24 / 25
【24話】禁呪
しおりを挟むマリアの拳が、ホワイトドラゴンの顔面に直撃。
激しい爆音が空中で鳴り響く。
しかし、右足を殴った時と同じくダメージはなかった。
直撃の手応えがあったにもかかわらず、まるで相手に伝わっていない。
ホワイトドラゴンの口が大きく開いた。
自由落下しているマリアに向けて、灼熱のブレスが放たれる。
ブレスをまともに受けたマリアは、炎に圧され仰向けで地上に叩き付けられる。
灼熱の炎がマリアの身を包む。
しかし【自動治癒】の効果によって、傷は全て完治していた。
「私の攻撃が効かないだけじゃなくて、炎まで吐いてくるなんてね。正直、かなり驚きだわ」
スタっと立ち上がったマリアは、ホワイトドラゴンに片腕をかざす。
「勝負中に故意的で魔法を使うのは私のポリシーに反するんだけど、あなた相手になら仕方ないわ。【鑑定】」
【鑑定】によって、相手が保持している魔法やスキルを知ることができる。
拳によるダメージがまったく通らない原因を、この魔法を通してマリアは探る。
「……なるほど。これじゃいくら殴っても、私の拳が通らない訳ね」
ホワイトドラゴンには【物理攻撃絶対無効】という、常時発動しているスキルがあった。
その名の通り、物理攻撃をいっさい通さないという効果を持つ。
いくらマリアが本気で殴ったところで、このスキルによってダメ―ジがシャットアウトされていたのだ。
「拳が通じないなら、こうするしかないわよね。とっても不本意だけど」
大きなため息を吐いてから、マリアは地面に手を付ける。
「【ヘルファイア】」
ホワイトドラゴンの足元から、巨大な火柱が立ち上がる。
自身の体より何倍も大きな炎に、ホワイトドラゴンが飲み込まれる。
地獄の業火が全身を包み、気高き白い体をジュウジュウと溶かしていく。
ホワイトドラゴンは、驚異的な防御力を持つ魔物だ。それはなにも、物理攻撃に限った話ではない。
【物理攻撃絶対無効】だけでなく、【魔法耐性:極大】というスキルも持っている。
常人には扱えないような高威力の魔法でないと、ダメージを与えることすらできないのだ。
しかし、マリアの魔法【ヘルファイア】は禁呪に指定される、とてつもなく強力な威力を持つ魔法。
【魔法耐性:極大】をもってしても、それを防ぐことはできない。
「グゴオオオオ!」
苦しみの声を上げながら、なんとか逃げようと足を動かすホワイトドラゴン。
だが、巨大な火柱がそれを許そうとはしない。
やがて、巨大な火柱がホワイトドラゴンの体を完全に燃やし尽くした。
残された大量の灰が、吹きすさぶ風によって宙に舞い上がって流れていく。
「終わったわね。エリック君を呼ばなきゃ」
真上に片腕をかざしたマリアは、空に向かって小さな光の球を放つ。
空高く上がった光球が弾けると、眩しい白色の光がパッと散った。
こうして、ホワイトドラゴンの脅威は去った。
しかし、マリアの戦いの一部始終を見ていた王国兵が歓喜の声を上げることはなかった。
人の領域を外れている魔法でホワイトドラゴンを一人で倒してしまったマリアが、何よりも恐ろしかったのだ。
353
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる