
「寝てるとこ初めて見るかも…たまには休むのも大事だね」
「お前寝てるとかサボりだろ!?」

 寺野と湯田の一言は無視して最後の下原による一言で石角の眠気が覚めた。

「誰がサボりだ?貴様らがオンラインゲームとかしてたからだろ!バカが…。本気で考えて手伝ってるの今だけだろ。今日は乾燥終わってるから組み立てるぞ」

 闇の石角が姿を現した。しかし、停学ボーイズの相手をする時間もないので作業に移った。

「もう会場場所行けるし、タワーも置けるから作り上げるぞ!組み立てた後はそのまま会場へ持って行くからそのつもりで」
「了解」
「その後ゲームしようぜ」

 下原の脳内はオンラインゲーム大会に占められていた。組み立ては思ったより早く終わり、データにある通りに出来た。その佇まいは古の技術と現代の技術が織り成す、まさに芸術かつ威厳を保っていた。

「それじゃ大会場所の楊子木塔建設株式会社別館へ向かおう。前に行った所だけど名称覚える気がなさそうと思ったから覚えた」

 4人は、公共交通機関を利用して楊子木塔建設株式会社別館へ向かった。到着した時は、もう既に建てられてるものもあったが、仮留めのような形であったのであまり本気にしなくても良いと石角は思った。

「にしてもこのフィールドのアスファルトがクオリティすげぇわ。でもこれよく見れば地盤に突き刺すための穴があるな?計算通りなら多分…」

 石角は爪楊枝タワーの土台となるところを少し弄った後、その穴に刺した。石角たちのタワーが遂に完成した時でもあった。

「この数ヶ月色々あったがやっと出来たな。湯田君と下原君は写真撮った後大会運営本部へ行って組み立てたという証明をしてて」
「オッケー!」

 石角は梓馬先生に会うために席を外した。湯田と下原はあらゆる角度から写真を撮ってはオンラインゲームの大会について語っていた。寺野の行方を話しながら…。

「寺野君どこ行ったんだろ…」
「さあ?どうせあいつのことだから飯買いに行ってるだろ。食べる時まぁまぁ食べるやつだからさ。あの足の力出せないだろうし」

 雑談をしてる中、奇声を発しながら走ってくる男がいた。

「フォォォォ!ここの会場広くて走りやすい。お!下原と湯田ここにいるじゃん。ここから飛んでやろっと」

 奇声を発しながら走って飛んだ男の正体はまさかの寺野だった。しかし、様子を見る限り精神異常者のようなもので何もかもぶっ飛んでいた。流石はフットクラッシャーと言ったところだろうか。

「ヤバ…あいつ毒盛られたんじゃね?」
「アルコール臭いな…チョコレートの匂いも少しするけど…」

 2人は嫌な予感を察知した。寺野はアクロバティックに飛んで組み立てたタワーの根本を足の力のみで強引に折った。

「え…」
「馬鹿野郎…石角に怒られるぞ」

 下原は、得意の腰ツボ押しで寺野を黙らせた。寺野は痛みに悶絶したのか失神した。寺野の口元と匂いで湯田は理解した。

「どうやらアルコール入りのチョコレートを盛られたようだけど、そのアルコールが食べてない人でも分かるくらいの匂いだから恐らくだけどウォッカに近い度数を誇るかもね」
「ウォッカってロシアのやつやろ…。そんなの入れるやつって誰だ?」

 2人は推理する探偵のように黙り込んだ。石角が来た時は寺野は酔いに覚めた。

「2人とも一体何があってこんな壊れたの?また馬鹿なことしたんじゃないだろうか?」
「流石に違う。寺野が毒盛られて根本を足で一気に折りやがった」

 説明をした湯田でも動揺するほどで、どこかのカンフー映画かのような足で折ったはずなのに、真っ二つという切れ味だったが石角は怒るどころか開いた口が塞がらず、目を覚ました寺野は記憶にない様子でもあった。

「頭痛いな…確か俺は、チョコレートをくれた女の子から貰って食って5粒食べた後目眩がしたような」
「その女の子はどこにいたの?」
「この会場付近にあるコンビニだよ」

 下原ががっついて聞いたのは、犯人と思われる人間の目星が絞られていた。寺野は石角に抱擁されながら休み、湯田と下原は現場へ駆け走った。

「ついでに接着剤買ってきて!コンビニなら売ってるはず」
「了解!石角部長」

 頼み事をした石角は寺野の酔いを完全に抜くため、持参した開けていない水を飲ませた。

「しかし、一体誰がそんな危険すぎるチョコレート作ったのだろう…。それもウォッカ。堀田先生の授業思い出すなぁ…ウォッカを飲むロシア人は高いからエタノール飲むとか言ってたよな。安い金額で飲んでそのままあの世へ酔いしれるってな…。いや待てよ…もしそうなら」

 堀田先生の授業を思い出して心当たりがあるのか、石角は変な違和感を覚えた。
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