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第一章

理想の人

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(柏木くん…!)

クラス一地味と言われる、その名に恥じない地味っぷりを発揮する私服姿の青年が視界に入る。
太いフレームの黒ぶちメガネがいつも通り似合っている。

「何?」

魔法使いの声が私の至福の時間に水をさす。

「あ、えーと…その虫かごに入ってるのって……。」

言い辛そうに柏木くんが視線を宙に泳がせる。

「さっき拾ったカエルだけど?」

ちょっと待て。言い草があまりにもじゃないか?そもそも…

「カエル?」

キョトンとした表情で柏木くんが聞き返す。

「ん?うん。」
「人に見えるんだけど…。」
「「え!」」

魔法使いと声がハモった。
最悪。

「っ!喋った…!」

柏木くんも驚く。

「なんで?カエルに出来てないの…?」

魔法使いはやはり会話のキャッチボールが出来ないらしい。
けど、私の疑問も同じだ。多分他の人からはカエルに見えてるはず。
でなければ駄菓子屋のおばちゃんのあの嫌がり様はないと思う。
二回目つままれてからも私かなり暴れてたし。
小人に見えてたなら大騒ぎだったはずだ。

(つまり…柏木くんには何故か私が小人に見えている…!
 そして出来ているか確認できないという事は、
 魔法をかけただいちにも小人に見えている様子。)

いや、分かったところでどうしようもないけどね。
…いや、まてよ?さっき「喋った」って…なら私の言葉も通じるんだ…!

「柏木くん!助けて!コイツに小さくされたの!」

カエル云々は後で説明しよう。
途端に柏木くんの目が見開かれ、次の瞬間、魔法使いに体当たりした。
バランスを失った魔法使いの隙をつき、虫かごの紐を引っ張り奪い取る。
中の私は大揺れだ。

「ごめんっ!ちょっと我慢して…!」

こんな時にも気遣う柏木くんはやはり紳士だ。
後ろでしりもちついてる魔法使いとは違うという所を見せつけてくれる。

「泥棒!蜘蛛にするぞ!」

魔法使いが言った。

「ヤバイ!あいつ本当にするから気をつけて!
 危なくなったら私を返してくれたらいいから!」

柏木くんは極めて冷静に、

「今更渡したって一緒だよ。
 それにそんな事して助かっても嬉しくない。」

クール…!そういう所が好き!

「覚悟した上での行動だから気にしないで。
 蜘蛛にされるとは思わなかったけど。
 その魔法って避けられるものなのかな?」
「後ろからだったからわからない…。」

何をされるかもわからない不審者を相手にしていたのに、背を向けたままで注意力散漫だった数十分前の自分の危険意識の低さを後悔する。

「一応、避られると仮定して行動する他ないね。」

言うなり、近くにあった自転車の鍵を蹴って壊した。

(え…?柏木くん??キャラのイメージが違…)

私が戸惑うのにも気付く柏木くんは、

「大丈夫、コレ僕のだから。」

と伝えて安心させてくれる。

「鍵は鞄の中だから。今は時間がない。」

私の為にそこまでしてくれるなんて…!
感動する私の入った虫かごを実に素早い動作で上着を脱いで敷いた前カゴに入れてくれる。

……なんか…
私にも魔法が使えたなら人間に戻って押し倒した…ゲフンゲフン。
結婚して欲しいです。

大地の声が離れてく。バンザイ!!

「なんで魔法がきかな…」

もはや聞き取れないくらいになった。

………ん?

あ、でもこれ…どうやって元に戻るの?
さっきの魔法使い、だいちを好きにならなければならない…
いや、一緒にいたところで好きになる可能性は無いと思うけれど。

「どうしようか。逃げ切れたみたいだけど。」

魔法使いのくせに飛んだり瞬間移動したりはできないらしい…

「家には帰れない…」

私は小さく呟く。
娘が爬虫類…(正確には両生類なのかな?)になったなんて、到底信じられないだろうし、まず言葉が通じないはずだ。
何故か柏木くんには理解できるし私が「南くん○恋人」みたいに小人に見えてるみたいだけど。

「なら僕の家だね。」

(なん…ですって?そんな嬉しい事…ちょっと大地が好きになれたかも。)

まだ人間に戻されちゃ困るけどね!
まさか柏木くんの家に行ける日がくるなんて…っ!
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