上 下
33 / 46

【33話】いつも通り

しおりを挟む

 放課後。

 リヒトは空き部屋に向かう。
 今日も彼女は来ない、と分かっていながらも向かうのだ。
 
 デートの練習をした翌日から、リリーナは空き部屋に来なくなった。
 それがもう、数週間も続いている。

 彼女が空き部屋に来ることは、金輪際ないのかもしれない。
 
 それでもリヒトは毎放課後、一日も欠かすことなく、空き部屋に通い続けている。
 それをめたら、リリーナとの関係が終わってしまうような気がした。
 
 あんな喧嘩別れみたいな終わり方に、納得がいっていなかったのだ。

 ドアを開け空き部屋に入る。
 
「遅いじゃない」
 
 聞き覚えるのある声が、すぐに飛んできた。
 
 そこには、来ないと思っていたはずの彼女が来ていた。
 白い丸テーブルのふちに寄りかかっている。

 背筋をピンと伸ばしたリヒトは、短い悲鳴のようなものを上げた。
 幽霊でも見ているかのような気分になる。
 
「何よその反応。失礼しちゃうわね」
「……す、すまん。いるとは思わなかったから」
「今日は話があってきたのよ」

 長い金髪を指でくるくる巻きながら、リリーナはテーブルに座った。
 
「私、この前デートしてきたの。クロードとね」
「……そうか」

 小さく呟いてから、リリーナの対面に座る。

 デートをしてきたということは、それはつまり、告白してきたということだ。
 二人は両想い。
 リリーナの告白は成功し、結ばれることとなったのだろう。
 
 これでめでたく、目的は達成されたという訳だ。
 
 だから、これからリリーナが言ってくるであろう言葉が、リヒトには容易に想像できてしまう。
『これであんたとの関係は終わり。今までご苦労様』と、そんなことを言ってくるはずだ。

(けっこうキツイな)

 クロードに告白する、そう聞いたときから、こういう日が来ることは分かっていた。
 
 いや、違う。本当はもっと前からだ。
 リリーナの恋心を叶えると決めたあの時から分かっていた。
 
 しかしいざその瞬間を迎えてみれば、心が締め付けられるような感覚になってしまう。
 なんて不甲斐ないのだろうか。
 
「でも結局、告白できなかったのよ」
「…………は?」

 耳を疑った。

 飛んできたのは、まさかの言葉。
 成功とか失敗とか、それ以前の話だった。
 
 完全に予想が外れたリヒトは、緑色の目を大きく見開く。
 
「いざ告白しようと思ったら、その……緊張して言えなくなっちゃったのよ!!」

 告白しなかったということは、二人はまだ結ばれていない訳で、つまりそれは、これからもこの関係が続いていく訳で。
 そんなことを考えてしまったリヒトは、つい頬が緩んでしまった。
 
「そういう訳だから、今後とも恋愛相談は継続――って、ちょっとあんた! 私が失敗したっていうのに、何笑ってんのよ!」
「悪い悪い。そう怒んなよ」

 半笑いで謝るも、リリーナはフンと鼻を鳴らすだけ。
 拗ねてしまったようだ。
 
(よし、いつも通りだ)
 
 リヒトは微笑ましい気持ちになる。
 失われそうだった楽しい時間が戻ってきた、そんな気がしたのだ。
 
 告白できなかった、という結果は、良いか悪いかで言ったら悪いのかもしれない。
 それでもリヒトは、そうなって良かったと思ってしまうのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻略対象のイケメンに生まれ変わりボッチになってしまった話

碧海慧
ファンタジー
皆様、ご機嫌よう。 僕の名はアルベール。  恋愛ゲームの攻略キャラの一人です。 転生したら前世で推しだったキラキライケメンキャラに生まれ変わっていました。 でも一つ問題が… 前世は友達がいたのに、何故か今世では友達が作れない…… 様々な困難を乗り越えて、出来た友達は悪役令嬢でした……

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

悪役令嬢に転生した私は断罪ルートを回避するためにお兄様と婚約します

平山和人
恋愛
私こと、クロエ・コーネリアは、15歳の誕生日に前世の記憶を思い出した。クロエは全てのルートでヒロインの恋路を邪魔する悪役令嬢として登場する。 どの攻略対象ルートでも容赦なく断罪されて、国外追放や奴隷墜ちなどの惨めで悲惨な末路を辿る運命にある。しかも、ギロチン送りになる第一王子ルートに転生してしまった。 このままではまずいと、私は頭をフル回転させて考えた結果、ある考えが浮かんだ。悪役令嬢はヒロインの恋のライバルだ。ならば物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になれば、私は断罪ルートから回避できるのではないだろうか。 そのために私はお兄様の部屋へと向かった。 お兄様は、実は私の従兄で、本当の兄ではない。ならば婚約できるはずだ。 お兄様は私の申し出を承諾し、婚約することになったのだが、私は気づいていなかった。お兄様がとんでもなく意地悪で腹黒いことを。

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

処理中です...