この人生の封を求めて

花栗綾乃

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今となっては昔のこと。

私の記憶の中で、はしゃぐあの人の独り言。

「もし紫織しおりが死んじまったら、悲しんでもいい?」

なんの状況説明もなされないまま文言を聞けば、なんと不埒な輩だろうと思うかもしれないけれど。

けれどそのときのわたしは、不治の病で余命宣告もされていた。純白の白衣やカーテンに覆われた殺風景な部屋で自分の寿命が尽きるのを待っていた日々だった。

いつもわたしは楽しい話ばかりを聞きたがっていたから、彼にとっては心情を慮ったが故の発言に違いない。

その配慮は紙一枚よりも薄っぺらいと思う人もいるかもしれない。そんなことが、人でいる限り、人を愛してしまった人はできるわけがないと。

まだ何も知らない彼だから言えたこと。だからわたしも言った。

「うん。悲しんで。悲しんで、悲しみ尽くしたら、忘れて」

信じられないという顔をした彼は、「どうして?」と問い返してきた。彼の目にはわたししかいない。それに微かな優越感を感じてしまうわたしを心の奥にしまう。

「わたしだけじゃないもの。世の中。わたしは、、、生きられないもの」

それを聞いた彼は、どんな顔をしていたか。わたしは思い出せない。

あれから、わたしは彼を見ていない。
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