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第一章 再会
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長い廊下。両脇には病室が並ぶ。病室ごとについているネームプレートに名前はない。病人はいないということだろうか。突き当たりにはガラスははめこまれており、やや降り始めている太陽が見えた。
「、、、ねぇ、一冴ちゃんは“人魚姫”って知ってる?」
「童話のですか。一般的なものなら」
外界に憧れた人魚姫の話だろう。誰でもーとりわけ女の子ならば、一度は耳にしているのではなかろうか。
一番奥の部屋のネームプレートに、桜坂花那海と記されていた。理子さんは、一冴がドアを開くためかそっと体をどけた。
ためらうことなくドアのノブに手をかけた一冴に、理子さんはささやく。
「人魚姫のことは、花那ちゃんに言わないで」
その言葉の真意も汲み取れないままに、一冴はドアを開いた。どこかがさびついているのか、滑りが悪かった。意図せずに、学校の扉が頭に浮かぶ。
室内はこざっぱりとした、存外に広い部屋だった。機械音がすることもなければ、カーテンで仕切られているわけでもない。掃除がされているためか、床も、壁も、家具も、真っ白。棚の上にはガラスの花瓶が置かれており、大輪のマリーゴールドがいけられていた。
病院というよりも、洒落た別荘のようだ。
一番目を引いたのは、部屋の奥一面のガラスの窓。風が通っているのか、潮の匂いがする。
ベッドはその窓に沿うように置かれていた。
「花那、元気?」
病人ー花那海はベッドを起こして、ぼんやりと前を見ていた。一冴の呼びかけで、はじめて気がついたのか、ゆっくりと笑みを浮かべる。
一冴は早足でベッドへ駆け寄った。
「大丈夫?っていうか、みんな心配してたよ?部活も、急に休部になっちゃってたから、後輩が理由を聞きにくるし、、、。手紙も書いたんだけど、届けられなくてクラスの隅に高く積まっていくだけだし、、、。、、、花那?」
花那海はただ、満足そうに一冴を眺めていた。性格がおっとりしている花那海のことだ。さして珍しい訳でもない。
それなのに、一冴の心はひどくざらついた。一体何の感情からきているものなのか分からない。漠然とした不安というべきものが感じられる。
「どうしたの?黙ってないで、、、」
「 」
「、、、ねぇ、一冴ちゃんは“人魚姫”って知ってる?」
「童話のですか。一般的なものなら」
外界に憧れた人魚姫の話だろう。誰でもーとりわけ女の子ならば、一度は耳にしているのではなかろうか。
一番奥の部屋のネームプレートに、桜坂花那海と記されていた。理子さんは、一冴がドアを開くためかそっと体をどけた。
ためらうことなくドアのノブに手をかけた一冴に、理子さんはささやく。
「人魚姫のことは、花那ちゃんに言わないで」
その言葉の真意も汲み取れないままに、一冴はドアを開いた。どこかがさびついているのか、滑りが悪かった。意図せずに、学校の扉が頭に浮かぶ。
室内はこざっぱりとした、存外に広い部屋だった。機械音がすることもなければ、カーテンで仕切られているわけでもない。掃除がされているためか、床も、壁も、家具も、真っ白。棚の上にはガラスの花瓶が置かれており、大輪のマリーゴールドがいけられていた。
病院というよりも、洒落た別荘のようだ。
一番目を引いたのは、部屋の奥一面のガラスの窓。風が通っているのか、潮の匂いがする。
ベッドはその窓に沿うように置かれていた。
「花那、元気?」
病人ー花那海はベッドを起こして、ぼんやりと前を見ていた。一冴の呼びかけで、はじめて気がついたのか、ゆっくりと笑みを浮かべる。
一冴は早足でベッドへ駆け寄った。
「大丈夫?っていうか、みんな心配してたよ?部活も、急に休部になっちゃってたから、後輩が理由を聞きにくるし、、、。手紙も書いたんだけど、届けられなくてクラスの隅に高く積まっていくだけだし、、、。、、、花那?」
花那海はただ、満足そうに一冴を眺めていた。性格がおっとりしている花那海のことだ。さして珍しい訳でもない。
それなのに、一冴の心はひどくざらついた。一体何の感情からきているものなのか分からない。漠然とした不安というべきものが感じられる。
「どうしたの?黙ってないで、、、」
「 」
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