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2品目:情熱の国との共闘

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 翌日、早速作業に取り掛かる2人だが殆どが終わっており、あとは試作と値段設定などを決めるくらいのものだった。

「思ったより、早かったですね」

「まぁ良しとしようか!」

 シェフ星川は笑顔に応えた。

 星川の携帯に1件の着信が入る。相手は、元同僚でとある料理を専門とするシェフだ。

「もしもしどうした?うん…うん、分かった。終わったらこっちに来て」

「星川さん、先ほどの電話は…」

「ん?私の元同僚でスペイン料理を得意とするシェフから連絡が来て、店が潰れる寸前にまで追い込まれてるらしい。だから店の方が終わったら来るように伝えたんだ」

 経営の基礎を知らない山崎にとっては珍紛漢紛ってとこだ。

 暫く、店内の清掃と野菜などの仕込みをしている間にそのスペイン料理を得意とするシェフが姿を見せる。

「すまない星川。遅れてしまった…そちらの男性はどういった方で?」

「よく来たね、蔵山シェフ。こちらの方は歴史学を学んでいる山崎君だよ。私のアシスタントでもあり、アルバイトの子だよ」

「なるほど…よく分かった。初めまして、私はスペイン料理を専門としております蔵山太蔵と申します」

 蔵山シェフは、オーソドックスな伝統料理を中心に日本の和食と合わせ作り出す。スペイン料理だけに未開を切り拓く闘牛士のような男だ。

「初めまして。星川シェフから話を聞きました。なぜ店が潰れる事になったのでしょうか?」

「良い質問だ。私の店は、誹謗中傷により客足が途絶えて最後にヤクザからしっかり絞られて閉店になったのさ…」

 蔵山の店は、パエリアやトルティージャを看板メニューとして客を増やしていて、特にトルティージャは日本で言うスパニッシュオムレツを昆布出汁で合わせるという異端な料理でスペイン料理界を驚かせたのだ。

 誹謗中傷の理由を星川が聞こうとした時、1人の男がオールスパイスに入店する。

「なーんだこんなところにいたのか。伝統だけじゃ、店は続けれないということを証明しますよ。蔵山睦シェフ」

「ここまで嗅ぎつけてくるのかよ…スペイン料理の異端児、古賀慎太郎!」

 古賀慎太郎は、本場スペイン料理の修行から帰国したばかりのヒヨッコで星川沙奈に次いで有名のスペイン料理を得意とする情熱溢れる男だ。

 彼の店グラシアは、ライブクッキングで客を魅了するイケメンな顔立ちで食欲を唆らせるという摩訶不思議スタイル。

「お前の店が何なんだ!そんなに料理をする姿を見せて高額な金を取るその商法は、うちらの客取られてはやってやれるかよ」

「時代が時代なんだよ蔵山!世界の女王星川に頭下げるなんてな。仮に勝負するならやってみろよ」

「私も…か。良いわよ。あなたのような世界2番手のナンパ好き男に負ける気はないから」

 もう既にバチバチだ。早速星川は、試作に入るが相手はスペイン料理の異端児でもあるため勝負は大変な結果になるだろうと思われた。

「それじゃ、私はチョッピーノスープを作るわね。まぁ見てなさい!」

「チョッピーノスープってアメリカサンフランシスコで愛されてるもの…スペイン料理とは関係がないはず。なのになぜ…」

 山崎は星川の作る魚介スープのベースとなる出汁を取りながら、星川は蔵山とトマトをペーストにして貝類を炒めた。

 蔵山も納得がいかなかったが、1つの食材に顔色が変わる。

「星川シェフ…その食材は」

「ん?あーこれはレモン果汁とイタリアンパセリだよ。チョッピーノスープをベースにしてとあることをやろうかなって」

 1週間後、その全容が明らかになった。蔵山の店にチョッピーノスープが大々的に宣伝される。

「ケッ!蔵山も堕ちたな。アメリカ料理とくるなんて、バカなやつだ。せめてスパニッシュオムレツで芸を見せれば面白いのにな」

 古賀の薄ら笑う表情はゲラゲラながらも、とても冷たいものだった。しかし、開店と同時に蔵山の店は満席となりチョッピーノスープを選ぶ人が殆どに。

「なぜだ…あんなアメリカ料理がこんなスペイン伝統料理しかできないジジィがこんなに繁栄するんだよ」

「なーんだ。そこにいたんだ。異端児君」

 店から覗く古賀に星川と山崎は、ガラス越しに仁王立ちする。

「このチョッピーノスープは少し違うんだよね。派生料理でコースを楽しめるということを」

 星川の作るチョッピーノスープ派生料理は、スペイン料理のパエリアを2つ目に置いている。魚の出汁が効いたものに、エビなどの甲殻類を置くことで深い味わいになるものだ。チョッピーノスープにもエビで出汁を取っているので、重厚感ある味わいになるという。

「ただ…パエリアだけじゃ成り立つわけがない。他にもまだ隠してるだろ、星川沙奈!」

「晴人君。説明してもらえるかな」

 横に付き添いとして立つ山崎が古賀に歴史を含めて説明を始めた。

「パエリアは確かにスペインの漁師飯でもあり、家庭料理で華はないですよ。ですが、3品目にとあるものを締めとして作らせてもらいました。それがイタリアの平らなパスタを下茹でせずにそのまま食べてもらう、洋風ほうとう日本スタイルです」

 ほうとうは関東の山梨県甲府市で食べられている伝統料理で、かの有名な将軍武田信玄も食べたというものだ。しかし、海のない甲斐国はほうとうの具材にかぼちゃなどの根菜類を加えたというもので冬の寒い日などに愛される。

「ほうとうかよ…。星川沙奈の得意分野、国と国の良いところを入れて合わせる融合料理。だからといってそれで勝てるとでも?店はすぐに潰れる。星川よ、それが伝統料理店の行く末だよ!」

「なら、食べてみてよ。新世代のあなたなら分かるはず。この料理に詰められている思いを」

 古賀は3品を堪能する。食した後、自分の店を見た。星川の料理が古賀の料理を超えたという事実を認めたくないと思いながらも、自身の経験不足もあったので敗北を受け入れるか、考えていた。

「そっぽを向くってことは私の勝利だね。店に誹謗中傷書くぐらいなら、伝統料理を次世代に伝えるために古賀も古賀なりに頑張れよ」

「星川沙奈…」

 星川の一言に古賀は、心を入れ替える決心をする。

 翌日、古賀に差し入れでどら焼きを持って行く星川だったが張り紙があった。

 本日よりスペインへ修行をし直します。それまでグラシアはお休みします。古賀慎太郎

「やる事見つけたならよかったじゃん」

 今日も笑顔に星川はオールスパイスへ入って開店準備に取り掛かる。オールスパイス開店は明日に迫っているので、星川の心はルンルンだ。
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