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プロローグ
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人影が減り、すっかり寂しくなった学校。夕方のこの時間に残っている学生といえば、熱心な野球部と、卓球部、吹奏楽部ぐらいだろう。
わたしはいつものように、枝垂れ桜の木の上でじっと遠くを見つめていた。桜はまだ花をつけている。が、七割は蘂のみの姿になっていた。いま、座っている枝にも、残っている花は一輪。
桜はあっけない。美しいものほど、儚く散る。
誰も気にかけやしない枝垂れ桜に、近づく人影があった。風を孕んで揺れる長髪。人影は俯いたまま、桜の幹を触った。樹の上部にいるわたしは、その人の顔を拝むことはできなかった。
ブレザー姿の人影は、手元のリュックから太めの紐をとりだした。
わたしは全身が粟立つのが分かった。かつて、自分も全く同じことをしたからに、他ならない。
紐を枝に引っ掛け、輪を作り、己の首を通そうとしている。わたしは枝を軽々と降り、首を通す寸前の人影の肩を撫でた。
振り向いたのは、普通の学生だった。不良のような着崩しもしていない。だが、瞳は呆然としていて希望は浮かんでいなかった。焦点もあっておらず、全ての興味を失った人形のようだった。
「、、、あなたは、誰?」
学生は、物怖じすることもなく、ただマニュアルを読んだだけのようにわたしに質問をしてきた。私の実体がないことくらい、分かるだろうに。
わたしは一瞬戸惑った後、久しぶりに笑みをつくった。
「緋花。地塚緋花よ」
わたしはいつものように、枝垂れ桜の木の上でじっと遠くを見つめていた。桜はまだ花をつけている。が、七割は蘂のみの姿になっていた。いま、座っている枝にも、残っている花は一輪。
桜はあっけない。美しいものほど、儚く散る。
誰も気にかけやしない枝垂れ桜に、近づく人影があった。風を孕んで揺れる長髪。人影は俯いたまま、桜の幹を触った。樹の上部にいるわたしは、その人の顔を拝むことはできなかった。
ブレザー姿の人影は、手元のリュックから太めの紐をとりだした。
わたしは全身が粟立つのが分かった。かつて、自分も全く同じことをしたからに、他ならない。
紐を枝に引っ掛け、輪を作り、己の首を通そうとしている。わたしは枝を軽々と降り、首を通す寸前の人影の肩を撫でた。
振り向いたのは、普通の学生だった。不良のような着崩しもしていない。だが、瞳は呆然としていて希望は浮かんでいなかった。焦点もあっておらず、全ての興味を失った人形のようだった。
「、、、あなたは、誰?」
学生は、物怖じすることもなく、ただマニュアルを読んだだけのようにわたしに質問をしてきた。私の実体がないことくらい、分かるだろうに。
わたしは一瞬戸惑った後、久しぶりに笑みをつくった。
「緋花。地塚緋花よ」
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