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【11話】食事会

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 集合時刻の十分前――午前十一時ニ十分。
 集合場所である王都の噴水広場には、三人の男女がいた。
 
 リヒト、リリーナ……そして、リヒトの義妹――レリエルだ。
 
「初めましてリリーナ様。リヒトの妹、レリエル・シードラン子爵令嬢でございます」

 ふーん、と呟いたリリーナは、リヒトとレリエルを見比べる。

「兄妹なのに、あんまり似ていないのね」
「血が繋がってないからな。レリエルは義妹だ」
「だから結婚できますよ!」

 レリエルの言葉は、強烈なブリザード。
 一瞬にして、場の空気が氷点下まで落ち込んだ。
 
 レーベンド王国では、義理兄妹の結婚は認められている。
 
 しかしそれは法律上の話。
 たとえ義理であっても結婚しないのが、この国では常識となっている。
 
 義理兄妹で結婚します、なんて言おうものなら、冗談でも白い目で見られてしまう。
 
 そして実際、リリーナはドン引きしていた。
 
「…………えっと、面白い冗談を言うやつだろ? 盛り上げ役にはピッタリだ」
「酷いですお兄様! 私は本気で言ってるのに!」
「先行きが不安になってきたのだけど」

 こめかみを抑えたリリーナが、深いため息を吐いた。
 
 そのとき。
 とんでもない美丈夫――クロードが、三人の元へやって来た。
 
「すまない。待たせてしまった――おい、貴様……! なぜここにいる!!」

 憎しみのこもった鋭い視線が、リヒトに突き刺さる。
 
(そりゃそうだよな)
 
 自作弁当の一件で、クロードの中でのリヒトの印象は最悪になっているはず。
 そんな状況で再会したとなれば、敵意むき出しに睨まれるのも当然だ。
 
「友達を連れてくると言っていたが、それがこの男か? 君に対して、あんなにも酷い暴言を吐いた男だぞ!」
「それはそうなんだけど……その――」
「最低な気分だ! 悪いが俺は帰らせてもらう!」

 リリーナが何か言おうとするも、クロードはまったく耳を貸す気がない。
 あと数秒で踵を返してしまうだろう。

(まずいな……!)

 どうやって挽回しようか。
 そう考えていると、
 
「申し訳ございません!」

 レリエルが深々と頭を下げて謝罪した。
 
「お兄様は極度の空腹状態になると、見境なく暴言を吐くモンスターに変貌してしまうのです! でも本当は、誰より優しい心を持っているんです!」
「…………それは本当か?」

 レリエルのでまかせを、クロードは信じようとしていた。
 こうなればもう、暴言モンスターになりきってやり過ごすしかない。

「そ、そうなんだよ。あの時は、昨晩から何も口にしていなかったんだ。だからつい、目に入ったリリーナに暴言を吐いちまった。どうかしていたよ。本当にすまなかった。実は今回の食事、そのお詫びがしたくて二人を誘ったんだ」
「……そうだったのか。事情も知らず非難してすまなかったな」

 真摯な態度で謝ってきたクロード。

(やめろ! そんな申し訳なさそうに謝らないでくれ!)
 
 嘘を付いているリヒトは、罪悪感で胸が苦しくなる。

「だがそういう体質と分かっているなら、ちゃんと飯は取らなきゃダメだろ。自己管理が甘いぞ」
「ああ。お前の言う通りだ。今度からは、ちゃんと気を付けるよ」

 なんとか窮地を脱することができた。
 これもすべて、レリエルが機転を利かしてくれたおかげだ。
 
 レリエルはとても頭が良い上に、コミュニケーション能力も抜群なのだ。
 
 彼女には事前に、リリーナとクロードのサポートをするよう伝えてある。
 今日の食事会でも、活躍すること間違いなしだ。
 
 周りをドン引きさせる言動を吐くのが玉にきずだが、そのマイナスを差し引いても連れてきた価値はあるはずだ。
 
「さすがレリエル。お前のおかげで助かった」

 クロードに悟られないよう、コソコソっとレリエルに感謝を伝える。
 
「ふふん、このくらい私にかかれば朝飯前です!」
「おお! そうかそうか! 今日は期待しているからな!」
「お任せあれ、です!」
 
 胸を張った義妹は、なんともまあ頼もしい。
 
 その彼女が、お任せあれ、と自信満々に言ってみせたのだ。
 今日の食事会は、これでもう成功したようなものだろう。
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