映る世界を、雨で磨いて

花栗綾乃

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土曜日。そもそも私は部活に入っていないため、朝六時起きと言われたときには、卒倒した。

洋也曰く、練習が九時からのため、一時間前には降らせてもらわないと中止にならない、、、とのこと。

朝はひとまずトーストの上に目玉焼きをのせ、それを口に詰め込んだ。母は熟睡中だ。消音モードで身支度を済ませると、自転車を出し、総合公園へ向かった。

私が公園へ着いたのは六時五十分。洋也の姿を見つけるのには、苦労しなかった。

彼はダンボール箱をかかえて、入り口で待っていたからだ。

「おはよう。蒼依あおいさん」

「、、、あっ、おはよう」

そうだ、私は蒼依という名前だった。洋也の口から出てくると、全く別人の名前に聞こえる。洋也はシワのない半袖シャツをしっかり着ていた。たたまれていた服を無造作に選んできた私とは大違いだ。

ダンボール箱のなかから子猫が顔を覗かせ、蒼依を見つめる。無垢な視線がやや痛い。いや、君たちのことを妬んでなどいない。

「じゃあ、降らせましょうか」

「ちょっと待って」

洋也が私を案内したのは、公園内にある屋根のついた休憩スペースだった。小さなテーブルを囲むようにベンチが取り付けられている。

「、、、さてと、準備完了」

「、、、あ、そっか。あのまま降らしてたら」

前回のようにびしょ濡れになる運命だった。私はともかく、子猫や洋也まで濡らしてしまうようでは、申し訳ない。

私は洋也に向かい合って座る。洋也の持ってきた缶詰を握り、子猫たちへあげていた。

「可愛い~」

「だろ?」

洋也はデジカメを構えて、カシャカシャ音を鳴らしている。撮りすぎだ。

「もう降らした方がいいかな」

「、、、そうだね。お願いします」

私は下の上で祝詞を数回転がし、ようやく言った。

「“地を清め給え 払い給え そそぎ給え”」

しばらく無音だったが、突然、豪雨。大粒の雨が屋根へ打ちつけてくる。

屋根がまるで怒っているかのようだ。子猫らは怯えているのか、耳を伏せていた。

「大丈夫だよ。ここには降らない」

子猫の頬に触れる。

私たちを囲う怒声より、指先から伝う心音のようが、響いていた。

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