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9話:芽生えた心

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 演舞終了翌日、女子応援団同士の最後の集まりがあった。それは団長と団員がお疲れ様の意を込めたパーティだ。山本たちは朝から楽しいひと時を過ごす。カラオケから始まりボウリングを楽しみ、食事もすると時間はあっという間に経過する。食事も大詰めに差し掛かろうとした時、守山紗耶香が司会を務める。

「団員のみんな注目!小山団長が最後に伝えたいことがあるので、みんな話を聞いてあげて!」

 団員は小山のいる方向に体を向けて、話を聞く姿勢を取る。応援団の基本姿勢として腰の後ろに両手とも握り拳を作って対するような形でするのが当たり前だ。

「団員のみんな!最後まで本当にありがとう。私はとても怖かったよね…でも、私はそれで学んだから言えるの。失敗した技もあるけどやり遂げた達成感が勝ってる。次世代の団長にこの悔しさを晴らしてほしい。守山紗耶香、次はあなたが次期団長だよ。そして副団長は、妹の七海に任せる。最後に1人1人の意気込みを言って終わろうか」

 突然の事に、悩む団員だったが次期団長と副団長が先陣を切る。

「私、守山紗耶香は小山先輩の意志を受け継いで失敗する事なく脱落者無しで最後まで努力を惜しむ事なく練習することを誓います」

「私、守山七海は姉を見習って練習により一層力を入れてこれが副団長だという貫禄を見せたいと思っています」

 姉妹の心意気に拍手が沸く。高部も一緒の内容だったが、栗原は意気込みを言うことなくパスした。小山は前々から理由を聞いていたので、問いただす事はせずに見守るばかり。最後に山本の番となったが既に目は涙で溢れていた。

「わ…私は、今回失敗した技のせいで小山先輩に…嫌な思い出となった事に今も引きずっています。泣きながら練習した日々は本当に弱い心と精神が鍛えられました。この失敗は絶対にしないと誓い、後輩にはこれが山本真由という女子応援団員であることを見せたいと思います。だから…次こそはしっかり…」

 涙を流しながら話す山本に、七海はハンカチをそっと手渡す。すぐに分かったのか姉の紗耶香は背中をさすりながら山本に優しく話しかける。

「大丈夫だよ。失敗は誰にでもある。今回は環境が悪かったから自分を責めちゃダメだよ。それに、泣きながら練習した山本の涙は次の本番へ繋がるからここで泣くんじゃなくて卒業する時に泣くのが、応援演舞の最後の花道だと私は思う。でもその前にまずは山本の弱い心を鍛えないとね」

 泣きながらも山本は、返事をひとつして食事会は閉会する。帰宅した山本はただひたすらに、あの時の失敗が頭を過ぎる。躓く自分が憎い、失敗する自分が嫌だ、そんな言葉が山本の脳内に響き渡る。

「私ももっと磨かないと…。痛くても我慢しなきゃダメだ。やっと見つけたんだから、やり甲斐のある青春を」

 お風呂から上がって山本は姿鏡に身を写しながら演舞の練習をする。柔軟を良くするために、開脚を徹底した。痛すぎて挫けそうになったが、悔しさの方が強かったのか涙を流しながら痛みに耐えて足に重りをつけて練習をする。

 寝る前のはずなのに、山本の額は汗まみれとなり声を出す事なく1人で静かに泣いた。

 その翌日、山本は何事もなかったかのように学校へ登校する。好きな音楽をイヤホンに繋げて聴きながら歩いていると、自転車で通う守山七海の姿を見かける。信号待ちしてる七海の後ろを静かに距離を縮めて驚かせた。

「おはよ!七海」

「びっくりさせないでよ、まゆっち!その様子だともう大丈夫そうなのかな…?おはよ」

 その一言に山本は一瞬言葉に詰まる。朝は多くの人たちが通勤、通学しているため道のど真ん中め止まることができない。山本の目にはまた涙が見えた。

「ごめん…心配だったから。明るい感じで接してくれたからもう大丈夫かなと思って聞いたの。まゆっちは自分を責めすぎるところがあるから、まずはそこを直さなきゃね」

「分かった…」

「そんな顔してたら、男に好かれないぞっ!」

 七海と山本は相変わらずの仲で、明るく可愛い女子高生だった。そんな2人を見る1人の女の子がその仲を切り裂こうと計画していた…。

「なんで学歴の高い高校に低脳の応援団が無いといけないんだよ…。絶対に参加しないように言わないと」

 取り憑かれたように話す。この女の子の行動で2人は今後の演舞練習計画で予想だにしないことが起きようとしていた。
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