cherry 〜桜〜

花栗綾乃

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やや低めの声。吐きつけるような口調からも、どういう気持ちで言ったのかが、うかがえる。

歩いてきたのは、淡い黄色のブラウスを着た大人だった。耳元のイヤリングが白く光る。

「、、、誰?」

「そんなことよりも、君達だよ。君・達。そんな悪口ばっか言ってたら、何万倍にもなって己の身に、罰が降りかかってくるからね?今のうちにやめときな」

姉御肌気風の前では、意地悪い女子達も黙るしかない。逃げるように体育館へ戻っていく。

「ったく、このご時世じゃ、あんな子達ばっかりなのかねぇ。大丈夫?」

「えっと、、、大丈夫です」

「、、、なぁんだ。“押し付けがましい正義感か”とか、いうのかと思ったのに」

「どうしてそれを」

その文言は、宰が緋花にぶつけたものとそっくりではないか。どうしてそれを初対面の大人が、分かるのだ。

「、、、言っとくけど、私は行ったことないわよ。友達が開口一番に言ってきたのを、口うつしに言っただけだから。、、、それよりも」

座ったままの宰に視線を合わせ、おもむろに宰の手のひらを握る。

「どうしての身分証明書を持っているのか、事情を教えてもらえるかな」

「ひっ」


そこからは、互いの自己紹介がスタートした。

女子達を追っ払った女性は、石川いしかわ沙和子さわこと名乗った。彼女は今、二十三歳のフリーターだそうだ。

「ま、私と緋花が馴れ合ってた期間は短いけど、、、私にとって、いちばんの親友だったかな。今の宰ちゃんの話を聞いてても、納得はするし」

「納得?」

「“自殺を考える人ほど、マトモ”ってやつ。緋花、言いそうだなって」

「は、はぁ」

思い出のひと場面でも浮かんできたのか、しばらくカラカラと笑っていた。春の陽気というよりも、夏の熱波に似つかわしい。

「ま、いいや。それで、緋花の生きていたあかし?だっけっか。うーん。証、ねぇ」

「多分、なんでもいいと思うんですけど、、、」

「そういうのが一番面倒なのよねぇ。ねぇ、緋花」

沙和子さんは樹の幹を撫でていた。人の背中を撫でるように。

「、、、宰ちゃん。少し聞きたいのだけれど」

「?」


「宰ちゃんの目には、緋花はどう映った?」

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