上 下
11 / 18

【11話】ルシルとショッピング

しおりを挟む

 フィスローグ家に嫁いでから三か月。
 アリシアは今、ルシルと一緒に王都の街に来ている。
 
『君はここに来てから、ずっと屋敷の中にいるな。たまには気分転換にショッピングに行かないか?』
 
 屋敷の外に出ないアリシアを気遣ってくれたルシルが、そう言って誘ってくれたのだ。
 
「わぁ……!」

 多くの人でにぎわう王都の街並みに、感嘆の声を上げたアリシア。
 紫色とはちみつ色のオッドアイが、キラキラと輝いている。
 
「ずいぶんと楽しそうだな」
「はい! 見たこともない景色が色々あって、とても新鮮な気分になれます!」

 アリシアは生まれて初めて、王都の街を街を訪れた。
 
 路上に賑わう人々の群れ。道端にずらっと並ぶ露店。
 それらを見ているだけでも楽しい。
 
「それは良かった。……よし、では行こうか」
「はい!」

 ルシルと二人横並びになって、王都の街を歩いていく。
 
「美男美女が歩いているぞ」
「夫婦かしら。とってもお似合いね」

 アリシアとルシルを見た周囲の人たちからの感想が飛んでくる。

(私とルシル様がお似合い……!)

 思わず顔がにやけてしまう。
 こんな素敵な人とお似合いの夫婦と見られていることが嬉しかった。
 
「今日の君は本当に楽しそうだな」
「申し訳ございません! 私ったら、締まりのない顔をしてしまいました……」

 バツが悪くて視線を下に向けると、ルシルは「気にするな」と言って、楽しそうな笑い声を上げた。

(夫婦って言われて、ルシル様はどう思っているのかしら。……きっと、どうも思っていないわよね)

 自問自答したアリシアは、少し残念な気分を味わう。
 

 二人が最初に向かったのは、アクセサリーショップだった。
 
 店内には、美しいネックレスやイヤリングが多数飾られている。
 中には、宝石が付いた高価なものまである。
 
「アリシア、気に入ったものはあるか?」
「……えっと、そうですね」

 いきなりそんことを言われて困惑しながらも、ルシルの問いに答えるため、店内を見渡していくアリシア。
 どれも素敵な商品ばかりで、目移りしてしまう。
 
 そんなとき、アリシアの目にパッと留まったものがあった。
 
 それは、ラピスラズリの付いているネックレスだった。
 
 ネックレスのトップに飾られている、ラピスラズリの深い青。
 ルシルの瞳にそっくりな深い青色が、とても素敵に思えたのだ。
 
「あのラピスラズリのネックレス、とても素敵です!」
「うむ、君に似合いそうだな。さっそく買うとしよう。俺からのプレゼントだ」

 ルシルのその言葉に、アリシアは驚きの声を上げる。
 購入してもらうなんていう話は聞いていない。
 
「どうしてプレゼントなんて……」
「深い理由はない。強いて言えば、俺が似合うと思った――ただそれだけだ」
 
 ニッと笑ったルシルは、店員を呼んで購入する手続きを始めてしまった。
 こうなればもう、止めることはできないだろう。
 
 高い買い物をさせてしまったアリシアは、申し訳ない気持ちになる。
 しかしそれと同時に、大きな喜びも感じていた。
 
 ルシルの瞳そっくりの素敵なネックレス。
 本人からそれをプレゼントしてもらえるということが、とてつもなく嬉しかったのだ。
 
「さ、アリシア。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」

 購入の手続きを終えたルシルから、ネックレスを受け取るアリシア。
 さっそくそれを首にかけてみる。
 
「美しい……」

 ルシルがぼそりと呟いた。
 
 彼の言動にドキッとするアリシア。
 心臓がバクバクとうるさい。
 まさかそんなストレートに褒めてくるとは思わなかった。
 
 しかしすぐに、勘違いしている可能性に思い至る。

(ルシル様はお世辞を言ってくれたのね)

 ルシルは底抜けに優しい男性だ。
 アリシアを喜ばせようとして、そう言ってくれただけに違いない。
 
「ルシル様、ありがとうございます!」
「……あ、ああ」

 アリシアの言葉で我に返ったかのような反応を見せたルシル。
 喜んでくれたようでなによりだ、と口にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
一部の界隈でそれなりに有名だった薬師のアラーシャは、隣国に招かれることになった。 隣国の第二王子は、謎の現象によって石のように固まっており、それはいかなる魔法でも治すことができないものだった。 アラーシャは、薬師としての知識を総動員して、第二王子を救った。 すると、その国の第一王子であるギルーゼから求婚された。 彼は、弟を救ったアラーシャに深く感謝し、同時に愛情を抱いたというのだ。 一村娘でしかないアラーシャは、その求婚をとても受け止め切れなかった。 しかし、ギルーゼによって外堀りは埋められていき、彼からの愛情に段々と絆されていった。 こうしてアラーシャは、第一王子の妻となる決意を固め始めるのだった。

花冠の聖女は王子に愛を歌う

星名柚花
恋愛
『この国で一番の歌姫を第二王子の妃として迎える』 国王の宣言により、孤児だった平民のリナリアはチェルミット男爵に引き取られ、地獄のような淑女教育と歌のレッスンを受けた。 しかし、必死の努力も空しく、毒を飲まされて妃選考会に落ちてしまう。 期待外れだったと罵られ、家を追い出されたリナリアは、ウサギに似た魔物アルルと旅を始める。 選考会で親しくなった公爵令嬢エルザを訪ねると、エルザはアルルの耳飾りを見てびっくり仰天。 「それは王家の宝石よ!!」 …え、アルルが王子だなんて聞いてないんですけど? ※他サイトにも投稿しています。

王女の影武者として隣国に嫁いだ私は、何故か王子に溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
王女アルネシアの影武者である私は、隣国の王子ドルクス様の元に嫁ぐことになった。 私の正体は、すぐにばれることになった。ドルクス様は、人の心を読む力を持っていたからである。 しかし、両国の間で争いが起きるのを危惧した彼は、私の正体を父親である国王に言わなかった。それどころか、私と夫婦として過ごし始めたのである。 しかも、彼は何故か私のことをひどく気遣ってくれた。どうして彼がそこまでしてくれるのかまったくわからない私は、ただ困惑しながら彼との生活を送るのだった。

溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。 両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。 ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。 そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。 だが、レフーナはそれに激昂した。 彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。 その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。 姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。 しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。 戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。 こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません

新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。 ※カクヨムにも投稿しています! ※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

処理中です...