シアカラーステッチ

乾寛

文字の大きさ
上 下
43 / 46
第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々

43. 一寸先に進めたら

しおりを挟む
 雷撃の球が収縮をやめ、膨張を始めた。

「氷の針と電気の球か。面白い」

 ヴァルトは鞘に入ったままのエレスリンネを構え、前傾姿勢となった。目の前には氷柱と雷撃の球が迫っている。

 もう避けられない。何もしないで終わりか。

「この程度がなんだというのだ」

 ヴァルトはその瞬間、エレスリンネを抜刀し、振り抜いた。すると、エレスリンネから溢れた輝く光が氷柱と雷撃を全て消し飛ばした。

「なっ……」

「ただの魔力の塊のはずなのに……人間じゃないよ……」

 シアの声が頭に響く。

「魔法に変化していないただの膨大な魔力だよ。ただひたすらに大きな魔力」

「このエレスリンネにのみ成し得る芸当だ。分かるか、この素晴らしさが。見えるか、この美しさが」

「凄いよ本当に。その剣だけによるものではなく、才能だけによるものでもない。あんたの努力を感じる。だが、俺は絶対にシアを渡すわけにはいかない。さっさと終わらせる」

 これでは、勝てない。ヴァルトは技量も魔力量も別格だ。すぐに決めないと。

「シア、頼む」

「いいよ、おいで」

 レクロマは急激に加速してヴァルトに向かって飛び出した。そしてシアを両手で構え、鍔の宝石に魔力を流す。すると青い光が周囲を満たした。

「うあぁぁぁ!」

 しばらくするとレクロマの姿は次第に薄くなり、最終的には見えなくなった。

「これで終わりか。最も愚かな手を打つものだ」

 ヴァルトは少し呆れたようにそう言って左腕を大きく振るった。すると、ヴァルトの手のひらから出た無数の魔力の糸に何かが触れた。ヴァルトが手を握ると、糸はくうを捕らえた。

 聖剣の力が消え、糸が絡まった空からは、レクロマが現れた。

 くそ……腕が動かせないんじゃシアでも糸を切りきれない。

「良くないな。君の姿が見えていないとしても、目的は私であることは分かっているのだから動きの導線は見える」

 ヴァルトはエレスリンネを鞘に収め、少しずつレクロマに近づいていった。

「そして何より、勝てぬ勝負で奥の手を見せるのは論外だ」

 ヴァルトは強く握ったレクロマの右手の指をこじ開けていった。

「待て、やめろ! シアに……シアに触るな!」

「レクロマ、ごめん。私、ずっとあなたの側にいるって言ったのに……嘘ついちゃった……」

「違う、シア……」

 ヴァルトは、動こうともがくレクロマの手からシアを奪い取り、シアの剣身に魔力の糸を絡ませた。

「やめろ! シアは俺の──」

 レクロマを拘束していた魔力の糸は消え去り、翼が消えたレクロマはその場に落ちた。

 シアから手を離しても体に溜まったシアの魔力で数秒間は動けるはずだ。まだ間に合う。

「返せ!」

 レクロマは必死にヴァルトに向かって手を伸ばすが、ヴァルトは思い切り蹴り飛ばした。

 シアは鞘に入れられていると人間の姿にはなれない。糸が絡まっていたらシアは動けない。俺が取り戻さないと。

 ヴァルトは手からシアをぶら下げてじっとレクロマを見ている。レクロマは急いで走る。

「早くしないと……急がないと……シアが俺の元から」

 シアが目と鼻の先にまで迫った。だが、体も鈍くなっている。

 あと……少し……あと少し手を伸ばせば……

 あと……数ミリ……

 手がシアの柄に触れそうなところでレクロマの動きは止まり、膝から崩れ落ちてへたり込んだ。

「シア……ごめん……俺のせいで……」

 シアがセルナスト王の物になってしまう。復讐だって叶わない。シアのおかげで進み出せたのに、恩を仇で返すことになるなんて……

 あんなに美しく見えていた世界が、こんなにもくすんで見える。シアがいないこの世界に俺が生きる意味なんて……

「残念だったな」

 ヴァルトは俺の横を通って歩いて行った。

 動けない俺には興味もなさそうに……もう殺そうともしないようだ。

「エリネ、騎士団はどうなっている?」

「怪我……死亡……壊滅……」

 怪我人と死亡者が出て部隊はほぼ壊滅か。私のミスだな……

「反乱軍を掃討する。手伝ってくれ」

「賛成……承知……了解……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

処理中です...