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理系世界編
12話:細胞壁
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必要とする三つの溶液の最後となる手がかりをここで見つけた。しかし、掘り進めると共に酸っぱくなるトンネル内に耐えきれずコバルトは入り口まで走り抜けた。すぐさまプロパノールの元へ走った。
「プロパノールさん!アルコールの先祖が眠る地につながりました!!しかし、酢酸由来の酸っぱい匂いが充満していたものでここまで走ってきました…。フラーレンの容態はどうなったでしょうか?」
プロパノールに話すとフラーレンが後ろから抱きついてきた。元気になった事にコバルトは泣いていた。
「おかえりコバルト!やっと繋がったのね…。私何もできなくてごめん。ずっと迷惑かけちゃって本当にごめんなさい」
泣きながらコバルトに謝った。プロパノールは嬉しさのあまり、アクリロニトリルが好きだったグルコースを食べて共に泣いていた。そして、その最中バッグの中に入っていた古い書物が光り出した。今まで一度もなかった事だったので2人は驚いていた。恐る恐る開けると酢酸の場所のヒントが示されていた。
「深過ぎると存在は薄れ、浅すぎると濃すぎる。中道を守ること。」
フラーレンはさっぱり分からなかったけどコバルトは一気に分かった。酢酸の匂いは遠くからでも分かるほどの匂いだから匂いがわかりにくい深い場所は土が邪魔となって分からなくなる。浅い場所だと匂いでバレてしまうということ。この謎々のようなものはそうだとコバルトは解説した。過去に指示薬が必要と言ったプロパノールにコバルトはそれを悩んでいた。
(指示薬必要にしてもこの本は所々破れていて解説にも時間がかかる。声を聞いた限りで動いてきたから尚更難しい…。)
分からないまま夜を迎えた。食事を取ってコバルトとフラーレンは一緒のベッドで休んだ。コバルトが横になろうと部屋に入った。既にフラーレンが待っていた。話をしようとしたら抱きついてきた。彼女の胸の温かみが彼の背中にじわじわと伝わるのが分かった。
「コバルト、無事に戻ってきて良かった。このまま会えないんじゃないかなって思った。そして治せるかどうかも分からない病気に対しても心が辛かった。でも、コバルトとのお守りでアクリロニトリルさんが大丈夫だと言ってくれようにも思って辛い心のどこかに余裕があった。こうやって抱きついてるけど本当は結婚してからするべきだったけど驚かせてごめんね…」
「フラーレン…。1人にしてごめんなさい。治るかどうかも分からない病気で辛い中よく戦って勝ったね。一緒に最後まで回復するのを見てから行動したかったけどこうなった。申し訳ない…。今夜はこのままで楽しむという考えがあるがどうかな?」
コバルトの何気ない一言にフラーレンは笑みを見せながらこくりと頷いた。そして2人はキスをして愛を確かめ合った。その翌日、コバルトはエントロピーとアルミニウム皇太子と共に書物の通りに深すぎず浅すぎず中間地点を音波を使っては波動で土を削り取る作業を行なった。音波を出す機械が異常を示した。電源が落ちて動かなくなった。エントロピー自らの手で何がおかしくなったのかを調べた。そして、画像を見て気付いた。
「これ、見てごらん。すごく大きな空洞ともう一つ隣に重なりながらも大きい空洞があるの分かるだろうか?多分だがそこが酢酸があると思われる場所だと思う。しかし、レセプター国は地下作戦室を作っているという噂を聞いている。どちらか一方が当たりで一方はハズレ。で、壊れたのはその作戦室に張り巡らされている細胞壁が原因みたいだ。この音波は超音波によるもので探しているものも、その細胞壁の跳ね返りで異常があって動かなくなったのだろうと見ている」
コバルトはそれを見てどうするべきか考えていた。何かいい方法を…と。フラーレンたちは王様と一緒にコバルトが帰宅するのを待っていた。ネックレスに両手を添えて心を込めて…。突然大きな音がトンネルの奥から響いた。そして悲鳴が近づいてきた。
「ギャー!!!何この緑色のぷよぷよしたヤツ。そして、匂いがきつい…」
コバルト、エントロピー、アルミニウム皇太子が仲良く揃って悲鳴をあげて帰還した。流石のフラーレンも大爆笑した。
「コバルトの全身緑になってるよ。一つの植物になってるし、紫になってるところもあるよ。流石にこれは笑ってしまうけど何が起きたの?」
コバルトは落ち着いて話をした。
「2つの空洞が超音波によって見つけたんだ。でも、片方は酢酸が眠ってると思われるところともう片方がレセプター国の地下作戦室という話だったわけさ。近い方を掘ったらその地下作戦室にぶつかってしまったってこと。しかも、紫って言ってたけど恐らく酢酸カーミン液による反応だなぁ!?嫌な大学デビューって感じかな。髪も緑と紫って宇宙人になった気分だよ。」
見た目にみんな笑ってしまった。しかし、エントロピーは対策を一気に作り上げた。
「このトンネルを関所としてレセプター国の者が入れないようにしよう。そうしないと、塩基国とホイートストンブリッジ国が協力してること自体を明るみに出すと何が起きるか分からない。水ガラスでコーティングして監視をしよう。」
そう言ってアルカリ王もエントロピーの考えに対して頷いてカルシウムを呼んだ。話を聞いてもらい、カルシウムに警備と水ガラス作成を依頼した。完成した時はもう夕方だった。フラーレンと一緒にいる時間がこの世界に来て最も長か感じたが、2人の心も変わり試練を乗り越えた後の英雄にも見えた。コバルトは化学の世界に興奮を隠しきれずにいたものも今はフラーレンのことを守る為に全身全霊を持って尽くしている。フラーレンもこの世界へ飛ばされてから不安要素を言いまくっていたがそれも無くなり、コバルトと元の世界へ戻る事に考え方を変えていた。
「コバルト、お風呂入ったらどう?流石に酢酸の匂いが…」
「そうだよね…。なんか思い出すね。玉ねぎの細胞壁を確認する為に醋酸カーミン液入れて2日ほど匂い取れなかったあの実験」
和気藹々としながら話をしてコバルトは導かれるがままお風呂に入った。服も細胞壁によってぐちゃぐちゃとなっていたのでフラーレンは服を洗った。偶然、フラーレンの着ていた服を乾かしていたのでその隣で乾かす事にした。
ずっと着ていた制服だったので早く帰りたいなとしみじみに思っているとコバルトがあがった。
「あ、制服洗って乾かしてくれてるのね…。申し訳ない…。君に洗ってもらうなんて初めてだけど本当にすまない…」
「これくらい朝飯前だから大丈夫。そこに服が置いてあるから着替えて」
着替えたコバルトはフラーレンといつも通り話をしていた。プロパノールも食事を作って2人を呼び出して夕飯を楽しんだ。その夜、大きな悲鳴が聞こえたものも2人は夢の中へ誘われていた。もちろん、気付く事なく熟睡していた。翌日、いつものように起きてプロパノールの手伝いをしようとしたらそこにいたのは冷たくなったプロパノールの姿だった。よく見ると小さな穴のようなものが無数にあり、毒をいれられたことが分かった。
「プロパノールさん…何が起きたの…?もうアクリロニトリルさんと言い、なんでこんなに残酷なの…?」
コバルトはプロパノールの遺体を見て呆然として動揺をなくしきれなかった。アクリロニトリルになんて言えばいいのか…と。カルシウムの話によると、塩基国に謎の人物2人が不法入国したとのこと。今犯人を探す為、国の出入り口を封鎖して調査しているらしい。
「犯人はどんな人なのでしょうか?もしかしたらフラーレンを追いかけてきたカリウムの残党だったりするかもしれない。提案としてはフラーレンを1人にしないように誰かと行動を取るようにしましょう。カリウムの残党ならもしかしたらフェノールの残党も…」
コバルトは何かを未来視したようなそんな発言をした。もしも、カリウムとフェノールの残党の仕業ならすぐにでも探し出さなければならないからだ。だからといってトンネルの作成を止めるわけにもいかないから水ガラスの扉を開けてエントロピーと塩基国の兵士らと作成を行った。レセプター国の人間らしきものも来ていなかったので地下作戦室に通じる所を塞いでもう一つの空洞に向けて掘り始めた。酢酸の匂いが強くなるのが分かって、思わず口を塞ぎたくなるコバルトだったが一刻も早い作成をと手を動かした。フラーレンはマーキュリー王とプロパノールの遺体を見ながらアクリロニトリルの遺品を納めてシャルル国へと送る手続きをした。
「プロパノール殿…。アクリロニトリルについても本当にありがたく思っている。殺されるなんて…なぜこの人が殺されなきゃいけないのだろうか。ゆっくり眠ってくれ…。先に逝ったアクリロニトリルと幸せに暮らしてくれ。ワシらを最後まで見ててくれ…。必ず2人を元の世界へ戻す」
涙の止まらない2人だった。いまだに犯人の見つからない中、どう行動をとれば良いのか分からないフラーレンだったがマーキュリー王と一緒にいる事にした。家来とガードマンがいる事からフラーレンもそこにいる事にした。針のようなものが飛んできた。1人の兵士に当たり、苦しんで意識を失った。
「大丈夫?今すぐ運ばないと…」
フラーレンが言う間もなく、兵士とガードマンはマーキュリー王とフラーレンを360度囲って守る陣形を取った。
「警戒を怠るな!近くにいるぞ!」
マーキュリー王が無言で指をさした。そこに2人組の影が写っていた。ガードマンはそこに向けて麻酔ガスを投げて眠らせた。その2人組を確認してすぐに拘束した。コバルトにもその情報が入り、作業をエントロピーと兵士に任せてマーキュリー王の元へ駆けつけた。コバルトは拘束した2人を見て一つ問いをかけた。
「あなたは、カリウムの子孫またはフェノールの子孫ですか?それとも残党ですか?」
2人は名を名乗った。
「俺は、カリウムの左腕リチウム。死んだカリウムの仇を取る為にここへきた。フラーレンを奪いにきた」
「俺はナトリウムフェノキシド。フェノールの実の弟でもあり、カリウムの右腕でもあった。儀式の邪魔をするべくしてここへ入った」
正直すぎる2人だとこの場にいた人らはそう思わざるを得なかった。コバルトは続けた。
「なぜ僕たちの儀式を邪魔するのですか?誰かの指示に従ってしているのですが?」
その問いに対してリチウムは冷笑した。
「君たちのような人間はいくらでもこの世界へときた。そんな人間らを救う為に俺たちは奴隷として使うべく、捕らえようと作戦を立てたのだ。儀式に使う溶液が何故ここまでして難航してるか分かるか?それは俺たち2人が指示をしたからこのようになっている。エックス、ワイ、ゼットもそのうちの者に含まれている。この身にはフェノール様の残した溶液フェノール溶液が血液として流れている。儀式の試薬はこれなのだからな!」
衝撃な事実にコバルトは言葉を失った。更に、ナトリウムフェノキシドが続けてこの後起きることを話した。
「お前ら塩基国どもはレセプター国にいるセントラルドグマ王の軍勢によって滅亡を迎える。何故なら国宝である水酸化ナトリウムを自然に近づける為にレセプター国が源であるナトリウムを無断で奪ったわけだ。現在、ホイートストンブリッジ国と戦争を起こしているが別動隊でこの国に爆弾を仕掛けている。リチウムが渡した、水素爆弾をな!」
こんな時にフラーレンが失敗した実験を話すなとコバルトは心の中で叫んだ。フラーレンはその内容に対してブチ切れた。
「誰が水素爆弾の話をして良いって言ったの?アンタらの脳みそを水素爆弾にして木っ端微塵にしようか?意味の分からないことを話す幼体ミジンコが…。それで私を捕らえて何に使うの?コバルトに私に対しての命乞いしてもらって手中に収めて2人仲良く奴隷として扱う気だった?そんな都合のいいことあるわけねぇだろ!コバルト!コイツら殺していい?」
フラーレンの素顔を見たコバルトは青ざめていたが
「それは流石にダメです…」
と震えながら答える。プロパノールを殺しておきながらヘラヘラしてる2人組にアルカリ王はこう下した。
「お前らを地下牢にぶち込む。証人として使う。そしてレセプター国の攻撃を防ぐべく、これよりレセプター国との戦争に加わる。エントロピー王との共闘をお願いしたい」
それを聞いたエントロピーは快く承諾した。エントロピーも準備を行った。四角い何かを取り出してボタンを押し始めた。コバルトたちから見るとノートパソコンのように見えた。すると、顔の無い兵士が大量に出来た。ざっと一万人を超える人数に驚くアルカリ王とフラーレンたち。マーキュリー王は関心を示していた。この技術を欲した。
「この戦争が終わった後その技術教えてくれぬか?そのかわり、水銀を貿易しよう!」
「良い物々交換ですな。全ての技術を伝授しようではないか」
コバルトとフラーレンは城の中で待機することとなり、軍勢はレセプター国へ進軍し策略を立てながら一つの賭けをしようと言わんばかりにバケツを大量に用意していた。
「君たち2人は服がおかしいから前々から気付いていた。儀式については我々もその場所を突き止めるから心配しないでくれ。すぐ終わらせるのでそれまで、マーキュリー王とこの城の中で待っておけ。酢酸も全て我々がサポートする。その代わりあの2人のうちのフェノール溶液を血液とするやつから搾り出してくれ」
エントロピーの紳士で傲慢な態度にコバルトは凛々しい顔で頷いた。
爆発を起こす前にエントロピーの策を講じて防げるのか、心配なコバルトとフラーレンだった。そして、死んでしまったプロパノールに祈りを込めた。
「プロパノールさん!アルコールの先祖が眠る地につながりました!!しかし、酢酸由来の酸っぱい匂いが充満していたものでここまで走ってきました…。フラーレンの容態はどうなったでしょうか?」
プロパノールに話すとフラーレンが後ろから抱きついてきた。元気になった事にコバルトは泣いていた。
「おかえりコバルト!やっと繋がったのね…。私何もできなくてごめん。ずっと迷惑かけちゃって本当にごめんなさい」
泣きながらコバルトに謝った。プロパノールは嬉しさのあまり、アクリロニトリルが好きだったグルコースを食べて共に泣いていた。そして、その最中バッグの中に入っていた古い書物が光り出した。今まで一度もなかった事だったので2人は驚いていた。恐る恐る開けると酢酸の場所のヒントが示されていた。
「深過ぎると存在は薄れ、浅すぎると濃すぎる。中道を守ること。」
フラーレンはさっぱり分からなかったけどコバルトは一気に分かった。酢酸の匂いは遠くからでも分かるほどの匂いだから匂いがわかりにくい深い場所は土が邪魔となって分からなくなる。浅い場所だと匂いでバレてしまうということ。この謎々のようなものはそうだとコバルトは解説した。過去に指示薬が必要と言ったプロパノールにコバルトはそれを悩んでいた。
(指示薬必要にしてもこの本は所々破れていて解説にも時間がかかる。声を聞いた限りで動いてきたから尚更難しい…。)
分からないまま夜を迎えた。食事を取ってコバルトとフラーレンは一緒のベッドで休んだ。コバルトが横になろうと部屋に入った。既にフラーレンが待っていた。話をしようとしたら抱きついてきた。彼女の胸の温かみが彼の背中にじわじわと伝わるのが分かった。
「コバルト、無事に戻ってきて良かった。このまま会えないんじゃないかなって思った。そして治せるかどうかも分からない病気に対しても心が辛かった。でも、コバルトとのお守りでアクリロニトリルさんが大丈夫だと言ってくれようにも思って辛い心のどこかに余裕があった。こうやって抱きついてるけど本当は結婚してからするべきだったけど驚かせてごめんね…」
「フラーレン…。1人にしてごめんなさい。治るかどうかも分からない病気で辛い中よく戦って勝ったね。一緒に最後まで回復するのを見てから行動したかったけどこうなった。申し訳ない…。今夜はこのままで楽しむという考えがあるがどうかな?」
コバルトの何気ない一言にフラーレンは笑みを見せながらこくりと頷いた。そして2人はキスをして愛を確かめ合った。その翌日、コバルトはエントロピーとアルミニウム皇太子と共に書物の通りに深すぎず浅すぎず中間地点を音波を使っては波動で土を削り取る作業を行なった。音波を出す機械が異常を示した。電源が落ちて動かなくなった。エントロピー自らの手で何がおかしくなったのかを調べた。そして、画像を見て気付いた。
「これ、見てごらん。すごく大きな空洞ともう一つ隣に重なりながらも大きい空洞があるの分かるだろうか?多分だがそこが酢酸があると思われる場所だと思う。しかし、レセプター国は地下作戦室を作っているという噂を聞いている。どちらか一方が当たりで一方はハズレ。で、壊れたのはその作戦室に張り巡らされている細胞壁が原因みたいだ。この音波は超音波によるもので探しているものも、その細胞壁の跳ね返りで異常があって動かなくなったのだろうと見ている」
コバルトはそれを見てどうするべきか考えていた。何かいい方法を…と。フラーレンたちは王様と一緒にコバルトが帰宅するのを待っていた。ネックレスに両手を添えて心を込めて…。突然大きな音がトンネルの奥から響いた。そして悲鳴が近づいてきた。
「ギャー!!!何この緑色のぷよぷよしたヤツ。そして、匂いがきつい…」
コバルト、エントロピー、アルミニウム皇太子が仲良く揃って悲鳴をあげて帰還した。流石のフラーレンも大爆笑した。
「コバルトの全身緑になってるよ。一つの植物になってるし、紫になってるところもあるよ。流石にこれは笑ってしまうけど何が起きたの?」
コバルトは落ち着いて話をした。
「2つの空洞が超音波によって見つけたんだ。でも、片方は酢酸が眠ってると思われるところともう片方がレセプター国の地下作戦室という話だったわけさ。近い方を掘ったらその地下作戦室にぶつかってしまったってこと。しかも、紫って言ってたけど恐らく酢酸カーミン液による反応だなぁ!?嫌な大学デビューって感じかな。髪も緑と紫って宇宙人になった気分だよ。」
見た目にみんな笑ってしまった。しかし、エントロピーは対策を一気に作り上げた。
「このトンネルを関所としてレセプター国の者が入れないようにしよう。そうしないと、塩基国とホイートストンブリッジ国が協力してること自体を明るみに出すと何が起きるか分からない。水ガラスでコーティングして監視をしよう。」
そう言ってアルカリ王もエントロピーの考えに対して頷いてカルシウムを呼んだ。話を聞いてもらい、カルシウムに警備と水ガラス作成を依頼した。完成した時はもう夕方だった。フラーレンと一緒にいる時間がこの世界に来て最も長か感じたが、2人の心も変わり試練を乗り越えた後の英雄にも見えた。コバルトは化学の世界に興奮を隠しきれずにいたものも今はフラーレンのことを守る為に全身全霊を持って尽くしている。フラーレンもこの世界へ飛ばされてから不安要素を言いまくっていたがそれも無くなり、コバルトと元の世界へ戻る事に考え方を変えていた。
「コバルト、お風呂入ったらどう?流石に酢酸の匂いが…」
「そうだよね…。なんか思い出すね。玉ねぎの細胞壁を確認する為に醋酸カーミン液入れて2日ほど匂い取れなかったあの実験」
和気藹々としながら話をしてコバルトは導かれるがままお風呂に入った。服も細胞壁によってぐちゃぐちゃとなっていたのでフラーレンは服を洗った。偶然、フラーレンの着ていた服を乾かしていたのでその隣で乾かす事にした。
ずっと着ていた制服だったので早く帰りたいなとしみじみに思っているとコバルトがあがった。
「あ、制服洗って乾かしてくれてるのね…。申し訳ない…。君に洗ってもらうなんて初めてだけど本当にすまない…」
「これくらい朝飯前だから大丈夫。そこに服が置いてあるから着替えて」
着替えたコバルトはフラーレンといつも通り話をしていた。プロパノールも食事を作って2人を呼び出して夕飯を楽しんだ。その夜、大きな悲鳴が聞こえたものも2人は夢の中へ誘われていた。もちろん、気付く事なく熟睡していた。翌日、いつものように起きてプロパノールの手伝いをしようとしたらそこにいたのは冷たくなったプロパノールの姿だった。よく見ると小さな穴のようなものが無数にあり、毒をいれられたことが分かった。
「プロパノールさん…何が起きたの…?もうアクリロニトリルさんと言い、なんでこんなに残酷なの…?」
コバルトはプロパノールの遺体を見て呆然として動揺をなくしきれなかった。アクリロニトリルになんて言えばいいのか…と。カルシウムの話によると、塩基国に謎の人物2人が不法入国したとのこと。今犯人を探す為、国の出入り口を封鎖して調査しているらしい。
「犯人はどんな人なのでしょうか?もしかしたらフラーレンを追いかけてきたカリウムの残党だったりするかもしれない。提案としてはフラーレンを1人にしないように誰かと行動を取るようにしましょう。カリウムの残党ならもしかしたらフェノールの残党も…」
コバルトは何かを未来視したようなそんな発言をした。もしも、カリウムとフェノールの残党の仕業ならすぐにでも探し出さなければならないからだ。だからといってトンネルの作成を止めるわけにもいかないから水ガラスの扉を開けてエントロピーと塩基国の兵士らと作成を行った。レセプター国の人間らしきものも来ていなかったので地下作戦室に通じる所を塞いでもう一つの空洞に向けて掘り始めた。酢酸の匂いが強くなるのが分かって、思わず口を塞ぎたくなるコバルトだったが一刻も早い作成をと手を動かした。フラーレンはマーキュリー王とプロパノールの遺体を見ながらアクリロニトリルの遺品を納めてシャルル国へと送る手続きをした。
「プロパノール殿…。アクリロニトリルについても本当にありがたく思っている。殺されるなんて…なぜこの人が殺されなきゃいけないのだろうか。ゆっくり眠ってくれ…。先に逝ったアクリロニトリルと幸せに暮らしてくれ。ワシらを最後まで見ててくれ…。必ず2人を元の世界へ戻す」
涙の止まらない2人だった。いまだに犯人の見つからない中、どう行動をとれば良いのか分からないフラーレンだったがマーキュリー王と一緒にいる事にした。家来とガードマンがいる事からフラーレンもそこにいる事にした。針のようなものが飛んできた。1人の兵士に当たり、苦しんで意識を失った。
「大丈夫?今すぐ運ばないと…」
フラーレンが言う間もなく、兵士とガードマンはマーキュリー王とフラーレンを360度囲って守る陣形を取った。
「警戒を怠るな!近くにいるぞ!」
マーキュリー王が無言で指をさした。そこに2人組の影が写っていた。ガードマンはそこに向けて麻酔ガスを投げて眠らせた。その2人組を確認してすぐに拘束した。コバルトにもその情報が入り、作業をエントロピーと兵士に任せてマーキュリー王の元へ駆けつけた。コバルトは拘束した2人を見て一つ問いをかけた。
「あなたは、カリウムの子孫またはフェノールの子孫ですか?それとも残党ですか?」
2人は名を名乗った。
「俺は、カリウムの左腕リチウム。死んだカリウムの仇を取る為にここへきた。フラーレンを奪いにきた」
「俺はナトリウムフェノキシド。フェノールの実の弟でもあり、カリウムの右腕でもあった。儀式の邪魔をするべくしてここへ入った」
正直すぎる2人だとこの場にいた人らはそう思わざるを得なかった。コバルトは続けた。
「なぜ僕たちの儀式を邪魔するのですか?誰かの指示に従ってしているのですが?」
その問いに対してリチウムは冷笑した。
「君たちのような人間はいくらでもこの世界へときた。そんな人間らを救う為に俺たちは奴隷として使うべく、捕らえようと作戦を立てたのだ。儀式に使う溶液が何故ここまでして難航してるか分かるか?それは俺たち2人が指示をしたからこのようになっている。エックス、ワイ、ゼットもそのうちの者に含まれている。この身にはフェノール様の残した溶液フェノール溶液が血液として流れている。儀式の試薬はこれなのだからな!」
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「お前ら塩基国どもはレセプター国にいるセントラルドグマ王の軍勢によって滅亡を迎える。何故なら国宝である水酸化ナトリウムを自然に近づける為にレセプター国が源であるナトリウムを無断で奪ったわけだ。現在、ホイートストンブリッジ国と戦争を起こしているが別動隊でこの国に爆弾を仕掛けている。リチウムが渡した、水素爆弾をな!」
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と震えながら答える。プロパノールを殺しておきながらヘラヘラしてる2人組にアルカリ王はこう下した。
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それを聞いたエントロピーは快く承諾した。エントロピーも準備を行った。四角い何かを取り出してボタンを押し始めた。コバルトたちから見るとノートパソコンのように見えた。すると、顔の無い兵士が大量に出来た。ざっと一万人を超える人数に驚くアルカリ王とフラーレンたち。マーキュリー王は関心を示していた。この技術を欲した。
「この戦争が終わった後その技術教えてくれぬか?そのかわり、水銀を貿易しよう!」
「良い物々交換ですな。全ての技術を伝授しようではないか」
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「君たち2人は服がおかしいから前々から気付いていた。儀式については我々もその場所を突き止めるから心配しないでくれ。すぐ終わらせるのでそれまで、マーキュリー王とこの城の中で待っておけ。酢酸も全て我々がサポートする。その代わりあの2人のうちのフェノール溶液を血液とするやつから搾り出してくれ」
エントロピーの紳士で傲慢な態度にコバルトは凛々しい顔で頷いた。
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