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第一話 「忘れる者と、拒むもの」

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*3*


一週間も経たないうちに、つぐみは十葉と会うための支度を事務所でしていた。いつもの一張羅の、菜の花のような色のカーディガンは昨日毛玉を取ったばかりだ。ちなみに今日は、茶色の金属フレーム眼鏡つけている。普段はコンタクト勢だが、特別なときだけ眼鏡をする。左足首にはミサンガ巻き、髪はポニーテールにする。

鏡に映った自分は、どこかほんわかしたお嬢様のようだ。

「会いにいくのか」

「うん。報告書も書き終えたし。十葉ちゃんとも約束したしね」

「そうか」

パソコンをいじっている同僚ー陽希は息をつき、目尻を押さえていた。そういえばずっとパソコンと向かい合っていたっけ。

「陽希」

「さっさと行ったらどうだ。その決意が変わらねぇうちに」

「うん。、、、行ってきます」

3と同じ様子の彼に、ひどく安心しながらつぐみは「Call」のドアを開いた。

最寄り駅の構内にあるカフェ。入店すると、店長が手を振り、つぐみに声をかけてくれた。

「来てるよ。つぐみに用があるって子」

「ありがとう。あたたかいもので」

「ハーイ」

店内は以前と変わることはなく、暖かな雰囲気だった。淡い橙色の照明と、中央にある観葉植物。しばらく店内を眺め、その姿を認める。

少女が一人座っているテーブルを見つけ、つぐみは迷うことなく向かいの席につく。背負っていた小型のリュックをイスにかけて、相手に笑いかける。

少女は訝しむような視線をくれると、躊躇いつつも、口を開いてくれた。

「、、、どうして、十葉の叔母さんがここに?十葉はどこですか」

「そうあせらないでよ。別に用事もないんでしょ?ちゃん。」

少女ー未来は、つぐみの言った意味がわかっているのかいないのか、「はぁ?」と返したのみ。初対面のときと変わらず、外見はあまり印象に残らない、普通の子だ。

「さっそく訂正させてもらうと、あたしは十葉ちゃんの叔母じゃないよ。血の繋がりもない、ただの他人」

「じゃ、なんで一緒にいたんです。というか、、、それっていいんですか」

「そういわれても、それが仕事だしね。仕事には忠実っていうのがあたしの信条だからね」

「、、、なんの仕事ですか」

「有体に言えば、探偵かなぁ。十葉ちゃんの親御さんから依頼を受けてね。十葉ちゃんについて調べていたの。その一環で、中学校にも行ったけど」

つぐみが探偵らしくないのか、信じられない、と顔が言っていた。その顔が、一週間前の誰かさんと似ていて内心微笑ましかった。

「でね、今日呼んだのは、その親御さんに細工してもらったからなんだけど。今の十葉ちゃんからしたら、友も他人も親も同列だからさ」

未来はつぐみに何か言おうとし、やめた。まるで何かに逡巡しているようだ。テーブルの下の未来の足が、カタカタ動いている。緊張を隠しきれていない。得体の知れない他人に怯えている少女。

「未来ちゃんに聞きたいことは二つ」

「は、、、」

「一つ目。未来ちゃんはピアノを習っているって話だったけど、家にピアノはあるの?」

「いいえ。それなりに値も張ってしまいますし、、、」

「そうね。二つ目。未来ちゃんは十葉ちゃんの演奏やピアノについてどう思ってた?」

つぐみとしては柔らかい毛布のような心地よい声を意識していたつもりだ。だが発した声は、どこか薄氷を踏むような危うさをはらんでしまっていた。

「、、、私は、十葉もピアノ教室に通っていて、家にピアノがあるものだと思っていました。演奏も上手だったし、それによく、今日もピアノ弾けるんだ。今度未来も一緒に行こうよ。って。いつもピアノ話をしていたから、、、家にあるのかな、、、って」

独り言のようなか弱い声は、何も知らない人から見れば、自信なさそうに聞こえるかも知れない。だが、正面を向き合っていれば、人の表情など容易く読み取れる。

つぐみはあくまで音量を潜め、言った。

「十葉ちゃんを突き落としたのは、あなたでしょう?」
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